間伐材で「木のストロー」が作れないか…――注文住宅会社アキュラホームの広報が“木も人も”を巻き込んだ挑戦とは?

環境保全を目的に、外食産業においてプラスチック製ストローを廃止したり、代替商品を導入したりする動きが出始めている。

そんな中、世界初の「木製ストロー」が注目を集めている。ある環境ジャーナリストが発案し、木造注文住宅を手掛けるアキュラホームが開発したものだ。

開発に関わったのは、アキュラホーム広報担当の西口彩乃さん。「木」という共通項はあるものの、なぜ本業とは大きく異なるストローを手掛けることになったのか?開発秘話を含め、西口さんに伺った。

▲株式会社アキュラホーム 広報課主任 ウッドストロープロジェクト 西口彩乃さん

間伐材を有効活用して「木のストロー」を作れないか?

広報担当としてマスコミとコミュニケーションを取る機会が多い西口さん。昨夏、国土交通省の記者クラブで、以前から交流のあった環境ジャーナリストの竹田有里さんから声をかけられた。

昨年7月に起こった西日本豪雨(平成30年7月豪雨)。被災地に取材に出向き、惨状を目の当たりにした竹田さんは、現地で「森林の山中に放置された間伐材が豪雨で流出し、被害を大きくしているのではないか」との声を耳にした。また、森林の間伐が適切に行われておらず、木がうまく根を張れずにいることも土砂災害の要因になっているのではないか…という不安も聞かれたという。

そこで竹田さんは、間伐材を有効活用する方法はないかと考え、「間伐材で木のストローが作れたら、廃プラスチックの削減に貢献できるうえ環境保全にもつながる」と着想。西口さんに「アキュラホームで作れないか」と持ち掛けたのだ。

「初めは戸惑いましたね。広報として会社のこと、社長のこと、商品である住宅のことを広報してきましたが、記者の方からこのような依頼を受けるのは初めて。しかもストローは全くの異分野です。果たしてうちがやるべきことだろうか?と思いました」

ただ、木造注文住宅を手掛けるアキュラホームにとって、木は非常に身近な存在だ。間伐材で作った学習机を小学校に寄贈する「木望の未来プロジェクト」に注力しているという実績もある。最終的には「木の素晴らしさを広く伝えることができるし、当社を知っていただく一つのきっかけにもなる。竹田さんの熱い想いにも触れ、『当社がやるべきだ』と確信した」という。

すぐに自社に持ち帰り、周囲と相談。さまざまな意見をもらったが、総じて前向きなものだったという。そして、宮沢俊哉社長にも「とてもいい取り組みじゃないか」と背中を押してもらったことから「とにかくできるところまでやってみよう」と腹を決めたという。

カンナがけから、「薄く削り出した木を筒状に巻く」方法を思いつく

その日から、試行錯誤が始まった。

家づくりの現場の職人に協力を仰ぎ、まずは木材に穴を空け、筒状にする方法に挑戦した。しかし、木からストロー状の筒を切り出すにはある程度のサイズが必要であるうえ、そこからストロー状に形を整えていくのは難しく、細くするには限界があった。

次に、鉛筆のように2つの木材を組み合わせる方法を試してみた。「木材に溝をつけて分解・組み立てできるようにすれば、内部がきれいに洗えて繰り返し使える」と考えたものの、木は湿気や乾燥などで伸び縮みするため、使ううちに溝が合わなくなってしまった。

▲試行錯誤を重ねて、現在の「木のストロー」は完成した

「そもそも間伐材は細くて弱く、節も多いので、木材としては扱いづらいもの。予想以上の難しさに悩まされましたね。また、『木のストローを本当に普及させたいのであれば、繰り返し使えるものより使い捨てのほうが価格も安く、たくさんの人に使ってもらえるのではないか』とアドバイスされたこともあり、別の方法を探ることになりました」

