産業医が教える「休むべきサイン」とは?大丈夫だと思っている人ほど要注意!

ストレスフルな仕事環境の中、自分では「大丈夫!」と思っていても実は「休むべきサイン」が出ている人は少なくありません。そのサインに気づかず放置してしまうと、心身の不調が悪化してしまう恐れがあります。

そこで、これまでに1万人超のメンタルを救ったという「金髪アフロと赤メガネ」がトレードマークの精神科医&メンタル産業医・井上智介先生に、見過ごしてはいけない「休むべきサイン」について教えていただきました。「自分は少しぐらい忙しくても元気!大丈夫!」と思っている人ほど、要チェックです。

「休むべきサイン」イメージカット
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「休むべきサイン」に気づかない人が増えている

昨今、誰もが気付かないうちに心身の不調を溜め込みやすい状況にあります。
働き方改革により残業が規制されるようになった一方で、人手不足の深刻化により1人当たりの業務負荷は増えています。決まった時間内に多くの業務をこなさなければならないストレスは大きく、知らず知らずのうちに自分を追い込んでいる人は少なくありません。

人手不足を背景にプレーイングマネージャーが増えているのも一つの要因です。マネージャーが売り上げも追わねばならなくなり、部下への気配りや仕事量などの配慮ができなくなっているケースが見受けられます。そして部下側も、上司に相談したいことがあっても声をかけづらく、悩みや不安を一人で抱え込んでしまう状況に陥っています。

また、リモートワークの場合、仕事とプライベートの区切りがつかなくなり、就業時間に関係なく仕事をし続けてしまうなど、無意識のうちに無理をしてしまう人もいます。リモートであるが故に、上司を始め周囲がそれに気付けず、人知れず心身の不調を抱えてしまうケースもあります。

こういった人々には、何らかの「休むべきサイン」が出ています。心身の不調が悪化するまえに、自分自身が発しているサインを見過ごさず、早めに対処することが重要です。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

産業医の目から見た「休むべきサイン」とは?

「自分はまだまだ大丈夫!」と思っていても、何らかの「休むべきサイン」が出ている人は非常に多いです。特に若手ビジネスパーソンの場合、自身の体力を過信して無理を重ねる人がいますが、次のようなサインが出ていたらすぐに自分のケアに時間を割いてほしいですね。

休むべきサイン1:「文章が読みづらくなる、書きづらくなる」

心身の疲労が蓄積しはじめてきた初期の段階に、起こりがちなサインです。まずは文章を読んでいてもなかなか頭に入ってこず、理解するのに時間がかかるようになります。自分で書類や資料、メール文面を作成する際にも、どのように文章を組み立てればいいのかわからなくなり、これまで以上に時間がかかってしまうケースもあります。いずれもストレスにより頭が疲弊し、情報処理が追いついていない状態です。

休むべきサイン2:「優先順位がつけにくくなる」

心身ともに元気なときは、業務の全体像をつかんだ上で優先順位を決めて効率よく取り組むことができますが、不調になるととたんに判断力が鈍り、優先順位がつけにくくなります。一つの業務が終わった後、次に何をすればいいのかすぐに判断できず、仕事に少しずつ遅れが生じ、結果的に大量の業務を抱え込んでしまう人は少なくありません。

休むべきサイン3:「約束や締め切りを忘れがちになる」

心身の疲労が蓄積すると、徐々に記憶力が鈍ってきます。その結果、悪気なく書類の提出期限を忘れたり、ミーティングをすっぽかしたりしてしまう人が見受けられます。疲労がさらに進行すると、取引先とのアポイントなど、重要な約束や締め切りを忘れてしまうケースもあり、仕事上の信頼関係に影響する恐れもあります。

休むべきサイン4:「寝つきが悪くなる」

疲労やストレスが溜まると多くの場合、睡眠障害が現れます。夜、疲れているのになかなか眠れないのは、かなり緊急性の高い休むべきサインです。十分に寝たはずなのに朝なかなか起きられない、よく寝たという感覚がなく朝から疲れているというケースもあります。

休むべきサイン5:「身の回りのことが億劫になる」

帰宅後、食事や入浴、歯磨きなどが億劫になるのも特徴的なサインです。疲れが溜まると、帰宅して一度ソファに座ったら、なかなか立ち上がれず風呂に入ったり着替えたりができない…という人は少なくありません。服装に気を使えなくなる人も多く、しわだらけのシャツを平気で着たり、毎日同じネクタイをつけたりする人もいます。最近、服装に無頓着になった、メイクや髪型、身だしなみを整えるのが億劫になったという人は要注意です。

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「休むべきサイン」に最も有効なのは、睡眠を増やすこと

前述のように、さまざまな「休むべきサイン」がありますが、どのサインであっても有効な対処法は「睡眠を取る」こと。これに尽きます。

身体も心も、同時に休ませることができるのは睡眠だけです。まだ心身の不調が深刻化していない段階であれば、睡眠が最も効果的、かつコスパがいい対応策です。まずは今より1時間、睡眠時間を増やすことを目標にしましょう。

