「やる気が出ない」「何もしたくない」ときはどうする?精神科医が教えるカンタン対処法

仕事や勉強、付き合い、自分の身の回りのことなど、やらなければならないことがあるのにどうしてもやる気が出ない…ということはありませんか?なかなかやる気が出ないとき、自分を責めてしまう人もいるようですが、「やる気が出ない」は誰にでも起こり得ます。原因は何なのか、どのように対応すればいいのか、精神科医の樺沢紫苑(かばさわ しおん)さんに伺いました。

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やる気が出ないのは「脳が疲れている」から

仕事のプレッシャーや人間関係のストレス、プライベートの付き合い、健康に対する漠然とした不安など、さまざまな問題からなかなかやる気が起きない、モチベーションが上がらないと感じたことがある人は多いことでしょう。そんな自分を責めて、無理して頑張ろうとしていませんか?

そもそも、やる気とは何か。科学的に言うと、脳内物質のセロトニンやドーパミンによってもたらされるものであり、これらが足りない、もしくは十分に作られないとやる気は起きません。

セロトニンは思考の切り替えを司る脳内物質で、脳の指揮者とも言われています。このセロトニンが不足していると、つい不安なことを考えてしまったり、失敗したことをくよくよ考えてしまったりします。ドーパミンは意欲や集中力、思考や記憶などに関与する脳内物質です。どちらも前向きに進んでものごとを成し遂げようとするときに大切な物質と言えます。

セロトニンが整うとドーパミンなど他の脳内物質も整い、感情がコントロールされます。これらが活性化していることで、意欲的になれたり集中力がアップしたりします。逆に言えば、やる気が起きない一番の原因は「脳疲労」。いわば脳がお疲れモードで、セロトニンやドーパミンが足りない状態になっているからなのです。

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やる気が出ないときは無理をしても意味がない

前述のように、やる気が出ないのは脳疲労のせいなので、根本原因を解消しないまま無理に頑張ろうとしても、いい結果は得られません。

無理をしたところで、余計に疲れてさらにパフォーマンスが下がってしまったり、「自分はなんてだめなんだ」と罪悪感に苛まれて余計にやる気が出なくなったりする…という悪循環に陥る可能性もあります。

例えば、仕事でやる気が出ないならば、集中力を要さないルーティンワークに振り切るとか、いっそ休みに充て、明日以降の調子がいい日に頑張ると決めたほうが効率的です。仕事でもプライベートでも、「やる気が出ないけれど、気合いで何とかする!」という昭和的な頑張り方は、意味がないと心得ましょう。

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やる気が出ない主な原因「脳疲労」の解消法

「やる気が出ない」状態の主な原因は脳疲労です。この脳疲労を改善し、セロトニンやドーパミンを活性化させるためにお勧めしたいのは、「睡眠」「運動」「朝散歩」、そして「リラックスできる環境作り」の4つです。

実際に多くの患者さんに接してきた経験からも、世の中の悩みの9割は睡眠と運動で解決すると確信しています。それでは4つの脳疲労解消法について、それぞれ説明していきましょう。

解消法1:睡眠を取る

最も大切なのが睡眠です。睡眠不足は脳の働きを落とすだけでなく、セロトニンやドーパミンにも悪影響を及ぼします。米国ペンシルベニア大学の研究によると「睡眠時間6時間以下が2週間続くと、集中力は低下し、『徹夜明け』と同じパフォーマンスになる」としています(※1)。

しかし、40歳以下の働き盛りのビジネスパーソンの4割近くが、6時間以下の睡眠しか取っていないと言われています(※2)。ということは、仕事で言えば多くの人が毎日徹夜明けの低い集中力で働いているのです。やる気が出ないのは当然ですし、パフォーマンスも上がりません。

集中力が上がらないから仕事でもミスをしやすくなってしまう。ミスが増えれば上司から叱責され、自己肯定感が下がり、さらにパフォーマンスが落ちるなど、負のスパイラルに陥りかねません。無理をしていれば、プライベートで何かに臨もうとしてもうまくいかず、ますます落ち込んでしまうでしょう。

