希望の部署に配属されず、「配属ガチャに外れた!」と感じている若手ビジネスパーソンは少なくないようです。
そもそも配属ガチャとは何を指すのでしょうか?そして、配属ガチャに外れたと感じてしまう理由や対応方法などについて、株式会社人材研究所代表で組織人事コンサルタントの曽和利光さんに解説いただきました。
目次
「配属ガチャ」とは?
配属ガチャとは、主に新卒入社の新入社員が希望の部署や職種に配属されるかどうかわからないことを指した言葉。その状態を、ランダムにカプセルトイが出てくる「ガチャポン」になぞらえ、「配属ガチャに外れた!」などと言われる機会が増えています。
配属をくじ引きみたいなものと捉えている人が多いことから、このような言葉が生まれたのだと思われますが、経営者や人事の視点から言えば、当然ながら配属をくじ引きのように 決めるはずがありません。せっかく採用した大切な人材の配属を、適当に割り当てて決める企業なんてまずありません。必ず正当な意図や背景があって配属先を決めていることを、まずは理解しましょう。
とはいえ、希望が通らず「配属ガチャに外れた」ように感じている人が多いのも事実。なぜ、そのように感じてしまうのか、詳しく解説します。
「配属ガチャに外れた」と感じてしまう理由とは?
企業の人事が新入社員の配属を決める際には、主に次の3つの要素をもとにしています。
(1)能力
主に配属先の現場が求めている要素です。新入社員を受け入れる際、事前に「こういう能力を持っている人に来てほしい」と人事にオーダーするケースが多いです。
(2)志向
配属される本人の「この仕事に就きたい」「こんな業務でやりがいを感じたい」などという、仕事やキャリアへの思いや意向を指します。
(3)性格
本人の性格、パーソナリティも重要な判断材料です。部署や職場の上司、先輩、同僚や文化との相性を見ながら、配属先が考えられています。
基本的には、この3つの要素をそれぞれ重視しながら配属先が決められていますが、ほかの人員とのバランスによって、3つのうちのいずれかの要素が強く働くことがあります。そして、「配属ガチャに外れた」と感じる場合の多くは、(2)の本人の志向よりも、(1)の能力や(3)の性格の要素が強く影響しているのではないかと推察されます。
働く個人の側からすれば、「明確にやりたい仕事を提示しているのだから、希望通りに配属してくれてもいいのでは?」と思うかもしれませんが、業績向上や適切な人員配置を考えた場合、「人材を求めている現場の意向」がどうしても強くなる傾向にあります。
決して本人の志向をおろそかにしているわけではないのですが、このような理由で志向の優先度がやや下がることで「配属ガチャに外れた」と感じてしまうことが考えられます。
「配属ガチャに外れた」と感じたときの対応法
前述のように、多くの企業が「能力」「志向」「性格」の3つの要素のバランスで配属を決めている以上、全ての人が志向通りの配属先に決まることはなく、「配属ガチャに外れた」と感じる人が出てきてしまうのは仕方のないことです。
しかし、たとえ能力と性格を重視したとしても、できるだけ本人の志向に近しい配属先を決めているはずであり、次のような方法で自身の姿勢や仕事の捉え方を変えることで、「配属ガチャに外れた感」を軽減することが可能です。
能力フィットや性格フィットに注目してみる
自分の志向に合わない配属で「配属ガチャに外れた」と感じているならば、その分、能力もしくは性格がフィットしている可能性が高いと考えられます。意識的に能力フィット、性格フィットに目を向けてみれば、思いのほか自分に合っていると気づくことができ、「今いる場所で頑張ってみよう」と思えるかもしれません。
前向きに今の業務に取り組んでみれば、自身の能力や持ち味が発揮できて成果を上げられるようになったり、性格が合う上司や仲間に囲まれてストレスなくイキイキ働けたりして、仕事へのモチベーションも高まることが予想されます。
「オープンマインド」を意識する
