デジタル技術とノウハウを活かし、地域と共創しながら課題解決に挑む――NTT西日本が取り組むDX時代の事業創造のかたち【編集長対談】

西日本エリアの通信インフラネットワークを支えているNTT西日本。各地域に密着し「つながるあたりまえ」を守るという社会的使命を担いつつも、ICT(情報通信技術)を駆使して新たなビジネスモデルやサービスを展開している。

そんなNTT西日本では、地域社会の課題をDXによって解決するビジネス戦略で、事業創造を進めているという。代表取締役副社長の上原一郎氏に、NTT西日本によるDX推進の背景や具体的な戦略、今後めざす姿などについて伺った。

NTT西日本 代表取締役副社長 副社長執行役員 上原一郎氏と、『リクナビNEXT』編集長 藤井 薫

西日本電信電話株式会社 代表取締役副社長 副社長執行役員
上原一郎氏(写真左)

株式会社リクルート 『リクナビNEXT』編集長 藤井 薫(写真右)

ICTの力で地域の課題を先頭に立って解決

藤井薫編集長(以下、藤井) 上原さんは1988年の入社後、技術畑、事業畑と幅広い業務を経験されてきたと伺っています。これまでのご経歴を、簡単にお聞かせ願えますか?

上原一郎氏(以下、上原) 入社時は技術職で、当時まだほとんど普及していなかった光ファイバーの導入を担当。その後、通信ネットワークの保守運用を担当し、阪神淡路大震災の復興計画や東日本大震災、熊本地震の通信網の復旧などにも関わりました。

その後、グループ会社の社長や九州エリアの責任者などを経験し、ここ数年は営業部門を統括する立場で法人、SMB(Small and Medium Business:中堅・中小企業)、コンシューマという3つのチャネルにおいて、お客さまのご要望に耳を傾け、新しいサービスの開発や現サービスへの反映を行っています。

藤井 そして現在は、DXによる社会課題解決の推進を統括する立場にもあるとのこと。NTT西日本は、さまざまな新しいチャレンジを行っていますが、DXによる社会課題解決に本腰を入れているということですね。

NTT西日本 代表取締役副社長 副社長執行役員 上原一郎氏

上原 当社は、2021年に策定した新中期経営戦略において、社会を取り巻く環境変化がもたらすさまざまな課題に対し、ICTの力を用いて先頭に立って解決していくことを宣言し、DXによる社会課題解決に本格的に取り組む姿勢を示しています。また、NTTグループ全体として、今のインターネットだけでは実現できない新たな世界を実現する「IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)」構想を打ち出し、さまざまな研究に取り組んでいます。

具体的には、当社で定めた重点分野についてICTソリューションを活用して、地域創生、DX推進、共創で地域社会のスマート化に貢献するビジネスを展開するほか、DXで地域活性化を推進する「地域創生Coデザイン研究所」、DX戦略を加速させる共創ラボ「LINKSPARK(リンクスパーク)」、オープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」を新設しています。

「QUINTBRIDGE」外観

▲オープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE」

藤井 さまざまな戦略が同時並行で一気に動いているという印象ですね。いま、NTT西日本がDX戦略に本腰を入れている背景について、ぜひお聞かせください。

上原 NTT西日本は静岡県以西の30府県をビジネスエリアとしています。その中には約1000の自治体がありますが、約半数が消滅可能性都市(少子化や人口移動に歯止めがかからず、将来に消滅する可能性がある自治体)と言われています。このままでは、社会インフラの老朽化や行政サービスの質の低下は避けられず、多くの自治体においてさらなる人口流出などが起こる可能性があります。

そんな中、我々が持つICT技術・ノウハウを活用すれば、地域の活動をサポートでき、課題解決・活性化につながるのではないかと考え、前述の取り組みに着手しました。課題解決をめざす事業領域をスマートアグリs(農林水産業)やスマートツーリズム&モビリティ(観光MaaS)など、分野ごとに明確化し、グループ各社やパートナー企業・組織とともにそれぞれの地域に特有の課題の解決を見据えたプロジェクトを進めています。

