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エンジニア1000人を対象にした2009年夏のボーナス調査では、昨年夏よりも12%のマイナスという結果。昨年来の深刻な経済危機を反映して、大幅に落ち込んでいる。先行きの見えない不安の中で、ボーナス支給額の状況、それが転職意識に与える影響などを探った。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/絵理すけ) 作成日:09.07.31
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景気の落ち込みも底が見えてきたという報道がある一方で、今年夏のボーナスの低迷ぶりも明らかになってきた。今回の調査は7月14日時点での集計だが、回答者の60%がすでにボーナスを支給されている。これから支給される見込みの人が13%、年俸制などの理由でもともとボーナスの支給がない人が15%いる。また、「不況の影響で今回はボーナスの支給がない」と答えた人も12%に上った。これはかなり衝撃的だ。 DATA1 2009年夏のボーナスは支給された?支給済みおよび支給予定者のうち金額が決定済みの人たちを対象に、ボーナス平均支給額を尋ねると、エンジニア全職種・全世代平均で57.7万円という数字が得られた。2008年夏のボーナスも聞いたところ、全体平均で65.6万円だったから、7.9万円(12%)の減ということになる。 ちなみに三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2009年3月末に発表した調査レポート「2009年夏のボーナス見通し」では、民間企業の平均支給額が37万円で、前年比8.9%マイナスとある。今回の調査は、こうした各種リサーチ会社の予想幅を上回る減額となっている。 調査データをより詳しく見ていくことにしよう。製造業に勤務する機械、電気、化学などのエンジニアでは全世代平均支給額が59.4万円で、前年比11.4%のマイナスだ。システム、ネットワーク、運用・テクニカルサポートなどを含むIT系では同じく56万円、-4.4%となっている。製造業系とIT系を比較したとき、支給額では製造業系がやや上回るものの、前年比マイナスの幅は製造業のほうがより深刻だ。 DATA2 職種・年代別/2009年夏のボーナス平均額(平均額:万円 昨年比:%)
これは、昨年秋以降の世界的な金融危機が、グローバル規模で自動車・エレクトロニクスなどの消費マーケットを直撃し、その影響を日本のものづくり産業もモロに受けたことを示すものだ。製造業系のなかでも落ち込み幅が大きいのは、「生産技術・プロセス開発」(-16.2%)、「半導体設計」(-14.7%)、「光学技術」(-13.9%)などだ。「サービスエンジニア」や「機械・機構設計、金型設計」「制御設計」などはかろうじて一桁台のマイナスにとどまっている。 半導体産業は長年の製品市場の低迷に苦しんできたところに、不況パンチを食らった格好で、生き残りをかけた世界レベルでの企業再編の動きも進む。転職マーケットでも「給与・ボーナスダウンの話を聞いて離職を決意した人は多いが、紹介先がない状態」という話も聞く。機械系、制御系のマイナス幅が小さいのはまだ救いだ。両職種とも自動車産業に深く関連しているが、最近、日本の自動車産業に景気低迷脱出の兆しがみえることは幸いだ。 一方、IT系では「研究、特許、テクニカルマーケティング、品質管理ほか」という職種の落ち幅が目立つ。「コンサルタント、アナリスト、プリセールス」「ネットワーク設計・構築」「社内SE」はなんとか持ちこたえている印象だ。 |
角度を変えて、業種別での比較も行ってみた。今回の調査対象にはサンプルは少ないものの、マスコミ、金融・保険などの非製造業・IT系企業に勤務する人も一部含まれているので、他産業との比較もある程度可能だ。
製造業・IT系でボーナス支給額が多い業種は「鉄鋼・金属」(85.4万円)「不動産・建設」(78.8万円)「化学・石油・ガラス」(69.4万円)「重電・産業用電気機器」(69.2万円)「コンピュータ・通信機器・OA機器」(68万円)「総合電機」(67.6万円)などだ。反対に少ない業種は「インターネット関連」(46.5万円)「医薬品・化粧品」(47.6万円)「プラント・設備」「半導体・電子・電気部品メーカー」(ともに48.7万円)などがある。 こうした格差の背景には、業種別というよりも、企業規模の差が現れているようにも思える。鉄鋼、化学、コンピュータ、総合電機はおおむね大企業が中心であり、従業員数人規模のベンチャーも含まれるインターネット関連企業とでは、体力に雲泥の差がある。それがボーナスの差にもつながっているのかもしれない。 参考までにエンジニアの少ない業種では、「マスコミ系」がダントツの102万円の支給額となっている。他には「金融・保険系」(68.5万円)「流通・小売系」(56.1万円)「サービス系」(49.9万円)など。マスコミの突出ぶりが目立つが、それでも広告収入の大幅減などで今年のボーナスは厳しいというのがもっぱらの観測だ。 昨年に比べてボーナスが「減った」という回答の多い業種は、「医療機器」(86%)「半導体・電子・電気部品」(84%)「精密機器・計測機器」(82%)「総合電機」(86%)「化学・石油・ガラスなど」(80%)。反対に、昨年に比べて「増えた」という回答者が多かったのは、「流通・小売」(63%)「不動産・建設」(50%)「食料品」「医薬品・化粧品」「通信」(ともに40%)だった。 |
