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クルマと再生可能エネルギーをつなぐ新しい社会システムへの挑戦
「スマートグリッド分野強化」でデンソーが人材投入!
デンソーが広大な市場領域を想定した新たな技術開発戦略に動き出した。ターゲットは「スマートグリッド」。先進的なクルマ社会の実現に向けて、事業活動のあらゆる分野で環境負荷の低減に取り組むデンソー。クルマと再生可能エネルギーをつなぐ新しい社会システムづくりへの、果敢な挑戦が今始まろうとしている。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/早川俊昭)作成日:10.03.08

株式会社デンソー 研究開発1部 特定開発室G 室長 金森淳 一郎氏
大阪大学大学院工学研究科電磁エネルギー工学専攻修了(工学修士)、神戸大学大学院経営学研究科現代経営学専攻修了(MBA)。専門はパワーエレクトロニクス技術で、産業用ロボット、携帯基地局冷却システム、給湯機インバータ開発など、自動車関連以外の事業経験も豊富。技術開発だけでなく事業企画の経験も積み重ねる。前部署の熱機器エレクトロニクス開発部 室長時代には、ハイブリッド車用の電動コンプレッサー開発を指揮。「クルマをいかに外の世界につないでいくか」が目下のところ最大の関心。

スマートグリッド市場を拓く部内横断組織がスタート

「コードネームはG」
 今年1月、刈谷市にあるデンソーの技術開発センター内に、ある特別なミッションをもつ開発室が設けられた。特定開発室G。「G」はグリッドの頭文字、「スマートグリッド」を意味するコードネームだ。スマートグリッドは、その使われ方でさまざまな意味を含む言葉だが、当初は、通信機能を持った電力系や制御機器などをネットワーク化することによって、電力需給を自動調整する機能をもつ新しい電力網のことを指していた。

 温室効果ガスの大幅削減のためには、風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が不可欠だが、こうした再生可能エネルギーは自然条件に左右されるため、そのままでは必ずしも安定的な電力源にならない。とりわけ米国では電力網の設備が古いため、再生可能エネルギーを大量に導入すると、電力系統が受けきれず停電や電力品質の低下を招いてしまうという危険性が以前から指摘されていた。

 こうした危惧を払拭するには電力網の高度化が必至。不安定な電力を蓄電池にバッファすることがまず重要だ。さらに、ネットワーク制御によって、たえず発電量と一般家庭や事業所、公共設備などの電力需要を監視し、相互の負荷を制御することで、安定的な電力を送ることが不可欠になるのである。

 既存の電力網にそこまで不安のない日本では、スマートグリッドは住宅やビル、工場、店舗など建物単位で、小規模の電力を発電・蓄電し、かつ融通しあって、エネルギーをより効率的に利用するシステムとして構想されている。従来の電力システムが大規模・集約型だとすれば、日本型スマートグリッドは小規模・分散型のシステムといえる。

 スマートグリッドを実現するためには、大容量の蓄電池、高度なネットワーク制御、利用状況を監視するセンサやモニターシステムなどが不可欠。そこは新しいテクノロジーとニュービジネスの沃野だ。スマートグリッド・ビジネスへの参入を表明しているのは、原子力発電を含む電力事業者や重電メーカーはもちろんのこと、蓄電池、通信・制御ソフトウェアなどのさまざまな企業だ。米グーグルのように、家電製品ごとの電力消費量を表示するウェブアプリケーションの開発を進める企業もある。同社は、ソフトウェアに、スマートグリッドに不可欠のスマートメーター機能をもたせようとしているのだ。

 こうしてスマートグリッドは、単なる電力網というよりは、電力をつくる側と伝える側、さらに使う側の全体をカバーした、一つのコミュニティ構想の色彩を帯び始める。

【図版】車とつながるスマートグリッド技術
電気、熱、情報を組み合わせた新しい製品分野を創造する

 そしてそのコミュニティの主役の一人として登場するのがクルマなのだ。 「クルマが電気で動くようになると、充電・蓄電が重要な機能になります。さらに家庭や事業所、あるいは街中の充電ステーションにつなぐことで、スマートグリッドのネットワークに組み込まれ、その重要な構成要素の一つとなるのです。充電の際には、さまざまな情報をやりとりすることもできる。地域内を走る電気自動車の蓄電量がわかるようになれば、充電のタイミングを電力会社に余力がある時間帯に行えるようにスケジュール管理したり、あるいは、電力需要のピーク時には電気自動車の余った電力を集めて利用する、というようなことも可能になるでしょう」
 と、スマートグリッドとクルマの新たな融合の形を語るのは、冒頭に挙げたデンソー特定開発室Gの金森淳一郎室長だ。

 これまでもさまざまな車載エレクトロニクス機器によって、クルマは電気的にコントロールされてきた。さらに、PHV・EVが一般的になる時代には、メインの駆動系はモーターだ。その省エネを徹底しなければ、クルマは長く走れないのだ。

