「自分は社内ニートに陥っているのではないか」「社内失業しているかも」と不安を抱いている若手ビジネスパーソンは少なくないようです。社内ニートが生まれてしまう原因や社内失業に陥る理由や背景、もし自分が社内ニート・社内失業のような状態になった場合にどのように抜け出せばいいのかなどについて、株式会社人材研究所代表で組織人事コンサルタントの曽和利光さんに聞きました。
目次
社内ニート・社内失業とは?
「社内ニート」「社内失業」とは一般的に、会社に所属しているのに担当する業務が少なく、まるでニートや失業者のような状態にある人のことを指す言葉です。
社内ニート・社内失業化する人の特徴は?
そもそも「ニート」とは「not in education, employment or training」の頭文字を取った言葉で、学びもせず、働きもせず、職業訓練や就職活動もしていない「働く意思のない若者」のことを指します。
そのため、社員として雇われているビジネスパーソンを「社内ニート」と呼ぶのは少しおかしい気もしますが、「社内にいるのに仕事もなく、暇そうなニートっぽい人」という意味で使われているようです。同じような意味の「社内失業」という言葉も目にします。
実際、若手ビジネスパーソンの中には、「重要な仕事を任せてもらえず、雑務ばかり担当させられる」「業務量が少なく暇で退屈」などの理由で、「もしかしたら自分は社内ニート・社内失業中なのではないか?」と不安を覚えている人もいるようです。
新卒1年目で「社内ニート」?
企業側に新卒社員の教育体制が整っておらず、仕事をしたくても何をしたらいいのかわからず、ニート状況に陥っている新入社員もいます。また、転職で入社したものの、周りの社員が多忙すぎて、フォロー体制が不十分だったり、業務のマニュアルがなかったりなど、何の仕事もできず社内失業状態になってしまうことが考えられます。
社内ニート・社内失業に陥る理由とは?
労働力人口の減少を受け、どの企業でも人手不足が深刻化しています。そんな状況下で、「自分だけ仕事を任せてもらえない」「仕事量を意図的に減らされている」というケースはまず考えにくいでしょう。
それでも現実として「社内ニート・社内失業のような状態の人」が生まれているのは、大きく3つの理由が考えられます。
入社したばかりでインフォーマルネットワークが作れていない
新入社員や異動・転職してきたばかりの人が「社内ニート化している」「社内失業に陥っている」と感じるのであれば、多くの場合、「職場でまだインフォーマルネットワークが作れていない」ことに原因があります。
インフォーマルネットワークとは、組織のフォーマル(公式)なマネジメントラインではない人間関係のこと。つまり、インフォーマルネットワークを作るということは、簡単に言えば「職場の人と仲良くなること」を指します。
業務経験を積み、職場のメンバーと気心が知れてくると、インフォーマルネットワークは自然に構築され、互いの人となりがわかるものです。しかし、入社したばかり、異動したばかりの段階では、「この人はどういうタイプの人なのか。何が得意(Can)で、今後何をやっていきたいと思っているのか(Will)」などが周囲に理解されていません。
そのため、例えば新たな業務が発生したとき、インフォーマルネットワークがあれば「彼は○○ができて、△△がやりたいと言っていたから任せてみよう」と想起してもらえますが、まだCanとWillが理解されていないために想起されず、結果的に仕事を任されない状態が続いてしまうケースがあるようです。
仕事を自ら取りに行っていない
社内ニート・社内失業に陥る理由は、働く個人側にもあります。「自分には責任ある業務が(もしくは十分な業務量が)割り振られない」と上司のせいにしているだけでは、現状を変えることはできません。自分にはまだ余裕がある、もっと仕事を引き受けられるという事実をアピールし、「自ら仕事を取りに行く」姿勢も必要です。
業務の効率化が重視される中、仕事における非同期型コミュニケーションは今後も増える傾向にあります。上司の目が行き届きにくい環境下にもかかわらず「与えられる仕事を待つだけ」の人が、社内ニート化しているという現状があるようです。
非同期型コミュニケーションが増え、上司の目が行き届かなくなっている
近年、働き方改革などを受け、リモートワークやフレックスタイム、時短勤務などビジネスパーソンの働き方が多様化しており、「一緒に働く仲間が同じ時間・同じ空間にいない」というケースが増えています。
それに伴い、対面による同期型コミュニケーションではなく、メールやチャットなどの「非同期型コミュニケーション」が増えていることもあり、上司の目がメンバー一人ひとりにまで行き届きにくくなっています。
