日曜劇場『TOKYO MER ~走る緊急救命室~』に学ぶ、職場の対立を解消する方法

社内の他部署と対立したり、顧客と意見が食い違ったりすることはよくあるもの。組織の対立が深まるとサイロ化を招き、事業スピードが落ちてしまうことも。TBS系で放送中の日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』では、救命救急のプロフェッショナルチームが消防庁のレスキュー隊や警察の機動隊、政治家、厚生労働省など、対立する組織と連携し、人命を救助する姿が印象的です。そこで今回は、業務プロセスを改善するプロフェッショナルである、沢渡あまねさんに組織の対立構造を解決し、協調に変える方法について聞きました。

日曜劇場「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(TBS系)画像

あまねキャリア株式会社 代表取締役CEO 沢渡 あまねさん

沢渡あまねさん業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。株式会社なないろのはな 浜松ワークスタイルLab所長、株式会社NOKIOO顧問ほか。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり(
著書は『業務改善の問題地図()』『職場の問題地図()』『チームの生産性をあげる。()』『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?()』『バリューサイクル・マネジメント()』など多数。

【scene1】部署間の対立が起きたとき、どう行動するか

大規模な事故現場に出動することになった「TOKYO MER」は、事故を起こしたトラックの運転手を、まだ救出作業が終わらないのに現場でオペしようとします。一刻もはやく運転手を救いたい「TOKYO MER」のチーフ、喜多見幸太(鈴木亮平)と、東京消防庁レスキュー隊の隊長である千住幹生(要潤)は現場で対立してしまいます。

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千住(消防庁)「医者は安全なオペ室で待ってろ。危険な現場から人を救うのが俺たちの仕事だ」
喜多見(医師)「縦割り云々言ってる場合じゃないでしょう。大切なのは命を救うことですよ」(1話より)

頭では「縦割りはダメだ」とわかってはいても、実際にサイロ化している現場に直面したときになかなかストレートに言い出せないものです。相手にことばをぶつけることでハレーションが起きたり、もともと分断していた組織がより分断する恐れもあるでしょう。仕事の最前線で、違う部署の担当者と対立してしまったらどう対応すればいいでしょうか。

日曜劇場「TOKYO MER~走る緊急救命室~」相関図で見る組織対立構造

日曜劇場「TOKYO MER~走る緊急救命室~」相関図で見る組織対立構造
写真提供 TBS(C)

1.どうすればいいかに目を向ける

大切なのは、対立構造だけに目を向けないことです。一旦、対立構造から目をそらし、両者の共通の目的に目を向けることが重要です。このシーンでは医師・喜多見さんの言う通り「命を救うにはどうすればいいか」という全員に共通する「目的」にフォーカスしている点がポイントです。組織構造の問題ばかり指摘していると、相手への批判・否定になってしまい、協力関係を築けません。なるべく、相手を責めない姿勢を取りましょう。

ただ「縦割り云々言ってる場合じゃないでしょ」というセリフは少々残念ですね。まさにそのセリフこそが、縦割り構造をクローズアップする批判的な言葉です。この言葉が対立に火をつけ、問題解決に向けた建設的な行動を阻んでしまうリスクがありました。批判ではなく、共通の目的にフォーカスできれば状況を打開する折衷案や第三のアイデアが生まれる可能性もあるはずです。

2.「より良い結果」にフォーカスする

このシーンで「TOKYO MER」のメンバーは、レスキュー隊から「救助の現場に介入するな」と釘を差されます。しかし「現場の状況を理解しておくことで、スムーズな人命救助が可能になる」など、より良い結果のためのアプローチだと事前に伝えていれば、レスキュー隊 隊長の心を動かせたかもしれません。

ビジネスシーンでも似たようなことはあるはずです。たとえば企画部門が新商品の概要をなかなか教えてくれなので、開発部門が体制を整えらなくてじりじりすることなど。「良い商品を開発するため」といった「結果」にフォーカスしてコミュニケーションをとれば、より早い段階から情報をもらえ、前向きな連携が可能になるかもしれません。

