転職時に健康診断書の提出が必要?診断書の取得方法と合否への影響
転職活動において、最終面接前や内定後には、健康診断書の提出を求められることがあります。
初めての転職の場合、「どのように健康診断書を取得すればいいのだろう?」「健康診断書は合否に影響するのか?」など、不安になってしまうことがあるかもしれません。
この記事では、転職活動中の健康診断書の取得方法や転職活動の際になぜ健康診断書の提出が求められるのか、提出した健康診断書の内容によって、採用の合否に影響があるのか等について解説していきます。
監修
社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズ
原 祐美子
特定社会保険労務士・産業カウンセラー
法律面の解決とともに、心理面の負担も減らすべく、「話を聴くこと」を大切にしながら、企業の労務にかかわり、就業規則・諸規程の作成、労務相談対応、上場支援のための労務監査業務等を行う。
健康診断書の提出が必要な場合
健康診断書を提出する際に気になる取得方法や検査項目、費用の負担について解説します。
健康診断書の正しい取得方法
提出する健康診断書を取得する方法は、大きく2つに分けられます。
1. 新たに健康診断を受けて取得する
新たに健康診断を受ける場合、自宅周辺の病院やかかりつけの病院など、ご自身の都合のよいところで受診することができます。なぜなら、健康診断は、健康診断を実施している病院や機関ならどこでも受けることができるからです。
ただし、転職先の会社指定で受診場所を決められた場合は、その指示に従いましょう。
2. 前職で受けた健康診断の結果を提出する
前職で健康診断を受診している場合、3か月以内に健康診断を受けた項目については、その結果を提出することも可能です。なぜなら、雇入れ時健診と会社で実施する年1回の定期健康診断は、検査の項目が同じだからです。
ただし、提出する定期健康診断書に省略した項目がある場合、新たに検査が必要です。
必要な検査項目
基本は11項目
法律に定められた「雇入れ時の健康診断」において、検査が必要な項目は以下の通りです。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(赤血球数、血色素量)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ‐GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
- 心電図検査
一般的には、ご自身で健康診断の予約をするときには、健診機関に「雇入れ時の健康診断」と言って実施してもらえば問題はないでしょう。
会社によって検査項目が異なる場合がある
健康診断の検査項目が上記11項目と異なる場合があります。それは、会社が採用した後に就かせる予定の業務を支障なく行うことができるかを確認する目的で健康診断を行う場合です。この場合、会社の契約している病院や健診機関で健康診断を実施するか、会社の指示した検査項目を受診する必要があります。
健康診断にかかる費用
費用は約7,000~15,000円
もしご自身で負担することになった場合、雇入れ時の健康診断の費用は、約7,000〜15,000円です。健康診断は健康保険の適用外であるため、決まった料金設定ではありません。
費用負担者は会社によって異なる
健康診断の費用負担については、会社ごとに対応が異なります。採用選考の途中で健康診断を受ける場合であれば個人で費用を負担することが多いでしょう。内定した後の場合は、会社が費用を負担することが多くなります。会社指定の病院で受診した場合は、そこに行くまでの交通費が支給されることもあります。
実際にどちらが費用を負担するかは、健康診断書の提出を求められた際に確認しておくと良いでしょう。
健康診断書の提出を求められる2つの理由
転職活動中において、会社から健康診断の受診や健康診断書の提出を求められる理由は2つあります。1つは、雇入れ時の健康診断が労働安全衛生法上義務付けられているため。もう1つは採用選考にあたり、応募者の適性能力を判断するためです。
1. 法律上義務付けられているため
企業は、雇用している労働者に対し、原則として、年1回、医師による健康診断を受けさせることが法律で義務付けられています。これを定期健康診断といいます。定期健康診断は、企業が雇用関係にある労働者の健康状態を把握し、必要があれば労働時間や作業環境を改善するなどの措置を取ることで、健康の悪化を防ぐことを目的としています。
