「扶養家族」の条件とは?履歴書「扶養家族数」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の書き方も解説
仕事をしている限り、特に結婚した場合に必要な知識となる「扶養家族」について、社会保険労務士の岡 佳伸氏にうかがいました。
履歴書に記載項目がある場合に知っておくと便利な、扶養家族や配偶者の扶養義務に関する考え方、そのカウント方法などについても解説します。
監修
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所
岡 佳伸氏
アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。
扶養家族とは
端的に言うなら、扶養家族とは生活費の面倒をみなければならない家族のこと。正式には、社会保険上では「被扶養者」、所得税法上では「扶養親族」といいます。
混同してしまいがちですが、その対象範囲も、社会保険上(被扶養者)と税法上(扶養親族)とでは異なるので、全く別モノと考えたほうがいいでしょう。
そこで、まずは社会保険(健康保険)上と、税法(所得税・住民税)上での扶養家族条件について、それぞれ解説していきます。
健康保険制度上の扶養家族(被扶養者)条件
健康保険法に基づく被扶養者の認定条件は同じですが、ここでは、健康保険組合に加入していない場合の企業の加入先である、全国健康保険協会の資料を元に例示します。
【健康保険における被扶養者の範囲】
※1.か2.のどちらかに当てはまる人
1.被保険者の直系尊属 ※a、配偶者(事実婚を含む)、子、孫、弟妹、兄姉で、主として被保険者に生計を維持されている人(必ずしも同居している必要はない)
2.被保険者と同一の世帯で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
①被保険者の3親等以内の親族 ※b(1に該当する人を除く)
②被保険者の事実婚の配偶者の父母および子
③【②】の配偶者が亡くなった後における父母および子
1.にある「生計を維持されている人」とは、被保険者の収入で生活している人という意味です。被保険者とは別々に住んでいる親や子どもに送金して援助している場合も、これに該当します。
2.にある「同一の世帯」とは、住民票の世帯が一緒であるという意味です。大学に通うために離れて暮らしている子どもに仕送りをしている場合、住民票を移していなければ厳密には同一の世帯となりますが、別世帯とみなしても特に問題はありません。
<用語解説>
※a 直系尊属
祖父母より前の世代で直通する系統の親族、養父母も含まれる。
※b 3親等以内の親族
1親等は父母・子。2親等は祖父母・孫・兄弟。3親等は曽祖父母、曾孫、おじおば、姪。本人の兄弟姉妹の配偶者は含むが、本人の配偶者の兄弟姉妹の配偶者は含まれない。
被扶養者は、上記の【健康保険における被扶養者の範囲】に該当することに加えて、収入の基準が次のように定められています。
【認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合】
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上、または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である。
【認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合】
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上、またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない。
収入の基準について、一般的に要望の多い「同居していない親を扶養家族にしたい」というケースを例に説明しましょう。
親が60歳以上の場合は、年収が180万円未満で、被保険者からの仕送り額が親の収入額より大きいことが条件です。
ですから、年間170万円の年金で生活している親に、年間171万円の仕送りをしていれば、扶養家族と認定されます。しかし、仕送り額が年間169万円だと、扶養家族とは認定されません。
