転職市場の「35歳」という“大きな分岐点”にどう向き合うか?
目次
「35歳」という転職における大きな分岐点
先日、キャリア相談でお会いしたAさん(39歳・大手医療機器メーカー・経営企画)は、現在の会社の業績悪化に伴い、転職活動を始められたそうですが、初めて転職をした5年前、34歳の時との違いに非常にショックを受けておられました。5年前には、思わぬ大手企業から内定が出たり、好条件の年収額が提示されたり「自分の市場価値はこんなに高かったのか?」と驚いたそうですが、今回の転職では、なかなか書類選考にすら通過しないなど、明らかに“逆境”を感じているというお話でした。
中途採用市場は、当時よりさらに活発化していて、Aさん自身のキャリアもミドルマネジメントとして磨きがかかっているにもかかわらず、結局20社以上応募しても面接に進めたのは3社しかない、しかも3か月たっても内定がない、という状況はなぜ生まれてしまったのでしょうか?
経営企画が人気職種でライバル応募者が多いという事情や、以前より年収水準が上がり、希望年収が高くなったこともありますが、いずれも5年前と決定的な違いがないため、やはり年齢による企業の視線の厳しさが背景にある、とAさんは感じていました。
転職活動の難易度だけではありません。
転職と年収変化のデータを見ると、会社員・男性の転職前後の年収変化で、「10%以上年収が上がる人」の割合は、30~34歳世代で47.2%いるのに対して、35~39歳世代では44.6%と減少しています。ちなみに40~49歳では40.3%、50~59歳では22.2%と年収増加者は年齢とともに急減していきます。(リクルートワークス研究所「ワーキングパーソン調査2014」)
転職後の年収変化は、書類選考の通過率など転職難易度と連動するため、掛け算となって、自分の市場価値が急激に低下しているように感じてしまう構造になっています。
なぜ35歳で分岐が生まれる?――企業側の論理~若手・現場第一線プレイヤーへの熱視線
転職市場ではなぜ35歳で分岐が生まれるのか?実際に、企業側の論理はどうなっているのでしょうか?
大企業や大組織にはピラミッド型のヒエラルキーが厳然と存在します。同期入社が100人いたとしても、年次を経るごとに人材選別が進み、出世の階段を上がるごとに人数が絞られ、競争に敗れた人は出向や転籍などで社外に排出されていくというシステムになっています。2年程度の出向期間を経て、転籍を迫られ、転籍先次第では年収が大幅にダウンすることも避けられないようです。
30代後半から選別が激しくなるケースが多いようですが、そもそもそんなピラミッド型の組織では、中途採用を積極的にすること自体が少ないのが現状です。10年以上も同じ釜の飯を食った同期同士での出世競争が行われている中に、外部から新参者が飛び込むという状況です。採用されるのはそれに対抗できるだけの希少なスペシャリティーを持っている人材に限られてきます。
また、若手・現場第一線の人のボリュームが大きく、景況感がよくなったり、会社が成長軌道に乗ったりすると、下に行けば行くほど人手不足感が生まれやすい構造になっています。
相対的に35歳前後に求人需給のギャップが生まれることにつながっています。
なぜ35歳で分岐が生まれる?――求職者側の論理~希望条件の掛け算により、選択肢が狭まる
一方、求職者の側の論理はどうなっているのか?35歳を超えて転職を考えるときには、家族への責任も大きく、自分一人の満足度では決められなくなるのも当然です。役職・ポジション、ワークライフバランスなどといった条件が、複雑に絡み合っていくことになります。また、特に転職経験が少ない方に共通する一つの傾向として、「安定性の高い会社に就職したい」という希望を明確に打ち出す方が多くなる傾向があります。
また、もっとも重視される収入の面でも、できれば前職以上、最低でも前職水準をキープしたいという方が多くおられます。住宅ローン、家庭・家族の事情、将来不安、教育や介護資金など、一家の大黒柱として、また世代的な宿命として、大きな責任を負っている方も多いので当然の成り行きだと思います。
