新日本プロレス大張社長が語る「ストロングスタイルなキャリア論」

44歳でプロレス界に飛び込み、コロナ禍に社長に就任し、大幅な減益となった新日本プロレスリングのピンチを救った大張高己氏。日本最大級の経営層・人事コミュニティ「グローバル人事塾」のイベントに登壇し、1夜限りのオリジナル講義を行った。そこで語られた大張社長のキャリア論や組織マネジメントについて紹介する。

新日本プロレスリング株式会社 代表取締役社長 大張 高己氏

新日本プロレスリング株式会社 代表取締役社長 大張 高己氏
New Japan Pro-wrestling of America, Inc. CEO
株式会社ブシロード 執行役員スポーツ&ヘルスケア本部長

1997年NTT入社。SEとして勤務しながらV1リーグ(当時)バレーボール選手としても活動。同社在籍中にカリフォルニア大学にてMBAを取得。M&Aや新ビジネス開発に従事したのち、法人営業部長、営業支店長等を歴任。2018年12月執行役員としてブシロード入社。翌年1月新日本プロレス経営企画部長。同年11月米国法人を設立しCEO就任。2020年10月より新日本プロレスリング代表取締役社長(第10代)。今年50周年を迎えた新日本プロレスにおいて、自身のバックグラウンドとコロナ禍の環境変化を捉えデジタルとグローバルに重点を置いた経営を行っている。

コロナ禍で半減したオンサイト事業をオフサイト事業で回復

新日本プロレスリング(以下、新日本プロレス)は、今から50年前となる1972年にアントニオ猪木さんによって設立されました。強さを追求する「ストロングスタイル」を掲げながら、国内外で年間約200大会を開催しています(配信含む)。

年間40万人超を誇っていた動員数は、コロナの影響で約20万人と半減しましたが、ECサイトでのグッズ販売や映像配信、アプリ事業など、新たなビジネス展開を行うことで収益の多角化を図っています。さらにビジネスモデルのマーケティングの仕掛けとして、テレビ配信、SNS、動画、選手たちの芸能活動があります。

「スイーツ真壁」でおなじみの真壁刀義選手、ガラガラ声の本間朋晃選手、CMやバラエティー番組にも多く出演しているオカダ・カズチカ選手など、プロレス界を牽引する人気レスラーはもちろん、コアなプロレスファンでなくても、テレビなどの芸能活動で活躍する選手もたくさん所属しています。

以前は興行のチケット販売、会場物販、サイン会などのオンサイト(動員連動)が事業の7割を占めていました。現在はコロナの直撃を受けたことで半減した事業に、デジタルを取り入れたオフサイト(動員非連動)に、グローバル展開も取り組むことで、右肩上がりに収益を取り戻してきました。

苦しいドメインと追い風が吹くドメインをしっかり分けて、リソースや社員・選手たちの気持ちを向けることで乗り切ってきた。まだ終わってはいないんですけど、これがコロナ禍を乗り切った、新日本プロレスの経営だったと思います。

● コロナ直撃で激減したオンサイト事業と追い風になったオフサイト事業

※資料提供:新日本プロレスリング

バレーボール選手、MBA取得、44歳でプロレス業界へ

私は広島で生まれ、少年時代からプロレスに憧れていました。学生時代はバレーボールに専念し、188㎝という身長を活かしてセッターをやっていました。その選手時代の活躍を買ってくれたNTTに入社。実業団バレー選手として活動しながら、システムエンジニアとしても頑張っていた。MicrosoftのMCSE(マイクロソフト認定エンジニア)資格も必死で勉強して取得しましたね。

国体準優勝やV1リーグ昇格も果たし、25歳で引退します。NTTでビジネスパーソンとしての可能性を試してみたくなったんです。その後、アメリカのカリフォルニア大学に海外留学して、MBAを取得します。経営戦略、M&A、サービス開発、法人営業など、社内でのキャリアチェンジを経て、2018年に一念発起して、ブシロードに転職しました。

2019年4月に、新日本プロレスに経営企画部長として異動後、11月にアメリカ法人『NEW JAPAN Pro-Wrestling of America Inc.』を立ち上げて、自らCEOに就任。2020年1月には新日本プロレスの社長に就きました。US社長と経営企画部長、マーケティングを兼務しながら、東京ドーム2連戦で7万人を動員できた。2022年現在は、ブシロードのスポーツ&ヘルスケア本部長も兼ねています。

● ニューヨークで開催された「マディソン・スクエア・ガーデン大会の様子

※写真提供:新日本プロレスリング

賭ける覚悟を持って「人を活かす」キャリアを歩んできた

キャリア形成や自己分析のフレームワークでよく使われる「Will-Can-Must」。この3つが伴っている仕事ができている人は、幸せだと思うんですよね。自分の憧れや夢であり、自分の特性が活かせる、それを会社や環境が求めてくれる。私自身、今のキャリアはこの3つが重なっていると思っています。

さらに4つ目があるんです。それは「賭ける覚悟」。なぜかというと、レスラーは命がけで戦っているから。選手たちは、「家族や大事な人ともう会えなくなるかもしれない」と覚悟を決めて家を出ます。

● 大張社長はなぜ、このキャリアを選んだのか

例えば、高橋ヒロム選手はIWGPジュニア王座の第81代王者ですが、防衛戦で首を骨折する負傷を負い、王座を返上したことがあります。それでも復活して王座を取り戻し、今日も後楽園ホールでタイトルマッチメインイベントに挑んでいます。プロレスを愛し、命を賭ける覚悟があるからできることなのです。

