社員のフリーランス化で働き方改革!?タニタが目指す「真の健康経営」とは?

体重計や体脂肪計、歩数計など健康づくりに関わる計測機器を手掛けるタニタ。低カロリーで栄養バランスの整った食事を提供する社員食堂のレシピ集『体脂肪計タニタの社員食堂』(大和書房刊)も話題になった。

そんなタニタでは現在、「日本活性化プロジェクト」と名付けた働き方改革を進めている。

社員のうち希望者は個人事業主として独立することができるというもので、基本的に社員時代に関わっている仕事をそのまま、業務委託として引き受ける(基本業務)。移行時の報酬は、社員時代に受け取っていた給与、賞与、会社が負担していた社会保険料などをベースに設計する。基本業務以外の業務を請け負うとき(追加業務)は追加で報酬が支払われる仕組みだ。2017年1月にスタートし、これまでに24名が社員から個人事業主に転じて、働いている。

タニタのこの取り組みは、一人ひとりが生き生きと働くための職場の取り組みに光を当てるプロジェクト「GOOD ACTION」2019で特別賞を受賞した。

「GOOD ACTION」の審査員であり、慶應義塾大学特任准教授で株式会社NEWYOUTH代表の若新雄純氏と、「日本活性化プロジェクト」を社長とともに作り上げ、現在は同プロジェクトの推進を担当している経営本部社長補佐の二瓶琢史さん、タニタで実際に個人事業主として働く道を選んだ新事業企画推進部の久保彬子さんの鼎談が実現。個人事業主を選んだ背景、働き方やモチベーションの変化、そして“働く”の未来について語っていただいた。

プロフィール

慶應義塾大学特任准教授、株式会社NEWYOUTH代表
若新雄純氏(写真右)

人・組織・社会における、創造的なコミュニケーションのあり方を研究・模索。日本全国の企業・団体・学校等において実験的な政策や新規事業を多数企画・実施し、ビジネス、人材育成・組織開発、就職・キャリア、生涯学習、学校教育、地域・コミュニティ開発などさまざまな現場でフィールドワークを行う。テレビ・ラジオ番組等でのコメンテーター出演や講演実績多数。

株式会社タニタ 経営本部社長補佐
二瓶琢史さん(写真左)

株式会社タニタ 新事業企画推進部
久保彬子さん(写真中央)

「日本活性化プロジェクト」とは

希望する社員を対象として、雇用契約から業務委託契約に切り替え、「個人事業主(フリーランス)」として働ける仕組み。経営者感覚を持って自らの仕事内容や働き方をデザインでき、個人が主体性を発揮できるようにしながら、本人の努力や頑張りに報酬面でも報いる。契約は「3年間契約の1年更新」を基本とし、業務と収入の安定性を確保。また、個人事業主化したメンバーで構成する互助組織「タニタ共栄会」で社会保障や福利厚生への不安もサポート。「働く人がやりがいをもって心身ともに健やかに働ける「健康経営」の新手法として注目されている。2017年にスタートし、現在では24人が社員から個人事業主に転じて活躍している。

仕事を「自分事」にしてやらされ感をなくせば「選択している喜び」が生まれる

若新雄純氏(以下、若新)今回のタニタさんの取り組みは、世の中に「問い」を提供している点が素晴らしいですね。多くの人が当たり前に信じてきた「正社員としての雇用」のあり方について、今一度見直そうという議論のきっかけを与えてくれています。「GOOD ACTION」2019では特別賞でしたが、僕は大賞でもいいと思っていました。

では改めて、そもそもこのような取り組みに至った背景を教えていただけますか?

二瓶琢史さん(以下、二瓶)このプロジェクトの発案者である谷田千里がタニタの社長に就任したのが2008年。当時から、次の2つの課題感を挙げていました。

1つは、会社の経営が傾いたときの対策です。業績が悪化したとき、身を粉にして業績回復に努めてくれる社員は多いですが、そうした「努力し、成果を上げようとしてくれる人」の給料すら上げられない、あるいは下げざるを得ない状況になった場合の対策を講じる必要がありました。

もう1つは、従業員のメンタル面の不調の問題です。タニタは、体脂肪計や歩数計など「身体の健康づくり」には注力してきましたが、メンタル面の健康についてはほとんど手掛けてきませんでした。しかし、過重労働などからメンタルの不調で健康を損なっている人も少なくありません。一方で、ベンチャーの社長やスタートアップ企業の立ち上げメンバーなどは、忙しいはずなのに精神面の健康を保てています。何が違うかというと「やらされ仕事」という概念がなく、主体的に仕事に臨めているからではないでしょうか。

