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Tech総研が見た100年に一度の経済危機<前編>リーマンショックから1年、エンジニアはどうなった? Tech総研が見た100年に一度の経済危機<前編>リーマンショックから1年、エンジニアはどうなった?
昨年の9月15日、米国リーマン・ブラザーズ社の倒産を機に始まった全世界的な経済危機から1年。この間の日本経済の壊滅的な状況は今さら説明するまでもなく、政権交代の原動力ともなった。この1年でエンジニアはどう変わったのか、そしてどう変わるのか。2回に分けて特集する。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/関本陽介) 作成日:09.09.14
Part1 各種データから探る 日本は1年でこう変わった
 7月に発表された完全失業率と有効求人倍率は過去最悪。雇用の悪化に歯止めがかからない一方で、多くの景気動向指標からは今春の「景気の底打ち」が読み取れる。既に新聞などで発表されているものだが、各種のデータから「この1年」を振り返ってみたい。
景気動向を示す主な指標一覧
景気動向指数(CI先行指数) 日銀短観
出典:内閣府(2005年=100) 出典:日本銀行
日経平均株価 現金給与総額(事業所規模5人以上)
出典:日本経済新聞社 出典:厚生労働省(2005年平均=100)
鉱工業生産指数(季節調整済) 失業率と有効求人倍率(季節調整済)
出典:経済産業省(2005年=100、2009年7月分は速報) 出典:失業率は総務省、有効求人倍率は厚生労働省
底打ちと回復が見込まれる日本経済の姿
 短期的な振れ幅を表すために、グラフは2008年1月からの数値を使った(日銀短観のみ2007年12月)。どの指標からもその内容が昨年9月、あるいは10月からドンと悪化しているのがわかる。線が急降下(急上昇)する様は見ていて気持ちが悪くなるほどだ。1年を通した詳細はPart2に譲るとして、いくつかのグラフからはもうひとつの共通点が見えてくる。昨今語られることが多くなってきた「景気の底打ち」だ。

 例えば、いちばん上にある景気動向指数と日銀短観。リーマンショック以前への回復は望むべくもないが、景気動向指数では今年2月から右肩上がりを続けており、日銀短観では3月を境に、大企業ほど業績を持ち直していることがわかる。下落率が大きかった製造業にも一服感が出てきたようだ。また、日経平均株価も3月から上昇を続け、小刻みな動きは当然あるものの最近では1万円台をキープしている。

 では、景気は回復しているのか。エコカー減税や新車購入時の補助金の後押しで、8月の登録車販売は13カ月ぶりに前年同月比で2.3%増。エコポイント効果で家電やAV機器の売れ行きもよく、4〜6月期の実質GDPは前期比0.9%(年率換算で3.7%)増で、実質成長率は5四半期ぶりに上を向いた。前期比0.8%増の個人消費の伸びに加えて、輸出も同6.3%増と7年ぶりの増加率を記録した。
雇用悪化は止まらず、実体経済への波及は不透明
 給与にも下げ止まりの兆しが見えてきた。現金給与総額の前年同月比グラフ(全産業)では、6月の下げ幅が-0.7と大きかったこともあるが、7月には-4.8に巻き戻した。昨年6月から14カ月下がり続けているものの光明だ。技術系業種では、前月から持ち直していた情報通信業が-5.6から-1.4へ、製造業も-13.8から-8.2へと急落を止めたように見える。

 しかし、安心は全くできない。モノづくり大国ニッポンの重要指標である鉱工業生産指数。グラフからは先の底打ち期と合わせたように今年1〜3月から在庫が減り始め、生産と出荷が増加中とわかる。各社が「派遣切り」までして生産を極度に縮小させ、過剰在庫をさばいてきた努力が報われてきたのだ。同時期にエコカー減税などの大型景気対策が実施されたこともあり、ようやく業績が上向いているというわけだ。そのため、実体経済への波及効果は始まったばかりで、それは雇用の様子から一目瞭然である。