就寝時間を決め、その時間に寝られるよう工夫する

これまで24時に寝ていた人であれば23時など、まずは就寝時間を明確に決めてしまいましょう。そのうえで、目標達成のために生活全体を振り返ってみると、たとえばSNSをダラダラ見ている時間など「短縮可能な時間」が見えてきます。それを細かく削って、就寝時間を前倒ししましょう。

心身ともに疲れていると、家に帰った途端に電池が切れてソファに寝転がり、何もせずダラダラしてしまうことが多いと思います。そしてそのままテレビや動画などを見はじめてしまうと、どんどん就寝時間は遅くなります。「○時に寝る」とあらかじめ明確に決めることで、ダラダラ防止にもつながります。

そして時間を決めたら、できるだけそれを守るよう心掛けてください。「夕ご飯を作るのに時間がかかったから」「帰宅が遅れお風呂に入るのが遅くなったから」などと自分に言い訳をして就寝時間をずらさないこと。寝る時間を確保するためには、料理を一から作るのではなく出来合いのお惣菜に頼ることも大切です。お風呂も、時間がない中で無理して入るのではなく、場合によっては翌朝に回したりして、「まずは寝る!」と腹を決めてください。

寝る前に頭を冷やしてクールダウンする

人間の脳はPCと似ていて、シャットダウンしてもすぐには熱が引きません。寝る直前まで仕事をしている状況では、時間通りに布団に入っても頭が興奮状態でなかなか寝つけないし、熟睡も得られにくいでしょう。

そんな時は、物理的に頭を冷やしてしまいましょう。冷却シートをおでこに張ったり、保冷枕を使ったりするのは、頭のクールダウンに有効です。この「物理的に頭を冷やす」方法はいい睡眠につながるとのエビデンスもあるので、寝る直前まで頭がフル回転しているという人は、ぜひ試してみてください。

どうしても睡眠時間を増やせない日は、昼寝を活用する

繁忙期などでどうしても忙しく、早く寝られない場合は、昼休みなどに仮眠を取りましょう。昼食後に机に突っ伏して、15~20分ほど仮眠を取ることをお勧めします。短時間でも頭がシャキっとして疲れが軽減できるのでお勧めです。

「若いから寝なくてもいい」は大間違い

若い人ほど「まだ20代だから寝なくたって大丈夫!」などという謎の自信のもと、夜中まで働き続けたりしますが、全くの逆です。

赤ちゃん~子どものころは身体を作るため、若いときは日中の活動量が多いため、睡眠時間をより多く取る必要があります。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023(※)」によると、年齢別の必要な睡眠時間は15歳前後で約8時間、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳では約6時間とされています。

根拠のない自信で睡眠を削っていては、早晩心身に深刻なダメージを及ぼします。若い人ほど睡眠時間を大切にしてください。

(※)…出典:厚生労働省ホームページ

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「休むべきサイン」を放置してしまうとどうなる?

前述したような「休むべきサイン」を放置してしまうと、判断力が鈍りミスが増え、仕事での信頼が低下してしまう恐れがあります。
このような状況に陥ると、多くの人は「何とかしなければ!」と焦ってより一生懸命働こうとしますが、サインを受け入れいったん休む選択をしないと、ますますミスを増やすだけ。信頼を損ねてしまった挫折感や周囲への罪悪感がさらに強まり、それが孤独感にもつながって、休職を余儀なくされてしまう可能性もあります。

自分の心と身体が発しているサインに気づいたら、できるだけ早く睡眠を取って心身を休めてください。なお、趣味でリフレッシュしたり、飲みに行ってストレス発散したりするのもいいですが、あくまで睡眠が第一です。睡眠という土台がないと何をしたところで心身の疲労は改善しないので、睡眠以外のことでカバーしようと思わないことです。

なお、忙しさにかまけてうっかり休むべきサインを見逃してしまい、気づいたらかなり深刻な状態だった…というケースもあります。「布団に入ったものの1時間以上寝つけない」「夜中に頻繁に目が覚める」という状態が2週間以上続く場合は、産業医など医療者に相談してほしいですね。心身に大きな負担がかかって悲鳴を上げている状況なので、産業医もしくは医療機関を頼ったほうが圧倒的に回復も早いはず。できるだけ早く相談することをお勧めします。

メンタル産業医・精神科医 井上 智介さんメンタル産業医・精神科医 井上 智介さん

兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話を重視した精神的なケアを行う。さらに、すべての人に「大ざっぱ(rough)」に、「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから、SNSや講演会などで心をラクにするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信中。『職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)、『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)など著書多数。

EDIT&WRITING:伊藤理子
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