さらに、企画部門のオンライン会議に参加させてもらう、案件進捗の共有フォルダにアクセス権をもらうといった形で、「より良い結果のためにまずは情報共有させてほしい」とアプローチするとスムーズにいくのではないでしょうか。

3.自らやってしまう

こうしたトラブルの現場では、リーダーシップを持った人が現場を掌握します。ここで喜多見がやっているのは、自分たちができることを見つけて、やれることからやるという方法です。このケースでは喜多見が「現場でオペをはじめないと被害者の命は助かりません。私たちがオペをはじめますので、レスキュー隊は重機で鉄骨を撤去してください」と、その場に居合わせた人に期待役割を示しています。

その場にいる人のアイデアをどんどん引き出し、活かし、臨機応変に動くことは、早急に問題を解決する一つの手段だと言えます。部門横断で動くことのない組織では、自ら越境社員第一号となって動いてみるのもいいでしょう。

もちろん、部署を越境することは、さらなる対立を生む可能性もあります。ただ、私自身の経験からすると、「越境された側」の人たちは「やってくれてありがとう」と感謝してくれたり、協力してくれる人が多かった印象があります。ビジネスにおいてオーナーシップは発揮した人勝ち。まさに、「許可を求めるな、謝罪せよ」。プロジェクトを「自分ごと化」し、「失敗したら謝ればいい」の精神でのぞみましょう。

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【scene2】組織の対立を解決し、状況を改善するには?

飲食店で発生した立てこもり事件。人質となった子どもは持病を持っていました。少女に薬を渡すために身代わりを志願する「TOKYO MER」のチーフ喜多見(鈴木亮平)と看護師の蔵前夏梅(菜々緒)は、自分が薬を持って立てこもりの現場に入ろうと提案します。しかし、警視庁の上層部は「何かあったら警視庁のメンツは丸つぶれ」「素人に現場は行かせられない!」と、突入を阻むため状況が進展しません。

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喜多見「目の前で子どもが死にかけているんだぞ!メンツとか恥とか、どうでもいいでしょ!いま俺たちが行かないと、ひまりちゃん(人質)は助からないんですよ!」
赤塚都知事「喜多見チーフの案を採用してください。責任は私が取ります」
警視庁「これは警察の問題です。余計な口を出さないでいただきたい」(3話より)

メンツにこだわる上層部に、現場の状況に合わせた意思決定をしてもらうにはどう説得すればよいでしょうか? 

ヒエラルキー構造の強い組織は、第三者を巻き込むべし

ヒエラルキー構造が強い組織では、ボトムアップでものごとを動かすのは難しいことがあります。「上層部に提案しても何も変わらない」という無力感も大きすぎるのです。その場合は、問題意識や目的に共感してくれる「外部の第三者」を味方につけ、巻き込む方法を模索しましょう。味方となってくれる第三者には、次のパターンがあります。

顧客
取引先企業
メディア
他部署
部長や取締役などの上層部

今回、喜多見は東京都のトップである都知事を味方に、ヒエラルキー構造を突破します。このとき喜多見は、警視庁の顔色など伺わず、都知事の顔だけ見て「わかりました、対応します!」とそのまま現場へ行ってしまえば良いのです。

ただ、一つ気をつけなければならないことがあります。この方法は非常に有効なのですが、「階層飛ばし」となるため禍根を残すことがあります。そこでハレーションの起こらないやり方として「幸せな階層飛ばし」の方法も検討したいもの。それは、「直属の上司より上の立場の人が見えるような場所に(ホワイトボードなどを置いて)問題や課題を書き出す、議論する」という方法です。(沢渡さんの書籍『ここはウォーターフォール市、アジャイル町()』より引用)

