「明日仕事だと思うとなかなか眠れない」「仕事のトラブルが頭から離れず、夜中に何度も目が覚めてしまう」など、仕事のストレスが原因で睡眠不足が続いてしまうことはありませんか?どうすれば朝までぐっすり眠ることができるのか、どのようにストレスを解消すればよいのかについて、『ストレスフリー超大全』の著者であり、YouTubeチャンネルでも人気が高い精神科医、樺沢紫苑(かばさわ しおん)さんにアドバイスをいただきました。

目次
仕事のストレスによる睡眠トラブルはどのようなものがある?
「なかなか寝付けない」など、睡眠トラブルにはさまざまなものがあります。睡眠トラブルは人によってさまざまですが、主には以下が挙げられます。
- 横になってもなかなか眠れない
- 睡眠中、何度も目が覚める
- ぐっすり眠れた感じがしない
- 朝早くに目が覚めてしまう
これらのトラブルの原因を「仕事へのストレスのせい」と考える方もいますが、実のところ、仕事が順調であっても、睡眠に悩む人は大勢います。
睡眠に関する悩みを抱えている人の原因の多くは「生活習慣の乱れ」です。ですから「明日仕事だと思うと眠れない」という人は、生活習慣を変えることで改善できる可能性があります。特に「寝る前2時間の過ごし方」を変えてみましょう。
「明日仕事だと思うと眠れない」……ぐっすり眠るためにやめるべきこと
夜ぐっすり眠るためには、寝る前の脳をリラックスさせる必要があります。そのために、寝る前の2時間は次のことをやめましょう。
会社・仕事のことを考えることをやめる
「会社から一歩出たら、会社や仕事のことを考えない」。これを徹底してください。今日怒られたことを反省したり、取り組んでいる課題のことを考えたりするのは、会社にいる間に全部終わらせましょう。会社を出たら「自分の時間」として切り替えることを、普段ストレスがないときから習慣化してください。
明日のことを考えることをやめる
翌日に重要な商談やプレゼンなどが控えていたりすると、不安と緊張で眠れなくなることもあるでしょう。逆に、子どもが遠足の前夜に眠れないように、楽しみなこと・ワクワクすることが控えている場合も、興奮して眠れなくなるものです。
つまり、明日のことを考えると、つらくても楽しくても眠れなくなる。ですから、「明日のことは明日の朝に考えればいい」と、考えるようにしてください。
SNS・動画・ゲームなど「興奮系の娯楽」をやめる
会社や仕事のこと、明日のことを考えないようにしようとすると、SNS・動画・ドラマを見たり、ゲームをしたりして気を紛らわせる人も多いでしょう。しかし、面白いコンテンツを見ると、興奮物質であるアドレナリンが分泌されます。
交感神経優位な状態となり、心拍数や血圧が上がり、「興奮」状態になります。睡眠のためには、副交感神経優位な状態=リラックスが必要ですので、寝る前の2時間は「興奮系」の娯楽を避けましょう。
また、スマホから発する「ブルーライト」を浴びると、脳が「今は昼」と誤認し、睡眠物質であるメラトニンの分泌を抑制します。つまり、体内時計がズレて、眠気が飛んでしまうのです。ブルーライトを浴びないという点でも、スマホからは離れた方が睡眠にはいいのです。
お酒を飲むのをやめる
「お酒を飲むとよく眠れる」と思っている人もいますが、完全に間違いです。確かに寝つくまでの時間は若干早くなりますが、トータルの睡眠時間は短くなる傾向があります。「夜中に目が覚めてしまう」など、眠りが浅い人の場合、お酒の影響がある可能性があります。
ぐっすり眠るために身に付けたい4つの習慣
ぐっすり眠るために有効な方法をご紹介します。寝る前の2時間の過ごし方として、次の習慣を付けることをお勧めします。
「3行ポジティブ日記」を書く
「ジャーナリング」という方法があります。これはノートに自分の考えなどを書き出すことで、私は「アウトプット」とも呼んでいます。これには頭の中の漠然とした感情や考えを言葉で表現できるようになるという効果がありますが、寝る前に行うと寝付きが良くなり、眠りが深くなる効果もあります。
私がおすすめするのは、「3行ポジティブ日記」です。1日の行動や出来事を振り返り、「楽しかったこと」「うれしかったこと」を3つ書くのです。「ランチで食べた○○が美味しかった」など、些細なことでもかまいません。
人は不安なことを考えると交感神経優位となり、頭が冴えて眠れなくなります。人は2つのことを同時に考えることはできないため、楽しいことを考えれば、不安な考えを打ち消すことができます。そこで、「楽しい」「うれしい」といったポジティブなことを寝る前に3つ思い出し、そのことを考えながら布団に入りましょう。
