AIが進化しても残る仕事と、AIに代替されないスキルの磨き方
AIの進化によって、AIに代替される仕事と残る仕事があると言われています。また、新しく誕生する仕事もあるかもしれません。では、「残る仕事」や「新しい仕事」に就くためのスキルをどう磨けばいいのでしょう?人事歴20年超、現在は人事領域支援会社を経営する「人事のプロ」曽和利光さんにアドバイスをいただきました。
アドバイザー
株式会社人材研究所・代表取締役社長
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『コミュ障のための面接戦略』(講談社)など著書多数。
「記憶力×論理的思考能力」で成り立つ仕事はAIに代替される可能性がある
人間が持つ「仕事における能力」には、大きくわけて次の4つがあります。
- 論理的思考能力
- 記憶力(知識量)
- 感受性(空気を読む力、相手を慮る力)
- 表現力(適切な語彙でわかりやすく説明する力)
いずれも、企業が人材採用する際にも「求める人物像」としてよく挙がる基本的な能力です。
この4つのうち、AIの進展により、まず「記憶力」がAIに置き換わり、次に「論理的思考力」が置き換わると予想されています。
記憶力はAIの得意分野です。広辞苑や六法全書も一発で記憶できますし、その内容をすぐに導き出せます。そして、記憶力に論理的思考能力を加えた技術開発が、足元で急速に進んでいます。
例えば、日本経済新聞ではAIを使った記事制作を行っています。上場企業が発表した決算データをもとにAIが文書を作成し、「決算サマリー」として配信まですべてAIが行っています。また、AIによる契約書作成も一般化しつつあり、弁護士によるリーガルチェックもAIに置き換わりつつあります。エンジニアの分野でも、すでにノーコードの開発ツールが多数展開されており、プログラマーの業務領域を侵食するとされています。
従って、主に記憶力×論理的思考能力で成り立っているような仕事は、今後徐々にAIに置き換わっていく可能性があります。
「感受性」と「表現力」は人間の強みが活かせるスキル
一方で、今後も当面は残ると予想されるのは、「感受性」と「表現力」が活かせる仕事、この2つが仕事のクオリティを決めるような仕事です。
「感受性」、すなわち空気を読む力、相手を慮る力を活かせる仕事の一例は、組織開発マネージャーや人事組織コンサルタントのような仕事。組織の強さや実態を測る際、従業員のストレスチェックや従業員満足度、一人ひとりの経歴や人事考課などからある程度AIで分析し判断することはできます。ただ、従業員一人ひとりの生声に耳を傾けて本音をつかみ、データの解釈が本質的かどうかを考え、具体的な策を練る…というような仕事は残るでしょう。
企業カウンセラーもこれに当てはまります。テレワークが進み、職場で顔色を見ながら自然に声を掛け合ったり、ときには飲みに誘って悩みを聞いたりするようなインフォーマルネットワークによるフォローがしにくくなった今、感受性を武器にしたカウンセラーの仕事は注目されると思われます。
相手の立場や気持ちを慮り、適切な表現をする「表現力」は、AIはまだまだ不得手。相手を感動させたり、温かい気持ちにさせたりする一言を投げかけられるのは、人間ならではの能力です。例えば、コピーライターや音楽・映像制作などといったクリエイティブ職種が当てはまります。映画やドラマで言えば、必要な「絵」はAIで撮れてしまうかもしれませんが、「“これ”が撮りたい」を考えるのは人の仕事です。
そして、ハイタッチなサービス、すなわちクライアントと信頼関係を築き、パートナーとして力を発揮するような仕事は残ると見られます。例えば、不動産営業や生命保険の営業。「営業の仕事の多くはAIに置き換わる」という説もありますが、不動産も生命保険も「人による後押し」がないと決断しにくい分野。相手の人生プランやバックグラウンドを理解し、それに寄り添って適切な提案ができる感受性や表現力が求められる仕事です。
なお、その他の仕事においても、「感受性」と「表現力」を磨き、活かすことで、その仕事の中で希少性を発揮することが可能です。例えば、先に「記憶力×論理的思考能力で成り立っている仕事」の例として挙げた弁護士やエンジニアも、これらの能力をバックボーンとしながらも、「感受性」と「表現力」を活かして顧客のニーズを汲み取り、相手に合わせてアウトプットできる人は、その分野のスペシャリストとして活躍することができるでしょう。
AIに勝てるスキルを磨くカギは「自己認知」と「偶然性の知識」
AIが進化しても「残る仕事」や「新しい仕事」に就くには、「感受性」と「表現力」を磨くことが重要です。
「感受性」が豊かで、相手の気持ちを慮る能力がある人は、心理的バイアスがない人、つまり偏見や思い込みがない人という研究結果があります。思い込みとは、過去の経験をもとに人間の中にプログラミングされたものですが、そこから離れるには「自分にはこういう思い込みがある」と自己認知することが重要です。
自己認知のためには、第三者からのフィードバックが有効。自分自身に向き合って自ら洗い出す方法もありますが、無意識のうちにふたをしている感情までは引き出しにくいからです。友人や家族、カウンセラーでもいいし、自己診断テストなどに挑戦するのもいいでしょう。「自分以外のもの」から自分を客観的に評定してもらうと、「あなたにはこういう傾向がある」「あなたはこういう発言をすることが多い」など、思わぬ側面が見えてきます。その側面を理解し、意識するトレーニングを重ねることで、徐々にフラットな感情で人と接することができ、相手の思いを汲んだやり取りができるようになるでしょう。
「表現力」に必要なのは、これまでの話と矛盾するようですが「知識量」です。
前述した「AIに置き換わる記憶力(知識量)」は、目的的行動(特定の目標への到達を目指した行動)による知識、例えば司法試験合格のために六法全書を覚えるというような行動で得られる知識です。
一方、ここでいう「知識」は、“偶然性”によって得られる、多様で異質な知識のこと。人間にしかアウトプットできない「クリエイティブ」は、たくさんの異質な知識の組み合わせによって生まれるものだからです。
つまり、これからは体系的に知識習得するのではなく、あらゆるチャネルからさまざまな情報を意識して習得することが大切なのですが、今の社会ではこれがなかなか難しい。一番の難敵が「フィルターバブル」。検索サイト上で、自分の興味のある情報しか見えなくなることを意味する言葉であり、このせいでネットから得られる情報が意図せず体系化されてしまうのです。
お勧めしたいのは、リコメンド「以外」の情報を意識的に仕入れること。例えば、ニュースを見ていて、お勧め記事が上がってきたら敢えてそれと対極にあるような情報を見に行ってみる、通販サイトでリコメントされた本を避けてみるなど。ネットからではなく、リアルから情報を仕入れる割合を増やすのもいいかもしれません。例えば、本屋に行ってジャケ買いするなどして、さまざまな分野の本を「乱読する」のは一つの方法です。
心理学者であるクランボルツが唱えた「計画的偶発性理論」によると、「人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」と言います。偶然性によって得られる知識が、思わぬキャリアにつながる可能性も大いにあります。
もちろん、将来的には感受性、表現力の分野にもAIがどんどん入ってくるかもしれません。実際、AIが絵画を描いたり、AIが小説を自動作成したりする例が増えています。そのうち人間ならではの「空気を読む力」も解析される日が来るかもしれません。
ただ、今のうちから感受性、表現力を磨いておくことで、一定期間のアドバンテージを得ることは十分可能。今後新たな技術革新によって生まれる「全く新しい仕事」に活かせる可能性も大いにありますので、日々の生活の中でぜひこの2つの能力を意識してみてください。
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