 7月の完全失業率は過去最悪の5.7%、有効求人倍率は過去最低の0.42倍。しかも、完全失業率は政府の雇用調整助成金などが使われたうえの数値であり、また、「完全失業者」とは「仕事を探す活動をしている人」なので、就職活動をしていないと含まれない。逆に月末の1週間に1時間でも仕事をした人は「就業者」となるので、その期間にたまたま短期アルバイトをした人も該当してしまう。「企業内失業」も600万人いるともいわれる人材余剰感の中、個人ベースでの景気回復は実感できないのが現状だ。
Part2 Tech総研記事から読み解く、この1年のエンジニアの変化
 この1年の日本、そしてエンジニアの動向をTech総研の記事から振り返ってみたい。この大不況を受けた編集部の企画内容も大きく変わった。手前みそかもしれないが、月々の記事の内容が、現実の変化感を如実に伝えていると思う。
定点観測記事が明らかにするリーマンショックの前と後
2008年夏ボーナス額平均70.2万円!金融・鉄鋼が好調 08.08.01 前年比12%減!2009年夏のエンジニア平均額57万円 09.07.31
 Tech総研には定点観測的な連載記事がいくつかあるが、そこからリーマンショック以前と以後の変化を見てみたい。まず、エンジニアの夏のボーナスの差だ。昨年夏はリーマンショック前だが景気後退期にあり、それでも業績を伸ばす業種が見られた。しかし、今年は前年比で平均12%減、「ボーナスなし」の人が12%もいた。
 リクルート・エージェントによる技術系8職種の採用動向でも、1年の差が如実に表れた。7〜9月期を比較すると、昨年は採用天気マークで「晴れ」が多く「ピーカン」もあるのだが、今年は「曇りときどき雨」と「雨」のみだ。ちなみに、以前は「曇り」が最低でこの2つのマークはなく、急激な雇用の悪化により急きょ追加したものだ。
職種別 採用天気予報 [08年7〜9月期] 職種別 採用天気予報 [09年7〜9月期]
大不況の到来、企画の方向は転職成功術やリストラ対策に
悲惨な景気…今、知っておきたい転職必勝法 準備編 08.11.12 悲惨な景気…今、知っておきたい転職必勝法 行動編 :08.12.10
 Tech総研はニュースサイトではないので、記事をまとめてから公開されるまでに約1カ月のタイムラグがある(それでも長いが……)。多少遅ればせながら掲載したのは不況期時代の転職成功術だ。現場を知る各界の方々6人にインタビューし、準備編(11月)と行動編(12月)に分けて、そのメリットとデメリットを紹介した。
 年が明けると雇用情勢はさらに悪化を極め、まったなしの状況になってきた。倒産件数は急増、非正規労働者に加えて正社員のリストラも始まり、大企業では万単位の規模となった。そんな中で2月に「倒産対策マニュアル」、4月に「リストラ回避術」を記事にした。
まさかうちの会社が…倒産完全対策マニュアル 09.02.12 リストラ対象エンジニア 明日からできる10の回避策 09.04.01
転職成功実例を緊急連載、アナリストへの取材も敢行
転職体験談 エンジニア川柳大賞!聞け、現場の心の叫び! 09.05.29
 7月から始めた緊急連載が、この不況下に転職したエンジニアの成功事例だ。初回は42歳でリストラにあった医療系SE、2回目は同僚が次々リストラされる中で会社を飛び出した35歳の組み込み系SEで、その後も「自分の得意技」を武器に転職を成功させたエンジニアが続く。一方で、現場のエンジニア300人の悲痛な声を、「川柳」にして送ってもらった。読者がつらい日常を一瞬でも忘れられたらと思いつつ。
 また、著名な政治学者や経済学者に取材し、日本経済の今後を語ってもらうと同時に、エンジニアへのアドバイスをいただいた。これまで紹介した記事は全体の一例で、これら以外にも「不況対策記事」は数多くあり、そのいくつかは10月28日(水)公開の「後編」でお伝えします。
姜尚中 まじめな技術者たち、自分を投げ出せ 09.02.24 森永卓郎 エンジニアはずる賢く、そしてかわいく 09.06.10
Part3 金融危機を予測した竹森俊平氏が語る この1年の日本
 リーマンショックから1年のことを、気鋭の論客として知られる慶應大学の竹森俊平氏に総括してもらった。サブプライムローン問題に始まる金融危機を予見していた竹森氏は、今年末から来年初めの間に、経済危機が再び起こる可能性を示唆する。
日本の景気対策で生かせなかった「失われた10年」

 世界的なパニックが起こったという意味では、米国政府がリーマン・ブラザーズを破たんさせたのはまずかったと思う。保護されると思われていた同社が倒れたことで、プライベートな貸し借りが凍結した。相手がどうなるかわからないから、貸すのも借りるのも心配になり、「一寸先は闇」の連鎖が世界的な規模に拡大してしまった。
 もうひとつのミスは、こうした事態を想定した法的処置をまとめておかなかったこと。昨年10月に当時のポールソン財務長官がTARP(不良資産救済プログラム)をつくり、総額7000億ドルの公的資金を金融機関に注入できるようにした。つまり、それまでは連銀頼みで、財務長官の権限で注入できる資金枠が決まっていなかった。これらは米国政府のミスだろうが、それを除けば景気回復策での米国の行動は早かった。

 逆に日本は、定額給付金のような短期的な施策が多かった一方、抜本的な景気対策は即効性を欠いた。計画が先にあって予算をつけるという手順ではなく、予算を決めて何に使うのかの審議を始めたために、決定までの時間がかかってしまったからだ。ただ、いち早くスタートした米国や中国の景気対策が年末年始にひと段落し、その時期から日本の効果が出るようであれば、偶然にもよいタイミングで始まるのかもしれない。

