これからは、レールから「外れない」ことより「外れる」ことの方に“価値”があると思う――写真家・西澤丞の仕事論(5)

“立入禁止の向こう側”に入り、日本を支えている重要なヒト・モノ・コトを伝えることをライフワークにしている写真家・西澤丞さんの仕事論に迫る連載インタビュー(→)。シリーズ最終回となる今回は、写真家としての最終目標や納得のいくキャリアを構築するために必要なことなどについて語っていただいた。

プロフィール

西澤丞(にしざわ・じょう)

1967年愛知県生まれ。愛知教育大学美術科卒業後、自動車メーカーのデザイン室、撮影プロダクション勤務を経て2000年、フリーの写真家として独立。「写真を通じて日本の現場を応援する」というコンセプトのもと、科学や工業に関する写真を撮影し、自身の著作物や雑誌などで発表している。日本における工業写真の第一人者。2018年3月、福島原発を撮影した写真集『福島第一 廃炉の記録』(みすず書房)を出版。現在も福島第一原発に通い、撮影を続けている。

公式Webサイト http://joe-nishizawa.jp/index.html

納得のいくキャリアを構築するために

──昨今、好きなことややりたいことを仕事にした方がいいという言説をよく耳にしますが、西澤さん自身のこれまでの人生を振り返って、どう思いますか?

僕自身はこれまで話してきた通り、写真撮影は最初は趣味から入ったけれど、結局趣味ではできなかったんだよね。趣味でできる範囲では僕が求めているところまでたどり着けないと思ったので、本業にせざるをえなかったって感じですかね。だから最初は“好き”から入ってもいい。少しでもやりたいと思っていること、興味があることがあれば、とりあえずやってみることが大事だと思います。そうするとそれが自分に合ってるかどうかがわかるから。逆にやってみなければそれすらもわからない。

僕も若い時にデザインの仕事をやったけど、結局そっちの道には進まず、写真家になった。結果としては失敗かもしれないけど、それでもいいんだよ。デザインの仕事で身につけたスキルや能力はその後、すごく生きたから。だからやってみてうまくいかなくて、ああダメだったなとその時は思ったとしても、絶対無駄にならないと思っています。

それに、やりたいことがあるんだけど一歩踏み出せないという人は、人と違うことをするのが恐いからという理由が多いと思うのですが、これからの世の中は人と同じことをやっててもダメだと思うんです。僕が若い頃はみんなが進むレールから外れたら終わりという考え方が主流でしたが、これからの世の中はむしろ人とどれだけ違うかの方に価値が出てくる。この時代の流れをいかに活かせるか。今の人たちはやろうと思えばそこら中にチャンスは転がってるからどんどんやればいいと思いますけどね。

だから「すごくやりたいことがあるんだけど悩んでて…」という人に対しては、とりあえずやってみればと言っています。それでも踏ん切りがつかない時は、死ぬ時に後悔しないのはどっちかなと考えればいいんじゃないですかね。僕は「あの時やっとけばよかったな」と後悔するようなことだけはしたくないと思ってるんです。そのために、今何をしなければならないかを考える。だから僕は全部結果から逆算して考えています。

──納得のいくキャリアを構築するためにはその辺にヒントがありそうですね。

そうですね。何よりも一番重要なのは、将来自分がどうなりたいかという大きな目標を設定すること。僕がこれまでの写真家人生、寄り道も挫折もしてるけど、それでも何とかなっているのは最終的な目標がはっきりしているから。目標を設定すると今自分が迷っていることもわかるし、どっちの方向に修正すればいいかがわかるからね。目標がないと迷ってるかどうかすらわからない。真っ暗闇の海で、コンパスや灯台がなかったらずっと漂流し続けるのと同じ。だから目的地とコンパスは必ず必要なんだよ。

最終的に目指すのは「死ぬ時に後悔しない」

──西澤さんの人生の最終目標は?

さっきも言ったけど「死ぬ時に後悔しない」が最終目標です。写真家である僕の場合はそれを写真で実現したい。そのためには、どういうものを撮って、どういう形で発表して、それが世の中に対していい影響を及ぼす、何らかの形で貢献できるということを証明できなければ、僕がなりたい僕にならない。つまり、死ぬ時に後悔しない自分にはならないので、そのために今何からやってどういうふうに最終目標に繋げていけばいいのかっていうことを考える。

──確実に最終目標に近づくにはどうすればいいのでしょうか?