これらの課題を背景に生まれたのが、「日本活性化プロジェクト」です。個人事業主になることで、働く時間や仕事の量も明確になります。また自分で「働く」をコントロールできるから仕事を引き受けたときからその仕事が「自分事」になり、やらされ感がなくなります。そして基本業務だけでなく、追加業務を受けたり、外部の仕事も受注できたりするようになれば、収入を増やすことも可能です。

若新確かに、「経営者が働き過ぎてメンタル不調になった」という話はあまり聞きません。その理由は「自分で選択できている実感」なのだと思います。土日だろうが関係ない、自分で選んだ仕事であり役割だから、納得できるんですね。

でも多くの正社員は、勤務時間も仕事内容も自分で決定することができません。自分の人生がアンコントロールである点が、知らず知らずのうちに精神面にストレスを与えているのだと思います。心の健康を考えれば、単に勤務時間を短くすればいいというわけではない。自分で決めたという喜び、コントロールできているという実感が、やりがいや心の健康につながるのだと思いますね。

「自分で自分をコントロールできている」という実感が重要

若新二瓶さんも久保さんも、「日本活性化プロジェクト」に参加し、現在は個人事業主としてタニタで働いておられます。久保さんは、入社何年目で個人事業主を選んだのですか?

久保彬子さん(以下、久保)タニタには新卒で入社し、入社10年目のときにこの仕組みができたので参加しました。「日本活性化プロジェクト」の1期生です。

若新会社に不満があったら、おそらく転職を選びますよね。この制度を選んだということは、何か別の思いがあったということ?

久保実は30歳ごろに転職を考えたことがありました。タニタのことが嫌になったわけではなく、当時終身雇用の崩壊が報じられるようになったのをきっかけに「正社員として1社に所属するのではなく、複数の会社と契約し収入を得ながら仕事をする働き方」について考えるようになっていたんです。周りの先輩たちの中には、1つの肩書に捉われずパラレルに働いている人も増えており、そういう働き方がしてみたいなと思っていました。だから、この仕組みができたとき、すぐに手を挙げました。

若新10年も務めていれば、どんなに今の会社が好きでも「別の環境で、別の仕事をしてみたい」と思うのが当たり前かも。「好きだけど、今の仕事1つだけでは辛い」というのは、多くのビジネスパーソンが共感する話だと思います。ただ、雇用関係を失うことに対する不安はありませんでしたか?

久保いえ、ポジティブな思いしかありませんでしたね。逆に1社でずっと正社員として働き続ける方が怖いなと思っていました。

タニタで10年、法人営業としてやってきたというベースも大きかったと思います。自身の経験、スキルをもとに他の仕事でも頑張りたい、でもタニタのことは好きだからパートナーとして引き続き貢献したい、という思いが両方叶えられるというのが嬉しかったですね。もし「やっぱり正社員が良かった」と思えば、またどこかに就職するなど、それはそれで選択肢はありますし、とにかくチャレンジしてみよう!という思いが先行しました。

そして、個人事業主になったことで、働くことへの意識がガラリと変わりました。契約が変わったとたんに思ったのは、「私は何ができる人なんだろう」ということ。そして、自分の強みを活かして仕事ができているか、働きたい人と働けているか…自分から主体的に仕事を取りに行くようになりました。これは正社員時代にはなかったことです。

若新事業主になったことで、初めて「できること」に意識が向いた。この点は、これからの「働く」を考えるうえで非常に重要だと感じます。これまでの正社員の多くは、「できること」ではなく「身柄」をコミットすることが求められていたということだと思います。個人事業主になって、得られている報酬はまだあまり変わらないかもしれないし、役割もガラッとは変わっていないと思いますが、働くことへの意識が変わればモチベーションもがらりと変わります。そして「一緒に働く人」を選べるというのも、特徴的ですね。

個人事業主になったら、「弱み」を表に出せるようになった

久保個人事業主になって、自分の強みだけでなく、弱みが明確に見えるようになりました。そして、「できることに注力し、できないことは得意な人に頼む」が自分の裁量でできるようになりました。私はタスク管理がとても苦手なので、それは別の方にお願いしています。信頼できる人にアサインできるのも嬉しい点ですね。

