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Tech総研が見た100年に一度の経済危機<後編>景気は悪いまま!だからエンジニアよ、立ち上がれ Tech総研が見た100年に一度の経済危機<後編>景気は悪いまま!だからエンジニアよ、立ち上がれ
9月14日公開の記事「リーマンショックから1年、エンジニアはどうなった?」では、米国リーマン・ブラザーズ社の倒産から1年の日本とエンジニアを検証した。その後編として、年末までと来年1年間の予測をお伝えする。日本経済とエンジニアはどう変化していくのだろうか。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/平山 諭) 作成日:09.10.28
Part1 エンジニアが本気を出さないと景気回復は遅くなる
 辛口の論客として知られる評論家の日下公人氏。日本の経済、というより日本全般について常にストレートな意見を語ってきた人だ。来年の日本の景気、そしてエンジニアについてお聞きしたところ、両者には深い関係があるとわかった。すなわち、エンジニアが日本経済を回復させると言う。
日下公人氏
日下公人氏
東京大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(当時)に入行。同行取締役、社団法人ソフト化経済センター(当時)理事長、東京財団会長を経て、評論家。三谷産業株式会社監査役、日本ラッド株式会社監査役、社会貢献支援財団会長、株式会社原子力安全システム研究所最高顧問。『日本人の「覚悟」』(祥伝社)など著書多数。
世界不況から日本がいちばん先に回復する

 景気がよくなると言っている人はアホだ。今年も来年も景気は悪くなる。それは、アダム・スミス以来250年間続いてきた近代経済学が間違いだったからで、処方箋が間違っているのだから回復するわけはない。ただ、世界の中でいちばん早く立ち直るのは日本だ。なぜなら、日本人は勤勉で自分が働き、問題を自力で解決してきた歴史をもつからだ。他人から搾取する国や歴史を持たない国は、景気回復が遅い。そして、技術立国日本の景気回復のカギは「日本型エンジニア」が握っている。

 モノが売れなくなっている。市場にはさまざまな製品があふれて、「欲しいものはもうない」とお客に言われている。これまでは「生産のための技術」だったから、エンジニアは合理化や省力化を進めてきた。これからもそうありたいと思う人はインドか中国へ行けばいい。今は消費の魅力をハードウェア化する、「消費のための技術」が大事だ。僕は25年ほど前に『21世紀は女性の時代』という本を書いたが、さほど状況は変わっていない。考えるべきマーケットは女性、それと高齢者だ。

「景気が悪いから売れない」は違うだろう

 本を書いたころのことだが、スクーターが売れずに困っていた本田技研は女性用スクーターを開発することにした。キーワードは「かわいい」だが、聞いたエンジニアは困った。かわいいものを開発するなんて、大学で習ってない。そこで翻訳者が表れて、技術用語に翻訳した。女性でも持ち上げられるように重量は35kg以下、飛ばすと危ないから馬力は3馬力、旦那さんの許可を得られるように価格は4万円以下、色遣いはカラフル……といった具合で、実際に開発したら売れた。
 しかし、エンジニアはどう感じただろう。「こんなおもちゃをつくるのは嫌だ」と思った人が多いと思う。本音は「値段は高く、馬力があって早く走る、高性能のバイクをやりたい」。しかし、そんなものは売れない。売れないバイクをつくったエンジニアは「今は景気が悪いから」と言うが、それは違うだろう。

 本田宗一郎は1万回転のバイクが偉いなんて言っていない。彼はマン島TTレースで勝ちたかったから回転数の高いバイクをつくっただけだ。景気がどうって言っているのはヒマな人で、本当のエンジニアなら「私はこんなものをつくりたい」と主張して、忙しくしているはずだ。本田宗一郎は「もう何が売れるかわからない」と、マーケットを見る力が衰えたと自覚したら引退した。エンジニアにはそれくらいの覚悟も必要だ。
 ちなみに先の女性用スクーターは、ヘルメットの着用が義務付けられてから売れなくなった。女性は髪形を気にするからだが、だったら髪型が崩れない、あるいは乱れても格好悪くならないようなヘルメットを開発すればよかったんだ。

『日本人の「覚悟」』(祥伝社)
「サポート」や「翻訳」で活躍する道もある

 消費者の嗜好に合わせて技術を使うことも大切だが、科学の進歩をサポートするエンジニアもまた必要である。エンジニアは今まで科学の分野からいろいろなものをもらって活用してきたが、その逆をする。例えば、カミオカンデは宇宙、MRIは医学、深海探索機は海底調査、コンピュータは遺伝子解析に貢献してきたように、現場の技術が装置などを開発することで科学は一層進歩する。すると科学者からの意見が出てくるから、エンジニアの新しい発想も生まれ、装置だけでなく企業や産業全体にフィードバックされる。