藤井 これまでのお話を伺うと、地域のパートナーとの「共創」に非常に力を入れているという印象です。ICTを駆使して地域にサービスを供給するというサプライヤーの考えではなく、デマンド(需要)サイドとも協働することで新たな価値を創造するというスタンスを強めていると感じました。

上原 おっしゃる通りです。地域と一緒になって汗をかきながら、課題解決策を考えています。

また、NTT西日本のパーパスである“「つなぐ」その先に「ひらく」あたらしい世界のトビラを”も、地域社会の一員として、新たな価値の共創に挑戦するという姿勢を示しています。「つなぐ」は通信会社としての基本的な使命。つなぐというDNAを活かしつつ、次のステップとして各地域とつながり、新しい価値を「ひらいて」いきたいと考えています。

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DX推進拠点や共創拠点でのオープンイノベーションに注力

NTT西日本 代表取締役副社長 副社長執行役員 上原一郎氏

藤井 実際に進んでいる重点分野における取り組みについて、教えていただけますか?

上原 例えば、エルID(学生・卒業生のデータ基盤連携)をキーとした教育DXや、ビジネスチャット「elgana(エルガナ)」提供による業務DX、公共・教育分野におけるクラウド基盤「X-EDGE(クロスエッジ)」の拡大および「X-EDGE」とサービスを連結しトータルの価値を生み出す「X-HUB(クロスハブ)」の提供などが挙げられます。

また、一次産業のDX化にも積極的に取り組んでいます。例えば「森林・林業DX」では、これまで目視で調査されていた木の種類や本数、高さ、材積量などの情報を算出してデジタル化し、一元的に管理する「森林クラウド」を構築。それらを森林・林業関係者へつないで木材需給のマッチングを図り、地域林業を活性化させる取り組みを行っています。

藤井 こういう取り組みを支えているのが、「LINKSPARK」「QUINTBRIDGE」「地域創生Coデザイン研究所」などといった、DX推進拠点や共創拠点。特に、今日の取材会場でもある「QUINTBRIDGE」は、企業やスタートアップ、自治体、大学などがこの場に集まって学び、つながることで、ゼロから新しいものを共創する、重要なオープンイノベーションの場になっているんですね。

上原 おっしゃる通りです。例えばICTにおいても、技術やノウハウは保有していますが、それを「活かす」ことは当社だけではできません。地域にどんな課題があり、どんな方法で我々が関われば地域が元気になれるのか、いろいろな人と交わり、つながりながら考えていく必要があります。

ここ「QUINTBRIDGE」は約1年前にオープンしましたが、毎日平均2~300名の方が集まっています。「ここに来たら何かしらの発見や気づきがある」と思っていただけているのが嬉しく、今後の展開に期待しています。

藤井 NTT西日本のような日本を代表する超大手企業が、こんなに多方面でチャレンジングな取り組みをしているとは思いませんでした。

上原 当社はNTTの再編成によって1999年に設立されましたが、設立当初は赤字が続いていて、「さまざまなことにチャレンジし続けないと会社として存続できない」という危機感がありました。以来、チャレンジングなDNAが脈々と今に受け継がれ、文化として定着していると感じます。

象徴的な例が、当社のグループ会社で電子コミック「コミックシーモア」を展開するNTTソルマーレ。当初はなかなか軌道に乗らず、会社を畳む寸前までいきましたが、最後に電子コミック事業にチャレンジし、現在では国内最大級の電子コミック配信サービスに成長しています。

藤井 危機感を表す「emergency」と同じ語源の名詞「emergence」には、「創発」という意味があります。危機に直面しても諦めず挑戦し続けるというDNAが、新たなアイディアの創発につながっているのですね。