オフィスで机を並べて働いていれば、「忙しそうだな」「手が空いていそうだな」など何となく状況を察することができ、懸念があればすぐ声を掛けることもできますが、それが叶わない状況下にあります。
そして上司自身も、人手不足を受け「プレーイングマネジャー」として自らも現場の最前線で働いているケースが多く、忙しさから一人ひとりの業務量や業務内容まで把握し切れていないのが現状です。
本来はメンバー一人ひとりのスキルレベルやキャパ、志向などをもとに仕事を割り振り、業務の平準化を図るべきなのですが、上記の理由などから「ぱっと目についた人に目の前の業務を割り振ってしまう」ことが増えているのです。
よく「仕事ができる人には、新しい仕事がどんどん回ってくる」と言いますが、マネージャー自身が業務に追われていると、余計にその傾向が強くなります。
手が空いている人を探すよりも、仕事ができる人に任せてしまったほうが早いと考え、割り振ってしまうケースは珍しくありません。そのため、意図せず「仕事が振られていない」状態の人が生まれてしまっていると推測されます。
社内ニート・社内失業の状態でい続けるリスク・デメリット
中には「仕事が少ないのにお給料をもらえるのだから、社内ニート・社内失業の状態は楽でいい」と思う人もいるようですが、社内ニート・社内失業の状態でい続けるのはキャリアにとってデメリットでしかないと私は思います。その理由をご説明しましょう。
能力開発が進まず成長が遅くなる
株式会社リクルートの就職みらい研究所が発表した「就職プロセス調査」(2023年卒3月卒業時点)によると、「就職先を確定する際に決め手となったこと」のトップは「自らの成長が期待できる」(50.4%・複数回答)でした(※)。
つまり、今の若手の多くは、仕事を通じて成長しなりたい自分に近づくことを重視しているということ。今は「楽でいいや」と思えても、成長を目指してバリバリ仕事をしている仲間を見て、いずれ焦燥感に駆られるときが来るでしょう。それでも何も手を打たなかったら、30代、40代になったときに、大きな差が開いてしまうはずです。
※出典:「就職プロセス調査(2023年卒3月卒業時点)」就職みらい研究所
職場で孤独感が増す
仕事は一人でできるものではないので、仕事をするだけで社内のさまざまな人との交流が自然に生まれます。
入社したばかりの頃は、職場はまだ「見知らぬ場所」でありアウェイ感がありますが、仕事を通じて周囲とコミュニケーションを取ることで、徐々に気心が知れ、職場が「自分のホーム」になっていきます。
そして経験を積めば積むほど、周りとの関係性が深まって心理的安全性も高まり、腹を割って侃々諤々の議論ができたり、雑談を言いながら笑い合ったりできるようにもなります。つまりは、社内ニートのまま仕事が少ない状態が続いてしまうと、誰とも交流が深まらず、職場で孤立する恐れがあります。
仕事のモチベーションを保つ上で、「何をやるか」よりも「誰とどんな環境で働くか」を重視する傾向もあります。例えストレスフルな仕事であっても、信頼できるメンバーと共に働くことで乗り切れるという人も少なくないでしょう。
今は「仕事が少なくていい」と思っていても、いずれは周囲となかなか交流が生まれず、職場で孤独になる…このような現状に耐えられなくなる人は多いと思われます。
社内ニート・社内失業の状態から抜け出す方法
「自分は社内ニート状態にある」と実感していて、現状を変えたいと思うならば、次のような方法を試してみるといいでしょう。
「手が空いています」と申告する。報連相を増やす
自分から仕事を取りに行くのが、最も手っ取り早い方法です。忙しそうな先輩に「いま手が空いているので手伝いましょうか?」と声を掛ければ、何かしら振ってくれると思います。いいサポートができれば、「次はこれも手伝ってほしい」とさらに声を掛けてくれるようになるでしょう。そのうち、より面白く、やりがいのある仕事も回ってくるようになるかもしれません。
上司に自分から積極的に報連相し、自身の業務量を伝えるのも有効です。前述のように、上司も忙しくなかなか目が行き届かないケースが多い今、部下から申告してくれるのはありがたいことです。
「いまキャパの7割ぐらいの業務量なので、もう少し何か任せてもらえないでしょうか?」「○○の業務をやってみたいと思っているので、お手伝いさせてもらえませんか?」などと自身のCan(できること)Will(やりたいこと)を伝えれば、それに応じて仕事を割り振ってくれるでしょう。
積極的に自己開示してインフォーマルネットワークを作る
まだ配属されたばかりで、インフォーマルネットワークがない状態であれば、自ら作りに行きましょう。それが現状を打破するきっかけになります。
