20代の暗黒期をどう乗り越えたのか?『伝え方が9割』佐々木圭一さんが、悩める若者に伝えたいこと

シリーズ148万部突破のベストセラー『伝え方が9割』(ダイヤモンド社)の著者で、コピーライターとしても数々の賞を受賞している佐々木圭一さん。しかし、20代のころはなかなか芽が出ず、1日に300~400本のコピーを書いても全く採用されないという「暗黒時代」が数年間も続いたのだとか。そんな状況をどう乗り越えたのか、そして今まさに悩み、迷っている20代ビジネスパーソンへのメッセージをお聞きしました。

佐々木圭一さんメインカット

佐々木圭一さんプロフィール写真佐々木圭一さん

コピーライター、作詞家、大学非常勤講師。株式会社ウゴカス代表取締役。
1972年生まれ。上智大学大学院を卒業後、1997年に博報堂に入社しコピーライターに。40歳の時に伝え方の法則をまとめた著書『伝え方が9割()』(ダイヤモンド社)を発売し、現在までにシリーズ148万部突破の大ベストセラーに。広告制作では、カンヌ国際広告祭でゴールド賞を含む3年連続受賞、など国内外55のアワードに入選入賞。企業講演、学校のボランティア講演、あわせて年間70回以上。郷ひろみ、Chemistryなどの楽曲の作詞家として、アルバム・オリコン1位を2度獲得。『世界一受けたい授業』等テレビ出演多数。

「コミュ障」を克服するために広告代理店に就職

もう20年以上前になりますが、新卒で入社したのは博報堂で、配属部門はコピーライターでした。華々しいスタートのように見えるかもしれませんが、何百本とコピーを書いても全然採用されず、悩み苦しみ抜いた時期がありました。

もともと理系出身で、大学、大学院とロボットの研究をしていた私が就職先に広告代理店を選んだのは、「コミュ障」だったから。人とのコミュニケーションが苦手で、高校時代は好きな女性に振られまくっていましたし、大学・大学院では研究がメインで人と交流する機会もあまりありませんでした。

私のいた研究室では、大学院修了後はそのままメーカーの研究所に進む人が大半でしたが、このまま研究の道に進んだら、一生苦手を克服できないのではないか…という危機感を覚え、「コミュニケーションを取る機会が多い会社に行けば、少しは上手になるのではないか」と考え広告代理店を選んだのです。ちなみに、就活を始めるまで「広告代理店」という存在すら知らなかったので、博報堂に入社できたのは運がよかったのだと思います。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

1日300本以上コピーを書いても全く採用されない「暗黒時代」

佐々木圭一さん20代の頃
▲コピーライターとして駆け出しの頃の佐々木さん

ただ、クリエイティブ部門への配属は想定外でした。新入社員全員が受けたクリエイティブテストで、なぜか「適性がある」と判断されたのが理由だそうです。しかし、当然ですがコピーなんて書いたこともない。お給料をいただいている以上、頑張って書こう!と思って1日300本以上のペースでコピーを書くのですが、全く採用されませんでした。

これだけの本数を毎日書くためには、睡眠を削って時間を捻出しなければなりません。当時の睡眠時間は、毎日3~4時間ほどしか確保できませんでした。それなのに、上司に大量のコピーを持っていっても速読のようにサーッと見られて、「何もないな」と言われて終わり。がっくりしました。

私は今もたまに、立ったままコピーを考えたりするのですが、これは当時の習慣によるものです。常に睡眠不足で、座って考えているといつの間にか寝てしまうから、ずっと立ったまま。まだ若くて体力もあるから何とか乗り切れていましたが、心身ともに本当にきつかったですね。こんな生活が、入社後4年ぐらい続きました。

ただ、仕事を辞めるという選択肢はありませんでした。当時はまだ、今ほど転職がポピュラーではなかったし、両親も博報堂に入ったことを喜んでくれていたからです。睡眠時間を削り、起きている時間の中で1分1秒でも長い時間を、コピーに費やす。もしかしたら、次に書く1本が評価されるかもしれないと、締め切りギリギリまでずっと書き続けていました。

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暗闇の中でもがき続けたから、「言葉の法則」に気づけた

そんなある日、気付いたことがありました。入社以来、映画やドラマ、CMなどの「心に留まったいい言葉」をノートに書き留め、ことあるごとに読み返していたのですが、ふと「この言葉とこの言葉、なんか似ている」と気づいたのです。

その言葉とは、大ヒットした映画『踊る大捜査線』の「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」と、ブルース・リー主演の映画『燃えよドラゴンの』の「考えるな、感じろ」。いずれも少し時代を感じる映画の名台詞ですが、この2つはいずれも、「起きてるんじゃない・起きている」「考えるな・感じろ」という正反対の言葉が使われています。もしかしてこの「正反対」を応用できるのではないか…と考え、「周りの人みんな頭が悪く見えるぐらい、あなたは頭がいい」と書いてみた。すると、単に「頭がいい」と言われるよりもずっと心に響く。これだ!と思いました。

それまで、コピーはひらめきやセンスで生まれるものだと思っていて、「自分はひらめかないし、センスもない」と落ち込んでばかりいました。しかし、「考えるな・感じろ」のような法則に気づいた後、世の中の「心に響く言葉」を見渡してみると、すべて何らかの法則があることがわかったのです。例えば、リンカーンの演説「人民の、人民による、人民のための政治」のように同じ言葉を繰り返して印象付けるという「リピート法」や、エジソンの言葉「天才とは1%のひらめきと、99%の努力である」のように言葉の中に数字を入れて説得力を上げる「ナンバー法」など。

