やりたいことが見つかる体質の作り方、直観の磨き方―映画『ONODA 一万夜を越えて』主演・遠藤雄弥さん×津田寛治さん対談

終戦から29年もの間、戦地として赴いたフィリピンのジャングルの中にいた小野田寬郎さんの半生をフランス人監督が描いた映画『ONODA 一万夜を越えて』が公開されています。青年期と成年期の小野田役を演じた遠藤雄弥さんと津田寛治さんに、その複雑な心境について、そして自身のキャリアについて目からウロコのお仕事観をうかがいました。

遠藤雄弥さん_津田寛治さん_ツーショットカット

プロフィール

遠藤雄弥(えんどう ゆうや)

1987年、神奈川県生まれ。2000年に映画『ジュブナイル』でデビュー。近年の出演作に映画『無頼』(21)、ドラマ『青のSP―学校警察・嶋田隆平―』(KTV)『ボイスⅡ 110緊急司令室』(日本テレビ系/いずれも21)など。映画『辰巳』(21)、『ハザードランプ』(22)の公開が控えている。

津田寛治(つだ かんじ)

1965年、福井県生まれ。93年に『ソナチネ』で映画デビュー。近年の出演作に、映画『名前』(18)『山中静夫氏の尊厳死』(19)、ドラマ『特捜9』(テレビ朝日系)、『青天を衝け』(NHK)など。『カタラズのまちで』(13)、『あのまちの夫婦』(17)など自身の脚本・監督作も手掛けている。

映画『ONODA 一万夜を越えて』 戦後29年もの間、ジャングルにいたのはなぜか?

映画では、実在した小野田寬郎さんが、作戦で上陸したフィリピンから日本に帰国するまでの約30年が描かれています。「小野田さんは終戦を知らずにジャングルにいた」とも言われていますが、作中では薄々終戦に気づいていたような場面も描かれていました。ならば、なぜ日本に帰らなかったのか。その心の謎について、演じたお二人にうかがいました。

―劇中で終戦5年目に、小野田さんの父親と兄が「戦争は終わった」とジャングルに迎えに来ます。その時の小野田さんの反応が圧倒的でした。喜びでも安堵でもなく、複雑な感情が入り交じっていて…。

津田 あの場面の遠藤くん、すさまじかったですね。

遠藤 あのシーンは、共演の松浦(祐也)さんが一緒だったから、あそこまでできたんだと思います。僕がどんな芝居をしても、受け止めてくれたので。この作品の小野田さんは、コンプレックスが色濃く描かれていて、冒頭でも高所恐怖症で航空兵になれなかったエピソードが出てくるんですけど。

津田 航空兵は、戦時中の花形だったんだよね。

遠藤 そうなんです。父親のもと、お兄さんと比べてのコンプレックスも描かれていて、だからこそ戦地に父親が自分を迎えにやってきたとき、映画にあるような、ぐちゃっとした感情になったのかなと。演じながら、僕の中では、そういう思いが強かったです。

―一方で、津田さんは成年期の小野田さんを演じていますが、日本に帰ることになるあたりのうつろな目が、また印象的でした。

津田 遠藤くんとの差は、すごく出ていましたよね。遠藤くんが演じた若いころは、ギラギラとした兵士だったわけじゃないですか。それが成年期の僕らのシーンにつながると、歳をとったと思いきや、逆に子どもみたいに無邪気になっている。長いジャングル生活を経て、ひょっとしたら、もう戦時中に下された命令なんて忘れちゃったのではないか…。そんな匂いすらしてくる描き方をされたアルチュール監督が素晴らしいなと思いました。

―その辺の複雑さが興味深い映画でした。映画を観ると、ラジオも聞えてくるし、終戦には気づいていたのかな…と。

津田 薄々、気づいていたと思うんです。でも終戦した先の人生を考えるのが怖くて、どうしても受け止められなかったのか…。だから、まだ終戦していないと思い込んで、答えを先延ばしにしていたのかもしれないなと。相手は風車だとわかっていながら、それを敵に見立てて突っ込んでいかないと人生のケリがつかないドン・キホーテの話みたいだなと思いました。

