固定残業代(みなし残業代)制度とは
一般的には、“みなし残業代”と呼ばれることの多い「固定残業代」とは、どのような制度なのでしょうか。
この記事では、固定残業代(みなし残業代)の制度や残業代の計算方法、メリットとデメリットについて解説します。また、名称がよく似ている「みなし労働時間制」との違いもご説明しています。
プロフィール
あべ社労士事務所
代表 社会保険労務士 安部敏志(あべさとし)
大学卒業後、国家公務員I種職員として厚生労働省に入省。労働基準法や労働安全衛生法を所管する労働基準局、在シンガポール日本国大使館での外交官勤務を経て、長野労働局監督課長を最後に退職。法改正や政策の立案、企業への指導経験を武器に、現在は福岡県を拠点に中小企業の人事労務を担当する役員や管理職の育成に従事。事務所公式サイト:https://sr-abe.jp/
固定残業代(みなし残業代)とは?
固定残業代制度とは、「時間外労働、休日労働、深夜労働の有無にかかわらず、一定時間分の時間外労働などについて割増賃金を定額で支払う制度」のことです。
例えば、法定労働時間を超えた時間外労働が10時間あった場合、会社は10時間分の残業代(割増賃金)を支払わなければなりませんが、固定残業代制度の場合、10時間の時間外労働がなかったとしても、毎月支払う賃金に10時間分の残業代を含めて支払います。
10時間分の残業があったと“みなす”ことから、固定残業代は「みなし残業代」とも言われています。
固定残業代の計算方法と残業時間の考え方
みなし残業代は、「どんなに働いても残業代が変わらないのでは」と不安をお持ちの方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
例えば、給与を時給換算して2000円の方が、毎月8万円の残業手当を固定残業代としてもらっていた場合、40時間分の残業代が含まれていることになります。もし、45時間残業した場合、45 – 40 = 5時間分の残業代は、固定残業代と別に支払われます。そのため、何時間働いても残業代は固定(定額)というのは間違いです。
- 想定されている時間内の残業:追加の残業代は出ない
- 想定されている時間を超えた残業:追加の残業代が出る
なお、想定されている時間を超えた残業が、法定労働時間を超えた時間外労働の場合、割増賃金は2割5分増と、通常の計算方法と同様です。
固定残業代のメリットとデメリット
では、固定残業代のメリットとデメリットはどのようなことが挙げられるのでしょうか。具体的にご説明します。
固定残業代のメリット
固定残業代のメリットは、仕事を早く済ませて、固定されている残業時間分より早く仕事を終えても、その金額がそのままもらえるということです。例えば40時間分の残業代8万円を含む固定残業代制度の場合、30時間で仕事を終えても8万円もらえます。
労働者側から見たら、「仕事を早く終わらせよう」というインセンティブが働きますし、会社側としても残業時間の短縮に期待できます。固定残業代制度によって、長時間労働対策を行なっているということになります。
固定残業代のデメリット
固定残業代のデメリットは、
- 固定されている残業時間分に達するまでは残業代は増えない
- 残業が一定時間あることが想定されている可能性が高い
という点です。固定残業代制を導入している企業に応募する際には、一定数の残業がある可能性があることを考慮しておきましょう。
固定残業代が問題となるケース
以下の条件の会社は、固定残業代制度を導入していることがわかりますが、1から3に共通する最大の問題は、残業代が何時間の残業時間に該当する金額なのか不明であるということです。
1. 基本給25万円(残業代込み)
-基本給の中に固定残業代が含まれている(金額は不明)
2. 基本給15万円・残業手当10万円
-残業手当の中に固定残業代が含まれている(残業代の金額は10万円)
3. 基本給15万円・営業手当10万円(残業代込み)
-営業手当の中に固定残業代が含まれている(金額は不明)
2018年1月から施行されている職業安定法の改正により、固定残業代制を導入する会社が募集する際には、以下の事項を求職者に明示することが義務付けられています。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代に関する計算方法
- 固定残業時間を超える時間外労働等に対する割増賃金の追加支給をすること
固定残業代制度を導入している企業に応募する際は、給与の内訳についてしっかりと確認しておきましょう。
混同に注意!「みなし労働時間制」とは
固定残業代制は、外勤の多い営業職に対してよく利用されますが、似た用語に「みなし労働時間制」があります。
「みなし労働時間制」の注意点
「みなし労働時間制」は、正確には「事業場外労働のみなし労働時間制」として労働基準法に規定されており、事業場外の業務に従事することで、労働時間の算定が難しい場合に「特定の時間を労働したとみなす」制度です。
みなし労働時間は労使協定により定めることになるため、みなし労働時間が8時間と定められている場合、結果として10時間労働したとしても、2時間分の残業代は支払われない点に注意が必要です。
企業からの説明で、「みなし残業」という用語が出た時に、運用されている制度が「みなし残業代」と「みなし労働時間制」のどちらに該当するのかを、よく聞いて判断するようにしてください。
営業職でも「みなし労働時間制」が適用しないケース
みなし労働時間制は、具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が難しい業務という適用要件があるため、外勤の多い営業職であっても、以下のような業務であれば適用はできません。
- 何人かのグループ事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
- 無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合
- 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合
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