多くの人もやっているでしょうが、僕も5年後、10年後、20年後の中間目標地点を決めています。

──5年後、10年後こうなりたい自分というのは具体的にイメージしておいた方がいいのでしょうか。

そうですね。そうしないと努力できないもんね。具体的であればあるほど今やるべきことが見えてくる。10年後、こういうことを人に伝えたいと思ったら、少なくとも今やるべきことは具体化する。それに地道に取り組む。自分が今いる位置との距離をどう縮めていくか。その積み重ねじゃないかな。毎日頑張ってもちょっとしか縮まっていかないけど、やらないよりはいいんだよ。毎日ちょっとずつでもやれば、ちょっとずつでも確実に近づいていくから。

もしその時間が経った時、そこまで辿り着けていなければ、やり方や方向を修正すればいいだけだしね。

──やはり写真家っぽくないですね。

これってたぶん、デザイン的な発想だと思うんですよ。目標・目的が最初に設定されてて、そのためのアプローチをどうするか。その時点の条件でできることは限られてるので、それで最大の効果を上げるにはどうすればいいのかを考えるっていうのは。だからデザインの仕事をしてたことは無駄になっていないどころかかなり生きているんですよね。

──5年後、10年後の中長期的な目標を教えてください。

例えば、自分の仕事を国内外に言葉で発信したい。というのも、最近までは写真だけ撮ってればいいと思ってたんですが、講演やトークイベントの依頼が増えて、自分が撮った写真について人前で話す機会が増えたので、発信することの重要性を感じるようになってきたんです。写真だけじゃなくて、直接人に会って話すともっと真意が伝わるということがわかったわけ。さらに、去年は、写真を海外のギャラリーや美術館で展示されたりもしたんで、今後、海外に行く可能性は高くなってきている。その時もやっぱり自分の口で説明した方が伝わるんだよね。でも英語ができないから、今必死に英会話の勉強をしてるの。でもなかなか覚えられなくて苦労してます(笑)。

それと、僕のような経験って他の写真家やカメラマンはあまりしてないから、将来、体力的に今撮っているような写真を撮るのが難しくなった時には、今日話したようなことを若い人に伝える義務があると思っています。そのためには話を具体的にわかりやすく話せるスキルが必要になるから、今やらなければならないことが見えてくる。だから講演会など人前で話す、伝える機会を積極的に増やしている。これは10年後、20年後に自分はどうなっていたいか、目標が設定できているから。これもさっき言った逆算して考えるってことですね。

僕のように最初から持ってるものが少ない、条件の悪い人間ほど目標設定からの逆算の思考は必要。そうしないと最初からお金をはじめいろんなものをもっている人には絶対に勝てないから。

写真家としての最終目的地

▲福島第一原子力発電所にて(撮影:西澤さん 写真提供:東京電力ホールディングス株式会社)

──では現在の西澤さんが目指す写真家としての最終目的地は?

僕が撮ってるような日本の現場の写真をもっとメジャーにして、「写真といえば西澤」というところまで辿り着ければいいなと思っています。

僕が一番やりたいのは、日本の写真を変えることと、写真で日本の社会を変えること。その両方をやりたいですね。

──日本の写真を変えるというのは?

僕の撮った写真や本で、撮る方の意識も変えたいし、写真を使う方の人の意識も変えたいんですよ。撮る方は、ただ好きだから撮るってだけじゃなくて、もっと社会と関わることを考えてほしいし、メーカーなど写真を使う方の人にはもっと写真をうまく活用することを考えてほしいんです。せっかくいい仕事をしていても、プレゼンテーションに現場の人が撮影した写真を使っているようでは、あまりにももったいないです。

──ただ美しいものとかかっこいいものを撮るのが写真じゃないぞと。

そうそう。伝えるべきことがあって、その手段が写真だということをもっとわかってほしいんです。

さっき、生き方や社会との関わり方など撮り手のすべてが写真に出ると言いましたが(第4回参照)、写真家が自分のやってることをもっと客観的に考えてもらわないと、世間の人に写真ってつまらないと思われちゃうし、写真家の社会的地位も上がっていかないと思うんです。だからそれを何とかして変えたい。こんなふうに変えたいとか変えなきゃいけないと思ってることがたくさんあるんですよ。でも得意なのは写真しかないので、これでなんとかやるしかない。

──壮大ですね。

そういう意味でも最近は講演や昨年12月に富山県氷見市で開催されたTEDxHimiのような大勢の人前で話す機会もいただいているので、写真で日本を変えたいという大きな目標に近づくために、どんどん活かしていきたいなと思っています。

▲2018年12月にTEDxHimiに登壇した西澤さん。そのトークは大喝采を浴びた((CC)写真提供 TEDxHimi CC BY-NC-ND 4.0 撮影:山下久猛)

