仕事を辞めたいと思っているけれど、勤務先になかなか言い出しづらい…と悩むビジネスパーソンは少なくないようです。「辞めたいのに言い出しづらい」と感じるのはなぜなのか、どのように気持ちを切り替えれば「辞める」と伝えられるようになるのか、人事・採用コンサルタントの曽和利光さんに伺いました。

「辞めたいけれど言いづらい」と感じる理由とは?
「辞めたいけれど、それを今の職場に言い出しづらいと感じ、モヤモヤしてしまう」理由は、大きく次の2つにわけることができます。
勤務先にネガティブな退職理由を伝えることに躊躇してしまう
言いづらいと感じる理由として「上司に引き留められそう」「プロジェクトメンバーに迷惑をかけることになる」などを挙げる人が多いと思いますが、その奥にあるのはいずれも「なるべくなら相手にネガティブなことを言いたくない」という思い。「辞めたいけど言いづらい」の大半は、これが本当の理由です。
そもそも日本人は、ネガティブなフィードバックが苦手な国民性でもあります。たとえ正当な理由があったとしても、言い出しにくいと悩んでしまう人が多いのです。
「辞めたい」と思っているということは、「現職が自身の理想や夢、目標と合致しないと感じている」ということです。ただ一方で、ほとんどの人は「現職にはいいところが何もない。0点である」とまでは思っていないはず。例えば、「仕事内容は自分に合わないけれど、アットホームな社風は好き」「会社の方針には共感できないけれど、面倒見がよく優しい人が多い」など、何らかのいいところも感じていると思います。
そんな「いいところもある」会社に対し、辞めるというネガティブな通告をしなければならないことに、心理的な抵抗感を覚えてしまう。これが一番の要因だと思われます。
「辞めたい」という気持ちが強く、退職理由が整理できていない
もう1つは、上記の理由とは真逆。「とにかく辞めたい」という気持ちが先に立ち、正当な退職理由が見いだせないという理由で「言い出しづらい」と感じている人も一定数存在します。ただ、実際はこの感情に気づいている人はほとんどいません。
人間は、何か不都合なことがあると自己正当化しようとする生き物なので、「辞める正当な理由がないにもかかわらず、辞めようとしている自分を認めたくない」という心理が働きます。その結果、無意識下で「正当な理由がない」ことを「言い出しづらい」という感情に置き換えてしまうケースは少なからずあります。
「辞めたいけれど言いづらい」という思いにどう対応すればいい?
辞めたい気持ちにじっくり向き合うことで、「言いづらい」という不安や迷いの感情を軽減することが可能です。その過程で、勤務先に納得してもらえるような「正当な退職理由」も整理することができます。
勤務先のいいところ・欠けていると思うところを整理して「知性化」する

どんなシーンであっても、相手にネガティブなことを伝えなければいけないときは、「いい情報を伝えたうえで、悪い情報を切り出す」のが基本です。
退職を切り出す場合も同様。まずは現職のいいところを整理して伝えたうえで、「でもこういう点が自分の目標とずれている」「このまま居続けてもやりたいことが叶えられない」などと退職理由を切り出せば、聞き手もネガティブな感情を抱きにくく、「辞めるのも仕方ないか」と納得してもらいやすくなります。
そのためにはまず、自身の気持ちを整理し、「辞めたいのに言い出せない」というモヤモヤした思いをクリアにすることが重要です。
お勧めしたいのは、「現職のいいところを書き出してみる」こと。たとえ現職に対するネガティブな気持ちのほうが断然勝っていたとしても、いいと思える部分を頑張って洗い出してみましょう。
会社の方針、社風や文化、仕事内容、上司や同僚、キャリアパス…など、さまざまな要素に目を向け、いいと思える点を書き出す過程で、現職のいい点に気づくだけでなく「自分にとって欠けている部分」もより鮮明化されるでしょう。例えば、「既存事業に自信を持ちさらに伸ばそうとする姿勢はいいけれど、新しい事業へのチャレンジが足りないと感じる」「スケールの感ある仕事に携われるのは魅力だけれど、全体を俯瞰できる立場で裁量権を持って働けるポジションが少ない」など。その欠けている部分、足りない部分こそが、あなたの「正当な退職理由」です。
このように、自身の思いを明確化する工程のことを「知性化」といいます。知性化することで、辞める正当な理由が整理され、より理屈に沿って理性的に伝えられるようにもなります。モヤモヤした気持ちを落ち着かせる効果もあるため、「辞めたい」とズバリ切り出す原動力にもなると思います。
思いが「知性化」できない場合は、現職にとどまったほうがいい
前述のように、自身の感情を知性化する過程では、多くの場合は自身の思いが明確になり、正当な退職理由が整理されるようになります。しかし、中にはどうしても思いが整理できず、納得できる理由もまとまらずに、途中で思考が破綻してしまう人もいます。
これは「辞めたいという気持ちが強く、退職理由が整理できていない」人に見られる傾向ですが、思いが整理できず破綻してしまうということは、おそらくまだ機が熟していないのだと思われます。一時のネガティブな感情で辞めたとしても、退職理由が明確でなければどんな会社に応募していいのかわからず、転職先も見つけにくいでしょう。現職でもう少し頑張りながら、思いが整理できるようになるのを待つのが賢明と思われます。
「辞めたい」気持ちにとことん向き合うことで、後悔のないキャリアが歩める

「辞めたいけれど、言いづらい」と悩んだ結果、そのまま現職にズルズル居続けるというのも、一つのキャリアの選択だとは思います。ただ、辞めたいと思った時点でその理由にしっかり向き合い、自分で「(言い出しづらいから)この会社にいるのだ」と決断する過程を踏まないと、将来的に「本当は別の道があったはずなのに、会社のせいであの時辞めると言い出せなかった」などと理不尽に恨みの気持ちを抱くことになりかねません。選んだのは自分なのに他者のせいにして、残りの職業人生を後悔と恨みの感情で生きていくのは、相当しんどいと思います。
自分の思いに向き合い、整理して、自分で決断し選んだ道であれば、どんな結果が待っていようと「自分で選んだのだから」という納得感があるはず。少なくとも他者を恨み、後悔し続けるような不毛な人生を歩むことはないでしょう。
「辞めたいけれど言い出せない」と感じたことをいいきっかけと捉え、自分の思いと向き合い知性化してみてください。きっと自分が今、選択すべき道が見えてくると思います。
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曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)など著書多数。最新刊『人材の適切な見極めと獲得を成功させる採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)も話題に。