働く女性は、なぜ「管理職志向」を失うのか?――初期キャリアと女性管理職志向の関係を調査(後編)

2016年に発足したリクルートキャリア女性リーダー採用・活躍支援プロジェクト(RCAジョカツ部)が、この活動を通じて2018年の「今、働く女性のみなさんや取り巻く人たちにお伝えしたいこと」を、特集記事として連載します。

働く女性は、いつ、なぜ「出産のときが来たらこの会社を辞めよう」と決めているのか?「管理職になることをあきらめる」のか?何があれば女性社員は会社にい続けて成長するのか、女性社員は何を会社に求めているのか?

今回、『男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査』※を実施された独立行政法人国立女性教育会館 研究員島直子さんに、ジョカツ部リーダー中野裕子(プロフィールはこちら)が詳しくお話をうかがってきました。

プロフィール

独立行政法人国立女性教育会館 研究員 島 直子(しま なおこ)さん

上智大学大学院文学研究科社会学専攻博士後期課程修了。博士(社会学)。早稲田大学、お茶の水女子大学等で非常勤講師を務め、2011年〜2014年5月、首都大学東京ダイバーシティ推進室特任研究員。2014年より国立女性教育会館研究国際室研究員。

※『男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査』概要
男女共同参画社会の実現に向けた基盤整備のための調査研究として、初期キャリア形成期の女性および男性のキャリア意識を高める要因について、明らかにすることを目的とした調査。従来、女性のキャリア形成をめぐっては、主に「結婚・出産後の就業継続の難しさ」に焦点がおかれてきました。しかし近年、「初期キャリア期」の重要性が注目されています。そこで平成27年に民間企業の正規職についた男女を5年間追跡する「パネル調査」が実施されました。

前編では、入社3年目で過半数が「今の仕事を続けていけるか不安を感じている」!?初期キャリアと女性管理職志向の関係をお届けしました。(前編記事はこちら)

働く女性はいつ、どのタイミングで管理職志向を失うのか?

中野裕子(以下中野):ところで、女性活躍推進のテーマの一つである、「女性管理職登用」と、今回の調査から見えた「初期キャリア期の女性」との関係についてお聞かせいただけますか?

島直子さん(以下島):女性管理職や女性リーダーを育成するには、入社した早い段階から成長と経験を先取りさせる必要があるとリクルートワークス研究所の『提案 女性リーダーをめぐる日本企業の宿題』※でも指摘されています。

※https://www.works-i.com/pdf/r_000329.pdf

初期キャリア期の取り組みが注目されるのは、女性は20代後半から30代ごろになると、結婚・出産といったライフイベントによる制約が見られがちだからです。

中野:実際は、出産してからキャリアを築く方もいますし、40代で出産する方も、子どもを持たないことを選ぶ方もいらっしゃいますが、今の企業での勤務・任用の標準的な基準をみるなら、20代の初期に、「キャリアを鍛えておく」と、長い目で見たキャリア形成がしやすい、という傾向にあるということですよね。

:はい。あくまで若手社員に向けて女性活躍推進を対策するなら、という前提のお話ですね。

中野:管理職を視野に入れて社会人となった女性が、管理職を目指さなくなるタイミングと、その理由は何ですか?

:「男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査」を行ったところ、1年目は管理職を目指していたけれど、2年目に管理職志向を失う女性が2割という結果でした。

残りの4.5割の人は管理職志向ありのまま、3割は元々なしのまま、0.5割がなしからありになりました。(図6)

 

若手は何が要因で管理職志向を失うのか?

中野:たった1年で、入社時「管理職になりたい」と思っていたのに「目指したくない」に変わってしまう女性が2割ということなのですね。まだ、出産や育児に直面していない時期にも関わらず…。何が要因で管理職志向を失うのでしょうか?

:やはり「ワークライフバランス」です。これは女性だけでなく、男性も同じです。

今自分は育児に直面しているわけではないけれど、周りの先輩管理職を見て「将来の自分に就学前の子どもがいるようになったとき、融通の利かない職場だな」と感じたら、出産・育児などライフイベントが来る前でも管理職志向を失う傾向にあります。

中野:若手女性だけでなく、若手男性の活躍推進のためにも、長時間労働は見直されるべきということですね。

:はい。今回の調査で残業頻度に関しても調査したところ、1年目から2年目にかけて男女ともに残業頻度が大きく増加します。「早く仕事を覚えたい」と思い、積極的に残業を増やす「前向きな残業」もあるでしょうが、実は「業務が終わっても仕事をしている人がいると退社しにくい雰囲気がある」など、「付き合い残業」に縛られていると感じている若手が女性は3割、男性では4割いるのです。

中野:若手女性が働きにくい環境は、若手男性にとっても働きにくい。

:女性が活躍できるように環境を整えると、男性の活躍推進にもつながると言えますね。

就職や転職のときに注目したい、長く働ける会社の選び方

:就職時、女性の8割から9割は「女性が働きやすい会社か」という点を見ることがわかっています。ですが、男性はそこを見ていません。

女性が働きにくい環境というのは、裏を返すと男性しか活躍できない職場。極端に表現するなら、昭和的というか…研修はあまりなくて背中を見てついてこいとか、時間も労力も全て会社にささげるようにとか。そのような会社ではワークライフバランスが実現しにくいので、女性だけでなく男性の活躍推進にもプラスになりません。

