一緒に人生を歩んでいく。そう決めて結婚しはずなのに、子育てを機に働き方や暮らし方に関する考え方にすれ違いが生じ、関係にほころびができてしまうことも。その原因の一つは「対話不足」にあります。
「わたし」だけでなく「わたしたち」で人生を創っていくためにおすすめしたい、『夫婦会議』を提唱するLogista株式会社共同代表のお二人長廣百合子さん、長廣遥さんに、ジョカツチームリーダー中野裕子(プロフィールはこちら)が詳しくお話をうかがってきました。後編では、「妊娠〜産後・育児期」に話し合っておきたい具体的な項目についてお届けします。
【前編はこちら】夫婦の「対話」できていますか?産後クライシスを乗り越える対話術<前編>
プロフィール
Logista株式会社 共同代表CEO(妻)長廣百合子さん
九州産業大学商学部商学科卒業後、株式会社毎日コミュニケーションズ(現:株式会社マイナビ)にて採用コンサルティング業務に従事。退職後、福岡中小企業経営者協会にて、中期実践型インターンシップ「キャリアスクープ・プロジェクト」の立ち上げを担う。並行して個人事業者として「次世代リーダー発掘・育成」を使命とした研修事業を展開する。
プライベートでは2013年に結婚。その後すぐに妊娠・出産を経験する中で、「仕事と家庭の両立をめぐる夫婦の葛藤」に直面し続けた結果「世帯経営」という概念に辿り着き、2015年7月より、夫の長廣遥と共に起業。夫婦会議ツール「夫婦で産後をデザインする世帯経営ノート」の開発、「夫婦会議の始め方講座/体験講座」の開催、育児期の夫婦関係に特化した情報サイト「産後夫婦ナビ」の運営などを行う。
https://www.3522navi.com/start/
Logista株式会社 共同代表COO(夫)長廣遥さん
東京工業大学大学院環境理工学創造専攻を修了後、株式会社リクルート入社。東京・福岡・大分と移動し、営業、マネジメント、新規事業立ち上げに携わる中で、「農業の担い手不足」や、「規格外品の野菜の売り先不足」などの問題を解決したいと2009年に退職し大分県豊後大野市に移住。農業や加工場での実践などを経るもヘルニアになり断念。2010年福岡に移住し九州エリアの地域活性のコンサルティングを行う。
プライベートでは2012年に前妻と離婚。2013年に現在の妻と結婚し、翌年娘が生まれる中、人生のプライオリティが「世の中の課題を解決すること」(仕事)から、「一家団欒」(家庭)に変化する。しかし夫が働き方を変えることの難しさや「産後離婚」の危機を感じる中、妻だけでなく夫も含めた子育てしやすい世の中づくりが必要と考えるようになり、2015年7月に妻と起業。
時は解決してくれない。チリツモを放置せず対話しよう!
中野裕子(以下中野):前編では「夫婦会議(夫婦の対話)」の目的は、より良い未来、よりよい良い家庭環境を創っていくことにあるとうかがいました。これから子育てが始まる方には、産後クライシス予防という意味でも、ぜひ参考にしていただきたい内容でした。
長廣百合子さん(以下百合子):ありがとうございます。実際に子育てがはじまる辺りから、夫婦間の考え方や行動にすれ違いが生じるようになった、という人は少なくありません。たとえ一つひとつは小さなことだとしても、チリツモは馬鹿にできない。そこから、産後クライシス、セックスレスなどの「産後離婚に繋がる危機」や、産後うつや虐待などの「母子の命に関わる危機」に発展することもあるだけに、まずは自分や相手の「心の声」に向き合う勇気を持ってほしいなと思います。
長廣遥さん(以下遥):僕自身、子どもが生まれてしばらくは妻の不安や不満、「もっとこうしていきたい」という希望に向き合おうとしなかった。朝も早くに出かけて、夜は0時を回って帰宅するような働き方を続けている中で、話し合うための時間を捻出することすらまともにしていなくて。言えば喧嘩になる、余計にこじれるのが怖いという思いもあったんだと思います。でも、それじゃダメなんですよね。時は解決してくれない。相手の思いにも自分の本音にも向き合わず放置し続けた結果、前編でお話しした通り、一時は離婚の危機に陥るまでに信頼関係が崩壊しました。
一度は話し合っておきたい「夫婦会議」のテーマ
中野:おふたりともご自身が経験してこられているだけあって実感がこもっていますね。対話は本当に大切。でも、「話し合うべきことはたくさんあるはずなのに、何をどう話し合っていけば良いか分からない」という方もいると思うのですが…。
百合子:そうですね。普段の何気ない「会話」はあっても、大切なことを話し合って決めていく「対話」によるコミュニケーションには慣れていなかったり、不足を感じていたりする方が多いと感じます。そうした方には、産後の夫婦がすれ違い易いポイントに的を絞って設定した世帯経営領域「家事、子育て、仕事、お金、住まい、セックス、自由時間、美容と健康、人間関係」をテーマに、夫婦会議を行うことをご提案しています。
遥:ただ、ここで一つポイントがあって。いきなり各論から入るのではなく、まずは「ビジョン」の共有から始めてみてほしいんです。ビジョンとは、お互いのありたい姿や目指したい未来のこと。「1年後、5年後、10年後、どんな自分でいたいか?どんな夫婦でいたいか?どんな家族でいたいか?なぜ、そう思うのか?」少し先の未来を思い浮かべた上で話し合うと、結果がすごく違ってきます。
特に、目の前のやるべきことに集中するタイプの人、目標を一つ一つクリアしていく仕事の進め方に慣れている人には「ビジョン」を意識してほしいです。このままの働き方や暮らし方を続けていく中で、ありたい姿や目指したい未来に到達できるのか?積み重ねた一歩一歩の延長線上を見据えた時に、前向きに変化していこう!と踏み切れるようになると思います。
中野:なるほど!確かに、家事の分担がどうこうではなくて、人生に変化が起こったとき、困難があったとき、「ありたい姿・未来」を共有できていればいっしょに乗り越えていけそうですね!