たまたま通りがかった上層部が勝手に問題や課題に気づいてもらう。「こんな問題や課題があるのね」「これって、私が意思決定すれば解決する話?」など、通りすがりの上長が気にして、解決のための協力者になってくれることも良くあります。直属の上司は「階層を飛ばされた」とフラストレーションを感じることなく(その上の上司が勝手に気づいて、勝手にコメントしただけですから)、現場の問題も解決する。対立を生まずに、組織の課題を解決する手段の一例です。

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【scene3】敵対組織を倒すために、共通の仮想敵を設定する

凶悪犯が重病の少女を人質に立てこもる事件が発生。銃撃戦で一人の隊員が撃たれてしまいます。隊員を助ける緊急オペをその場で行おうとする喜多見ら「TOKYO MER」ですが、銃を構える犯人を前に警視庁の上層部は体面ばかり気にします。すると、それまで対立していた機動隊の隊長が味方になって行動を起こします(3話より)。

日曜劇場「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(TBS系)画像

ビジネスシーンで敵対する組織と結託して大きな敵を倒すには、対立していた組織をどう味方にしたらよいでしょう。

「共通の仮想敵」を設定して手を組もう

敵対する組織を味方にしたいと思った場合、「共通の仮想敵」を設定することでうまく手を組むことができ場合もあります。これは交渉戦略をうまく進めるための手段の一つです。「共通の仮想敵」に立ち向かうべく、互いが協力するために、双方のゴールや戦力が明確になることもメリットです。高いハードルを乗り越えるべく、互いにアイデアを出し合い考えていく共闘関係を組むことができるのです。

たとえば、双方の上司を仮想敵と設定して協力する。営業と顧客が商品の値引きについて折り合いがつかず、商談が進まないシーン。営業は「上司がこれ以上の値引きできないと言ってるんです」、顧客は「うちの上司はこれ以上高い金額では購入できないと言っている」と主張したとします。

そこで、互いの上司を仮想敵と置き、どうやって納得させるか腹を割って話し合ってみる「突破の方法を探り合う」「落としどころを探る」アプローチです。その結果、営業担当者は受注できるし、お客さまは導入したい製品を無事購入できることに繋がるのです。もちろん、やりすぎは結託や癒着になるため注意が必要ですが、共通のゴールを設定して協力関係を構築し、困難を突破すると考えてみてはいかがでしょう。

「仮想敵」の設定とは、組織間に横たわる対立構造はいったん横に置いておき、互いの現状を客観視し対応策を前向きに検討するための手法です。敵だと思っていた相手と、共通の「仮想敵」を突破するために一緒に悩むことで、信頼関係は強くなります。結果、プロジェクトをスムーズに進めるきっかけをつくることができるでしょう。

【まとめ】プロジェクトの目的や成果にフォーカスしよう

日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』の主人公 喜多見チーフは、相手との対立を加速させるような発言をすることもありますが、「命を救う」という全員に共通する目的を掲げて、リーダーシップを執る姿は素晴らしいと思います。

意見が対立すると相手チームの悪い部分ばかり目がつき、つい批判・否定してしまいたくなります。しかし、それでは対立が深まるばかりで問題解決につながりません。今回お伝えしたように、対立構造に目を向けることをやめ、プロジェクトの目的や、より良い成果を上げることにフォーカスしてみましょう。

<番組情報>

日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系・日曜21時~)

TOKYO MER~走る緊急救命室~(TBS系)画像重大事故、災害、事件の現場に駆けつけ、命を救うために危険な現場に飛び込んでいく救命救急チーム「TOKYO MER」の活躍を描く。「TOKYO MER」とは都知事の号命を受けて新設された救命救急のプロフェッショナルチーム。最新の医療機器とオペ室を搭載した大型車両で負傷者にいち早く救命処置を施し、“一人も死者を出さないこと”をミッションとする。
出演は鈴木亮平、賀来賢人、中条あやみ、要潤、菜々緒、仲里依紗、石田ゆり子ほか。

WRITING:石川香苗子
新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。
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