要注意なのが、失業手当を受給している場合です。例えば妻が「会社を退職したので一時的に夫の扶養家族に入りたい」と思っても、1日あたり3611円以上の雇用保険基本手当(失業手当)を受給していると、扶養家族とは認定されません。
所得税法上の扶養家族(扶養親族)条件
所得税法上の扶養家族の条件については、以下の通りです。冒頭で述べた通り、税法では扶養家族のことを扶養親族といい、その年の12月31日時点で次の4つの要件すべてに当てはまる人が、扶養親族となります。
【税法における扶養親族】
※(1)~(4)すべてに当てはまる人
(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族 ※c及び3親等内の姻族 ※d)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や、市町村長から養護を委託された老人 ※eであること。
(2) 納税者と生計を一にしていること。
(3) 年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)。
(4) 青色申告者の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと。または白色申告者の事業専従者でないこと。
(2)の「生計を一にしている」は、必ずしも同居している必要はありません。例えば、勤務や修学、療養などで別居していても、生活費などを送金していれば、生計を一にしているとみなされます。
(3)の「年間の合計所得金額が48万円以下」とは、課税される所得の金額です。株や不動産などによる年収が48万円以上ある人は、扶養親族となりません。
<用語解説>
※c 6親等内の血族
1親等=父母・子
2親等=祖父母・孫・兄弟姉妹
3親等=曾祖父母・曾孫・おじおば・甥姪
4親等=高祖父母・玄孫・祖父母の兄弟姉妹・いとこ・甥姪の子
5親等=高祖父母の父母・来孫・高祖父母の兄弟姉妹・祖父母の甥姪・いとこの子・甥姪の孫
6親等=高祖父母の祖父母・昆孫・高祖父母の父母の兄弟姉妹・高祖父母の兄弟姉妹の子・祖父母の甥姪の子。
※d 3親等内の姻(いん)族
配偶者の血族。自分の兄弟姉妹や甥姪の配偶者、おじおばの配偶者、子や孫の配偶者。
※e 市町村長から養護を委託された老人
身寄りのない高齢者や適切な養護を受けられない高齢者で、個人の家庭において養護されている人。
よくあるのが、妻のパート年収が103万円を超えたり、子どものアルバイト年収が103万円を超えたりするケースです。給与収入が103万円以上ある人も、税法上の扶養親族にはあたりません。
健康保険上の扶養家族には該当しないものの、税法上の扶養親族には該当するケースがあります。それは、130万円を超える年収があって自分で健康保険に加入している配偶者が、育児休業をとっている場合です。
育児休業中は健康保険料が免除になりますが、加入していることに変わりはありません。一方、育児休業手当として通常の給与の3分の2から半額が支払われますが、育児休業手当は課税収入扱いではないため、税法上では扶養親族となります。
ところで、健康保険上の被扶養者には配偶者が含まれていますが、税法上の扶養親族には配偶者が含まれていません。その理由は、税法で定められている所得控除額の計算が「配偶者控除」と「扶養控除」に分けられているからです。
扶養控除にかかわる扶養家族(被扶養者と扶養親族)については上で述べましたので、以下、配偶者について解説します。
配偶者とは
配偶者の範囲(対象)についても、健康保険上と税法上では以下のように異なります。
【健康保険における配偶者】
健康保険の配偶者の範囲は、戸籍上の配偶者と、事実婚・内縁関係の配偶者(戸籍上の婚姻届がなくとも、事実上婚姻関係と同様の人)も含まれます。
【税法における配偶者】
所得税の配偶者は、「民法上の配偶者(戸籍上の配偶者)であること」いう要件があります。つまり、事実婚・内縁関係の相手は対象となりません。
法的には入籍していない状態で、婚姻の意思を持って共同生活を営んでいる事実婚・内縁関係の場合、「妻(未届)」あるいは「夫(未届)」と記された住民票などで証明することになります。夫婦別姓のカップルも、これに該当します。
企業への扶養家族や配偶者の申告はなぜ必要?