百合子:ビジョンをはっきりと言語化できている人はそう多くは無いですし、もちろんライフイベントを機に変化することもありますが、自分の思いを自分自身で把握することはもちろん、夫婦間で定期的に共有しておくことで、すれ違いの多くは防げるようになるのかなと思います。人生を共に歩むと決めた者同士、最も共有しておきたいテーマと言って良いかもしれません。
中野:まずビジョンを共有して、各論に入る、ですね。ちなみに、おふたり自身はどんなテーマで夫婦会議を行っていますか?
遥:最近は「子育て」のことで夫婦会議を行うことが多いよね。
百合子:ほぼ毎晩、娘が寝静まった頃に夫婦会議をしていますね。4歳の娘の言動と、それに対するお互いの接し方を振り返りながら、一人の人間として尊重した子育てができるように日々修正を重ねている感じで。時間にして30分くらいだと思うけど、ふたりで子育てをしている実感に繋がっていると思います。
遥:あとは、上に挙げたテーマでひと通り夫婦会議はしてきていますが…産後1〜2年くらいは家事や仕事のことが主な夫婦会議のテーマになっていたんじゃないかな。
百合子:これは弊社で発行している夫婦会議ツール 夫婦で産後をデザインする「世帯経営ノート」の中にも記載している問いになりますが…
「家事」だったら
・あなたにとって「家事」とは何ですか?
・好きな家事、得意な家事は何ですか?
・嫌いな家事、苦手な家事は何ですか?
「仕事」だったら
・あなたにとって「仕事」とは何ですか?
・仕事を新たに始めるor変えるとしたら、どんな内容・働き方が良いですか?
・どちらかといえば「男は仕事、女は家庭」という考えですか?
・誰がどんな風にどの程度働くのが良さそうですか?
というような問いを元に、お互いの価値観を照らし合わせながら協力体制を見直してきたという感じですね。
遥:「家事」は、家族の生活を豊かにすること。家事というと料理、掃除、洗濯などが思い浮かぶ人が多いかもしれませんが、それだけじゃない。子育てが始まると家事の量は一気に増大する。それらをキッチリ分担するというよりは、お互いの「得意」「不得意」を共有したうえで自分たち夫婦が納得できる家事の協力体制を考えることが、ストレスの軽減や感謝の気持ちにもつながると考えています。
百合子:「仕事」に関しては、「今後こんな仕事でこんなポジションについて、これくらいの収入を得たい」というようなことばかりではなく、「もしも」を考えてみるのがオススメです。「もし、育休を取るなら」「もし、転勤の辞令が出たら」「もし、自分が明日から働けなくなったら」など、いろんなケースを想定しながら話し合うことで、新たな協力体制を築いていくことができます。また、「子どもや家族との時間を大切にしたい」という新たな価値観が芽生えるなど、子育てを機に働き方を変えたいと思う人もいらっしゃると思います。いずれにしても、子育て期の働き方は、個人の人生観だけでなく、家族のライフスタイル全てに関わる重要なテーマです。共働きかどうかに関係なく、「わが家にとって最適な働き方」を夫婦で模索していくことが大切だと思っています。
中野:ありがとうございます。他のテーマについても、お互いの価値観を照らし合わせながら夫婦会議を行えば、スムーズに進みそうですね。
百合子:そうですね。わたしたちが提案している夫婦会議は、
・理想を共有する
・理想の実現に向けてどうするかを考え行動する
の3つのステップで構成しており、それ自体はとてもシンプルなのですが、それぞれの段階において、お互いの価値観をどれだけ理解、尊重し合えるかが一つの鍵になってくると思っています。そのためにも言葉の「意味」を捉えることが大切。
遥:たとえば「お金」について夫婦会議を行う場合にも、投資用不動産を資産だと思う人もいれば、負債だと思う人もいますから。お互いに同じ言葉を発していたとしても、「意味」していることが違っているかもしれない。その点を意識しておくだけでも、ミスコミュニケーションが減り、前向きな対話を重ねていくことができるようになるはずです。
言いにくいことでも勇気を出して伝え合える関係づくりを
中野:ここまでお話をうかがってきて、パートナー選びの段階からしっかり考えて行く必要があるなと感じました。でも実際には、「結婚すればなんとかなる」と思っている女性が多いのかなと周囲を見ていて思います。
