「Z世代」と呼ばれる新しい世代について、ネット記事やSNSで言及されることは珍しくありません。そもそも、Z世代とはどのような世代なのでしょうか。「彼らの特徴や価値観を理解して、仕事や職場での人間関係に役立てたい」という声も聞かれます。本記事では、若者研究の第一人者であり、Z世代を流行語にしたマーケティングアナリスト・原田曜平さんに話を伺いました。


1977年、東京生まれ。慶應大学商学部卒。株式会社博報堂に勤務後、マーケティングアナリストとして国内外の若者研究、マーケティングに従事。「さとり世代」「マイルドヤンキー」「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。主な著書に『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『アフターコロナのニュービジネス大全 新しい生活様式×世界15カ国の先進事例』(ディズカバー21)など。2022年、芝浦工業大学の教授に就任。
Twitter@YoheiHarada
Z世代とは
Z世代についての明確な定義はありませんが、現在の年齢でいうと10代前半から25、26歳ぐらいまでが「Z世代」に該当します。
もともとはアメリカの世代論から生まれた呼び方で、最初に「ジェネレーションX(X世代)」がありました。
その流れで、次の世代が「Y世代」「Z世代」と呼ばれるようになったわけです。アルファベットはZで終わりなので、Z世代の次は「α(アルファ)世代」と呼ばれています。
諸説ありますが、各世代の生まれた概ねの時期は以下の通りです。
Y世代:1980年代序盤~1990年代中盤(または2000年代序盤)までに誕生
Z世代:1990年代中盤(または2000年代序盤)~2010年ごろまでに誕生
α世代:2010年代序盤(もしくは中盤)~2020年代中盤(もしくは終盤)に誕生
Z世代の特徴
日本を含む世界の先進国におけるZ世代は、経済低成長の成熟した時代に育っています。そんな彼らの特徴を表すキーワードは、「チル(Chill:まったり)」&「ミー(Me:自己承認欲求、発信欲求)」です。
働き方改革が進み、勤務先はワークライフバランスが整いつつあるという事情も重なり、自分時間を大切にしてほどよく無難に生きること、マイペース重視で居心地よく過ごすこと、つまり「チル(まったり)」を好むのが大きな特徴です。
また、彼らは「スマホ第一世代」であり、学生時代からスマホを使ってSNSや動画共有サービスに親しんできたスマホネイティブ(SNSネイティブ)とも呼ばれています。ですから、SNSで情報を発信し、「いいね」をもらいたいという発信欲求や自己承認欲求が強く、「ミー」という自意識が高いことも特徴です。
Y世代(ミレニアル世代)とZ世代の違い
Z世代の1つ上、Y世代との違いもみてみましょう。
Y世代はミレニアム(新千年紀)が到来した2000年前後(かそれ以降)に社会に出たことから、「ミレニアル世代」とも呼ばれています。
Z世代の特徴が世界的に類似しているのに対し、Y世代には日本特有の特徴がみられます。
まずは、時代背景です。
日本のY世代は、人生の大半を「失われた20年(1990年代初頭のバブル崩壊後から日本の経済成長が停滞した約20年間)」の間に過ごし、暗いニュースに囲まれて育ってきました。
それから、なじみのデバイスツール。
Y世代も学生時代に携帯電話を持ち始めましたが、当時はまだガラケー。それは主に自分が知っている友達とメールでつながる“内向きな利用”でした。Z世代がいま楽しんでいるような、知らない人ともSNSでつながる“外向きな利用”とはかなり異なっています。
Z世代が注目される理由
欧米では、Z世代の人口ボリュームがほかの世代よりも多いことから注目されていますが、日本におけるZ世代の人口ボリュームは少ないという事情もあり、注目される理由がやや異なります。
情報の拡散役
日本でZ世代が注目される最大の要因は、ほかの世代に比べてSNSを利用している人口が多いことです。
そのため、企業が自社商品をPRするなら、Z世代を経由してSNSで広めていくことが効果的だと考えられています。
Z世代は、ほかの世代への情報の拡散役(媒介者)として、影響力を持っているのです。
消費の主役
Z世代は社会人として働いていても、まだ収入が少ないため、消費の少ない世代だといえます。
現状で消費が活発なのはシニア層ですが、10年後、20年後にはZ世代が消費の主役になっていくことは間違いないでしょう。
とはいえ、高級品はフリマアプリで安く手に入れる、ということが珍しくない世代です。
いわゆるバブル世代(X世代の一部)のようにブランド志向で高額商品を欲しがるのではなく、低価格でも、例えばスマホで写真を撮ったときに見栄えがするか、あるいは話題性があるかという観点で商品を選ぶような消費者になると考えられます。
貴重な労働力
少子化で労働人口が減少している日本においては、もちろん貴重な労働力としても注目されています。
企業にとって人材確保も重要な戦略の1つですから、自社の魅力を記事やSNSで発信し、Z世代に認知してもらうことは喫緊の課題となっています。
Z世代が持つ価値観
Z世代の価値観は、先に特徴として挙げた「チル」&「ミー」に集約されていると言っていいでしょう。
Z世代は、『鬼滅の刃』の鬼にも同情する主人公の竈門炭治郎に共感したり、相手を否定しない突っ込みで人気のお笑いコンビ・ぺこぱのような“やさしいもの”を好む傾向にあります。
これがチルに通じる価値観です。
また、昨今のZ世代は写真映えよりも“動画映え”に価値を感じるようです。
例えば、近年の韓流ブームからチーズハットグ(チーズホットドッグ)が流行っていますが、その中からチーズが伸び出る様子を発信するなど、写真よりももっと“映え”を狙える動画を好んで共有しています。
Z世代の仕事観
Z世代の特徴でも述べましたが、仕事で成長したり、キャリアアップすることよりも「自分の時間を大切にし、プライベートの充実を優先する」人が多い傾向にあるようです。そのため、働く上でZ世代が優先するのは、ワークライフバランスでしょう。
Z世代のこうした価値観を理解している企業は、動画配信サービスの利用料金を補助したり、営業職にネイルの手入れなどに使える美容代を補助するなど、社員のプライベートを応援する制度を導入しています。こうした方針がSNSで発信されて企業の人気が高まり、優秀な人材が集まるというわけです。
Z世代にはどんな職場環境が好まれる?