バレーボール選手時代に学んだことの一つは、セッターが目立つチームは弱いということ。実は私の根幹にある性格は、目立ちたがり屋なんです。実はスパイクを打つ人になりたかった。だけど、セッターが打ってたら試合に勝てない。僕の役割は打つことじゃなくて、スパイカーに得点が取れるトスを上げること。人を活かす経営の原点はこの頃から無意識に身についたんだと思います。

二つ目は、世の中は「理不尽」と「偶然」だらけだということ。いくら基本通りに練習をやっていても、ボールはどこから飛んでるかは究極わからない。それこそAIが弾いた通りにやっていたって、理不尽なことは必ず起きるんですよね。そんなときでもくじけない、いじけない。

むしろ理不尽は相手側にも起きる。周りにも平等にやってくるので、それを偶然だとポジティブに転換していく能力がとっても大事だと思っていました。それは会社員となり、社長となった今も変わりません。

三つ目は、戦略のルーツ・本質はスポーツもビジネスも一緒であること。ただし、超オーソドックスな戦略理論やストラテジーの経営学を学ぶことはとても大事。自分の感覚がどのくらいずれているのか、いま誰も経験したことないことにぶち当たっているんじゃないかといったバランス感覚がわかるようになります。だから若い人は、特に戦略論や経営学はしっかり学んだ方がいいと思います。

ここまで話してきたように、やはり私は裏方であり、一番光るべき選手たちの輝きを広げることが、天命だと考えています。

キャリア形成に大事だと思う4つのこと

私はキャリア形成において大事だと思っていることは、以下の4つです。

1.学ぶことをやめない

学ぶことをやめては絶対だめです。努力はときに人を裏切ります。でも、技術と知識はどこかで必ず自分を助けてくれはずです。

2.自分らしさを活かす

これは特に部下のマネジメントにおいて重要なポイントです。その人が何をしたいのか、何が好きなのか、寄り添って考えてあげる。その人が何を生きがいにしてるかを考えることはもちろん、自分のキャリアについてもそうです。

3.自分ごとと捉える

大きな会社では、自分の人事は人事部が決めることがほとんど。でも、人生の大半は通勤時間も含めて仕事に費やしていますよね。でも、本当はどうしたいのかを考え、自分の人生をこのまま他人に託していいのかを考えることも大切だと思います。

4.強い気持ちを保つ

不本意な人事もそうですが、理不尽や偶然というのはもはや自然の節理であって、取り除けません。それを「戦って負けました」ではなく、ポジティブに変換したり、最初から起きたりすることとして強い気持ちを保っておきましょう。

生まれ変わるなら、生きているうちに

私の好きな言葉と信条もいくつか紹介したいと思います。まずは、「ピンチは環境変化。環境変化はチャンスも必ず連れてくる」。ピンチはチャンスの環境変化の一つであって、必ずピンチの裏にチャンスはあるので、探すようにしています。

根を詰めて考えちゃうと出口が見えなくなることがあるんですけど、「戦略とは戦いを略すこと」。戦い方には、十人十色の答えがあります。戦いを略し、強い相手に勝とうとしないことも一つの観点です。つまり、魚と泳ぎで勝負しないということですね。

会社のお金を使うときは「自分の金だと思え」。会社のお金だから失敗してもいいやではなく、どれだけ魂込めて、その仕事をやっているか。自分のお金だと思って使うことは、とても大事な考え方だと思います。

「生まれ変わるなら、生きてるうちに」。私の場合、仮に65歳まで働くとしたらあと20年です。ターニングポイントは44歳でしたが、今振り返るとまだまだ前半戦だった。次の人生にかけるんじゃなくて、生きてるうちに生まれ変わりました。まだまだ、もう1個の夢を追い求めることもできる。

「努力は将来の自分を助ける作業である」と、私は定義してます。今やっている努力は全て将来の自分を助ける作業。将来、あのときの自分にありがとうと言える人生を送れたら、幸せになれるんじゃないかなと思います。

グローバル人事塾イベントで講義する大張社長
グローバル人事塾イベントで講義する大張社長

20代は「根拠のない自信」でいい

私のこれまでのキャリアを振り返って、各年代で体験してきたことをもとに、思っていることを語ります。

まず、20代の人たちには「めちゃくちゃ自信満々だけど、こいつの言っていることには根拠がないんだよね、この自信はどこから来るかわかんない」という根拠のない自信は大事にしてほしいですね。

だって、根拠が持てるほど、確信が持てるほど、生きてないんだから。張りぼてでもいいから箱だけ作って、経験を積みながら「自信」を持って埋めていけばいいのです。

ただそういう人が30代になると、経験を積んで裏付けができてくる。そうすると慢心に繋がっていくことが多いんですね。自分がプレイヤーだったら構わないのですが、マネジメント職に就いたときに、この人のためなら頑張りたいと思われるかというと難しい。天狗になっている人についていこうと思わない。そこは気をつけましょう。

40代は自分のターニングポイントでもありますが、キャリアの折り返し時点。まだまだ成長できる、変わるチャンスが存分にある時代になりました。悔いなき挑戦をしてほしいです。マネジメント職に就かれる方は、正しい戦略を愚直にまず見直した方がいいですね。

ただ、ビジネススクールの教授がみんな億万長者になっていないように、正しい戦略だけでは勝てません。人も理屈だけでは動きません。でも、感情には心奮わされて動く。考え抜いていれば、偶然も結構味方してくれます。悔いなき挑戦を続けていきましょう。

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取材・文 馬場美由紀 取材協力:グローバル人事塾
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