転職すると退職金で損をする?退職金について知っておくと良いこと
「退職金」という言葉は知っていても、実際に自分がもらえる額を理解している人はそう多くないのではないでしょうか。
「転職で退職金は少なくなる?」「損をしないために何を知っておくべき?」など、よくある疑問について、社会保険労務士の岡佳伸氏にお答えいただきました。
監修
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所
岡 佳伸氏
アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。
退職金の金額は退職理由により異なる
退職金に関する規定は会社によって異なりますが、退職理由が「定年退職」および「会社都合退職」であれば支給額が高めで、「自己都合退職」の場合は低めに設定されています。
また、自己都合で退職したとしても、転職によって基本給アップが叶えば、生涯年収として考えた場合に一概に損をするとは言い切れないでしょう。
退職金と企業年金の違いについて
企業によっては退職金を企業年金として支給する場合があります。
退職金は企業の規定に基づき支給額が決定しますが、企業年金の「確定拠出年金」では、ご自身で掛け金を決めて積み立て・運用をするため、積み立て方により将来もらえる支給額が決定します。「確定給付金」のように企業や委託された機関が運用を行う場合もあります。
確定拠出年金(※1)などの企業年金や、国の退職金制度である「中小企業退職金共済」(※2)などは、それぞれの規定に基づいて支払われますので、退職理由によりもらえる金額が大きく変わるということはありません。
(※1)確定拠出年金は老後の資金形成を目的とした制度で、60歳以降に一時金または年金の形で受給できる積立金です。運用内容は自分で決定し、将来の受給額は拠出額と運用実績の元利合計で決まります。社外の積立(個人口座)のため、もし会社が倒産しても保全され、転職先に資産を移行することも可能です。
(※2)中小企業退職金共済法に基づく制度で、中小企業のみが加入することのできる社外積立型の退職金制度で、国の援助で運営されています。
在籍期間が長いほど退職金は多くなる
多くの会社では国家公務員の規定を参考にしていて、「退職手当=基本額(退職日の俸給月額×退職理由別・勤続期間別支給率×調整率)+調整額」の方式で算出しています。
退職金の本来の目的は、長期で在職してくれた方へのインセンティブのようなもの。退職金は勤続期間が長ければ長いほど掛け率が高くなるのが一般的です。就職してから1〜2年程度で辞めてしまった場合は退職金を支給しないという会社も数多くあります。
転職を何度も繰り返した場合、それぞれの会社での勤続年数は短くなりますから、おのずと退職金も少なくなってしまうでしょう。
退職金に関する注意点
退職金は必ずもらえるものとは限りません。以下のようなケースでは支給されないことがありますので注意が必要です。
退職金制度がない会社もある
退職金制度がなくても違法ではありませんから、退職金がない会社は一定数存在します。
ただし、「退職金制度を設ける場合は就業規則に記載すること」と定められていますので、現職の退職金制度の有無を知りたい場合は就業規則や別途定められている退職金規定を確認するといいでしょう。なお、就業規則の作成と周知は、10名以上の従業員がいる事業所では義務づけられています。
転職先の退職金制度の有無や規定については、求人票を確認してみましょう。詳しい記載がない場合は、面接時に差し支えないように質問をするか、転職エージェント経由で応募される場合は、キャリアアドバイザーに調べてもらうのがベターです。
場合によっては退職金がもらえないこともある
就業規則に定めた条件を満たしていない場合、退職金が支給されないことがあります。その条件は会社によってさまざまですが、よくあるケースは主に次の3つです。
①退職金制度に定める就業年数に達していない
②自己都合退職では在職期間が一定の期間に達しないと支給しないと定められている(※3)
③問題を起こして懲戒解雇された
などです。①と②については、意外と見落としがちですので注意しましょう。
(※3)長期間の在職を社員に促すため、他の退職理由(会社都合等)よりも自己都合の場合の支給要件となる在職期間が長いことが多いため
退職金に関するよくあるトラブルとその対処法
事例1:退職金が未払い
会社の経営が傾いているなどの理由で払ってもらえないケースであれば、国の機関である労働基準監督署に相談するといいでしょう。会社が倒産して払ってもらえないケースであれば、「未払賃金立替払制度」を利用することもできます。
企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して未払賃金の一部を立替払いする制度で、労働基準監督署および独立行政法人労働者健康安全機構で実施しています。
事例2:退職金制度があるのにもらえなかった
退職金制度があっても、支給の要件を満たしていなければ会社は退職金を払う必要はありません。
しかし、同じ要件の同僚には退職金の支給があったのに自分だけはもらえなかった等、いじめや嫌がらせによる差別による未払いでどうしても納得できないケースでは、厚生労働省 労働局「労働紛争解決制度」の紛争調整委員会によるあっせんで、会社側と話し合いの場を設けることができます。
事例3:競合他社への転職
就業規則には同業他社への転職を制限する文言が記載されていることがあります。その場合、退職金の返還を求められたり、状況によっては訴訟で敗訴したりすることもあります。
深刻な状況を招かないためにも転職前にしっかりと確認しておきましょう。
退職金に関するよくあるご質問
Q.退職金はいつもらえるのでしょうか?
A.多くの場合は1ヶ月以内に支払われますが、会社の規定によってさまざまなケースがあります。
Q.退職金の相場を知りたいのですが?
A.退職金の算出方法は就業規則や退職金規定で定められており会社によって異なりますが、国家公務員の退職金規定を目安にしている会社が多くみられます。内閣人事局が公表している退職手当て支給率早見表などを参考にするといいでしょう。
Q.退職金には税金や社会保険料はかかるのでしょうか?
A.社会保険料はかかりませんが、所得税と住民税はかかります。ただし、退職所得控除が適用されるため、通常よりも税率が低く設定されます。
まとめ
退職金は退職理由や勤続年数、役職などでもらえる金額が異なります。また、各企業によって金額の決め方も異なります。
トラブルを避けるためにも、退職を申し出る前に就業規則を確認して、退職金制度や要件、競合他社への転職などについてもきちんと把握しておきましょう。
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