百合子:わぉ…それは、相手に対する信頼というよりも、依存がすごいですね。なんとかなるかもしれないし、なんとかならないかもしれない(笑)
中野:そうですね。実際はなんともならない。人生100年時代で、60歳くらいまでは子育てして働いていかなければならないので、夫婦で対等に協力しないとやっていけないのが実情ですね。そのときに、やっぱり言いにくいことでも、勇気を出して意見として言えることが大切なのかなと思います。
遥:以前、ある自治体の受託事業で「夫婦会議の始め方講座」を行った時に大学生の女の子が参加していて。「自分の意見を受け止めてくれる相手、相手の意見をしっかり聴ける自分という関係が大切だと思いました」という感想を残してくれたんですよ。
中野:それはすごいですね!
遥:家事をやってくれるとか、イクメンだとかということではなくて、いろいろな角度から話し合いをできる相手とだから結婚する。その信頼関係が大切だと思ったそうで。嬉しい気づきを得てくれました。
また、あるご夫婦が、産後しばらくの頃に大げんかをして「世帯経営ノート」を購入してくださったのですが、月に1回話し合う機会を持つようになっただけで、不毛な喧嘩が減ったと喜んでくれていました。なぜスムーズに関係が修復できたのか尋ねてみたところ、彼らには遠距離恋愛時代から、「話し合いで解決する習慣」があったんです。ただ、それが、子どもが生まれて以降まともにできていなかった。ご夫婦には「対話」を再開するキッカケこそ必要でしたが、「対話」ができる関係性はあったわけです。
大切なことを、大切な人と話せるのは幸せなこと
中野:結婚の前段階から、大切なことを話し合える関係づくりは始まっている。どんな小さなことでもいいから、「話し合って乗り越えてきた」という経験が、子どもを授かったときに、大きく効いてくるのですね。
百合子:そうですね。特に、わが子により良い家庭環境を創り出していこうと思った時に、夫婦間で話し合うべきことは山のように膨らみます。心身ともに疲労が蓄積しやすい出産前後の時期に、一気に話し合う必要はないですし、それ自体おすすめはしませんが、「時間がない」という理由で大切なことを話し合えないのは致命的だと思った方がいい。時間は創るものです。
中野:「離婚の危機」「生命の危機」が眼前にせまるような状況ですから。大切なことを話せない状況は、自分のことも、相手のことも、子どものことも守ることができないことにつながる。
百合子:大切なことと分かっていながらを話すことができないときには、「何かがおかしい」と気づいた方がいいですね。パートナーとの関係性以前に、自分への信頼に課題があるかもしれない。過去に何か思い切って本音を言ったときに付き合っている相手に振られたことがあるとか、自分の両親がよく言いたいことを言い合って喧嘩していたとか。
中野:価値観がぶつかることを恐れている?
遥:その可能性はありますよね。自分が生まれ育った環境、特にパートナーシップの在り方については、身近な両親の姿に影響される要素は大きいと思います。
百合子:そうだよね。だからこそ、生まれ育った家庭や周囲と、これからふたりで形づくっていく夫婦・家庭は別物ということを心に留めておく必要がある。「自分が子どもの頃、家ではこうだった」ということにこだわり続ける人には、「誰とこれから生きていくつもりなのか?」と問いたいです。大切な人に巡り合ったら、その存在を大切にしてほしい。大切な人と大切なことを話し合える関係は幸せなことだと思うから。
中野:自分が誰と生きていくのか、誰の価値観を尊重するのか。
夫婦での話し合いは、パートナーと向き合うようで、自分自身と向き合うということなのですね。
結婚、出産を機に、夫婦で対話を重ねることで、ますますひとりひとりが幸せな家庭と幸せな働き方を築いていけることを願っています。
参考図書
夫婦で産後をデザインする 世帯経営ノート
家庭も仕事も両方大切にしたい。もっと夫婦で協力し合えたら…。そんな夫婦の声を元に開発した書き込み式の「夫婦会議ツール」
https://www.3522navi.com/guide/archives/52
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