スタンフォード大学のクランボルツ教授は、自身の「計画的偶発性理論」において、「個人のキャリアの8割は偶然の出来事によって決定される」と述べています。また、「やりたい仕事に固執するよりも、むしろ判断を保留してオープンマインドであるべきだ」とも主張しています。
つまり、自分の志向やキャリアはこれだ!と決めつけすぎず、オープンマインドでいることで偶然のチャンスを取り入れることができ、ステップアップもしやすくなる、と言うことができます。
キャリア教育の一環として「将来ありたい姿」を考え、それを実現するために行動を設計する「キャリアデザイン」の考え方が浸透しつつありますが、キャリアをデザインし過ぎると、それ以外のキャリアを受け入れにくくなり、「配属ガチャに外れた感」を感じやすくなってしまいます。
キャリアにおいては、実はキャリアデザインだけでなく「キャリアドラフト(=漂流)」が大事と言われています。デザインとドラフトを繰り返し、ときには波にのまれ、流されながら試行錯誤することで、やりたいことが明確になり、後のキャリアの軸となる専門性を確立しやすくなります。
したがって、「この部署に来たのも何かの縁」と前向きに捉え、目の前の業務にオープンマインドで臨むことで、キャリアが開けるだけでなく配属ガチャに外れたという失望感も軽減されると思われます。
ジョブ・クラフティングの考え方を取り入れる
仕事のやりがいや満足度を高めるために、自身の働き方を工夫する「ジョブ・クラフティング」という概念があります。
この概念に則り、今の仕事の中で「志向に近しい業務」に注力して、将来に備えるという手があります。
例えば、マーケティング部門に行きたかったのに人事部門に配属され「配属ガチャに外れた」と思っているならば、人事の中でマーケティングに関する仕事を見つけ、積極的に関わるようにするといいでしょう。採用業務ひとつとっても、同業他社の採用動向をリサーチしたり、効率的に採用候補者を集めるための手法を考えたりするには、マーケティングの視点が重要です。
人事以外でも、たとえば営業部門に配属されたとしても、自信が担当する商品群やエリアなどの市場動向を探ったり、顧客のニーズを測ったりするためのマーケティングは必要不可欠です。
希望していなかった部署に配属されたとしても、そういう業務に注力して力をつければ、将来異動を希望する際の武器になるでしょう。もちろん、現在の部署でも大きな武器になるため、より高い成果を挙げられるようになり、今の仕事がどんどん楽しくなるかもしれません。
配属ガチャに外れたと感じた理由が「上司」の場合はどうすればいい?
前述のように、配属ガチャに外れたと感じる大きな要因は「志向のズレ」ですが、配属先の上司と性格面が合わず「配属ガチャに外れた」と感じる人も一定数いるようです。
配属を決める3つの要素は、能力→志向→性格の順で重視される傾向があります。
配属を決める際には、現場のニーズが重要視されるためまずは能力フィットで考え、次に本人の志向が考慮されるため、性格の相性は最後になることが多いようです。
本来は、性格フィットは本人のパフォーマンスを大きく左右する重要な要素なのですが、企業によっては性格の要素を後回しにした結果、あまり重視しないまま配属を決めてしまうケースもあるため、「上司と合わない」は比較的起こりやすい事象と言えます。
上司の行動を観察し、性格を理解する
人間関係のストレスは、相手への誤解から生まれるケースが少なくありません。例えば、「上司が自分にだけ厳しい」と感じていても、上司からすれば「期待しているからこそ、敢えて厳しい言葉でやる気を高めようとしている」という可能性もあります。
この場合、「知るは愛に通じる」と言うように、相手の性格や行動、考え方などを知ることで「嫌な気持ち」をコントロールしやすくなります。例えば、「あの上司は嫌なことばかり言うけれど、もともと物事をズバリと言う性格のせいであって悪気はないんだな」とわかれば、あまり腹が立たなくなり、ストレスを感じにくくなるでしょう。