―そういう迷いは、遠藤さんが演じられた青年期の場面にも見られます。一緒にジャングルにいる部下たちが「何のために今自分たちは、ここにいるんだろう」という気分になっている中、小野田さんだけは信念が揺るがないように見えますが、それは本心なのか、それとも部下の手前、揺るがないように見せているのか…。

遠藤 まさに、そこの機微が、彼を演じるうえで、アルチュール監督とすごく模索していった部分なんです。信じる心は太い幹としてあるのですが、もしかしたら終戦しているのではないかという思いもあるわけですよね。

津田 そうだよね。

遠藤 その一方で、父親が終戦を知らせに来たことも、小野田さんは罠だと思っていたらしくて。だから、いや、まだ絶対に戦時中のはずだという思いもあって。

津田 仲間も戦死しているわけでね。その人たちの思いも背負って任務を遂行しなければ、申し訳が立たないという思いもあっただろうし。

遠藤 実際、小野田さんは仲間の死というのが、すごく大きかったみたいで。

津田 手記を読むと、帰国した後も、いちばんに亡くなった仲間の家族に、お詫びに行こうとしているんだよね。実際はマスコミにもみくちゃにされて、なかなか行けなかったらしいんだけど。

遠藤 もしも終戦しているとしたら、任務を遂行できなかった、というコンプレックスの入り交じった気持ちもあっただろうし、そこにさらに仲間との駆け引きもあって。すごく複雑な心境でジャングルの中にいつづけたんだろうなと、それは演じながら感じていました。

遠藤雄弥さん_インタビューカット

8,568通り、あなたはどのタイプ?

チャンスがないなら、自分から作り出せばいい

当時の匂いを漂わせ圧倒的な演技を見せた遠藤さんと、青年期を演じていないにもかかわらず、青年期に刻んだ感情の重みを表情に滲ませた津田さん。俳優としての凄みを感じさせるお二人ですが、自身のキャリアに迷いを感じたことはあるのでしょうか。貴重なお話、聞かせていただきました。

―20~30代は、やりたいことがあっても、なかなかアクションを起こせず、悩む人も多い年代かと。例えば、自分がやりたい作品があるときなど、俳優さんは自らアクションを起こされたりするのでしょうか?

津田 それは皆しているんじゃないですか。

遠藤 いつやるか、だと思います。僕は26歳からでした。それまでやってきたような仕事ではなく、自分がやりたい仕事がしたいと会社に話したんです。

津田 おお~。事務所の人は?

遠藤 やってみろとおっしゃってくださって。でも、やっぱり仕事はなくなりました。誰も名指しで、僕と仕事したいって言ってくれなかったんです。そのときに初めて気づいたんですよ。それまで仕事できたのは、自分で結果を出していたわけじゃなくて、周りの人たちに動かしてもらっていたんだなって。

津田 そのときは、どうしていたの?

遠藤 毎日、映画を2本以上観ようって決めて、ノートに感想を書き続けて。やれることはやらないと、気持ちを保てなかったので。それで、いい映画にたくさん出会って、なんとか続けてこられたんですけど。そのまま7年ぐらい試行錯誤して、自分なりにいろいろ挑戦してきて、この作品のオーディションのお話をいただいて。あのとき、辞めなくてよかったなと。一度挫折するのも悪くなかったなと今は思います。自分がこれだと思ったことを信じて動いてみてよかったなと。

―辞めようと思われたとき、辞めずにいられたのは?

