キャリア・アンカーとは?自己分析や適職探しに活かす方法を解説
8つの分類があるキャリア・アンカーは、船のいかりのように、譲れない価値観や欲求を基準にキャリアを決めていく考え方です。
タイプごとに、適職探しの糸口と転職活動のコツ、働くにはどんな環境がいいのかの例を紹介します。
キャリア・アンカーでは、「何が最も譲れないか」を考える
キャリア・アンカーとは、ひとことで説明すると「どうしても譲れない価値観や欲求を基準にキャリアを決めていく」という考え方です。
組織心理学者でマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院名誉教授の故:エドガー・H・シャイン氏が提唱したキャリア理論で、アンカーとは、「船のいかり」のことを指す言葉。
一般的な自己分析では、自分の得意・不得意やこれまでの経歴などを掘り下げることが多いですが、このキャリア・アンカーでは「最も譲れないもの」にいかり置くことで「自分はどう働いていきたいか」を大切にし、人生やキャリアの波での漂流を防ぎ、迷い続けないようにしようとするものです。
日本の教育心理学者で筑波大学名誉教授でもある渡辺三枝子氏らの著書「新版 キャリアの心理学 キャリア支援への発達論的アプローチ」 でも、キャリア・アンカーと故:エドガー・H・シャイン氏について以下のように説明しています。
具体的には、
- 「どんな仕事がしたいのか(動機)」
- 「自分は何が得意なのか(コアコンピタンス)」
- 「何に価値を感じるのか(価値観)」
という、3つが重なる部分をキャリア・アンカーと呼び、8つのタイプに分類されています。
キャリア・アンカーを糸口にして探す「適職」と「転職活動」
キャリア・アンカーには以下の8つのタイプがあります。
- タイプ1「専門・職能別能力」
- タイプ2「経営管理能力」
- タイプ3「自立・独立」
- タイプ4「保障・安定」
- タイプ5「起業家的創造性」
- タイプ6「奉仕・社会貢献」
- タイプ7「純粋な挑戦」
- タイプ8「ライフスタイル」
自分が8つのタイプのうち、どれに当てはまるのか詳しい診断をすることも可能ですが、まずはざっとどんなタイプがあるのかを確認し、「しっくりくるもの」を感じとってみましょう。1つだけでなく、複数の項目が当てはまる場合は、その中でどちらがより強く共感できるかを考え、優先順位をつけるのがオススメです。
本記事では、8つのタイプの特徴と、それぞれの希望に沿う可能性がある職場環境や仕事例も紹介しているので、適職探しや転職活動の「きっかけ」や「糸口」にしてみるのも良いでしょう。
タイプ1「専門・職能別能力」
専門家として能力を発揮したいタイプ。自分の才能や専門性を高め、それを活用できる環境で働きたいという思いが強い。
このタイプの適職探し・転職活動のポイント
●仕事例
専門職、エキスパートとして働くことが考えられます。
研究職、ソフト/ハードエンジニア、公認会計士、弁護士、出版編集、技能工、アスリート、金融専門職(アクチュアリーなど)、エコノミスト、データサイエンティストなど
●転職活動のポイント・環境例
企業内のキャリアパスで、ゼネラリストコースではなく、エキスパート・専門職コースへの選択ができる企業を見てみるのも良いでしょう。専門性を高める不断の努力や、高い成果・専門性を求められる可能性があり、常に新しいことを覚えていく、吸収していく必要があります。
タイプ2「経営管理能力」
リーダーとしてチームをまとめたい、出世したいタイプ。組織の中で、責任のある役割を担いたいとの思いを持っている。
このタイプの適職探し・転職活動のポイント
●仕事例
人をマネジメントする立場で働くことが考えられます。
管理職、コンサルタント、企画(経営企画、事業統括など)、店舗管理など(SVや店長など)
●転職活動のポイント・環境例
ゼネラリストとして多様なキャリアを経験できる企業を考えてみるのも良いでしょう。ただし、マネジメントスキルや経営全般の知見などの、レベルの高いものを求められる可能性も高く、管理職として転職を目指すという意味ではライバルとなる他求職者との競争が激しい可能性もあります。
タイプ3「自立・独立」
規則や慣習に縛られず、自分の裁量で仕切っていきたいタイプ。自分が納得できるやり方で仕事をしたいという思いが強い。
このタイプの適職探し・転職活動のポイント
●仕事例
研究職、クリエイティブ職(デザイナーなど)、エンジニア、営業(成功報酬型)、コンサルタント、外資系企業など
●転職活動のポイント・環境例
フレックス、リモートワーク、人事評価制度が成果重視、などの働き方の自由度が高いところ、裁量権が大きいところ、成果重視のところなどを考えてみるのも良いでしょう。そういった環境では、自律性が求められる可能性も高く、能動的に動かなければ視野や経験を広げる学びの機会が少なくなりがちです。自分のやり方だけではうまくいかないリスクもあります。
タイプ4「保障・安定」
安定した組織、仕事、報酬など安全性を重視するタイプ。会社の雇用保障などの経済的な安定を重視し、大きな変化を好まない。
このタイプの適職探し・転職活動のポイント
●仕事例
公務員、団体職員、学校関係、管理部門(経理、総務、法務など)、大企業・上場企業・設立からの年数が長いところ
●転職活動のポイント・環境例
一定期間でこなすべき厳しい目標(ノルマ)が無いところ、年功序列の要素が強いところ、離職率が低い・平均年齢が高いところなどを考えてみるのも良いでしょう。ただし、どんなに安定経営をしている企業でも、予測不能な外的影響による環境変化もあり得るので、社内でのスキルアップや実績を中長期的に積んでいくことも大切です。安定しているからこそ、社外の情報収集や選択肢を準備しておくことをオススメします。
