大企業も中小企業も合わなかった。次の転職はどう考える?【転職相談室】

大企業でも中小企業でも働いた結果、どちらも合わず、次はどこに転職すればいいのか分からなくなったという相談者。
大企業と中小企業で働くメリット・デメリットを整理し、次の転職について「キャリア・アンカー」をもとに、組織人事コンサルタントの粟野友樹さんがアドバイスします。
目次
中小企業に勤めた後、大企業へ転職したが、どちらも自分には合わなかった(Uさん/営業/32歳)

【相談内容】
大学で経済学部を卒業し、新卒で地元の中小企業に営業として入社しました。
社長のトップダウンが強く、年功序列の体質、何かを決済するときには根回しなどの社内政治も必要なのが嫌で転職し、現在は大企業で営業として勤めています。しかし、実際に大企業に入ってみると縦割りの分業制で自分の裁量でとことん納得するまで仕事をするというのは難しいということが分かりました。
あんなに嫌だった中小企業での属人的な仕事の進め方も、自分が納得するまで仕事をできるという良い面があったんだなと気がつかされました。
結果として、中小企業も大企業もどちらも不満な部分があり、どちらの働き方も、しっくりきていません。転職を再度考えていますが、大企業も中小企業も経験した上で、合わないと感じている場合、次の転職ではどうしたら良いのでしょうか?
大企業と中小企業、それぞれで働くメリット、デメリット
▶アドバイザー
大企業の働き方も、中小企業の働き方もしっくりこず、次の転職先に迷っているということですね。では改めて、それぞれで働くメリット、デメリットを整理してみましょう。
大企業で働くメリット・デメリット
▶アドバイザー
まず、大企業で働くメリットは、ヒト・モノ・カネ・情報の経営資源(リソース)が潤沢なため、経営が安定していることです。そのため、会社として時間をかけて大きな仕事ができる可能性が高いです。
▶相談者
ヒト・モノ・カネ・情報はなんとなく分かりますが、働く上では具体的にはどういうことに反映されるんでしょうか。
▶アドバイザー
具体的には、以下のようなことが整いやすいということです。
- ヒト:働く人材の人数や厚み(ロールモデル、専門性、多様性など)、組織力、人事制度面の整備(研修、福利厚生など)、キャリアパスの多様性
- モノ:職場環境(オフィス環境、ツールなど)、工場などの生産設備、オフィス
- カネ:賃金、福利厚生、事業への投資など
- 情報:技術力、特許、顧客資産、ブランド力など
▶相談者
確かに、勤めている大企業には様々な組織があり、自ら異動希望を出せる制度があるのでキャリアパスが多様です。
▶アドバイザー
一方、大企業で働くデメリットは、一定の年次・役職になるまでは裁量があまりないケースが多く、分業化・専門化が進んでいるため断片的な仕事経験しか積めない可能性があります。
組織構造も複雑になりがちなので、企業内でのコミュニケーションコストの調整時間がかかりやすく、事業進捗・意思決定などが比較的遅くなりがちです。社風にもよりますが、昇進するにもライバルが多く、年功序列の要素が強くなりがちです。
▶相談者
まさに今、働きづらさを感じている部分ですね。実際に動いているプロジェクトは大きくても担当しているのはごく一部なので、仕事を自分で動かしている実感がわかないんです。とにかく稟議が必要なので、仕事のための仕事として些細なことにもプレゼン資料を作る必要があります。
通らないプレゼンを繰り返していると、「もっと早く進められたはずなのに…」と虚しく思うこともありますね。
▶アドバイザー
そのような状況は大企業では珍しくありませんが、自分の仕事が何にどうつながっているのか実感が得らないのは辛いですよね。働くモチベーションにも関わるのではないでしょうか。
▶相談者
はい、自分で仕事を進めている実感は中小企業で働いていた時の方が強かったように思います。
中小企業で働くメリット・デメリット
▶アドバイザー
次は、中小企業で働くメリットを整理してみましょう。組織の規模や人員数が限られることから、働き方の裁量が大きいことが多く、一気通貫で仕事を経験できることがメリットでしょう。
事業進捗・意思決定・昇進などのスピード感も大企業に比べると早いケースが多く、若くして管理職になれたり、より経営に近い立ち位置での仕事ができたりすることもあります。
成長実感を持ちやすいので、会社や事業の成長と自分のビジネスパーソンとしての成長をリンクさせやすいとも言えます。
▶相談者
確かにそうですね。上司への根回しが必要なことにウンザリしていましたが、今思えば実務は自分の思うように進められていた気がします。ただ、取り組む案件の総合的な規模は、大企業の方が大きいんですよね。
▶アドバイザー
中小企業で働くデメリットは、まさに、ヒト・モノ・カネ・情報のリソースが大企業に比べて手薄なことに影響しています。限られたリソースで経営するため、仕事の規模はどうしても大企業に比べると小さくなりがちです。
一概には言えませんが、社会的インパクトの大きな事業や仕事はしづらいかもしれませんね。
▶相談者