雇入れ時の健康状態が分からないと、入社後の定期健康診断で健康状態に問題があったとしても、入社前からの問題なのか、業務に起因している問題なのかが分かりません。このため、企業には定期健康診断だけでなく、雇入れ時にも健康診断を実施する必要があります。
2. 応募者の適性能力を判断するため
労働者を業務に就かせるにあたり、一定程度の体力が必要であることや、特定の病気にかかっていない、といったことが求められるような職業の場合、応募者の適正能力を確認するために、採用選考の段階において健康状態を確認するために、健康診断を行います。
たとえば、タクシードライバー、訪問診療のドライバー、配送など、運転を行う職業が挙げられます。運転中に失神や意識障害が起きれば、重大な事故を引き起こし、人の生命・身体に危険を及ぼしかねません。また、飛行機の操縦士やフライトアテンダント等の航空業務では、一定の視力を持つこと、平衡機能に問題がないことなどが求められます。食品会社の製造工程においては、製造工程で使用している食品に対するアレルギーを確認する必要性があると考えられます。
<判例>
1.B金融公庫(B型肝炎ウイルス感染検査)事件(東京地裁 平成15.6.20判決)
採用選考の段階における健康診断の実施について、「(企業が)労務提供を行い得る一定の身体的条件、能力を有するかを確認する目的で、応募者に対する健康診断を行うことは、予定される労務提供の内容に応じて、その必要性を肯定できるというべきである。」とした。
2.東京都(警察学校・警察病院HIV検査)事件(東京地裁 平成15.5.28判決)
採用選考の段階における健康診断について、「使用者が、採用にあたって、労働者がその求める労務を実現し得る一定の身体的条件を具備することを確認する目的で、健康診断を行うことも、その職種及び労働者が従事する具体的業務の内容如何によっては許容され得る。」
とされており、その内容は必要最低限とすべきとした。
健康診断は採用の合否に影響する?
健康診断書の結果によって採用選考の結果が変わったり、内定後に提出した健康診断書の内容により内定を取り消されたりすることはあるのでしょうか。
内定後は原則影響しない
内定が出て、条件付きの雇用契約が成立した状態であれば、健康診断の結果で安易に内定取り消しをすることはできません。
<判例>
1.警察学校・警察病院HIV検査事件(東京地裁 平成15.5.28判決)
採用試験に合格し、警視庁警察官に任用された後、本人に無断でHIV抗体検査を行い、検査結果が陽性であったことを理由に辞職を強要したことについて、HIV感染の事実から当然に、警察官の職務に適しないとは言えず、HIV検査を行う合理性も必要性もなく、プライバシーを侵害する違法な行為であるとした。
2.森尾電機事件(東京高裁 昭和47.3.31判決)
小児麻痺後遺症のため作業能力が劣るとして、会社が内定を取り消したことについて、解雇権の濫用にあたり無効としている。
採用選考中は影響することもある
企業が、健康診断書の内容で応募者の採否を決定することは望ましいことではないと言えます。なぜなら、労働省職業安定局が平成5年5月10日付で出した通知では、「雇入時の健康診断は、常時使用する労働者を雇い入れた際における適正配置、入職後の健康管理に役立てるために実施するものであって、応募者の採否を決定するために実施するものでもない」、「採用選考時に健康診断を実施することは、応募者の適性と能力を判断する上で必要のない事項を把握する可能性があり、結果として、就職差別につながるおそれがあるところである。」とされているからです。
なお、採用選考中に健康診断書を提出し、その後不採用となった場合、不採用の理由が健康診断の結果によるものかどうかについては、応募者側から判断することはできません。
<判例>
1.B金融公庫(B型肝炎ウイルス感染検査)事件(東京地裁 平成15.6.20判決)
雇用契約締結を相互に想定すべき段階に至っていない場合は、応募者を不採用とすることは(健康診断の結果を理由に不採用としたかどうかを検討するまでもなく)不法行為に該当しないとした。
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