まずはミーティングの場やちょっとした空き時間などにどんどん自己開示して、自分の人となりを周囲に伝えるといいでしょう。自身のCan(できること)Will(やりたいこと)だけでなく、プライベートも含めて自己開示すれば、少しずつ距離が縮まり交流が生まれるでしょう。
インフォーマルネットワークができてくれば、Can(できること)Will(やりたいこと)に応じた仕事が徐々に増えてくると思います。そして「この人は私がやりたい仕事をたくさん抱えていそうだ」という勘が働いたり、誰が重要な仕事を差配しているのかキーパーソンがわかるようになったりもします。
もちろん、職場で信頼できる仲間が増え、仕事へのモチベーションが高まることも期待されます。
「アサーション」を意識する
心理学用語に「アサーション」あるいは「アサーティブネス」という言葉があります。相手に配慮しながら言葉遣いなどを工夫することで、結果的に自分の主張を実現するという能力のことを指します。
社内ニート・社内失業の状態から脱するためには、「仕事が少ない」「重要な仕事を任されない」という事実を上司や先輩などに報連相し、共有することが重要ですが、その際「何で私だけ仕事が少ないんですか!?」と感情をぶつけてしまうと、「やっかいなタイプかもしれないな」「重要な仕事は任せにくいな」などとネガティブな印象を持たれてしまう恐れがあります。
一方、アサーションを意識して「いま余裕があるので、何かできることはありませんか?」という問いかけをすると、カドを立てることなく「仕事が少ないとは気づかなかった。この人が力を発揮できるような仕事をお願いしてみよう」とすんなり思ってもらえるでしょう。
相手の気持ちに立ち、どう伝えればカドが立たずに受け入れてもらえるのか考える習慣をつけるだけで、アサーションスキルは磨かれます。ぜひ今日から意識して取り入れてみましょう。
社内ニート・社内失業の状態が変わらないなら、異動や転職の検討を
これらの努力や働き掛けをしても、状況が一向に変わらないようであれば、上司や会社そのものの態勢に問題があるかもしれません。もしくは、周りのスキルレベルが非常に高く、自分のレベルに見合っていないから仕事が振られないというケースもあり得ます。
この場合は、異動もしくは転職を検討したほうがいいかもしれません。特に自分の「Can=できること」に見合っていないのであれば、自分の強みや持ち味が活かせる環境に移ったほうが力を発揮できる仕事が増え、成長速度も上げられるでしょう。
つまらない雑務でも積極的に臨むことで状況は変わる
成長志向が高い若手ビジネスパーソンの中には、雑務を嫌がる人が少なくありません。「こんなつまらない仕事をするためにこの会社に入ったわけではない」と雑務を避けた結果、仕事量が減り、社内ニート・社内失業に陥る人もいるようです。
少し前に、米国の人類学者デヴィッド・グレーバー教授の著書『ブルシット・ジョブークソどうでもいい仕事の理論』がヒットしたことで、そういう考えを持つ人が増えたように感じますが、例え「どうでもいい仕事」であっても、特に能力開発期にある若手のうちは前向きに取り組んだほうがいいと思います。現在仕事がなく、焦りを覚えているならばなおさら、積極的に雑務に臨みましょう。
仕事ができる人は、「どんな仕事でも楽しめる意味づけ力が高い」という特徴があります。雑務であっても自分なりに意味を見つけ、モチベーション高く臨めるよう工夫しています。つまり、雑務に積極的に取り組んで意味づけ力のトレーニングをすれば、仕事はどんどん楽しくなり、成果も付いてくるようになるのです。
その過程で、雑務をより早く効率的にこなせるポイントがつかめたのであれば、それを周囲に共有することで組織全体の業務効率化につながります。
「やっぱり無駄でどうでもいい仕事だ」とわかったのであれば、どうすればこの仕事をなくせるのか上司に業務改善提案をすれば、高く評価されるようになるでしょう。その結果、より責任ある仕事、よりやりがいがある仕事が回ってくる可能性があります。
このように、仕事を任せてもらえない、やりがいのある仕事がないと不満を抱いている人こそ、どんな雑務も前向きに臨み続けることで、必ずや状況が変わってくるでしょう。
株式会社人材研究所・代表取締役社長 曽和利光氏
1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)など著書多数。新刊『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』(WAVE出版⇒)、『シン報連相~一流企業で学んだ、地味だけど世界一簡単な「人を動かす力」』(クロスメディア・パブリッシング⇒)も話題に。