正社員時代は、求められている業務をこなさなければという意識が強かったので、自分の弱みを表に出しませんでした。でも今は自分の名前で仕事をしていかないといけないので、強みを磨き、前面に推し出しながら仕事を進める必要がある。だからこそ、弱みは素直に認めようと。

若新なぜ、正社員だと弱みを出せなかったのか。これまでは、企業は個人の面倒を一生見るという覚悟で採用していたから、個人がある程度組織に身を委ねていれば得意なことも苦手なことも引き上げてくれた。それが、日本的雇用の一つの価値だったようです。そのような状況下では、個人は与えられた仕事に対して「これは苦手」と言いづらいものです。「会社は個人の弱い部分もひっくるめて引き受けているのだから、弱みは自分で頑張って補うもの」という暗黙の了解があったのでしょう。

でも、「苦手を克服する生き方」は、一人ひとりの多様な才能を発揮させるには無駄が多いと僕は思うんです。プロのスポーツ選手だって、オリンピックのメダリストだって、勝てるのは限られた種目だけなんですから、「会社から言われたことは何でもやります」ではなく、「私はこれができます」を磨いて活かすべきなんですよね。

自分に決定権があるだけで、仕事はぐんと楽しくなる

若新久保さんは正社員時代ずっと法人営業だったそうですが、個人事業主になってからは事業開発に関わるようになったとのこと。これは、法人営業で培ったスキルをベースに、可能性が見込まれたということですか?

二瓶基本的には、社員時代に関わっている仕事をそのまま、業務委託として引き受けることになります。そのほうが、個人が今まで通りに力を発揮することができ報酬も維持できるし、会社としても業務の継続性と安定性につながるからです。私も正社員時代と同じ業務を現在も行っていますし、Twitterのタニタ公式アカウントを担当している「タニタの中の人」も、個人事業主として引き続きTwitterを担当しています。久保は、実はイレギュラーなケースですね。

久保法人営業としてのスキルと人脈を活かしつつ、社外のコミュニティも巻き込みながら仕事がしたいと思っていたので、営業+事業開発を希望しました。受け入れていただいてラッキーでしたね。

この2年間は、タニタ初のクラウドファンディング製品となる「ツインスティック」(セガゲームスのビデオゲーム『電脳戦機バーチャロン』シリーズに対応するコントローラー)を担当しています。これは、社長の谷田がこのシリーズの大ファンということもあり、「ゲーム×健康」の新しい可能性を追求するために企画した製品です。ゲーム分野の製品を開発するのも、クラウドファンディングで資金を調達するのも初めてのことで、誰も知見を持たない中で手探りで進めてきました。苦労は多かったですが、この仕事を通じて、「未経験の分野にも果敢にチャレンジできること」が私の強みの一つだと実感しました。同じ仕事をずっとやっていたら気づけなかったことであり、これも個人事業主になってよかったと思えることですね。

若新タニタの取り組みがすごいのは、正社員から個人事業主に変わっても、つながりは今まで通りだしチャレンジもさせてくれる点。個人の大きな変化を支えるために、会社が連続性を保証している。正社員でなくなっても、タニタのことがさらに好きになるし、もっと頑張ろうと思えますよね。

では改めて久保さんに伺いますが、今感じている仕事のやりがい、醍醐味とは?

久保「自分の人生をコントロールできている」ことに尽きると思います。どんな仕事をするかも大事ですが、「誰と働くか」も私にとってはとても大事で、それを社内外から選択できる立場にあることが何より嬉しいですね。正社員だと、人事異動によって組織と役割が決められ、誰と働くかもある程度決まってしまいますが、決定権があるだけで仕事はぐんと楽しくなるのだと実感しています。

今はタニタの仕事がメインですが、少しずつ他社の仕事も増やして、複数の仕事を同時にこなしていけるようになりたいですね。こうして自分らしい働き方を追求することで、ゆくゆくは働き方に悩んでいる個人にキャリア支援ができるようになれればとも思っています。

若新今日は面白いお話をいろいろ伺えました。単にキャリアアップよりも、自分の居場所、自分の領域を広げたいと考える人が増えている中で、タニタの取り組み、そして久保さんの働き方は一つの指針になると思います。ありがとうございました。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:狐塚勇介

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