推しや好きな人のことに執着してしまって他のことが手につかない、過去に成功したコトを忘れられずに次のステップに進めない…。そんなふうに何かに執着してしまうことはありませんか?
執着心はなぜ生まれるのか、その原因と手放す方法(ステップ)を心理カウンセラー(公認心理師)の小高千枝さんが解説します。

執着とは人・モノ・コトにとらわれて離れられない心の状態
執着とは、ひと言で言うと、人やモノ、コトに心がとらわれて離れない、離れられなくなっているって心の状態です。人間の心の欲求や願望に深く結びついているもので、一般的には、ネガティブな状態として捉えられています。
例えば、以下のように人に対する羨望が度を越し、嫉妬や妬みの感情を持ってしまうなど、人にはさまざまなこだわりがあります。
- 終わったはずの恋愛なのに相手の行動が気になって仕事が手につかない
- 営業数字でトップを納めることにこだわりすぎて健康を害してしまう
- 地位や財産を持っている人に対する羨望が度を越し、嫉妬や妬みの感情を持ってしまう
恋愛も仕事も、夢中になるものや熱中することがあるのは、本来はステキなことですが、心がとらわれすぎることで、生活の中で苦しみや悩みを生み出すきっかけになってしまうのが執着なのです。
なぜ執着してしまうのか
人への執着や、モノに固執したり自分の行動に強くこだわったり、対象はさまざまですが、いくつかの理由が考えられます。
強迫観念
理由の一つが、自分が今これをしなければだめになってしまうのではないかという強迫観念です。例えば、出かけるとき、この順番で仕度をしないと悪いことがあるのではないかと不安で、うっかり順番を間違えるとやり直したくなるなど、強い不安や恐怖感などがあることで、やり過ぎと思える行動であっても止めることができなくなっているのです。
承認欲求
人から認められたいと願い、人から認められることが自分の存在意義のように思ってしまうことによる執着もあります。例えば、推しのアーティストを応援するためにライブ配信やSNSで送金する「投げ銭」。より多くの投げ銭をすることで、自分が誰よりも推していることを認められたいという歪んだ方向に転じてしまうこともあります。
失敗回避欲求
完璧主義であるあるがゆえに、失敗したら自分のことを認めてくれる人がいなくなるなどの思い込みをもち、とにかく失敗を避けたいと思うことも理由の一つ。失敗したくないために、過去の栄光や昔の成功体験に心の中ですがってしまい、前進することや次のステップに踏み出すことを阻んでしまうのです。
拒絶への不安
他者評価へのこだわりが強く、人からどう思われるかを気にしすぎてしまう人もいます。他者から拒絶されることへの恐怖から、これまでと違う髪型にしたら否定されるのではないか、自分がやりたいようにやったら嫌われるのではないかと思うあまり、今に執着し、自分の行動を制限してしまいます。
自己肯定感の低さ
今の自分に自信がなく、自分なりの評価基準をもてないから、外にある幸せや人の持ち物、やっていることを理想化して、こだわったり依存したりしてしまうケースもあります。依存し執着することで自尊心が維持できると思い込んでしまい、自分の存在意義を他者に求めて、自分を幸せにしてくれる人や物と思い込み、失わないようにしがみついてしまうのです。
SNSによって混同しやすくなった理想と現実世界
このように、さまざまな理由がありますが、SNSでは理想化された関係性や幸せが投稿され、それを自分の現実や関係性に押しつけてしまうことがあります。
例えば、パートナーといい関係を築けているのに、SNS上にアップされるカップルのキラキラしている姿を見て、自分のパートナーに同じように求めてしまう。同じモノをコレクションしている人のアップする画像を見て、同じくらい所有しないと自分の価値や存在意義が劣ってしまうように思いこんでしまうのです。
すると本当の幸福感や充足感を見失い、執着から抜け出せない状態に陥ってしまいます。
そうした思い込みや執着から解放されるための方法を考えてみましょう。
執着を手放す方法
では、執着を手放すための方法をステップ方式でご紹介します。
Step1.物理的・心理的に距離を置く