こうした日常のマイナス要素を解消したければ、まずはきちんと寝ること。つまり、質のいい睡眠を取ることでセロトニンが活性し、「やる気が起きない」問題も改善されるのです。
(※1)出典:「The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation」
(※2)出典:令和4年 国民健康・栄養調査結果の概要

解消法2:適度に体を動かす

2つめに重要なのは、運動です。やる気の源であるドーパミンは、活動することで出るものです。10分ほど歩くだけでもドーパミンは出ますが、できれば1日20分の早歩きに加えて、45分程度の軽く汗をかくぐらいの運動を週に2~3回行うことがお勧めです。

逆に、座り続けているだけではドーパミンが出ません。脳の働きは低下するだけですから、1時間以上座っていると、やる気が減退するのは当然なのです。

やる気が出ないときは、10分か15分の散歩をするだけでも違ってきます。外出しにくいときは、立ち上がったりストレッチをしたりして、体を動かしましょう。

仕事の場合は、立ったまま行うのも一つの方法。以前、スタンディングデスクが流行りましたが、脳科学的には理に適っていると言えます。

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解消法3:朝散歩する、出勤時に早歩きをしてみる

3つめが朝散歩です。朝に散歩をするとセロトニンが活性化します。セロトニンを活性化させる行動には「太陽の光を浴びる」「リズム運動」「咀嚼」などがあります。ですから朝起きてから1時間以内に、太陽の光を浴びながら5分から15分ぐらい散歩するだけで、気分、意欲、覚醒、集中力などに関わるセロトニン活性化のスイッチが入ります。

散歩が難しい場合は、朝の通勤時に軽快な速足で、光を浴びながら歩くことで代用になります。そのとき、スマホを見ながら前かがみで、ダラダラ歩いても効果がありません。セロトニンは姿勢を司る脳内物質ですから、姿勢よく歩くことで、より活性化するのです。

朝散歩にはセロトニンの活性化だけでなく、体内時計をリセットする効果もあります。体内時計がずれていると、朝になってもボーッとした状態で、パフォーマンスが上がりません。体内時計をリセットすることで、日中はバリバリ仕事をして、夜はリラックスする、規則的でメリハリのある1日を過ごすことができます。

 解消法4:リラックスできる環境を作る

睡眠、運動、朝散歩の3つに加えて、もう1つ大切にしてほしいのが「リラックスすること」です。風呂に入ってのんびりするなど、リラックスすると脳は休まります。一方、心配や不安があると、脳は緊張状態になります。そして緊張が持続すると脳疲労を起こしやすくなるのです。

ですから、例えばインターネットのネガティブなニュースやSNS投稿などを追いかけて見ていると、脳は緊張状態になり、休まらないということを覚えておいてください。

ゲームや長時間のドラマ視聴などは、興奮物質を分泌させる、いわば興奮系の娯楽で、脳を疲労させてしまいます。ゲームやドラマなどつい夢中になってしまうような娯楽は、1日2時間ほどにとどめ、寝る直前は避けて入眠できるようにしましょう。

また、飲酒や喫煙は深い睡眠の妨げになります。お酒を飲むとストレス発散になると言われますが、毎日の飲酒は肝臓だけでなく、脳の働きを悪化させます。健康的な飲み方・飲酒量を心がけ、週2回以上のお酒を飲まない日をつくりましょう。

やる気が出なくてもやらなければならないことは「朝一番に」やる

朝、起床した後の2~3時間はセロトニンが活性化しており、最も集中力が高まり作業が捗る「脳のゴールデンタイム」です。
「やる気が出ないけれど、どうしてもやらなければならないことがある」という場合は、この時間を使って集中的に臨みましょう。

「やる気が出ないのに、朝早くから頑張るなんて無理」と思った人は、睡眠の時間や質が不十分なのです。生活習慣を見直して質のいい睡眠を取り、朝のゴールデンタイムを有効に活用しましょう。仕事でもプライベートでもパフォーマンスがグンと上がるはずです。