ただ、前段落で述べたように35歳前後で需給バランスが大きく変化する構造がある中で「部長以上の役職で探したい」「できるだけ残業は避けたい」「年収は前職より増やしたい」といった希望条件を満額回答でかなえる転職のチャンスはそう多くはありません。希望条件を一つ一つ見ていくと、前職を上回る人よりも下回る人が目立ち始めるのが、35歳という転換点です。希望条件を掛け合わせることにより、選択肢は指数関数的に一気に狭まってしまいます。
そもそもなぜ転職を検討しているのか、という原点に立ち戻り、転職で解消したかった課題を絞って(多くても3つ以内に)、まずはその解決を中心に置いて、必須条件を絞り込むようにしていただくのがよいでしょう。「あれも、これも、全部欲しい」という条件重視型の転職になると、活動自体がフリーズしてしまいかねません。それでも条件を重視したいという場合は、本当に転職する必要があるのかどうかを再考することをおすすめしています。
「35歳」の分岐点を乗り越えるための4つのポイント
このような年齢の分岐点を乗り越えて、少しでもスムーズに次のキャリアを見つけるためにどう考え、どう動くべきか、4つのポイントをまとめてみました。
1.募集条件は最低条件でしかない
求人情報に書かれている「学歴」や「業務経験」「必要な資格」などは、企業からすると必要最低限のものでありません。決して、その条件に合致していれば書類選考は通過する、という意味ではありません。その大前提を押さえておかなければ「そんなはずじゃなかった」という事態に陥りかねません。
2.同じ求人に、あなたに見えないライバルは29人
1件の求人に対して、人事担当者が受け付ける応募者は(職種や地域によってかなり幅がありますが)約30人存在する、と仮定しておきましょう。あなたから見ると厳選した一社でも、人事担当から見ると30人の中の一人にすぎません。自分が応募した求人に応募している「見えない29人」のライバルを想定して職務経歴書にはできる限り、あなたならではの優位性をまとめるよう意識してください。
3.経験の有無にとらわれすぎない
転職市場のもう1つの特徴に、同業種・同職種移動率が約7割という傾向があります。たしかに経験がないよりはあったほうが確率は上がるのですが、企業から見た場合の経験は、何も同じ業界や同じ仕事に限られているわけではありません。周囲と協働する力、課題を解決していく力、学び続ける力、など、経験の意味を広くとることで、選択肢の幅が大きく広がるケースも多いのです。対象を広げ、接触数を増やすことで、少しでも早く、自分が生き生きと働ける職場を見つけてください。
4.慎重すぎず、無謀でもない決断を
自分自身のキャリアや市場価値を高め続けていくためには、能動的な選択をする必要があります。会社から与えられるミッションや機会を受動的に待っているだけでは不十分だということです。
しかし、キャリア形成には一定の時間がかかるものなので、自分自身でキャリアをコントロールするための大きな選択は、しょっちゅうできるものではありません。特に長い期間、一つの会社で経験を積み上げてきた場合など、知らない間に受動的に会社の方針をのみ込んでしまう習慣が身につき、慎重になり過ぎてしまう方もいます。そういう方は事業不振やそれをきっかけとしたM&A(合併・買収)などでリストラが始まってから、難しい転職活動を強いられることになりがちです。
逆に、機が熟していないのに早すぎる決断をしてしまい、気が付くと転職回数がやたらと増え、後悔する方もたくさんおられます。転職市場ではその両極端のケースが多く、それだけタイミングよく意思決定することの難しさを表していると思います。
自分の市場価値を継続的に高めていくためには、経済環境の変化や人との縁などのタイミングを読みながら、人生で数少ない意思決定のカードを切って、ベストな道をつくっていくための決断力は不可欠です。社内だけではなく、社外の友人との付き合いや、常日ごろの情報収集は、そういう局面で必ず役に立つはずです。
黒田 真行(くろだ・まさゆき) ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役
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