転職時の退職日と入社日の調整方法とは?二重就労は可能?
転職の際は、現職の退職日と転職先の入社日を上手く調整しないとトラブルにつながることがあります。場合によっては懲戒処分を受けてしまうことも。
あるいは、退職日と入社日の間が空くケースでは社会保険料などの面でデメリットが生じることもあります。
今回は入社時期の調整や、社会保険手続きの注意点を社会保険労務士の岡 佳伸さんに解説して頂きました。
監修
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所
岡 佳伸氏
アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。
退職日と入社日が重なる問題点とは?
「退職日」と「入社日」の定義がそれぞれ法律で定められていますので、まずは頭に入れておきましょう。
- 入社日……雇用契約が始まる日(必ずしも出社初日ではない点に留意)
- 退職日……雇用契約が終了する日。
- 正社員の場合……特に期間の定めがなければ「退職を申し入れて了承を受けた日」。または「退職の意思を雇用側へ通告した日の14日後」
- 契約社員の場合……契約期間の終了日
- 休職者の休職期間の満了日
- 定年退職の日
就業規則の「二重就労禁止規定」に抵触したらどうなる?
企業が定める就業規則には「二重就労禁止規定」が盛り込まれている場合があります。二重就労とは、雇用主と他の職場で就労したり事業を行ったりすることを指します。
もし二重就労禁止規定に抵触した場合どうなるのでしょうか。たとえば現職で年次有給休暇を取得中(有給消化中)の場合、まだ在籍扱いになりますから現職の就業規則が適応されます。したがって、もし有給消化中に二重就労の許可申請をせずに転職先で働き始めた場合は二重就労禁止規定に抵触する可能性があります。
その場合は以下の懲戒処分を受ける可能性があります。
- 退職金の減額
- 懲戒解雇
- 総額が一賃金支払期(月給制なら1カ月。日給制なら1日)における賃金の総額の10分の1以下への給与の減額(例:月給30万円×10分の1=3万円が減額の上限)
などの罰則が考えられます。ただし労働基準法に照らし合わせて、これらの処分が法的に有効であるかどうかは別の問題です。もし不服の場合は、裁判や紛争調整委員会によるあっせんなどで異議申し立てを行うことができます。
副業OKの企業であれば問題なし
就業規則に「二重就労禁止」などの項目が無く、副業OKの企業であれば(届出制や許可制の場合は、然るべき申請手続きを行っていれば)上記の内容には該当しないため特に問題ありません。
退職月の社会保険料が全額個人負担になる可能性は?
退職月の社会保険料が全額個人負担になるケースは、基本的にありません。
ただし社会保険料は通常は翌月払いですが、もし月末付で退職した場合は当月払いになります。つまり、2カ月分の社会保険料が給料から控除(天引き)されるため、見かけ上の負担が増えているようになり、個人負担になっていると勘違いしてしまうケースがまれにあります。
例:3月31日に退職→3月分の給料から2カ月分(=2月分+翌月4月の給料から控除される予定だった3月分)の社会保険料が控除される
有給消化中に転職先企業で働くと問題になる?
現職、転職先企業の双方の就業規則に「二重就労の禁止」などの副業禁止規定がなければ、年次有給休暇取得中に転職先企業で働いても問題はありません。また、届出制や許可制の場合は、然るべき申請手続きを行っていれば問題ありません。
有給消化中に転職先への入社を禁じる法律はある?
年次有給休暇の取得中に転職先への入社を禁じる法律はありません。企業が定める就業規則に「二重就労の禁止」の記載有無を確認して判断しましょう。
有休消化中に出社してほしいと言われたら?
もし年次有給休暇の取得中に転職先から「出社してほしい」と言われた場合、
- 現職企業に残りの年次有給休暇を買い取ってもらい、転職先の入社日を早める
- 二重就労の許可を取る
などの方法が考えられます。
もしくは年次有給休暇取得中のみ、転職先と業務委託契約を結んで働く方法も考えられます。
二重就労を回避する方法は?
二重就労を回避するために、転職元の企業の退職日と、転職先の企業の入社日が重ならないように注意しましょう。
二重就労時の、雇用保険や厚生年金などの手続き上の注意点は?
社会保険のうち、雇用保険は入社日と退職日に間が空くと、被保険者の加入期間の連続性が失われるデメリットが生じる場合があります。厚生年金と健康保険についても入社日と退職日を1日も空けずに連続させるのがベストな選択です。
入社日、退職日は正確に伝えましょう
正確な「退職日」を転職先の人事や労務などの担当者へ伝えましょう。
ここで注意したいのが、入社日は雇用契約の開始日なので、出社初日とは限らない点です。まれに人事や労務の担当者が誤って認識している場合があり、社会保険にも関わるため必ず確認しましょう。たとえば土日を挟むなどして4月3日から出社(出社初日)と言われた場合、4月1日が雇用契約の開始日になっているかを確認してください。
雇用保険の適用条件は?
転職先が決まっている場合は手続き上、雇用保険の保険料を受け取ることができません。つまり、申請を受理してもらえません。
労災保険について
労災保険は会社が100%負担することが定められており、手続きも不要のため、気にする必要はありません。
雇用保険に二重加入することはできない?
雇用保険に二重加入することはできません。雇用保険番号が1人に付き1番号しか充てられていないためです。
雇用保険の資格喪失手続きをするタイミングは?
雇用保険の資格喪失手続きは前職の会社が行います。法律上は退職日の翌日から10日以内に手続きを取ることが定められています。そのため自動的に手続きを行ってくれます。
前職(の担当者)の怠慢により、ひどい場合は1カ月以上、手続きを先延ばしにされることがまれにあります。その場合は「雇用保険の資格喪失の手続きを早めに取ってください」と前職に催促するようにしましょう。
健康保険・厚生年金は二重加入が可能?
健康保険と厚生年金は二重加入が可能です。ただし、二重加入すれば二重にお金が掛かりますから、なるべく重ならないほうが手続きの面でもスムーズです。
二重就労を行いつつ社会保険料の加入期間が重ならないようにするには、月末が重ならないようにすることで二重加入(保険料の重なり)を回避できます。
例:3月1日から転職先で働き、3月30日までを前職の在籍期間(年次有給休暇取得中)とすれば二重加入を回避。月末(この場合3月31日)に在籍していなければ二重加入を防げます。
もし二重就労を行う場合は、転職先の労務部などが事務手続きをスムーズに進められるように、あらかじめ二重就労する旨を伝えておきましょう。
退職日と入社日の間が空く場合の注意点は?
国民健康保険は日割の概念がありません。そのため、退職日と入社日がたとえ1日空いただけでも国民健康保険への加入義務が発生します。前職での健康保険の任意継続を行う場合でも同じ考え方で、1日でも空けば国民健康保険の保険料は加入義務が発生します。
年金の場合は月単位で調整されるので、特に手続き上の問題はありません。
WRITER:山岸 裕一 EDIT:リクナビNEXT編集部
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