やる気が出ないときは「ポジティブな口ぐせ」で脳を活性化する

やる気を出すには、「自分への声掛け」を行うのも効果的です。ポジティブな口ぐせを意識的に声に出すと、ドーパミンなどの活性化物質が出て脳のパフォーマンスが上がります。

しかし、多くの人はやる気が出ないときに、「もうだめだ」「もうできない」「面倒くさい」などネガティブな言葉を口にしがちです。ネガティブな口ぐせを発すると、脳が努力することをやめてしまい、ますますやる気が出なくなってしまうので要注意。まずはこれらの言葉を口に出さないことを意識しましょう。

そのうえで、次のような口ぐせをうまく活用することをオススメします。
声に出して言うだけなので何の労力もかからないのに、やる気がでない状態への効果は絶大です。

「○分後に○○をやろう」

なかなかやる気が出ず、初めの一歩が踏み出せないときは、「○分後にやろう」と口に出してみてください。
人は口に出したことを実行しないと違和感を覚え、「認知的不協和」という心理状態になります。一度口に出したことは取り消しにくいというのが人間の心のクセ。仕事を始めるにしても、家事に取り掛かるにしても、この「○分後にやろう」をうまく活用するといいでしょう。

私は朝が苦手なので、よく布団の中で「1分後に起きる!」と口に出します。そうすると、不思議と1分後に起きようと思えるのです。ぜひ皆さんも試してみてください。

「まっ、いいか!」

過去の失敗やトラブルに捉われて、やる気が出ないというときもあるでしょう。しかし、すでに起きてしまったことを引きずっても、仕方がありません。そんなとき、「まっ、いいか!」と口に出すことで、「うまくいかなくてもいいか、そんなときもあるさ」と気持ちを切り替えられるようになります。

「なんとかなるさ」

仕事がうまくいかない、家事が終わらない…など、何かをやっているときにやる気が出なくなってしまったときにオススメしたいのがこの口ぐせです。

「もうだめだ」「もう間にあわない」などと言いたくなる気持ちをぐっと抑え、「なんとかなるさ!」と声に出してみてください。それにより、脳が「なんとかする」ためにフル回転し始めます。問題解決の糸口が見つかったり、パフォーマンスがぐんと上がったりするでしょう。

「頑張らなきゃ」は逆効果、「やる気が出るときにやる」と割り切ろう

「頑張っても給料が上がるわけではないと思うとやる気が出ない」「評価されにくい部署でモチベーションが上がらない」「部屋を片付けなければならないのに重い腰が上がらない」「友人との人間関係がこじれて辛い」など、私は精神科医としてさまざまな悩みと向き合ってきました。

仕事や職場、プライベートの人間関係などを突然変えることは難しいでしょう。個々の悩みの原因を除去することはできなくても、脳疲労を改善すれば、不安や心配などのネガティブ思考を防ぐことにつながります。

疲れていても、目の前に「やらねばならないこと」があると「無理をしてでも頑張らなきゃ」と思ってしまいがちですが、そこで無理をするといっそう脳が疲れてやる気は出てきません。疲れたときこそきちんと寝ること、忙しいときこそ気分転換に体を動かすこと。そして、出勤を有意義な朝散歩の時間と考えて、軽快に歩くことを心がけてみてください。

樺沢紫苑(かばさわ しおん)氏

精神科医、作家、映画評論家 樺沢紫苑(かばさわ しおん)氏

1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。札幌医大神経精神医学講座に入局。大学病院、総合病院、単科精神病院など北海道内の8病院に勤務する。2004年から米国シカゴのイリノイ大学にてうつ病、自殺について研究。帰国後、東京にて樺沢心理学研究所を設立。 精神医学の知識、情報の普及によるメンタル疾患の予防を目的に、YouTube、Facebook、メールマガジン、Twitterなどを通じて累計約80万人に、精神医学、心理学、脳科学の知識、情報をわかりやすく発信している。著書に『アウトプット大全』(サンクチュアリ出版)など50冊。近著に『19歳までに手に入れる7つの武器』(幻冬舎)がある。

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