執着の対象は、人・モノ・コトがありますが、その対象からまず物理的に距離を置くことが重要。特に難しいのが、対象が人である場合です。モノやコトには感情がありませんが、対人間の場合、相手の感情まではコントロールできないからです。
例えば、恋愛でも夫婦関係でも、うまくいっているときはお互いが歩み寄り合えていたのに、仕事の忙しさや健康状態など何か歯車が狂ったときに、そういう時期もあると受け止めることができればいいのですが、距離を取ることができずに今すぐ過去の良かった関係に戻ることに執着してしまうことがあります。
するとどんどん過去を理想化して、当時の姿に戻れるよう相手をコントロールしたいと思う、一方、相手にしてみれば今の自分を見てほしいと思い、ハレーション(周囲への悪い影響)などが起きてしまいます。
負のスパイラルに陥らないためにも、まず物理的に離れて、執着している自分と対象を客観視する意識をもってみましょう。
Step 2.抑圧した感情と向き合う時間をつくる
失敗を恐れてついつい過去を見ていたり、どう思われるかが気になって知らず知らずのうちに自分の行動にブレーキをかけていたり、執着が強い人はマイナス感情にさいなまれて、自分を抑圧してしまいがちです。
抑圧している感情と向き合い、内省する時間を設けましょう。お勧めしたいのは、自分の心の状態を、なにがきっかけで、どう思って、何をしたのかなど紙に書いて、可視化・言語化してみることです。書いて振り返ってみると、自分を俯瞰することができ、SNSの情報がきっかけになっていたとか、上司の注意は私一人に向けられたものじゃなかったといったことに気づけます。
「1」の物理的に離れて客観視すること、「2」の自分の感情と向き合うことをで、執着でざわついてしまう心のベースを整えましょう。すると、執着の理由が見えてきたり、こだわっていると思い込んでいただけの自分に気づいたりします。自分なりの軸や価値観が見えてくるのです。
Step 3.執着による時間や感情の浪費を意識する
ここまでできたら、執着することによって自分は何を得ていたのかなと考えてみましょう。もちろん得たものもあるでしょう、一方で、こだわり続けたことで費やしてきた時間やお金、そしてネガティブな思いにとらわれることで気持ちまで浪費していたことにも気づくはずです。
無駄にしてきたエネルギーを認識し、そのエネルギーをより建設的かつ、心が豊かになる方向に向けられるように意識しましょう。
Step 4.リスク分散をする
一つのことに執着をしていると、それがなくなったら生きていけないような精神状態になってしまう人もいます。特定の対象への過度な依存を避けリスクを分散するためにも、まず質の高い人間関係を築きましょう。人・モノ・コトのうち、自分ではコントロールできない対人こそ、複数方面に安心して喜びや楽しみを共有できる友人やパートナーがいることが大きな助けになります。
Step 5.一人の時間をつくってみる
自分にはいつもこの人がいないとだめ、何もできないという思い込みの重しを外しましょう。今まではいつも誰かと一緒だったところにも一人で行ってみる、散歩をする。まずは自宅で何かを楽しむなど、“一人の時間をゆっくり過ごせる自分”を育てましょう。自分の軸が定まって、一つの人・モノ・コトへの固執を手放しやすくなります。
「執着」は前向きにとらえることもできる
ここまで執着のマイナス面を見てお話してきましたが、執着がすべて悪いわけではありません。
例えば、職人や専門性のある人は、ある部分への強いこだわりや執着が、技術を高め成長させてくれるものになっているはず。こだわりをもつことで、自己成長のきっかけや朝鮮への原動力、生きがいや目標になることもあります。
ただし、執着の中に自分のネガティブな感情が生まれていると感じたら、原点に立ち返ることが大切。Step1~3を行ってみてください。
メンタルヘルスケア&マネジメントサロン代表
公認心理師 小高千枝氏
ストレス社会で生きる現代人の「心の免疫力」を高めるセッションを提供。個人カウンセリングや企業におけるメンタルトレーニングなどを行うほか、企業顧問として人事支援・育成アドバイザーとしても携わる。メディアでも活躍。著書に『心理カウンセラーがこっそり教える やってはいけない実は不快なしぐさ』(PHP研究所)、『本当の自分を見失いかけている人に知ってほしいインポスター症候群』(法研)など。