そして、これらの法則をもとにコピーを書き始めたら、次々に採用されるようになったのです。徐々に効果が表れたのではなく、本当にある日突然、急に。がらっと世界が変わり、上司からも一目置かれるようになり、コピーライターとしてヒットを飛ばし続けるようになりました。

言葉の法則に気づき、長く続いた「暗黒期」を脱出できたポイントは、まずは自分が理系出身だったからだと思っています。理系の知識なんて、コピーライターの仕事に何一つ活かすことができないと思い込んでいましたが、理系脳だったからこそ、言葉を分解して法則を見つけ出すことができた。過去の意外な知識や経験が、ある日突然、思いもよらない方法で自分を救ってくれることもあるのだ…と気づかされました。

また、愚直なまでにコピーに向き合い続けたことも、プラスに働いたのだと思っています。「自分にはもう無理だ」とあきらめるのではなく、暗闇の中でも立ち止まらずあがき続けたからこそ、あの日の発見があったのだと感じています。

仕事がうまくいかず、出口が見えなくて辛い…と思っている人も、私のようにある日突然、思いもよらない経験や知識が突破口になる可能性は大いにあります。その日に備え、そのためにも、どんな仕事にもがむしゃらに取り組み経験値を上げておくのは、現状を打破するための有効策だと思います。

「伝える能力」を磨くことは、壁を乗り越える原動力にもなり得る

佐々木圭一さん企業研修のもよう
▲「伝え方の技術」を学ぶ講演会や企業研修の依頼に応え続けている

今振り返れば、「20代の苦労があるから、今がある」と心から思えます。暗黒時代の渦中にあるときは「辛い、苦しい」としか思えませんでしたが、その中でもがき続けたから気づけたものがあった。そして、その集大成が著書『伝え方が9割』。自ら発見した法則をもとに、「伝え方ひとつで相手の受け取り方がガラリと変わり、コミュニケーションが円滑になる」ことを解説した本です。

今の私の目標は、日本のコミュニケーション能力のベースアップに貢献すること。日本のものづくりの技術は本当に素晴らしく、世界に誇れるいい商品やサービスがたくさんあります。しかし、その良さがうまく伝えられず、グローバル市場でなかなか売れない。つまり、日本人が今まで力を入れてこなかった「伝える」能力を磨けば、日本はぐんと強くなると思うのです。

そして、今仕事に、キャリアに悩んでいる20代の皆さんこそ、ぜひ「伝え方」の技術を身に付けてほしいですね。
例えば、「この提案を通したいけれど、どうせ課長は私の意見なんて聞いてくれない」なんていうとき、伝え方の技術を知っていれば結果はガラリと変わるはずです。

ポイントは、自分の頭の中にある思いをそのままストレートに伝えるのではなく、「相手の目線に立って、言葉にする」こと。自分の希望や要望をただ伝えるだけでは、「イエス」の返事はもちろん、そもそも聞く耳を持ってもらえません。相手の頭の中を一生懸命想像して、相手がメリットを感じそうな伝え方を考えるのです。

そうすれば、話を聞いてもらうチャンスが増え、イエスをもらえる確率も上がり、以前よりも仕事がスムーズに回せるようになるでしょう。こうして小さな成功体験を積むほどに、仕事がどんどん楽しくなっていき、仕事に対する悩みや不安も軽減していくと思います。

20代はもっと「チャレンジの総数」を増やしたほうがいい

これは、20代の頃の自分自身にも言いたいことなのですが、若いうちはチャレンジの機会を増やすべきだと思っています。

もちろん、1日に300本以上のコピーを書くなど自分なりに努力はし続けていましたが、コピー漬けではなく別のことにも挑戦していたら、視野が広がり、もっと早く言葉の法則に気づくことができ、早期に暗黒期を脱出できたかもしれません。

失敗が怖いから、なかなかチャレンジできないという人がいます。失敗したら恥ずかしいし、馬鹿にされそうだから…と二の足を踏む気持ちはわかります。でも、チャレンジしなければ、当然ながら成功もない。そして、やってみたら意外に成功したりするんです。
チャレンジの総数を増やせば、失敗する機会も増えるかもしれませんが成功回数だって増える。それがビジネスパーソンとしての血となり肉となります。

チャレンジは小さなものでも構いません。いつものルーティンを見直し、仕事のやり方をちょっと変えてみるというチャレンジでも、それで視点が変わり、新たな気づきが得られたりします。始めは、行きつけの中華店で、いつもはラーメンだけれど今日はにら玉を頼んでみる、なんてチャレンジでもいい。そういう小さなチャレンジの積み重ねで「視点を変える」が習慣化できるようになり、新しい発想が自然に生み出せるようになります。

そもそも、チャレンジして失敗したところで、何の問題もありません。先日、日本テレビの森圭介アナウンサーと話していたとき、彼が「チャレンジの結果は勝つか負けるかではなく、勝つか学ぶか」と話していて非常に共感しました。つまり、チャレンジはどちらに転んでもいい結果しか生まないのです。「失敗する」ではなく「学べる」と思えば気持ちが軽くなり、一歩踏み出しやすくなるのではないでしょうか。

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EDIT&WRITING:伊藤理子
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