私は現在大学で講義をしていますが、授業は「オンライン」「リアル(対面)」「録画」の3つの方法で対応しています。
子どものころからスマホの情報をクリック(選択)してきたZ世代にとっては、“自分で選んでいる感覚”が大切であり、選択肢は多いほうが良いと考えられるからです。実際、好評です。
職場環境についても同じことが言えるでしょう。「自分の選択でこういう働き方ができているんだ」と思えるよう、テレワークやフレックスタイムなど働き方をオプションとして選択できるようにしておくと、Z世代に喜ばれると思います。
業務では、小さくても“自分に裁量権がある感”を持てるような仕事を任せるのがコツです。
ほめられるのが大好きなZ世代には、表彰制度を採り入れるのも効果的です。成績を競わせて表彰するだけでなく、表彰から漏れた人も何かしら理由を見つけて表彰する(ほめてあげる)ことが、彼らのモチベーションアップにつながります。
海外の職場環境も参考に
Z世代はまた、“居心地の良い環境である”ことを重視しています。彼らが好むような居心地の良い職場環境をつくるには、海外の事例も参考にするといいでしょう。
なぜなら、Z世代の間では海外の若者とつながることも珍しくなく、その影響で「目にするものや価値観の多様化」「感覚のグローバル化」が進んでいるからです。
例えば、シリコンバレーのある企業では、会社の飲み会は就業時間内に行っています。費用はもちろん会社負担です。かつて流行った「仕事後の“ノミ(飲み)ニケーション”が大切」というような発想は、もはやZ世代には受け入れ難いでしょう。
“居心地の悪さ”から退職を考えるケースも
Z世代が退職したくなるというケースは、給料や福利厚生などに対する不満よりも、「チルできない」「ミーできない」ことへの不満が引き金となると考えられます。
お金は彼らにとっても大事ですが、「きつい言い方をされるのが嫌」「快適じゃない」という不満のほうが上回るのです。
ここでもやはり、彼らにとって居心地の良い環境かどうかが問われるでしょう。
Z世代とうまく付き合うコツ

やさしい時代、やわらかい時代を生きてきたZ世代とうまく付き合うコツはいくつかあります。
まずは、ほめ方に強弱をつけること。叱るのはNGです。
Z世代に対しては、「いいね。でも、ここをもっとこうしたらさらに良くなるよ」などと、ほめるしか選択肢はありません。「頑張ろう」という気持ちを持ってもらうためにも、そのほめ方が一本調子にならないようにしましょう。
また、Z世代の多くは“つかず離れずの距離感”に心地よさを感じています。彼らに親友がいるかどうか尋ねると、「いる」と答えるのですが、よく聞いてみると、その親友が住んでいる場所すらも全く知らないという場合もあるようです。ひと昔前の世代であれば、考えられないことでしょう。
このように、SNS上だけでやり取りする間柄の相手でも友人と呼びますし、その場合、共通の話題で盛り上がることが多いのでしょう。通常、お互いのプライベートを深く知り合うことには関心がないのです。
そのため、表面的なあっさりとした付き合いを心地よいと感じているZ世代とは、プライベートを侵さないように付き合うのが賢明です。
Z世代と比較的うまく付き合っていると感じるのは、バブルのいい時代を生きてきた新人類世代、現在50代の人たちでしょう。
代表例を挙げるなら、青山学院大学駅伝部の原 晋監督です。もう一人は、Z世代より上の世代となる大谷翔平に二刀流となることを認め、育てた日本ハムの栗山英樹前監督です。
若者に理解を示し、彼らの行動を否定しないスタンスが、信頼関係につながっているのだと思います。
Z世代との向き合い方を模索している人は、彼らのような人を手本にしつつ、
・ほどよい距離感を保つ(プライベートを侵さない)
・相手を否定しない
この3つを意識してみてください。
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