仕事に行きたくない…会社に行くのがしんどい…。こんな気持ちは、誰しも一度ならず経験したことがあると思います。とはいえ、そのたびに会社を休むわけにはいかないもの。「行きたくない」と思ったとき、どう気持ちを切り替えればいいのか、これまでに1万人超のメンタルを救ったという「金髪アフロと赤メガネ」がトレードマークの精神科医&メンタル産業医、井上智介先生にアドバイスをもらいました。

「仕事に行きたくない」という気持ちを無理に抑えないこと
「仕事に行きたくない」と思う理由は大きくわけて、上司とうまくいかない、待遇が悪いからやる気が起きないなど「職場環境に対するストレス」と、仕事のプレッシャーが大きい、業務量が多すぎるなど「業務に対するストレス」に二分されます。
そして「仕事に行きたくない」という気持ちは、これら仕事のストレスに対する防衛本能の1つです。「仕事に行きたくないと思うのは良くないこと」と自分を責める人がいますが、むしろ正常な心理反応であり、無理に抑え込まないほうがいいでしょう。
行きたくないという気持ちを無理やり抑え込みすぎると、ストレスが発散できず溜め込む一方になり、心身に不調をきたしてしまう恐れがあります。例えば朝、会社に行こうとすると頭やお腹が痛くなる、吐き気がする、など。不眠や食欲不振で休職せざるを得ないケースも少なくありません。
「仕事に行きたくない」という気持ちを抑えるのではなく、早い段階で自身の気持ちと向き合い、自分に合った方法で対応することが重要です。
朝「仕事に行きたくない…」と思ったときの気持ちの切り替え方

「何となく行きたくない、気分が乗らない」と思ったとき、自分を高める方法を知っておくと気持ちが切り替えられ、ネガティブな感情を軽減することができます。次の方法の中から、自分に合う方法を選ぶといいでしょう。
気分を上げる音楽を聴く
「仕事に行きたくない」と思ったときに、気持ちを鼓舞してくれるような音楽を聴くのは有効です。例えば「ロッキーのテーマ」は気持ちを昂らせてくれるといいますが、自分なりの「これを聴くとアガる」という曲をいくつか用意しておくと、「行きたくないけれど行かなきゃいけない」ときに便利。もちろん、気分が上がる映像や名言などでもOKです。
朝イチで大きめの声を出す
例えば、砲丸投げの選手が球を投げる瞬間に「わーーーっ!」と叫ぶなど、ここ一番というときに大きな声を上げるアスリートは多いですが、これも気持ちを高めるのに有効です。なかなか気持ちが乗らないときは、何でもいいので「わーっ!」とか「あーっ!」などご近所迷惑にならない程度の大きめの声を出してみましょう。声を出すことで自身にスイッチが入り、気持ちを切り替えるきっかけになります。
大きめの声を出すことは、心の中にある不安を放り投げることにもつながります。声を出した後は、きっと少し気持ちが軽くなっていると思います。
服装や髪形などを少し変えてみる
いつもとは違う服を着てみたり、髪形を少し変えてみたりするのも有効です。それだけで、新しい自分になったような気がして、気分が上がります。セルフイメージが上がり、自信も湧いてくるでしょう。いつもと口紅の色を変えるなど、メイクで変化をつけるのもいいと思います。
熱いシャワーを浴びる
寝起きの体は副交感神経が優位でリラックスモードにありますが、シャワーの刺激を受けることで交感神経が優位になります。交感神経の働きが上がると気持ちが高揚し、体温や血圧も上がって体が活動モードに変わります。物理的な方法ではありますが、シャワーがいい「やる気スイッチ」になるのでお勧めです。交感神経を刺激するためにも「いつもより温度は熱め、水圧は強め」がいいでしょう。
アフターファイブの楽しみを作る
仕事が終わった後に楽しい予定を入れると、「仕方ないから行くか」と思えるフックになります。たとえば、今日はアフターファイブに映画を観よう、洋服を買いに行こう、友人を誘って食事をしよう、など。定期的に習いごとの予定を入れるのもいいでしょう。
ちょっと豪華な朝ごはんを用意したり、話題のモーニングを食べに行ったりするのも気分を上げる一つの方法です。
「自分の仕事は誰かの役に立っている」と想像してみる
どんな仕事であっても、必ず誰かのためになっています。お客様やクライアントなどから直接「ありがとう」と言われる仕事でなくても、必ず誰かの役に立ち、誰かが喜んでいます。
「仕事に行きたくない」とネガティブな気持ちになっているときこそ、自分の仕事で助かっている人、喜んでいる人の笑顔を想像してみましょう。隣の席の人でもいいし、チームメンバーでもいい。自社の商品・サービスのエンドユーザーに思いを馳せてみるのもいいでしょう。それだけで、気持ちが上向くきっかけになります。
それでも「どうしても仕事に行きたくない」ときの対処法

どうしても気持ちを切り替えられない、気持ちが奮い立たないという場合は、かなりストレスフルな状況にあると思われます。この場合は、ストレスの源である職場や仕事から物理的に距離を取るべき。できれば何日か休暇を取り、仕事から完全に離れてリフレッシュするといいでしょう。
私がお勧めしているのは、金曜日と月曜日に有給休暇を取る方法。週末をはさんで2日間有休を使えば、4連休になります。お盆や年末年始ではない普通の時期に、4日間まったく仕事のことを考えない期間を設けるのはかなりのスペシャル感があり、心身ともにリラックスできるでしょう。
お休み中は仕事を忘れて好きなことをしましょう。旅行に出かけるのもいいですし、「思い切り寝てダラダラする」でももちろんOKです。唯一のルールは、「仕事には一切触れない」こと。休みの間にコンディションを整えるためにも、会社PCを立ち上げたり、会社からの電話に対応したりするのはやめましょう。
いよいよつらければ、逃げるという選択肢だってアリ
ストレスへの対応方法は、基本的には「闘争か逃走」しかありません。自身の気持ちを切り替え鼓舞しても、どうしても仕事に行きたくないという場合は、逃げるという選択肢もありです。
「仕事に行きたくない」という気持ちが強まりストレスが溜まっていくと、多くの場合まず睡眠障害に現れます。なかなか眠れない、起きれないという状態が2週間以上続いている場合は要注意。また、食事に影響が出るケースも多く、食事がのどを通らない、逆に過食になった、甘いものやしょっぱいもの、脂っこいものばかり食べてしまう…などの状態が続くのも危険信号です。
われわれ産業医に相談してもらえれば、職場の上長と相談しながら業務量を減らす、タスクを変える、配置換えをするなどストレスを軽減するための策を講じます。状況が深刻な場合は、一定期間の休職をお勧めすることもあります。ストレスの源から一時的に逃げ、パワーを蓄えるためにも、ぜひ産業医を有効活用してほしいですね。
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メンタル産業医・精神科医 井上 智介さん
兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話を重視した精神的なケアを行う。さらに、すべての人に「大ざっぱ(rough)」に、「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから、SNSや講演会などで心をラクにするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信中。『職場のめんどくさい人から自分を守る心理学(⇒)』(日本能率協会マネジメントセンター)、『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ(⇒)』(WAVE出版)など著書多数。