手っ取り早い「相手を知る」方法は、上司に近しい立場の人に話を聞くことです。例えば、上司の右腕的な立場の先輩に、「もっとうまくコミュニケーションを取りたいので、〇〇さんについて教えていただけないでしょうか?」「上司の要望や期待に的確に応えられるようになるために、○○さんについて深く知りたいんです」などとお願いすれば、気持ちよく教えてくれるでしょう。
もしくは、上司の行動を観察するのも有効です。どんなときにどんな行動を取り、どんな発言をしているのか、つぶさに観察することで上司の性格や特徴がつかめるようになり、攻略法も見えてくると思います。
上司に対して徹底的に自己開示する
相手を理解するだけでなく、「自己開示して自分を理解してもらう」ことも有効です。
例えばですが、「上司の言い方がきつくてストレスが強く、配属ガチャに外れたと感じている」場合、もしかしたら上司はあなたのことを「成長意欲が強く、多少きつい言い方をしたほうが奮起して頑張れるタイプだ」と誤解しているのかもしれません。
この場合、「私はこういう性格であり、タイプです」と徹底的に自己開示することで、相互理解が進み、コミュニケーションが円滑になる可能性が高まります。
例えば「自分はあまり効率よく仕事を進められるタイプではないが、その分丁寧さと正確性は重視している」とか、「現段階ではすべてを任されるよりも、具体的に指示を出してもらったほうが行動しやすく、学びも多いのでありがたい」など、仕事の姿勢やスタンス、得意・不得意などをさらけ出せば、「今まで誤解していたかも。これからはもっとこのように接しよう」などと相手の反応も変わってくるでしょう。今よりストレスなく、コミュニケーションを取れるようになるかもしれません。
それでも現状が受け入れられない場合はどうすればいい?
これらのことを試してみても、どうしても現状を受け入れられず「配属ガチャに外れた」感が強い場合は、希望の部署を目指して転職するのも一つの方法です。ただ、同じようなことはどの会社でも起こり得るので、心理的には「配属ガチャに再びトライするようなもの」と捉えておいたほうがいいと思います。
転職で希望の部署、業務に就ける確度を上げたいならば、未経験者にも門戸を開いている企業の求人を選び、採用選考時に「この部署、この業務に配属されなければ入社しない」など入社条件を明確に示すという方法がありますが、未経験者の希望をどこまで汲んでくれるかは未知数です。
したがって、基本的には社内に留まったままで対処法を考えたほうがいいと思いますが、すぐ異動願いを出しても希望が通る可能性は低いでしょう。「配属された部署が合わないから、○○部に異動したい」と言われても、受け入れる側は抵抗感を覚えるはずだからです。
どうしても異動を叶えたいのであれば、逆説的ではありますが、「今の部署で圧倒的な成果を出す」のが一番の近道。そのうえで、満を持して異動願いを出しましょう。
希望する部署の責任者が「○○部であそこまで高い成果を上げている人がうちの部に来たいのであれば、受け入れなければ損だな」と思えるぐらい、人事部門が「こんな優秀な人材に転職されたら困るから異動希望を聞き入れよう。新しい部署でもすぐ活躍してくれるだろう」と考えるぐらい、活躍することです。
自分では「合わない」と思っている部署で、成果を挙げるべく頑張り続けることになるので、定期的にメンターに話を聞いてもらうなどメンタル面のケアは必要かと思いますが、徐々に仕事のコツを覚え、ストレスなく業務が進められるようになるかもしれません。そして、努力する過程でもしかしたら、今の仕事が「自分の志向に合った仕事」に変化する可能性もあります。
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株式会社人材研究所・代表取締役社長 曽和利光氏
1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)など著書多数。新刊『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』(WAVE出版⇒)、『シン報連相~一流企業で学んだ、地味だけど世界一簡単な「人を動かす力」』(クロスメディア・パブリッシング⇒)も話題に。