 また、最近は科学が高いレベルになったので、一般の人は内容を聞いてもよく理解できなくなった。そこで「トランス・サイエンティスト」と呼ばれる、最新の科学をわかりやすく解説する人が現れるようになった。僕なら、青山学院大学の福岡伸一教授(分子生物学)や、中部大学の武田邦彦教授(資源材料工学)を挙げる。
 技術分野においても、先ほどの本田技研の「翻訳者」のような「トランス・エンジニア」も注目を浴びると思う。いわば、社会との関係をつくるエンジニアだ。例えば、日本の新幹線の技術輸出が始まっているが、文化や歴史が違うから、現地社会と新幹線との摩擦が起こるだろう。トイレの使い方ひとつにしても違うのだから、新幹線そのまま外国を持っていけばトラブルが起こる。そんな事情をエンジニアは知らないから、翻訳者が必要となるわけだ。この分野に進む道もある。

時代に合った「日本型エンジニア」になろう

 日本のエンジニアには気概があった。納得できなければ社長に直談判して筋を通す人もいた。それが、いつからか「命令どおりにつくればいい」の米国式になって、悲しいが「日本型エンジニア」が減ってきてしまった。昔はもっと、お客のことを考えて仕事をしていた気がする。そんな顧客志向の気持ちと、常識をひっくり返して考えるような発想力が求められている。今のままではダメなんだ。

 規則があるから、皆がやっていないから。そんな理由で動かないのは根性なしだ。規則は変えればいい、皆がやっていないからやればいい。不景気は不景気だから、エンジニアもリストラになるかもしれない状況だけれど、こんな事態になっても目を覚まさない人が大勢いるから言っている。景気にはよいときも悪いときもある。社会恐慌と言われた不況は何度もあったが、乗り越えてきたじゃないか。リーマンショックだって、サブプライムローンの破たんだって、さざ波みたいなものだ。エンジニアが頑張らなくて、どうするんだ。

日下公人から 不況時代を生きるエンジニアへ4つの提案
消費の魅力を
ハードウェア化する
科学の進歩を
サポートする
社会との
関係をつくる
「日本型エンジニア」
になる
Part2 日本経済回復のカギは政府の成長戦略と技術力
 2ちゃんねる出身の「ネットエコノミスト」である三橋貴明氏。官公庁など公の機関が発表するデータを緻密に分析することで、各国の政治・経済、国際情勢、マスコミ報道などの実態を解明してきた人だ。ロジカルで説得力のある彼の分析によれば、日本はまだ健全な体力を持つが、今後の行方は成長戦略と技術力によると言う。
このままでは来年、日本はマイナス成長になる

 2007年まで続いた「いざなぎ景気超え」は主に米国人の消費、もっと言えば家計の負債が伸びていたおかげです。2004年から2007年まで毎年、平均で1兆ドル(当時のレートで約100兆円)という伸び。その膨大な消費がリーマンショックで止まり、しかも収入は借金返済に回している。つまり、世界経済を支えてきた需要が二重の意味でなくなったのです。新たな市場として注目される中国も年に100兆円の消費は見込めず、日本も欧州もBRICsの他国も同様です。

 いちばん怖いのが欧州で、問題となった証券化商品を買っていた約7割が欧州なのです。EU諸国はこうした状態を開示していませんが、例えばスペインの失業率は約20%で、不動産価格は4割減。ルクセンブルグは対外債務(海外からの借金)がGDPの30倍超です。G7の中では英国が最も危なくて、悪くすればIMFの管理下に入る可能性もあると思っていますが、欧州のほかの国が悲惨な状態なので目立っていません。BRICsの中では、石油などの資源価格に左右されがちなロシアがいちばん危険でしょう。つまり、どの国も二番底、三番底になる危機を内包しながら現状維持という状態です。

 こうした国ほどではないにせよ、日本の状況も同様です。今年はまだ何とかなるとしても、このまま行くと来年はマイナス成長になるでしょうし、仮に景気が回復しても、極端な遅行指数である失業率は6%を突破するでしょう。
 ただ、日本だけには解決策があります。政府が成長戦略を立てて、必要なところに大きく投資して、企業が技術開発を行うことです。

個人消費も預貯金も優秀な日本は「金を使う」べき

 まだまだ日本は健全な国です。家計の金融資産では、将来不安から増加している現金と預金が、米国をはるかに抜いて800兆円もあります。個人消費も実は手堅く推移していて、2008年は前年比で約3兆円増えて最高値となりました。原材料費の高騰が理由のひとつかもしれませんが、企業の設備投資は大幅に減らせても、生活費はそうではないということかもしれません。
 ただ、そのお金を銀行は有効に使っていません。貸したい大手企業は先行き不安から借りてくれず、融資を求める中小企業には不良債権化を恐れて貸し出さない。この二極化は世界的な状況で、違うのは日本の大手企業がキャッシュリッチで借金しないのに、外国の企業は借金を返すことで精一杯という差です。いずれにせよ、日本にはお金が余っており、消費意欲も旺盛というわけです。