タイプ5「起業家的創造性」
クリエイティビティを発揮し、新しいものを生み出すことにやりがいを覚えるタイプ。会社に勤めながらも、常に会社や事業を起こす機会を探っている。
このタイプの適職探し・転職活動のポイント
●仕事例
企画(新規事業企画)、商品企画、マーケティング、CXO、営業(成功報酬型)、コンサルタント、スタートアップ・ベンチャー企業など
●転職活動のポイント・環境例
創業期・成長期前半の拡大成長途上の企業、起業家を目指す社員が多い人材輩出企業、副業可能な環境などを考えてみるのも良いでしょう。ただし、こういった環境は、転職市場で人気企業であるケースも多いため、「有名企業だから」「人気企業で自慢できるからから」など、トレンドやその時々のノリだけで転職をしないように注意しましょう。
タイプ6「奉仕・社会貢献」
仕事を通じて社会に貢献したい、世の中をよくしたいと考えているタイプ。能力を発揮して活躍するより、人の役に立ったり奉仕したりすることを好む。
このタイプの適職探し・転職活動のポイント
●仕事例
医療、介護、漢語、教育、公務員、NGO・NPO、団体職員、学校関係、管理部門(人事、労務、総務など)、カスタマーサクセス・サポート、事務職(アシスタント、秘書など)、サービス業(旅行・ホテル・ブライダルなど)
●転職活動のポイント・環境例
企業理念、事業内容、商品サービス、組織・人への共感ができる企業を探してみるのも良いでしょう。社会貢献意欲が高い場合には、「この仕事ができるなら、これくらいのことは我慢できる」と、労働条件を後回しにしてしまう人もいます。転職後に気持ちよく働き続けるためには、情報公開の透明性や労働環境や待遇なども重視して考えると良いでしょう。
タイプ7「純粋な挑戦」
解決が困難な問題に挑み、打ち勝つことに喜びとやりがいを感じるタイプ。ハードワークを厭わず、挑戦しがいがあると思えるテーマにはとことん取り組む。
このタイプの適職探し・転職活動のポイント
●仕事例
営業、企画(事業統括、経営企画、新規事業開発)、管理職、CXO、コンサルタント、メディア関係、研究職、大企業・グローバル企業、NPO・NGO
●転職活動のポイント・環境例
海外も含めて活躍の場が多数あるところや、創業・成長フェーズの企業など、多様で新しい仕事ができる環境などが考えられます。他にも、貧困・食料・エネルギー関係など取り組む社会課題に共感できる企業を探すのも一つの手です。転職後に気をつけたいのは、ワークライフバランスです。困難なテーマへの挑戦に熱中するあまり、自分のプライベートを後回しにしてしまう人も少なくありません。家族やパートナーへの配慮と、「挑戦」という言葉の響きに酔って無茶をしすぎないように注意しましょう。
タイプ8「ライフスタイル」
仕事とプライベートのバランスを常に考えたいタイプ。個人のキャリアを追うだけでなく家庭との調和を大切にしていて、福利厚生の充実や柔軟な働き方ができる人事制度の有無を重視する。
このタイプの適職探し・転職活動のポイント
●仕事例
事務職、営業、クリエイティブ系(編集、ライター、デザイナー)、管理部門(人事、経理、法務など)
●転職活動のポイント・環境例
社員の働きやすさを支える制度が充実し、実態が伴っているところなどが考えられます。例えば、リモートワーク、移住勤務、フレックス勤務、社食、育児支援、女性の管理職率、離職率、残業時間、男性育休取得率などを確認してみると良いでしょう。他にも、自分で仕事をコントールできる仕事や、クライアントワークが少ない仕事、対応時間が決まっているto Bビジネスなどは、プライベートの時間を確保しやすい傾向にあります。転職活動では、ライフスタイルのみを重視していると面接で苦戦する可能性があるため、転職後にどんな仕事をしたいのかといった志望動機をしっかり考えておくことも大切です。
キャリア・アンカーを転職活動に活かすときの注意点
キャリア・アンカーと職業を「直結」させない
キャリア・アンカーはあくまでも個人の仕事上譲れない価値観を明確にする自己分析手法の一つであり、職業と「直接」結びづけるものではありません。同じ職業でも、会社の風土や文化によって、働き方が全く異なるケースもあるからです。
本記事で紹介した職場環境や仕事例についても、「希望に沿う傾向が高い例」として捉え、実際の転職活動では企業分析も怠らないようにしましょう。故:エドガー・H・シャイン氏も、キャリア・アンカーだけではなく、仕事分析や企業分析をして環境や組織のニーズとの調和を取ること(キャリア・サバイバル)が大切だと唱えています。
自分のキャリア・アンカーのタイプを詳しく診断するには
詳細なタイプ診断をしたい人は、故:エドガー・H・シャイン氏の著書「キャリア・アンカー 自分のほんとうの価値を発見しよう(金井壽広訳 白桃書房 2003年出版)」に、掲載されているキャリア指向質問票を使ってみてください。
ただし、自分ひとりで分析をしていると、固定概念・先入観に縛られる可能性もあるため、転職エージェントのキャリアコンサルタントやプロコーチなどに相談してみるのも一つの手です。第三者との対話によって、自分の気づかない部分も明らかになるかもしれません。
一度診断したキャリア・アンカーだけが絶対的なタイプ分類ではない
例えば「難題を解決したいか」という質問項目に対して、想定する難題の定義は、それぞれの経験値や置かれている状況によって変わってくるでしょう。3年前と今、そして3年後では回答が変わっていても不思議ではありません。
一度、キャリア指向質問票でタイプ分けをしたとしても、その結果だけにとらわれる必要はありません。
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