 例えば、電気自動車の航続距離を伸ばすためには、搭載充電池をより大容量・高性能にする以外にも、より高度な電源管理システムが必要になる。カーエアコンをガンガンかけると、クルマが長く走れないというのでは、本来のクルマの性能を損なうことになる。そうなると、インバータやヒートポンプなどの省エネ技術をクルマに搭載しなくてはならない。そして、カーナビ、パワーステアリングはもちろん、パワートレイン部までエレクトロニクスで制御するクルマづくりでは、半導体で電力をコントロールするパワーエレクトロニクス技術がコア技術となる。

 特定開発室Gのミッションの一つは、社内の電気、電子、熱、情報、パワートレイン、生産技術などのさまざまな部署から専門家を集め、スマートグリッド時代を見越した、クルマのさらなる省エネ技術を磨くことにある。ヒートポンプ、インバータ、電池、パワー半導体など個々の要素技術を、顧客に役立つシステムとして開発する。

 そしてもう一つのミッションが、クルマと電力インフラをつなぐ技術の可能性を検討しながら、スマートグリッドという市場への参入ポイントと、ビジネスとしての将来性を見定めることだ。ここは、システム技術開発と事業企画開発という二つのディベロプメントを同時に進める組織なのである。

異業種の人と同じ言葉でコミュニケーションを図る

 これまでクルマの中のエネルギー効率だけにこだわってきた技術が、スマートグリッドの“賢い送電網”の中に組み込まれることで、より広範な付加価値を帯びることになる。 「これまでも、ITS(高度道路交通システム)への取り組みで、私たちはクルマと社会の関係を追求してきましたが、これからはクルマ技術の“出口”がさらに広がることになります。言い替えれば、従来の自動車だけでなく、通信や電力や住宅などの業界とも協業する可能性がある。そうなると、自動車メーカー以外の人とも同じ言葉で語れることが、ビジネス成功のための重要な条件になってくる。これまでと同じような売り方では私たちの製品はいずれ売れなくなってしまうかもしれません。

 一方で、EVの時代にエンジンがなくなると、これまでエンジン部品をつくってきた事業部は仕事がなくなるという心配もある。しかしそれは、自動車の付加価値が広がる分だけ、新しい仕事も増えることをも意味します。新しい交通インフラのなかでデンソーはどうするかという方向性を示すことができれば、決して恐れることはないのです」
 そうした方向性を指し示す役割が、特定開発室Gのメンバーには課せられている。

 時代とともに主流の技術やマーケットが変わることは当たり前であり、そのたびにエンジニアは“自分革新”が必要だ。幸いにもデンソーでは、携帯電話端末や「エコキュート」をはじめとした自動車部品以外の製品でも開発実績がある。これは、スマートグリッド時代に、電気エネルギーと熱エネルギーと情報通信の3つの技術分野を組み合わせた製品・サービスを新たに開拓していく上では重要な経験だ。世界の自動車メーカーとはもちろん、携帯電話や電力事業者との取引もあるデンソーならではのスタンスを活かし、独自のグリッド・ビジネスモデルを構築していく。

徹底したユーザー視点で、価値ある技術を生み出す

「要素技術を深めるだけでなく、それをシステムとしてまとめあげてきた経験。さらに業種を超えて一つのプロダクトやサービスを開発してきた経験。こうした縦横の経験の深みを持つ人が、これからは欠かせない」
 と、金森氏はグリッド・ビジネスにおける人材像を語る。

 さらにスマートグリッド・ビジネスではグローバルに協業あるいは競業することが前提になる。インターネットではすっかりデファクト・スタンダードを米国に奪われたが、「電力版インターネット」ともいわれるスマートグリッドに限っては、少なくともアジア市場で新たな覇権を確立したいというのが、日本政府の思惑でもある。

「国内の完成車メーカーと一緒に海外での実証プロジェクトに派遣されて、スマートグリッド技術の実装を行うなどの機会はすぐにやってくるでしょう。グローバルに活躍したいという人は大歓迎です。もちろん、単に政府の方針に沿って事業をやるのみではなく、国外の事業者やエンドユーザーが、本当に何を求めているのかを、自分の目で見て判断することが必要」と金森氏は言う。

 このユーザーの立場に立ったシステム技術はデンソーのお家芸でもあるが、これはスマートグリッドシステムの開発でも発揮されることになるだろう。
「スマートメーターや家庭内エネルギー管理システム(HEMS)によって、電力消費量の見える化をしたり、家とクルマを連動させた電力制御が可能になったりしても、本当にそれがユーザーの幸せにつながるのか、ということをきちんと考えないと、スマートグリッドは単に電力事業者や重電メーカーだけの“絵に描いた餅”に終わってしまう危険性もあります。その点、デンソーはこれまで、カーナビやクルマの操作系のシステムで、徹底して利用者にとっての快適性や利便性を追求してきた企業。スマートグリッドでもユーザビリティに基づいた技術・製品開発を進めたいと思います」

 スマートグリッドは単なる未来技術の一つのオプションではなく、持続可能な社会を支えるキー・テクノロジーになろうとしている。いち早く専任の開発室を設け、事業化に向けて人材募集を宣言したデンソー。環境技術分野でその存在感は際立っている。

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