 そこで、政府が成長戦略をきちんと立案して、国債を発行して、どーんとお金を使う。企業に「お金を借りてでもその方向に行きたい」という道を示す。政府が産業政策に介入することに忌避感をもつ人もいますが、よい悪いではなく場合によりけりだと思います。赤字国債の発行を嫌う人も多いのですが、世界中で赤字国債が増えていない国も、国債を税収で賄おうとしている国もないと言っていい。しかも、金利が非常に低位で安定している日本の国債は、世界的にも価値が高く、格付けも上位です。
 政府は子供手当てなどで支出を増やし、逆に予算の無駄を削ろうとしていますが、それで国債を発行しないと緊縮財政になる。橋本内閣でも小泉内閣でも、緊縮財政にした翌年はマイナス成長になっています。無駄をなくすことは必要でも、公共事業費は年々減らされて現在はGDP比で4%程度に落ち込み、新規事業だけでなく必要なメンテナンスなどもできなくなる危惧があります。

三橋貴明氏
三橋貴明氏
東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業後、ノーテルに入社。大手IT企業に転職後、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立。公開されたデータを詳細に分析する手法で、韓国経済の危機的状況を「2ちゃんねる」などに発表して話題になる。現在は活動の場をブログに移して各国の政治・経済などの分析を発表。『ジパング再来 大恐慌に一人勝ちする日本』(講談社)など著書多数。
『ジパング再来 大恐慌に一人勝ちする日本』(講談社)
電気自動車、新幹線……今後は内需に舵を切れ

 では、どのような分野に投資すればよいのか。鳩山首相が「CO2を1990年比で2020年までに25%削減」と国連で発表しました。個人的な意見ですが、「日本の自動車を全て電気自動車にする」と決めて政府が補助金を負担するのはどうでしょうか。電気自動車は自動車業界だけでなく電機や家電、半導体業界にも関連しますし、急速充電器などのインフラも必要になる。家電用の半導体では厳しい状況が続いていますが、車載用の半導体で日本が再び甦るかもしれない。リニア新幹線をセットにすれば、より効果は高くなります。今でも十分に低いですが、デフレ基調になると金利が安くなるので企業はお金が調達しやすくなりますし、銀行は貸したがっています。

 大切なのは外需を期待しないことで、既に始まっている新幹線の技術輸出も、外需ではなく内需としてとらえます。高速旅客鉄道は線路や車両などのハードに加えて、制御システムや運行技術なども含まれる、非常に大きなビジネスです。例えば、ベトナムに新幹線を敷設するとすれば、その費用は日本政府が貸し付けて、低金利でゆっくりと返してもらう。そのお金は日本企業の収益になり、ベトナムにも需要が生まれて、新幹線が手に入るという仕組みです。原子力発電所も候補になると思います。

 ただ、世界的な資源争いは続くとしても工業製品は供給過剰ですので、モノが売れなくなっています。日本もそうですがモノ余り状態になると、新たなブレイクスルーがない限り価格競争に進みます。ですので、携帯電話でノキアやサムスンと、世界市場で勝負するようなことはやめたほうがいい。機能が充実している高いモノより、使うのに困らない低価格の製品を買われてしまうからです。例えば、携帯電話をテレビにつなぐとパソコンと同じ機能になって、高齢者でもすぐにネットができるようになるなど、よほどのメリットがないと無理だと思います。ソフトはオープンソース化が進み、ハードは中国やアジアの格安製品が出ている、パソコン系の製品も難しいでしょう。

自分の業界を超えて、マクロで見る目を持とう

 政府の成長戦略が見えないので何とも言えませんが、エンジニアの方は有望な分野に早目に移ったほうがいい。そうでないと技術力がもったいない。分野の見極めは難しいですが、大切なのはマクロで見ることです。自動車部品メーカーの方であれば、自動車部品業界でも自動車業界でもなく、国とか世界レベルということです。仮に政府主導の政策がなかったとしても、企業が手をこまねいているはずもないので、徐々に動き出すと思います。

 米国経済が2〜3年で回復すると言う人もいますが、この状態が10年続いてもおかしくないと思います。欧州やアジアも同様ですから、とにかく外需に頼らないこと。1億2000万人超のほとんどが、ある程度のお金を持っている国などほかにありません。希望的に考えれば、今までは米国や中国に売ったほうが儲かるという発想だったから、国内向けの画期的な製品を出せていなかったのかもしれない。ならば、エンジニアの知恵の出しどころです。格好よくて機能的な電気自動車が出れば、日本人は買うと思いませんか?

三橋貴明から 不況時代を生きるエンジニアへ4つの視点
政府による
明確な成長戦略
赤字国債による
公共事業投資
電気自動車や
鉄道などが候補
業界を超えた
マクロで考える
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
取材をお願いしたお二人には、「断言口調で語る」という共通点があります。識者の中には、「100%の肯定(否定)はしない」や「例外の存在を残す」ような人も結構いて、よく言えば読者を気遣っているわけですが、悪く見れば「自信がないので責任回避」をしています。この記事はそんな人には頼みたくなかったので、お二人に依頼しました。

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