中野:男性にとっても、就職時や転職時に会社選びをするときに、「女性が働きやすい会社か」という点に注目すると、長く活躍できる環境である可能性が高くなりそうですね。

若手社員の早期離転職について

中野:若手の早期離転職が注目されていますが、彼らはいつごろから転職を意識し始めるのでしょうか。

:「男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査」では、就職活動のときに重視した基準について尋ねています。その中のひとつ「独立や転職のチャンスが高いこと」を重視していた人の割合(「重視した」と「どちらかというと重視した」の合計)は、男女ともに2割程度でした。

中野:就職時には、さほど転職を重視していないということですね。

:ところが入社1年目から2年目にかけて、「機会があれば、別の会社に転職したい」という人(「そう思う」と「どちらかというとそう思う」の合計)は、約3割から約5割へ著しく増えています。

中野:人材業界では、入社3年目、5年目、7年目が初めて転職したくなる最初のタイミングと言われたりしますが、実際は、2年目で、「転職しようかな」と考えるわけですね。

:恵まれている環境のはずの大企業正社員の若手でも、そう思うわけです。長期的に働いてほしいと思って採用されているにも関わらず。

企業は、最初の1年目、2年目でしっかりキャリアの魅力を見せて繋ぎとめておかないと、一年一年、転職したい気持ちが増してしまう。

中野:1年目は新人研修で手厚くもてなされるけれど、2年目は現場で放っておかれる。お客様扱いからいきなり下っ端になって「しっかり育ててくれそうもないな」と感じ易いのかもしれないです…。

私の友人は、入社3年目に、10歳年上の先輩が自分と同じ仕事をしていると気づいて愕然としたと言っていましたね。例えば、技術系のように、スキルがひとつひとつ積み上がっていくタイプの仕事なら、成長を実感できるかもしれないですが、「この資料を作っておいて」とか、「会議室の準備をしておいて」とか…そんなサポート的な仕事ばかりだと成長は実感しにくいかもしれない。

ベンチャー企業に勤めた友人はもう大きな仕事を一人でやっているのに、まだ自分は上司のアシスタントだとか、「将来の仕事につながるかどうか」の意識の変化には、いろいろな職場環境要因が個別にありそうですね。

若手女性が管理職を目指さないのは現状に不満だからではない

:女性新入社員の管理職志向について、「管理職を目指さない」のは「現状に不満があるから」というより、「将来の見通しが見えないから」なこともわかりました。

中野:今、お給料が安いから不満、高いから満足、残業が多いから不満、少ないから満足、やりがいがないから…といった今の仕事への満足度に関わらず、管理職を目指す人は目指すし、目指さない人は目指さない。そのちがいは、「将来の見通し」があるかどうかなんですね。

:今の仕事に少々やりがいがなかったとしても、将来につながっていると示されることが重要。

中野:これから進む先を指し示した「未来志向」の期待と育成を求めているのですね。

男性と女性のキャリア、管理職への意識はまるでちがう

中野:若手の男性もこういった「見通しを示してくれる」職場環境を求めていますか?

:男性は、入社3年間の追跡調査でも8割が管理職志向を維持しています。男性は管理職を目指すのが当たり前だという意識のようなので、女性ほど「見通し」が示されなければ管理職を目指さないということではないようです。

中野:周りの女性を見ていて感じるのですが、女性は結婚して出産するまでの自分の姿、ライフは想像できているのだけど、その後、例えば「45歳くらいのわたしって何をしているんだろう?」というのが想像できないまま、入社しているようです。だから、先が見えないと迷うのだと思います。

そもそも、「わたしが管理職になりたいと言うなんて、先のこともわからないのに、わがままなのではないかな?」みたいな気持ちも潜在的にはあるのではないかと。だから、上司に「これがあなたの未来へつながる道です」と指し示してもらえると、自分にも管理職やリーダーになっていいのだ、ここで仕事をつづけていいのだと許可が出せるように思います。

:入社1年目から、男性と女性の管理職志向のちがいがこんなにもあるということが改めてわかりました。企業の人事担当の方からは、「女性社員が何を考えているかわからない」という声も聞きます。

中野:前のめりに、「自分はこれをやりたい」とくらいついてくる女性であれば、管理職側も関わりやすいかもしれません。だけど、あまり自分を主張しない女性をマネージメントしなければならない、と、なったときに、人事や職場の上司は、どうしていいかわからず戸惑ってしまう。下手をするとパワハラ、セクハラと言われてしまうかもしれない…。

すると、誰も若手女性社員に踏み込んであげないということになってしまう。そんなハレーションが起こっているのかなとも思います。相手の成長を思って指導をする姿勢は、相手にも伝わりますし、パワハラ、セクハラと取られない表現で適切に接することは、本当はできる…と思います。

中野:最後に、島さんから、若手女性社員へのメッセージをお願いできますか?

待っているだけではダメということでしょうか。頭の中で考えていても、上司や周りの人には伝わらないんです。もっと自分の将来の見通しを指し示してほしい、こんな風に働きたい、という希望を伝えた方がいいと思います。

中野:それは、勇気がいることですよね。

:今は、女性が企業で活躍するために制度がいろいろと整備されてきている時代です。手近なところに理想的なロールモデルがいないからと言って、すぐに「ロールモデルがいないからこの会社では管理職やリーダーになれない、将来につながらないらしく働けない」と判断して、転職を考えるのはもったいないとも思います。

自分の考えや希望を伝えれば、環境の方が変わるかもしれません。

中野:たしかに、勝手に諦める前に、まずは伝えてみるというのは、やり方としてありますね。会社も上司も、結婚するパートナーも「言わなくてもわかる」っていうことは少ないですものね。島さん、本日はありがとうございました。

 

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INTERVIEW:中野裕子 EDIT&WRITING:飯沼暢子

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