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社員一人ひとりが専門性を磨くことで、共創の精度も上がる

NTT西日本 代表取締役副社長 副社長執行役員 上原一郎氏と、『リクナビNEXT』編集長 藤井 薫

藤井 NTT西日本のチャレンジングなDX戦略を支える、人材ニーズについてもお聞かせいただければと思います。

上原 まずは社内のDX人材を登用し、活躍してもらうために、「ジョブ型人事制度」を新たに導入しました。NTTグループの新たな人事制度では、管理職におけるジョブ型体系と、一般社員における専門分野型体系に基づき、自律的なキャリア形成と、エンプロイアビリティの高い専門性の獲得が実現できる枠組みをめざしています。

一人ひとりが自身の専門性を磨き、「自分は〇〇のプロ」と認識することで、社内外との協働がより容易に、実りあるものになると考えています。そして、自らの専門性を追求し続けることで、自ら学び成長し続ける「自律的キャリア形成」が可能になると考えています。

また、社内公募制度等もあり、意欲ある社員が幅広いフィールドにチャレンジできるチャンスの提供、グループ内人事交流などを行っています。

そして「まずはDXに関する業務を体験してみたい」とか「DX業務に就きたいが人事異動はためらわれる」という人に向けて、社内ダブルワーク制度を設けています。現在の業務を継続しつつ、自ら手を挙げて社内の新しいフィールドで経験を積み、一人ひとりのスキルアップや、視野拡大・人脈形成など付加価値につながる自己成長を促進する取り組みです。今年度は約150名の社員が社内ダブルワークに参加していて、例えばSMB向けの販売戦略業務に携わっている社員が、IOWNを活用して瀬戸内海の離島「男木島」をメタバース化し、離島地域の関係人口創出・拡大をめざすプロジェクトに取り組んでいます。

藤井 非常に面白く魅力的な取り組みですね。特に社内ダブルワークは、社員の皆さんが「二刀流」になることでさらに希少人材化し、社内外との協働でもより価値を発揮できるチャンスが高まりそうです。社員一人ひとりのプロ意識が高まることも期待できますね。

上原 おっしゃる通りです。そしてもちろん、DX人材育成のための取り組みも積極化しています。社員全体のスキルアップを図る「デジタル人材育成プログラム」の実施や、自治体DX、カーボンニュートラル、データ活用ビジネス、クラウドやセキュリティなど高度IT分野のコンサルテーションができる人材の早期育成を目的とした「DXアカデミー」を創設しています。

藤井 外部からの人材採用はいかがでしょうか?

上原 社外でのDX推進の知見やスキルを有する即戦力人材は、積極的に採用しています。特に前述のような教育DX分野や、「LINKSPARK」「QUINTBRIDGE」「地域創生Coデザイン研究所」などのDX推進拠点や共創拠点での経験者採用を積極化しています。また、地域密着で自治体や地域企業のDXを推進する「ふるさと採用」も実施しています。NTT西日本のリソースを活用して地域の課題解決に貢献したいという志を持った方に、ぜひ来てほしいと願っています。

藤井 ビジネスのみならず、人材育成や人材採用においても、さまざまなチャレンジングな取り組みをされていて、意欲ある人ほど活躍できる土壌があると感じました。本日はありがとうございました。

 

プロフィール

西日本電信電話株式会社
代表取締役副社長 副社長執行役員
上原一郎氏

1988年に日本電信電話公社(現NTT)に入社。2009年西日本電信電話(NTT西日本)サービスマネジメント部担当部長、2013年NTTネオメイト代表取締役社長、2017年NTT西日本取締役ビジネス営業本部長、NTTビジネスソリューションズ代表取締役社長を経て、2019年7月より現職。

株式会社リクルート
『リクナビNEXT』編集長 藤井 薫

1988年にリクルート入社後、人材事業の企画とメディアプロデュースに従事し、TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長などを歴任する。2007年からリクルート経営コンピタンス研究所に携わり、14年からリクルートワークス研究所Works兼務。2016年4月、リクナビNEXT編集長。2019年よりHR統括編集長就任。コーポレートコミュニケーション、コンテンツマーケティング、政策企画室調査室を兼務。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)。

WRITING:伊藤理子 PHOTO:鈴木慶子
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