「失敗する」と言う人を説得するだけ時間の無駄?!ーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。

『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「アイデアというのは、結局、思いついたやつにしかその本質はわからない」

(『マネーの拳』第4巻 Round.33より)

地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。

その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。

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大手を相手に繰り広げられる熾烈な出店競争

新たに「直営のTシャツ専門店・T -BOXを渋谷に出店する」という事業を立ち上げた花岡。しかし、花岡に恨みを抱く一ツ橋商事の女性担当・井川から執拗な嫌がらせを受けます。実は、井川は会社が新規事業として立ち上げたイタリアンカジュアルファッションのショップを統括するチーフに任命されていました。ショップの場所は同じ渋谷の一等地を抑え、オープン日もわざと花岡の店の1カ月前に設定してきます。

念願のT -BOX 1号店がオープンしました。先にオープンしていた井川の店は、大企業の力を使い、マスコミにも大々的に広告を打って大盛況。一方、花岡のお店はTシャツしか置いていないため、顧客の多くが井川の店に流れてしまいます。がっかりする従業員を前に、花岡は「ウチの良さをわかってくれれば、顧客は必ず戻ってくるはず」と励まします。

苦戦が続くT -BOX 1号店。ところが、花岡は幹部を集めて「夏までにさらに3店舗をオープンする」と宣言します。「借金をして資金をつくる」という花岡に大反対の幹部たち。彼らは視察にきた秋田の工場長・木村に対して、花岡を止めてくれるように依頼します。話を聞いた花岡は、木村に向かって「会社の事業とは、新大陸に向かうコロンブスの船のようなもの。売れて初めて従業員は、社長の言葉が正しかったと納得する」と話すのでした。

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成功する前に「成功を予測する」ことの難しさ

「コロンブスの船」とは、あのアメリカ大陸を発見したコロンブスのことです。当時、すでに地球が丸いことは認知されつつありましたが、コロンブスよりも前に「地球が丸い以上、大西洋を西に進んでも必ず陸地に到着するはずだ」と考え、それを証明しようとする人はいませんでした。これが「後から考えたら当たり前のことでも、最初に思いつくのは難しい」という、“コロンブスの卵”の由来です。

後になってみれば、成功が約束されていたような事業であっても、たいていはそれが現実になるまでは気づかないものです。例えば、今は世界的な企業になっているマイクロソフトやアップルなどがそうでしょう。設立当初は「一人1台パソコンを持つ時代がくる」ことも、「パソコンの未来はハードではなく、ソフトが握っている」ということにも気づいた人はほとんどいませんでした。

また、今でこそEC業界の巨人と恐れられるアマゾンも、かつては赤字続きで、度々メディアから「アマゾンは終わった」と書き立てられていました。ある時、記事を読んで不安になった社員が、CEOのジェフ・ベゾス氏に尋ねると、氏は「『アマゾンは失敗する』と言う人を説得しようとは思わない」と答えたそうです。

人は聞きたいことしか聞こえないもの

世界的な経営学者であるP・F・ドラッカー氏は、『経営者の条件』の中でこのように述べています。「上司が部下に何かを言おうと努力するほど、かえって部下が聞き違える危険は大きくなる。部下は上司が言うことではなく、自分が聞きたいことを聞き取る」と。

たとえ社長が事業の成功を確信していようとも、その未来が見えない部下は、「すべてを“失敗する未来”に結びつけて考えてしまう」、ということです。

©三田紀房/コルク

相手を変えようとするよりも、自分のできることをする

個人的には、自分の意見が正しいことを相手(部下)に認めさせるよりは、「いろんな意見があっていい」と考えて自分の使命を果たすことに注力したほうが、お互いのためではないかとも思うのですが、いかがでしょうか。会社を“コロンブスの船”にたとえるとすると、「その船に乗る」と決めたのは自分です。乗ると決めた以上、まずは「与えられた環境の中で自らの役割を考え、価値を提供する」ことが先行させたほうがよいでしょう。つまり、理解してくれない部下を説得する必要はないのです。意思決定の権限を持つものは、自らの責任のもと、自らの考えで進むことです。

一方、部下の立場に立ってみても、同じことが言えるでしょう。部下が上司と同じ立場に立つことはできませんから、上司の決定に対して、まずは反対するのではなく、いったん受け入れて自分の役割をまっとうする、という立場から始めてはどうでしょうか。

もちろん、部下が全く上司に意見してはいけないということではありませんが、楽に自らの意見を聞き入れてもらえるようになるには、まずはそうなる環境をつくるほうが自分のためです。言葉を換えるなら、「(上司が何かの意思決定をする際には)あなたの意見を聞いてみたい」と思われる状態です。そう思われる状況ができれば、あなたの意見が半分通った状態から意見交換がスタートするようなものと言えるでしょう。

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俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン()』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?()』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」()』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。

俣野成敏 公式サイト(

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