サービス残業の実態と問題点、対策とは?
残業したのに残業代を支払わないのは違法です。では、どのような場合にサービス残業が当てはまるのでしょうか。
サービス残業の実態や法的な観点での問題点、また、シフト制やみなし残業代制度を導入している場合のサービス残業の扱い、サービス残業への対策まで解説します。
執筆・監修
あべ社労士事務所
代表 社会保険労務士 安部敏志(あべさとし)
大学卒業後、国家公務員I種職員として厚生労働省に入省。労働基準法や労働安全衛生法を所管する労働基準局、在シンガポール日本国大使館での外交官勤務を経て、長野労働局監督課長を最後に退職。法改正や政策の立案、企業への指導経験を武器に、現在は福岡県を拠点に中小企業の人事労務を担当する役員や管理職の育成に従事。事務所公式サイト:https://sr-abe.jp/
サービス残業とは
「サービス残業」という言葉は、残業(時間外労働・深夜労働・休日労働)に対して、賃金が支払われず、従業員がサービスでタダ働きしている状態、いわゆる「賃金不払い残業」を指してよく用いられます。
サービス残業の実態
平成30年8月に厚生労働省が発表した「監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成29年度)」※1は以下のとおりです。
– 対象の労働者数:20万5,235人
– 支払われた割増賃金合計額:446億4,195万円
– 支払われた割増賃金の平均額は、1企業当たり2,387万円、労働者1人当たり22万円
サービス残業に該当するケースとは
具体的に、どのような状態の時にサービス残業が当てはまるのでしょうか。
割増賃金が払われていない
法定労働時間を超えた時間外労働・深夜労働・休日労働に対して、割増賃金が支払われていなければすべてサービス残業に該当します。
割増賃金が支払われているかどうかは、毎月渡される給与明細を確認すればわかります。
時間の切り捨てが行われている
労働基準法では、時間外労働時間の端数処理を行うことは違法であり、1分単位での時間計算が必要です。実際の勤務が9:00~18:15であれば15分の残業代が必要であり、よく会社で行われている「30分未満は切り捨て」といった運用は許されていません。
ただし、1カ月の労働時間に端数が生じたとき、時間外労働・休日労働・深夜業の各時間数の合計から30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げることは端数処理の例外として認められています。
サービス残業の問題点とは
サービス残業は、「労働時間規制」「賃金規制」の2つの観点で法的に問題があります。
労働時間規制の問題
1つ目の問題点が、「労働時間規制」で違法となる点です。
労働基準法では、会社は原則として休憩時間を除いて「1日8時間、1週間で40時間」(法定労働時間)を超えて従業員を働かせてはいけません。
法定労働時間を超えて、または法定休日に働かせる場合は、あらかじめ時間外・休日労働に関する協定届(36協定)を労使で締結し、労働基準監督署に届け出る義務があります。
そのため、以下の場合は労働時間規制に違反しているという点で違法であり、多くの会社が労働基準監督署から指導を受けています。
– 36協定で締結した時間を超えた残業が行われている
賃金規制の問題
2つ目の問題点が、賃金規制との関係で違法となる点、つまり賃金不払いです。
以下の表は、残業代の割増賃金率を示していますが、休日労働に深夜労働(22:00~翌5:00)が重なると、割増率は60%にもなります。
残業の種類 | 割増賃金率 |
---|---|
時間外労働(法定労働時間を超えた場合) | 25%の割増 |
深夜労働(22:00-翌5:00の労働の場合) | 25%の割増 |
休日労働(法定休日の労働の場合) | 35%の割増 |
時間外労働(法定労働時間を超えた場合)+深夜労働 | 50%の割増 |
休日労働+深夜労働 | 60%の割増 |
時給換算で1,000円の従業員が休日労働+深夜労働をした場合、本来は時給1,600円で計算した賃金を支払われることになっているのです。
シフト制やみなし残業代制度の場合のサービス残業は?
割増賃金が支払われていなかったり、時間の切り捨てが行われていたりするケースはサービス残業の把握がしやすいのですが、労働時間制度によって法定労働時間を超えた時間外労働・深夜労働・休日労働が何時間になるのか異なるため、注意が必要です。
法定労働時間は原則として1日8時間、1週間で40時間ですが、会社が以下の労働時間制度を導入している場合は法定労働時間の考え方が異なります。
1日の労働時間の上限 | 1週の労働時間の上限 | 1週平均の労働時間 | |
---|---|---|---|
原則 | 8時間 | 40時間 | 40時間 |
1か月単位の変形労働時間制 | なし | なし | 40時間 |
1年単位の変形労働時間制 | 10時間 | 52時間(週48時間を超える回数の制限あり) | 40時間 |
1週間単位の非定型的変形労働時間制 | 10時間 | なし | 40時間 |
シフト制の場合
一般的にシフト制と呼ばれている変形労働時間制の中で、代表的な1カ月単位の変形労働時間制の場合、1週平均の労働時間が40時間に収まっていれば、1日の労働時間の上限も1週の労働時間の上限もありません。
この図では、第3週が1週42時間、そのうち木曜と金曜が1日10時間と、原則の1日8時間、1週40時間を超えていますが、1週平均で40時間以内に収まっているため問題はありません。
ただし、第3週の金曜日の実際の勤務時間は11時間となっています。この場合、当初のシフト10時間から1時間を超える残業となるため、25%の割増賃金が必要になります。この賃金が支払われなかった場合は、サービス残業に該当します。
みなし残業代(固定残業代)の場合
みなし残業代(固定残業代)とは、
のことです。例えばみなし残業代の設定時間数が10時間の場合、当初から10時間の時間外労働を含んだ賃金が支払われています。そのため実際に時間外労働があっても10時間以内であれば、すでに賃金の中に組み込まれているので追加で支払われることはなく、サービス残業にも該当しません。
なお、当然のことですが、11時間の残業があれば10時間分しかみなし残業代は組み込まれていませんので、1時間分の割増賃金は追加で支払われることになります。そのため設定時間数を超えた残業に賃金が支払われなかった場合は、サービス残業となります。
サービス残業に該当している場合の対処法
労働基準監督署はサービス残業に対して重点的に取り組んでおり、サービス残業に該当している場合は、労働基準監督署に相談しましょう。
ただし、サービス残業があるという証拠は必要です。タイムカードなどの残業の記録の写し、給与明細などはきちんと残しておくようにしておきましょう。
※1:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00831.html
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