 残念なことは、バブル崩壊後の「失われた10年」の教訓を生かせていないことだ。政権交代がなかったからだと思う。どこが間違っていたか、どのような対処がベストだったかなどの素直な反省ができなかったのは、それが責任者探しにつながるからだろう。政権政党が変わればそのチェックができていたはずだ。
 もし民主党が政権を取れば(取材は衆議院選挙前)、政策にせよ官僚との関係にせよ、前政権の諸問題をなるべく早く調べて公開するべきだ。遅れれば遅れるほど前政権ではなく自分たちの責任となってしまう一方で、公開後に是正もできるのであればより大きな信頼を得るチャンスとなる。日本経済の立て直しにも関係するスピード感だ。

竹森俊平氏
慶應義塾大学経済学部教授
竹森俊平氏
慶應義塾大学大学院経済学研究科修了。米ロチェスター大学で経済学博士号を取得。『経済危機は9つの顔を持つ』(日経BP社)など著書多数。
今年末から来年初めの株価下落で再び経済危機も

 ただ、日本の対応は相対的には悪くなかった。まず、外貨準備を使って各国を支援したこと。例えば韓国で、日米中が早めに外貨を融通(日本は約300億ドル)したことで、1997年のアジア通貨危機のような深刻な事態にならずにすみ、現在では投資が戻ってきている。今後の日本経済が米国の需要に牽引されないとすれば、アジアがその候補となるので、その経済危機回避に貢献できたのは喜ばしいことだ。
 また、社会的な分裂を引き起こすような問題は起こっていない。不良債権が発生して税金が金融機関に注入され、政府が非常に批判されるような事態だ。社会分裂がなく景気対策が実行できたことは、世界的な比較では恵まれた状態だと思う。企業も一時的な落ち込みは激しかったものの、それほど体力を消耗せずにすんだ。製造業は大打撃を受け、中小企業も厳しいだろうが、全般的に持ちこたえているほうだと思う。バブル崩壊時よりも生産と雇用の調整ができているからだろう。

 そして、日本を含めた各国政府の景気対策は一応成功しており、今年の前半から少しずつ経済は安定し、株価もリバウンドした。例えばスイス政府は、昨年12月に大手銀行UBSに60億フランを注入した(株を買った)が、今年8月にはその株を売却して利益まで出している。日本の株価もおおむね右肩上がりだ(9月7日現在)。

 しかし、株価の上昇が実体経済に結びつくのはまだまだ先だろう。株価が上がっているのは気が早い投資家が多いのか、マネーが余っているからかわからないが、独り歩きしている状態だ。加えて、今の景気浮上は一時的な景気対策によるところが大きい。例えば、ドイツで始まった新車買い替えの奨励金は各国へと広がり、登録車販売台数を飛躍的に伸ばしたが、期間限定の駆け込み需要なので終わった後は不透明だ。
 次なる施策も出てくるだろうから、今年後半から来年初めくらいまで景気はもつだろう。在庫調整に合わせて株価も上がるかもしれない。しかし、経営者は投資家ほど気が早くないので、雇用を拡大したり、生産設備に投資したりはしない。それはだいぶ先の話であり、日本でも在庫調整が終わって生産が上向いてきただけで、雇用は悪化の一途だ。だから、今年末から来年初めに景気の不安感が出てくると、株価がドカンと落ちる可能性がある。すると再び経済危機が起こるので、再度の景気対策を行わなくてはならなくなる。もう一度株が下がったときが危険だ。

経済危機の中で見えた日本の「モノづくりの底力」

 日本経済は今後、高い経済成長を望めないだろう。アメリカ一辺倒の外需頼みは無理だろうし、BRICsのような新興国が世界経済を引っ張るとしても、どこに何を売るのかという問題がある。欧米の先進国であれば、高い性能や安全性を求めて高級車を購入する層がいるだろうが、インドでインドの人たちのためのクルマをつくるとなると、日本独自の先端技術は必要ないかもしれない。今は中国を中心に公共事業を進めているので需要はあっても、落ち着いた後にどんな形で需要が出てくるかは見えていない。
 しかし、それでも日本は技術立国だ。高級車ではなくコンパクトカー、あるいはハイブリッド車や電気自動車などのエコカーに向かうなど、需要のタイプは変わっていくだろう。それに合わせて技術や技術者のシフトも起こるだろうが、技術への需要が減るわけではない。

 米国に比べると日本はましな状態だ。米国は主力の金融業が後退した段階で、GMが倒産するなど製造業の基盤がないことを露呈してしまった。金融機関の回復は早いようだが、これから何で生きていくのかという問題にさらされている。対する日本は、金融は弱かったが、製造業をはじめとしたモノづくりに底力があることがはっきりした。シフトした先の技術分野やマーケットで勝負することは難しいかもしれないが、だからこそ腕の見せどころとなる。
Tech総研が見た100年に一度の経済危機<後編>景気は悪いまま!だからエンジニアよ、立ち上がれ
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
不景気は嫌だ。仕事や金銭面への悪影響はもちろん、人が暗くなるでしょ。そして、つまらない犯罪が増えるでしょ。私も日本経済に明るい見通しをもっているわけではないですが、このままでは終われない気がします。何か、何かの打つ手はあると思うのです。

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