「オキシトシン」を出す活動をする
人に幸福感をもたらす「幸福物質」の一つに、「オキシトシン」があります。オキシトシンはリラックスにつながる物質であり、副交感神経をオンにする助けになります。オキシトシンを出すのに有効な活動には以下が挙げられます。
- 家族とのコミュニケーション
- ペットとたわむれる
- ガーデニング(花に水をやる、など)
寝る90分前までに入浴を終える
深い睡眠に入るためには、身体の「深部体温」が下がることが重要です。風呂から上がると体温が徐々に低下し、90分経つと深部体温が約1度下がります。そのため、「40度程度の湯船に15分つかり、寝る90分前に上がる」のが効果的なのです。
深部体温を下げて眠りに入りやすくするためには、寝室の室温も大切です。快適に眠るための室温は、夏は「25~26度」、冬は「18~19度」です。室温は低めの方が睡眠の質が高まりますので、風邪を引かない程度に涼しい環境で眠りましょう。
ストレッチ・ヨガなど、軽い運動をする
ストレッチやヨガなど、軽い運動をすると身体がほぐれ、リラックスできます。寝る30分前にストレッチやヨガをすることで睡眠に入りやすいという研究結果も報告されています。YouTubeなどでは、睡眠に効果的なストレッチやヨガなどの動画が多数公開されていますので、それらを参考に5分でもいいので実践してみてはいかがでしょうか。
寝付けないときに即効性がある「448呼吸」
帰宅が遅くなるなど、リラックスタイムを2時間も取れない人も多いでしょう。そこで、すぐに眠りに入れる有効な方法をお伝えします。それはハーバード&ソルボンヌ大学の根来教授が提唱している「448呼吸」です。やり方は次の通りです。
- 4秒かけて、鼻からゆっくり息を吸う
- 4秒間、息を止める
- 8秒かけて、口からゆっくり息を吐き切る
これは「腹式呼吸」で行うのがポイントです。深呼吸することで副交感神経に切り替わりますので、意識して練習するといいでしょう。
先述のとおり、寝る前には「会社や仕事のことを考えない」「明日のことを考えない」ことが重要です。「数字のカウント」をしている間、人は他のことを考えられませんので、「4」「4」「8」のカウントを繰り返すことにより、交感神経優位になるような思考にとらわれずに済むでしょう。
私自身も448呼吸を実践しています。もともと寝付きは早い方なのですが、この方法で深呼吸をすると2~3回・1分ほどで眠りに落ちることもよくあります。ぜひ試してみてください。
眠れないほどストレスを感じる時は休養をとることに集中する
ストレス症状が強く出ているときは、どうすればいいのでしょう。
症状の程度にもよりますが、基本は「休むべき」です。仕事ストレスを悪化させるのは、休むことが苦手な人や、真面目で苦しい状況も努力と根性で乗り越えようとする人、「まだまだ大丈夫!」と頑張る人に多いんですね。
本当は疲れているのに、それを否定していると、いつのまにか症状が進行してしまいます。ですから、休息・休養をとってください。繰り返しますが、脳が疲労し、限度を超えてしまうのがストレスです。仕事から離れ、脳を休めることがもっとも大切な治療法なのです。
ただ早めに終業して家に帰っても、寝るまで仕事のことを考えていたら、まったく休養になりません。会社から一歩出たら、仕事のことは一切考えない。これも、心の健康のためには必要なことです。「のんびりする」「遊ぶ」と決めて、緩急をつけることが大切です。
精神科医、作家、映画評論家 樺沢紫苑(かばさわ しおん)氏
1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。札幌医大神経精神医学講座に入局。大学病院、総合病院、単科精神病院など北海道内の8病院に勤務する。2004年から米国シカゴのイリノイ大学に3年間留学。うつ病、自殺についての研究に従事。帰国後、東京にて樺沢心理学研究所を設立。 精神医学の知識、情報の普及によるメンタル疾患の予防を目的に、YouTubeフォロワー 31万人、Facebook 12万人、メールマガジン15万人、Twitter 13万人、累計約70万人のインターネット媒体を駆使し、精神医学、心理学、脳科学の知識、情報をわかりやすく発信している。毎日更新のYouTube番組「精神科医・樺沢紫苑の樺チャンネル」(登録者数31万人)も大好評。著書に『アウトプット大全(⇒)』(サンクチュアリ出版)など37冊。
最新刊は2021年7月8日発売『行動最適化大全(⇒)』(KADOKAWA)。