前年比12%のマイナスとなった2009年夏のボーナス。もらった側の満足度は当然低いと思いきや、会社の業績や世の中の動向、あるいは自分の働きと比べると「見合っている」と答える人の割合が、59%と全体の半数以上を超えたのは意外だ。 DATA4 2009年夏のボーナス金額の満足度は? |
■ | 全国的な不況の中にもかかわらず、額面の増加がみられたことは、自分の頑張りが認められた気がする。とはいっても世の中の同レベルの企業と比較すると明らかに低いので、手放しで喜べるほどではないと思う(通信インフラ設計/28歳) |
■ | まだ大きな仕事をしていないから、こんなもん(システム開発/26歳) |
■ | ボーナスがないところもあるので、それに比べたらもらえるだけありがたい(システム開発/26歳) |
■ | 業績悪化のため2008年より賞与支給額が大幅に減っている。また、2009年は給与カットがされている中で、前年と同等の賞与が支給されたため(生産技術/39歳) |
■ | 不況により支給月数が減ったが、もらえるだけましという認識(社内SE/38歳) |
エンジニアの生声を拾ってみると、最後の人の「もらえるだけまし」という、一種あきらめの境地に立った認識が、全体の傾向を物語っているようだ。もちろん不満アリアリという人も少なくない。「会社の業績はどうであれ、自分はこれだけの仕事をしたのにこの額はなんだっ」という、これまた真っ当な怒りである。 |
■ | 不況で全社的に仕事を取れないなか、小さいとはいえ複数の仕事を取ってきたのに低すぎる(システム開発/32歳) |
■ | リストラして人が減り、仕事が増加しているのに金額が低い(品質管理/38歳) |
■ | 受け持っている仕事内容が幅広く、かなり自分ひとりでこなしているのに(社内SE/38歳) |
■ | 管理職の立場でサービス残業が多い。仕事内容に比べて50万円程度安いと思う(品質管理/34歳) |
■ | 全然働いていない同じ階級の年配の人と金額がほぼ同じというのが納得できない。個人がどれだけ働いているかで金額を決めるべき。また、競合他社に比べ仕事のわりに金額が低い(システム開発/26歳) |
最後のコメントなどはまさに、個人業績が反映されにくい日本企業のボーナスシステムの弊害を指摘したものといえる。90年代バブル崩壊以降、成果主義的な賃金体系が浸透し、ふだんの給与はともあれ、ボーナスには個人業績を反映させて格差を濃厚につける、という流れが日本の企業に生まれてきた。たしかに好況期にはその傾向が現れた。ところが今年のように不況期になると、個人の業績は無視され、一律ボーナスカットという“全体主義”に回帰する企業が増えているように思える。 「ボーナスの原資がない」と言われればそれまでだが、不況期にこそ、よりきめ細かい人事評定と業績評価を行って、個人の意欲を引き出すという柔軟な施策が求められているのではないか。 |
全体的には減額傾向の夏のボーナスだが、その使い道を聞いてみた。
DATA5 2009年夏のボーナスの使い道とその金額 (※複数回答)
こうしたボーナスの影響は、エンジニアの転職意識にどのような影響を与えているか。それを最後に聞いてみた。 とはいえ、ここではあえて聞いてみたい。不況の影響で転職してもよいと考えるようになった人は、今どういう思いなのだろうか。 |
■ | ノー残業がここまで続くと手取り給料は激減。ちょっと厳しいのは確かです。少しでも給料の高いところに行きたい、とは思います(生産技術/38歳) |
■ | 外資系大企業特有の冷たい待遇が嫌になった(システム開発/32歳) |
■ | 社内の人員リソース削減で、まともにサービスがリリースできない。優先順位をより強化してといわれるが、無駄な金を使っている上層部の意識はユーザには向いておらず、自分の生き残りのために組織替えをしているだけだ。この会社にいても業績にもならないし、成長の機会もないと思うようになった(研究/34歳) |
■ | 安定感を重視していたわけではないが、以前は、今の延長線上の未来を想定できた。ところが今の状況のように、全体の経済が沈めば、将来を描くことすらできない。そんな状況のもとで中途半端な自己満足のままでよいのかという思いがある(機械設計/33歳) |
給与・ボーナスのカットや希望退職募集などが行われ、足元が不安になったから転職を考えるようになったという声は多いのだが、なかには「これを機に、自分の今の仕事を見直し、ほかのことにチャレンジしたくなった」という人もいる。いわば、不況というショックのなかで、自分の人生とキャリア形成に深く目覚めたということだろうか。 |
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