そんなある日、カンナがけにより薄く削り出された木の「削り華」を目にした西口さんは、「これを筒状に巻けば、ストローにできるのでは?」と思いつく。

▲カンナがけにより薄く削りだされた木の「削り華」

実は削り華は、アキュラホーム社員にとって非常に身近なものだ。宮沢社長は、元大工。社長室にはカンナが置かれ、社長がカンナがけをしている姿を誰もが日常的に目にしている。入社時に渡される配属辞令や名刺入れ、社員証はすべて削り華を使用した特製のもの。「削り華を使ってストローを作れば、当社らしさも打ち出せる」と考えた。

「削り方、削り華の薄さ、巻き方、カットの仕方、木の香りや味わい、使用する糊などを変えて試作を繰り返しました。ちょうどこの頃、国土交通省の記者クラブ内で『アキュラホームが木のストローに取り組んでいるらしい』との噂が広がり始め、いろいろなメディアの記者さんが業者を紹介してくれたり、アイディアをくれたりして一気に試作が進みましたね」

その過程で、噂を耳にした東京・永田町の「ザ・キャピトルホテル東急」から「完成したらぜひうちで導入したい」との申し出があり、水につけてみての耐久試験や使用したうえでの監修も実施してくれたという。

社内外のさまざまな協力を得て試行錯誤を重ねた結果、0.15ミリにスライスしたスギの木を斜めに巻き上げることで、強度も見た目も口当たりもいいストローができ上がった。

地産地消モデルを作り上げ、全国で安定供給できる体制を目指す

昨年12月に記者発表を行ったところ、「あまりの反響の大きさに驚かされた」という。

「記者発表の会場に行くと、ほぼすべてのテレビ局と新聞、雑誌の記者が集まってくださりすし詰め状態。海外メディアの姿も見受けられ、注目度の高さを再認識しました。それから約9カ月が経ちますが、今も毎日のように木のストローに関する取材依頼をいただいています。住宅から異分野に展開したことで、国土交通省だけでなく経済産業省、消費者庁など各官公庁とのリレーションも広がり、広報としてとても嬉しく思っています」

開発した木のストローは、今年1月から「ザ・キャピトルホテル東急」のラウンジで使用されているほか、5、6月に行われたG20の会合、大阪サミットで採用されたことでますます話題に。ホテルや外食業界などから引き合いは右肩上がりに増え続けているが、1本1本手巻きで作られているため、生産量は月に数千本が限界だという。

「当社はあくまで注文住宅を手掛ける会社。ストローは『社会的に意義のあること』として取り組んでいるので、大量生産で儲けることは全く考えていません。現在はシルバー人材センターや福祉作業所で作っていただいており、高齢者や障がいを持った方の雇用確保にもつながっているほか、1本1本丁寧に作っていただくことで安心、安全、高品質を維持しています」

現在西口さんは、このストローがアキュラホームの手を離れても全国で安定供給できるよう、新たな仕組みづくりに取り組んでいる。

地域の間伐材を使い、その地域の人がストローを作って、その地域で使用するという“地産地消モデル”を作れば、全国に広く木のストローを普及させることが可能です。まずは横浜市とタッグを組み、横浜市が持つ森林の間伐材を使って試作を進めていますが、ここで成功モデルを作ることができれば、各自治体に横展開できます。今年中にモデルを作り、来年以降に一気に広げていきたいですね」

本気の挑戦を応援し、皆でサポートしてくれる環境がある

「話題の製品の開発担当者」として、今や各メディアに引っ張りだこの西口さんだが、「広報の自分が新しい取り組みに没頭できたのは、社内に“挑戦”を評価し応援する環境があったから」と振り返る。

「今回の取り組みを通じて、本気の挑戦を心から応援し、全力でサポートしてくれる会社なのだと実感できました。また、全く新しい分野にもかかわらず、ここまでスムーズに製品化できたのは、当社の『個ではなくチームで協力し合うことでさらに高みを目指そう』という風土があったからだと思います。困ったときはすぐに相談でき、周りも快く手を差し伸べてくれる。色々なことにチャレンジするのが好きな私にとっては、この会社はとても合っていると思います」

最後に、西口さんが今後挑戦していきたいことについて伺った。

「今の段階で何をどうするということは明確には決まっていないのですが、これからも、当社にとってプラスになる取り組みにはどんどん挑戦し、広報としてもっと大きなニュースを生み出したいと思っています」

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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