コンプライアンスという言葉はよく耳にするけれど、どういう内容を指すのか詳しくは理解していない…という人は多いのでは?しかし実は、若手ビジネスパーソンこそ注意を払うべきテーマなのです。
コンプライアンスとは何か、働く個人とどのような関わりがあるのか、ついやってしまいがちなコンプライアンス違反とは…などについて、著書『これだけは知っておきたいコンプライアンスの基本 24のケース』が話題の“コンプライアンスのプロ”秋山進さんに伺いました。

プリンシプル・コンサルティング・グループ代表取締役
秋山 進さん
京都大学経済学部卒業。リクルートに入社し事業・商品企画などを担当した後に独立。リスクマネジメント、コンプライアンス、人材開発などに従事する。著書に『これだけは知っておきたいコンプライアンスの基本 24のケース』(⇒)『社長が将来役員にしたい人』(日本能率協会マネジメントセンター)、『一体感が会社を潰す』(PHP)、『職場の「やりづらい人を動かす技術」(KADOKAWA)など。
目次
コンプライアンス(法令遵守)とは?
コンプライアンスとは一義的には「法令遵守」を意味しますが、単に法令を守ればいいというわけではありません。法令だけでなく、勤務先の規定を守ることや、社会的な期待に応えることもコンプライアンスの一環です。
ビジネスパーソンにとって重要な要素は次の3つ。この3つを守ることを意識しましょう。
法令
国や行政機関が定めた法律や条令など、社会の中で強制力を持って決められているもの。
会社の規定(就業規則など)
それぞれの会社ごとに定められた、雇用主と労働者の間の雇用や事業を進めていくうえでのルール。働く時間や働く場所、職務に伴う権限(課長は何万円まで決裁できる等)、社内の情報システムへのアクセス権限、重要な情報の管理方法など。
社会道徳
人間が社会で生きていくうえで守るべき道徳、モラルのこと。社会道徳に則り、正しいことを行い悪いことを行わない姿勢。社会一般で通じている常識や見解という意味の「社会通念」も含まれる。
コンプライアンス違反は、会社の経営にも影響を及ぼす
コンプライアンス違反は会社ぐるみ、組織ぐるみのケースもあれば、個人が起こすこともありますが、いずれの場合においても下記のようなさまざまな問題が生じます。昨今ではSNSの普及拡大の影響もあり、たった一人の社員の言動であっても一気に拡散し、勤務先企業の経営自体にも大きな影響を及ぼすケースも見られます。
会社の経営への影響
先ごろ、大手飲食チェーンの役員が不適切発言を行ったことが問題になりましたが、勤務先企業のブランドイメージに大きな影響を与えました。このように、一社員の不適切なひと言がブランドイメージを失墜させ、株主や取引先、主要取引銀行など利害関係者からの信頼低下、業績低迷・財務状況悪化を招く恐れもあります。
問題行動関係者(社員)への直接的な影響
コンプライアンス違反を起こした当事者には当然ながら、社内での評価が下がったり降格させられたり、悪質な場合は懲戒解雇となったり…と直接的な影響がおよびます。問題が大きくなると、個人情報がネットにさらされるリスクもあります。個人ではなく事業部ぐるみのコンプライアンス違反の場合は、事業部丸ごとなくなるケースもあり得ます。
社内組織への間接的な影響
企業のブランドイメージが下がれば、モノが売れなくなったり社会的な批判にさらされたりして、社内のモチベーションも低下します。士気の低下、モラル低下による業績悪化や人材流出の恐れもあります。
コンプライアンスリスクの種類
コンプライアンスは非常に多岐にわたりますが、ビジネスパーソンが関わる代表的なコンプライアンスリスクは大きく分けて次の6つです。コンプライアンス違反を起こさないためにも、基本情報として覚えておきましょう。
- 「モノ」に関わるもの
物財サービスの取り引きに関するもの。独占禁止法、下請法、景表法違反など。 - 「カネ」に関わるもの
お金の取り引きに関するもの。横領(刑法)、金融商品取引法違反など。 - 「情報」に関わるもの
知的財産・情報資産に関するもの。著作権法、特許法、個人情報保護法違反など。 - 「ヒト」に関わるもの
労務に関するもの。労働基準法、労働組合法違反、各種ハラスメントなど。 - 「組織」に関わるもの
各社で定められた社内規定に関するもの。接待ルール、情報伝達ルール、決裁ルールなど。 - 「社会」に関わるもの
社会通念に関するもの。SNSによる情報発信など、一般的にモラルに反するとされる行為。
【実例あり】働く個人こそ要注意!こんなことも「コンプラ違反」になる!
普段の何気ない言動が、コンプライアンス違反になっていたというケースは非常に多いもの。たとえ悪気はなかったとしても、場合によっては社会を揺るがす問題になり、勤務先の経営にマイナスの影響を与えてしまうことも。
例えば、飲食店やオフィスのエレベーター内で顧客情報など社内限の会話をする、SNSメッセンジャーで機密情報をやり取りする、会社の備品を私物化する、などはコンプライアンス違反になり得ます。ついやってしまいがちな行動の中にも、大きなリスクがあるのです。
次に挙げるのは、ビジネスパーソンが実際に起こしたコンプライアンス違反の例です。どれも、ここまで大ごとになるとは思わず安易にやってしまったものの、大ごとになったケース。同じ轍を踏まないためにチェックしておきましょう。
出張先での何気ないSNS投稿