こんなことを言うと、みんな誇大妄想としか思えないよね。でも僕はこの妄想こそが大事だと思う。何でも妄想から始まるんだよ。例えば「ロケットを撮りたい」なんて言っても、誰もやったことがなければ「そんな妄想みたいなこと言ってできるわけないじゃん」で終わっちゃうよね。でも、妄想としてもち続けておけば、新聞に出ている情報なんかでも、チャンスに思えちゃうんだよ。今、企画書を出せば通るかもって。すると妄想が実現する確率が上がる。実際に、3度目の企画書で7年越しにロケットを撮影できて、写真集『イプシロン・ザ・ロケット』を出版することができた。でも妄想してないとその情報もスルーだよね。だから常にいろんなことに対して妄想を抱いておくことが大事だと僕は思う。

未来のために、今やるべきことを考える

──最後に若手ビジネスパーソンに伝えたいことがあればお願いします。

まず、「自分中心の発想ではダメ」っていうことです。僕は若い頃、ずっと、自分の好きなこと・得意なことと、人の役に立つこと・やらなければならないこと、その2つを結びつけたいと思っていたのですが、なかなかできずに悩みました。それがようやく結びついたのは、37、8歳くらいの時(第1回参照)。もしその2つが合致していないと、やりたいことが実現できないんですよ。仕事って、一人で行うわけじゃなくて、多くの人の協力があって実現するんですが、誰かに協力してもらいたいと思った時、その理由がただ「自分が好きだからやりたい」では弱い。誰も協力してはくれないでしょう。

だから自分中心の発想ではダメで、写真集作りのくだりで話した、このプロジェクトをやることで協力してくれる人たちにとってどんなメリットがあるのか、どれだけ日本のためになるのかということを提示することが重要(第2回参照)。それはやりたいプロジェクトが大きくなればなるほどそう。多くの人の協力が必要となるから。これは写真だけじゃなくてどの仕事でも同じですよ。だから一般の会社で働く人たちも、自分を中心にした利己的な発想から利他的な発想に切り替えて、「やりたいこと」と「やらねばならないこと」の接点を探る努力をした方がいいと思います。

また、例えばメーカーの人だったら「この商品を売りたい」という自分中心の発想で考える人が多いけど、「この商品を売ることによって、誰かが幸せになったり社会をよりよく変えたい」というところから発想した方がいいと思うんですよ。そうしないと世界との戦いに勝てないんじゃないかと。僕はそれを写真でやってるんだけど、他の仕事をしている人にも「自分からの発想」じゃなくて「相手からの発想」という考え方も必要なんじゃないかということを伝えたいですね。

もう1つは、未来のために今、行動しようということです。「未来」って、以前は「空想の中のもの」であり「勝手に向こうからやって来るもの」だったと思います。でもここ最近は「自分たちで積極的に作ってゆくもの」に変わりつつあると僕は感じているし、多くの人もそうだと思います。言うまでもなく、未来は僕たちが日々選択する先にあるもの。ですから、間違ったイメージで選択を続けると間違った未来を引き寄せてしまう危険性がある。そうならないために、僕は、日本を支えている立ち入り禁止の現場に入って写真を撮影し、発表しているわけです。

皆さんの中には西澤のようなことはできないよと思う人もいるでしょう。それは当然です。人はそれぞれ立場も違えば得意なことも違うから。でも重要なのは、やるべきことをみつけ、それを実行することだと思うんです。結局できることでやるしかないわけです。僕にできることは写真で皆さんに、日本を支えている産業に興味をもってもらうきっかけを提供することだけ。皆さんは皆さんの立場でできることをやればいいんです。よりよい未来を作るために、お互い、頑張りましょう。

~取材を終えて~

西澤さんと初めてお会いしたのは昨年11月の大人の社会科見学的なツアー。その時、写真集の作り方や『福島第一 廃炉の記録』の苦労話などいろいろお話をうかがって、このような写真家には出会ったことがないと思い、取材を申し込みました。取材は群馬の西澤さんのご自宅でさせていただいたのですが、お昼くらいから聞き始めて終わったら外が真っ暗になっていました。西澤さんは1つの質問に対して言葉を尽くして丁寧に答える誠実な人でした。お忙しいところ長々とお付き合いいただいた西澤さんに改めて御礼申し上げます。西澤さんのお話、企画書の通し方や納得のいくキャリアの築き方、仕事観、人生観は一般のビジネスパーソンにも役に立つことが多いのではないでしょうか。

取材・文:山下久猛 撮影:守谷美峰

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