控除対象扶養親族がいる場合、一定の金額の所得控除(扶養控除)が受けられる――つまり税金が安くなるというメリットがあります。健康保険についても、被保険者はもちろん被扶養者にも、病気やけが、死亡や出産に対する保険金が給付されます。
一方、企業にとっては、従業員の所得税の計算、健康保険や国民年金の手続きのために、扶養家族や配偶者の情報が必要となります。これらの情報は、履歴書を提出した時点と入社後とでは異なる可能性があるので、入社後や年末調整前などにあらためて正確な情報を企業に提出します。
ところで、2021年の春、厚生労働省から公正な採用選考を確保する観点から“新たな履歴書様式例”が発表されました。
新しい履歴書様式には、「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」「通勤時間」の項目がありません。
今後は新様式が一般的になると考えられるので、いま手元にある履歴書に項目があっても空欄のまま提出しても問題はないでしょう。
履歴書での「扶養家族数」「配偶者」「配偶者の扶養義務」欄の書き方
そうはいっても、今のところ「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の記入欄がある履歴書も活用されています。そこで、履歴書に記入する場合の考え方とカウント方法について説明しておきます。
履歴書の「扶養家族数」について
履歴書に記入する扶養家族は、健康保険上の扶養家族の条件に基づいて、「被扶養者の健康保険証がほしいかどうか」をポイントに考えましょう。
「ほしいかどうか」とは、例えば、定年退職した親が前勤務先の任意継続保険への加入を選択するようなケースです。この場合、親が被扶養者の条件に該当していても、扶養家族数に加える必要はありません。
履歴書には配偶者を除いた扶養家族数を記入します。ですから、以下の事例集では扶養家族に該当する人数と履歴書に記入する扶養家族数(配偶者を除いた人数)の両方を紹介します。
【3人家族(夫・妻・子ども)の場合】
- 自分:会社員(被保険者)
- 配偶者:専業主婦
- 子ども:小学生
→ 履歴書の扶養家族欄=「1人」
[ポイント]
扶養家族数は、配偶者1人+子供1人=計2人。
履歴書の扶養家族欄には配偶者を除いた数を書くので、2-1=「1人」と記載します。
【4人家族(夫・妻・子ども2人)の場合】
- 自分:会社員(被保険者)
- 配偶者:パートの年収が140万円
- 長男:独り暮らしで別世帯。アルバイト年収120万円+自分(被保険者)から年間72万円の仕送りあり。
- 長女:同居
→ 履歴書の扶養家族欄=「1人」
[ポイント]
長男の年収は130万円未満ですが、仕送り額よりもアルバイト年収の方が多い為、被扶養者には該当しません。
よって扶養家族数は、配偶者1人+長女1人=計2人。
履歴書の扶養家族欄には配偶者を除いた数を書くので、2-1=「1人」と記載します。
【4人家族(夫・妻・夫の父・妻の母)の場合】
- 自分:会社員(被保険者)
- 配偶者:パート年収が128万円
- 自分の父:75歳で同居。年金収入が年間180万円。
- 配偶者の母:72歳で別居。年金収入が年間100万円+被保険者から年間120万円の仕送りあり。
→ 履歴書の扶養家族欄=「1人」
[ポイント]
あなたの父は、60歳以上で年収180万円未満ではないため、被扶養者には該当しません。
配偶者の母は、60歳以上で年収180万円未満であり、かつ仕送り額の方が多いため、被扶養者に該当します。
よって扶養家族数は、配偶者1人+配偶者の母1人=計2人。
履歴書の扶養家族欄には配偶者を除いた数を書くので、2-1=「1人」と記載します。
【3人家族(夫・妻・夫の弟)の場合】
- 自分:会社員(被保険者)
- 配偶者:パート年収が100万円
- 弟:同居していて、無職
→ 履歴書の扶養家族欄=「1人」
[ポイント]
同居しているあなたの弟は収入がなく、被保険者に生計を維持されているので、被扶養者となります。
よって扶養家族数は、配偶者1人+弟1人=計2人。
履歴書の扶養家族欄には配偶者を除いた数を書くので、2-1=「1人」と記載します。
履歴書の「配偶者」について
配偶者についても健康保険上のルールを基準に考えます。配偶者の有無は、以下のようになります。
自分(被保険者)の状況 | 健康保険上のルールを基準にした場合の「配偶者」欄の書き方 |
結婚している(戸籍を入れている) | 有 |
事実婚・内縁の関係がある | 有 |
独身 | 無 |
履歴書の「配偶者の扶養義務」について
配偶者の扶養義務についても、健康保険上のルール(年間収入が130万円未満)で考えます。したがって、扶養義務の有無は以下のようになります。
配偶者の年収 | 健康保険上のルールを基準にした場合の「配偶者の扶養義務」欄の書き方 |
130万円未満 | 有 |
130万円以上 | 無 |
税法上の扶養親族条件では、給与年収が103万円以下となっています。
これに関連して、配偶者の年収が130万円未満で、現状103万円以下でも、今後の働き方次第で103万円を越えそうだ、という相談を受けることがあります。
その場合は、「健康保険上では扶養家族に該当するが、税法上の扶養親族に当てはまらなくなる可能性がある」旨を、入社後に会社に伝えておくといいでしょう。
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