これまで漠然と感じたことを、こうしてメリット・デメリットとして整理すると、スッキリしますね。改めて感じたのは、私にとってはどちらも一長一短だなということです。益々、次の転職について悩んでしまいそうです。
企業規模ではなく「価値観」や「欲求」を基準にキャリアを決めよう
▶アドバイザー
企業規模だけではなく、どうしても譲れない「価値観」や「欲求」を基準にキャリアを決めていくという考え方もありますよ。組織心理学者でマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院名誉教授のエドガー・H・シャインが提唱したキャリア理論「キャリア・アンカー」の8つのカテゴリーから考えてみてはどうでしょうか。
▶相談者
キャリア・アンカーの8つのカテゴリーとはなんでしょうか。
▶アドバイザー
以下の8つがキャリア・アンカーのカテゴリーです。
専門家として能力を発揮したいタイプ。自分の才能や専門性を高め、それを活用できる環境で働きたいという思いが強い。
2. 経営管理能力
リーダーとしてチームをまとめたい、出世したいタイプ。組織の中で、責任のある役割を担いたいとの思いを持っている。
3. 自立・独立
規則や慣習に縛られず、自分の裁量で仕切っていきたいタイプ。自分が納得できるやり方で仕事をしたいという思いが強い。
4. 保障・安定
安定した組織、仕事、報酬など安全性を重視するタイプ。会社の雇用保障などの経済的な安定を重視し、大きな変化を好まない。
5. 起業家的創造性
クリエイティビティを発揮し、新しいものを生み出すことにやりがいを覚えるタイプ。会社に勤めながらも、常に会社や事業を起こす機会を探っている。
6. 奉仕・社会貢献
仕事を通じて社会に貢献したい、世の中をよくしたいと考えているタイプ。能力を発揮して活躍するより、人の役に立ったり奉仕したりすることを好む。
7.純粋な挑戦
解決が困難な問題に挑み、打ち勝つことに喜びとやりがいを感じるタイプ。ハードワークを厭わず、挑戦しがいがあると思えるテーマにはとことん取り組む。
8. ライフスタイル
仕事とプライベートのバランスを常に考えたいタイプ。個人のキャリアを追うだけでなく家庭との調和を大切にしていて、福利厚生の充実や柔軟な働き方ができる人事制度の有無を重視するを感じるタイプ。ハードワークを厭わず、挑戦しがいがあると思えるテーマにはとことん取り組む。
▶アドバイザー
8つの中から「しっくりくるもの」を、まずは感じ取りましょう。最も譲れないものを考えて、それをキーワードに今後のキャリアを考えてみると良いですよ。
1つだけでなく、複数の項目が当てはまる場合は、その中でどちらがより強く共感できるかを考え、優先順位をつけましょう。
▶相談者
うーん、私の場合は、「3.自立・独立」がもっとも優先順位が高く、その次が「2.経営管理能力」になりそうです。
▶アドバイザー
「自立・独立」が最も譲れない欲求の場合は、自分はどのように仕事を進めたいと思っているのか、どうすれば納得のいく働き方ができるかを考えてみましょう。
もしかすると、現職の仕事においてもやりがいを感じられる方法が見えてくるかもしれません。「このような働き方をすれば、もっと自分は効率的に成果を出せる」などと上司に進言してみるのも良いでしょう。
▶相談者
なるほど。転職ばかり考えていましたが、今の職場で働きやすさを求めて改善するのもひとつの手ですよね。
▶アドバイザー
そうですね。転職に踏み切る際は、「裁量権がある」「若手にも仕事を任せる」などのキーワードで求人を探せば、やりたいと思える仕事や、働きやすい企業に出会える可能性が高いでしょう。個人の裁量権が大きな業界や職種を選択するのも良いですね。
▶相談者
個人の裁量権が大きな業界や職種には、どんなものがありますか?
▶アドバイザー
例えば、WebエンジニアやWebデザイナーなどは、納期や成果物を決めてフルリモートで、プロセスを一任されている場合があります。
他には、生損保などの金融系営業、不動産営業、転職エージェントや、教育系の研修講師や教室長、コンサル業界などは、個人の裁量権が大きいケースが多く、場合によっては個人事業主のような働き方も可能です。
副業をして個人の経験スキルが社外でどのくらい活かせるか知り、人脈を作って独立を検討するのも良いでしょう。
▶相談者
独立は視野に入っていませんでしたが、「2. 経営管理能力」の欲求も満たせそうですね。
▶アドバイザー
そうですね。「2.経営管理能力」の欲求を組織の中で満たすのであれば、早めにリーダーや管理職を目指し、いろいろな部門を経験してゼネラリストとしてのキャリアを歩むのも良いでしょう。
最近は大企業でも、20代30代の管理職を抜擢する人事制度を導入したり、多様性を高めるために中途採用を強化したりしています。管理職を投票や選挙で選ぶ制度を導入している企業もあるので、そういった企業を狙ってみるのもオススメですね。
▶相談者
そんな企業もあるんですね。企業規模だけで判断せずに、会社そのものに注目することが大切なんですね。今日教えていただいたことを、これからの転職活動に活かしてみようと思います。今日はありがとうございました。
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