勤務時間中に観光したことも、社内規定上の問題になり得ますが、このケースの中で最も問題なのは、どんな企業と仕事をしようとしているのか、見る人が見ればわかってしまうという点。企画部の2人が、出張した場所が明確にわかる写真をSNSにアップするということは、その地域の企業と何らかの取引をしている(もしくはしようとしている)ことを言外に語っており、競合会社にとっては願ってもない情報です。場合によっては会社に大きな損害を与える可能性もあるのです。
SNSは気軽に投稿できるのが魅力ですが、だからこそ「うっかりミス」も多いのが特徴。不動産会社の社員が「芸能人の〇〇がこの物件を内見した」、ホテルのスタッフが「〇〇が昨日宿泊した」などと投稿する例もかつて散見されました。自分で投稿しなくても、家族にうっかり話したら、その家族が投稿してしまった…というケースもあります。「仕事に関することは投稿しない、部外者にも話さない」が鉄則です。
副業先での情報交換
このケースは、不正競争防止法の「営業秘密の漏洩」に当たる可能性があります。うっかり自社の機密情報を話してしまった場合は、刑事罰の対象になるかもしれません。
また通常、就業規則には秘密保持義務が書かれており、それに抵触する場合は懲戒解雇などの懲戒処分が下される可能性もあります。
ライバル会社からの副業の誘いに応じる人はいないと思いますが、このケースのように別の業種を装って近づき、機密情報を引き出そうとするケースもあります。会社のルールがある場合は、何をおいても「副業すること」と「その内容」を自社に届け出ること。そして、外部の人と仕事について話す際には、どこからが公開情報でどこからが社内限の情報なのか、しっかり区別して話すことが大切です。
自社商品・サービスを「盛って」伝える
このケースは、景品表示法に置ける不当表示と呼ばれる法令違反になり得ます。もし「店長に命令されたから」と言われるがままチラシを作成してしまっては、法令違反の当事者になってしまいます。このような状況に陥った場合は、店長のさらに上の上司や、社内の法務部門に問い合わせをするべきです。
ここまでのケースではなくとも、「営業担当者が自社商品の販促資料を独自に作る際に、性能をかなり盛って書いてしまった」「人事担当者が自社の求人広告を作る際に、実際には運用されていない人事制度を載せてしまった」などといった話は耳にします。場合によってはコンプライアンス違反になる可能性もありますので、いくら成果を挙げたくても盛り過ぎには注意が必要です。
転職先での、前職に関する情報共有
このように、転職時に前職の顧客情報や設計図、開発中の技術などを「おみやげ」に持っていこうとして問題になるケースは少なくありません。
転職先が望んでいなくても、「顧客リストがあれば新しい会社でも何かと使えるだろう」などと、自分の意志で安易に情報を持ち出す人もいますが、いずれにせよ不当競争防止法に抵触する重大なコンプラ違反。転職の際は情報を持ち出さない、転職先から求められても応じない、を徹底する必要があります。
うっかりコンプラ違反を起こさないためのポイント

コンプライアンス違反を起こさないためには、“自分の仕事に関する法律やルール”は四の五の言わずに覚えるしかありません。業界や職種ごとに必要なルールは明確にあります。これらについては、サボらずにしっかり覚えましょう。
仕事上関係しそうな法律やルールは、多くの場合、社内で配布されたりイントラネットに掲載されていたりするはず。迷ったり不安になったりしたら、その都度チェックしてコンプラ違反にならないか確認するといいでしょう。そのようなものがない場合は、上司に確認したり、法務担当者に確認したりして、なぜOKなのか、なぜNGなのかを学び、知識を積み上げていくことです。
一方“自分の仕事に直接関係しないルール”の場合、一般的に考えて「これはまずいかな」「ちょっと後ろめたいな」と思うことはいったん止めて、上司や法務担当者に問い合わせるというのも基本中の基本。これだけ世の中でコンプラ違反が指摘され、ネット炎上しているのですから、社会から袋叩きにされる前にしっかりと確認する習慣をつけましょう。
「コンプライアンスに真面目に対応していたら、やりたいことができなくなる」などという人がいますが、実は真逆。法律やルールをしっかり理解していれば、「これは法律的にもルール的にも、社会通念的にも問題ないから、チャレンジしてみよう」など、大胆にいろいろなことができるようになります。守りではなく攻めの姿勢を取るためにも、ぜひコンプライアンスを学んでみてください。
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