会社員が知っておきたい副業・兼業の基礎知識
昨今、大手企業の副業・兼業解禁という報道もあり、副業・兼業に関心のある方も多いのではないでしょうか。また、2018年1月に改定された厚生労働省によるモデル就業規則が、副業・兼業を「原則禁止から原則容認へ」大きく方向転換したと報道され、大きな話題となりました。
そこで今回は会社員が知っておきたい副業・兼業の基礎知識と題して、副業・兼業の現状と法的規制、副業・兼業のメリットと留意事項、実際に副業・兼業を行う前の注意点を解説します。
プロフィール
あべ社労士事務所
代表 社会保険労務士 安部敏志(あべさとし)
大学卒業後、国家公務員I種職員として厚生労働省に入省。労働基準法や労働安全衛生法を所管する労働基準局、在シンガポール日本国大使館での外交官勤務を経て、長野労働局監督課長を最後に退職。法改正や政策の立案、企業への指導経験を武器に、現在は福岡県を拠点に中小企業の人事労務を担当する役員や管理職の育成に従事。事務所公式サイト:https://sr-abe.jp/
副業・兼業の現状とは?副業の実態と法的規制
厚生労働省発表の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」によると、副業・兼業を希望する人は年々増加傾向にあり、その理由は以下のように様々です。
- 自分がやりたい仕事であること
- スキルアップ
- 資格の活用
- 十分な収入の確保等
しかし、多くの会社では以下のとおり副業・兼業を認めていないという実態があります。
ただ、大前提として知っておくべきことは、副業・兼業に関する法的な規制はないということです。むしろ、裁判例では労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であり、各企業において副業・兼業を制限できるのは、
- 労務提供上の支障となる場合
- 企業秘密が漏洩する場合
- 企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
- 競業により企業の利益を害する場合
と限定されています。つまり、多くの会社が副業・兼業を禁止していた根拠は、法的な規制とは無関係であり、会社が働くルールとして独自に定めている就業規則によるものです。そのため、もし副業・兼業を今後希望するのであれば、会社の就業規則をまず確認することが重要です。
副業・兼業のメリットと気をつけておきたいこと
なぜこれほど副業・兼業が話題になっているのか、そこには労働者側、会社側の双方にメリットがあるわけですが、メリットだけではなく留意事項も押さえておく必要があります。
副業・兼業のメリットとは
- 離職せずに別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、労働者が主体的にキャリアを形成できる。
- 本業の所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦できる。
- 所得が増加する。
- 本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる。
副業・兼業による留意事項
- 就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康の管理が必要となる。
- 職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務に違反しないように注意する必要がある。
- 1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険等の適用がない可能性がある。
特に競業避止義務や職務専念義務には要注意です。「本業と無関係の趣味が高じた副業・兼業により収入を得ることができる」というのは稀なケースで、むしろこれまでの自身のキャリアや経験を活かす形の副業・兼業の方が多いのではないでしょうか。
例えば本業でWebデザインを行なっており、その経験を活かして個人でWebデザインの受注を行えば、本業の会社から見れば競業しているとみなす可能性もあるのです。
また、副業・兼業に熱中するあまり本業がおろそかになってしまうのも本末転倒であり、会社としても、「本業に支障があるような副業・兼業は認めたくない」という気持ちになるのは当然です。
実際に副業・兼業を行う前に!確認事項と注意点
副業・兼業のメリット・留意事項を確認した上で、実際に副業・兼業を行おうとする前に改めて以下の流れ・注意点を解説します。
- 会社の就業規則を確認する
- 労災保険・雇用保険・社会保険の現行制度を理解する
会社の就業規則を確認する
副業・兼業が許可制なのか、届出制なのか、それとも禁止されているのかは就業規則を確認することでわかります。
細かな点ですが、許可制と届出制は異なります。許可とは、「本来禁止されている行為を特別に許してもらう」ということです。それに対して届出というのは、「記入項目など要件を満たしていれば特別な判断がなく受理される」ということです。
副業・兼業を容認する会社が増えてきたといっても、多くの会社ではまだまだ上述の通り、競業避止義務や職務専念義務に違反しないだろうかという懸念を持っています。そのため、副業・兼業容認の流れができているといっても、条件を付した許可制としている会社がまだまだ多いようです。
もし副業・兼業が禁止されているにも関わらず、黙って行えば懲戒処分を受ける可能性もゼロではありません。副業・兼業を行う前には、必ず就業規則を確認し、必要な手続きを満たしてから開始しましょう。
労災保険・雇用保険・社会保険の現行制度を理解する
副業・兼業を行う際に、自営業でなく、雇用される場合は副業・兼業先の労災保険・雇用保険・社会保険の適用や加入条件などの現行制度を理解しておかないと、思わぬ損失を被る可能性があります。
労災保険制度の留意点
労災保険制度は業務上の事故により休業した場合等に補償されるものですが、その給付額は 事故が発生した就業先の賃金分のみが算定基礎となります。
例えば、以下のような条件で勤務し、B社の業務で事故があった場合の休業補償は、B社の賃金である月額5万円が算定基礎となり、その給付額はあくまで一例ですが80%の月額4万円となります。事故によりA社で勤務できなかったとしても、合計の月額20万円が算定基礎とはならない点に注意してください。
- 本業のA社の賃金:月額15万円
- 副業・兼業先のB社の賃金:月額5万円
雇用保険制度の留意点
雇用保険の適用要件は、事業所ごとに判断されます。そのため、同一の事業主の下で、以下に該当する場合は雇用保険の被保険者にはなりません。
- 1週間の所定労働時間が20時間未満である者
- 継続して31日以上雇用されることが見込まれない者
例えば、以下のような勤務状況の場合、A社、B社のいずれの雇用保険も適用されません。合算して合計20時間とはならない点に注意してください。
- 本業のA社の勤務時間:週15時間
- 副業・兼業先のB社の勤務時間:週5時間
なお、以下の勤務状況では、A社、B社の雇用保険の被保険者要件を満たしますが、その場合はA社、B社の雇用保険の被保険者となるのではなく、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となる、すなわちA社、B社の賃金額によってどちらか決定されることになります。
- 本業のA社の勤務時間:週20時間
- 副業・兼業先のB社の勤務時間:週20時間
社会保険制度の留意点
社会保険(厚生年金保険及ひ?健康保険)の適用要件も、雇用保険と同様に事業所ごとに判断されます。
なお、短時間労働者の場合の社会保険の適用要件は以下のとおりです。
- 大企業(従業員501人以上)では、週所定労働時間20時間以上、所定内賃金月額8.8万円以上
- 中小企業の場合は、週所定労働時間30時間以上(ただし、中小企業でも、短時間労働者の適用について労使合意があれば、大企業と同様の取扱い)
また雇用保険と異なる点として、同時に複数の事業所で就労し、それぞれの事業所で社会保険の被保険者要件を満たす場合は、以下のようになります。
- 保険者は、いずれかの事業所の管轄の年金事務所及び医療保険者を選択
- 選択された年金事務所及び医療保険者は、各事業所の報酬月額を合算し、標準報酬月額を算定した上で保険料を決定
- 各事業主は、被保険者に支払う報酬の額により按分した保険料を、選択した年金事務所に納付(健康保険の場合は、選択した医療保険者等に納付)
参考:副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
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