遠藤 辞めるなって言ってくれた友達がいて。あと、『野獣死すべし』(1980)(編集部注:松田優作主演の映画好きにとってレジェンド的な作品)を観て、役者を続けようと思ったんです。ちょうどそのころ、『スマグラー お前の未来を運べ』(2011)という妻夫木聡さんが主演の映画を観まして。売れない俳優が主人公なんですけど、四畳半一間みたいなアパートに住んでいて、『野獣死すべし』のワンシーンを観ながら涙するんです。当時の自分と全く一緒で、すごく背中を押されました。

津田 『スマグラー』ね、俺、出てるんだ実は(笑)。おまわりさんの役。全然、キャスティングされていなかったんだけど、石井克人監督が『スマグラー』という漫画の原作を映画化するって聞いて、原作を読んだら面白いし、どうしても出たいと思って。たまたま後輩が同じ映画会社の別の映画のオーディションに呼ばれていたから、「じゃあ俺もついていっていい?」って、菓子折持って行ったんだよね。そうしたら、その映画会社のいつものキャスティングの方が「あれ、津田さん、何しにいらしたんですか」って慌てていらして(笑)。それがきっかけで、おまわりさん役が決まったんだけど。

遠藤 うわ~それ、おいくつのときですか?

津田 40歳ぐらい。

遠藤 40歳の津田さんってすでにすごく活躍されていたじゃないですか。僕も若いころ、菓子折持って、オーディション行ったことあるんですけど、それ以来、やっていないから。今、背筋が伸びました。

津田 でも、それね、松田優作さんの話を聞いたことがあるんだよ。『ブラック・レイン』(1989)のオーディションのビデオ映像ってときどき、テレビでも流れたりしているけれど、優作さんが自ら動いて、監督や製作の方と会うだけでも会いたいっていうところまで持っていって、あの役を勝ち取っているという話を人から聞いたことがあって。

遠藤 うわ~。

津田 俺はそれを聞いて、あの松田優作さんがそこまでやっているなら、今、自分が何歳だとか関係ないなと思ったの。だから、企業で働いている方も、自分に出番が回ってこなかったら、自分から働きかけみるって全然おかしなことじゃないと僕は思います。

津田寛治さん_インタビューカット

8,568通り、あなたはどのタイプ?

直感を養うことが、やりたい仕事との出会いにつながる

どうしたら、やりたいことができるのかという悩みの一方で、20~30代のビジネスパーソンから、たびたび聞かれるのが、やりたいことが見つからないという悩み。好きな仕事を続けるお二人は、自分の好きなことにどう気づいていったのでしょう。うかがってみると、興味深い「体質」の話になりました。

―やりたいことが見つからないという悩みもまた、よく聞かれます。

津田 多分、やりたいことをみつけられる人って少ないと思うんです。それに、焦る必要はないと思う。ただ、やりたいことが見つかる体質にしておくことは大事だなという気はします。

―やりたいことが見つかる体質ですか?

津田 何かを選ぶときに、なんとなく選ばない。ちゃんと意識して選ぶんです。自分はこうしたいから、これを選ぶんだって。そうやって意識して選択することを繰り返していくと、自分は何が好きなのかが徐々にわかってくる。やりたいことを見つける直感が養われるんです。

遠藤 おっしゃっていること、よくわかります。これだ!と思う直感力は本当に大事だなと。

津田 僕らの仕事で言うなら、映画をたくさん観ることで、自分がどんな作品が好きなのか、どんな作品をやりたいのか、イメージできるようになる。最初から、そういう直感が養われている人の方が少ないんじゃないかな。僕らも意外と、何が好きかって自分でわかっていないですから。

―不躾な質問ですが、津田さんは先程の遠藤さんみたいに「辞めたい」と思われたことは、あるのでしょうか?

津田 ないですね。

遠藤 おお!

津田 というか、ほかにやることないから俺の場合(笑)。最近は、どの仕事をしても、最終的には自分の心がけ次第だなと思えてきて。だから、さっきの話みたいに自分から動くってこともなくなってきていますね。新しい芝居にチャレンジしたいんですよ。それは、どんな役が来てもできるから。

―キャリアを重ねて、そう思われるって素敵なことですね。

津田 たしかに初心には戻っていきますね。だし、俳優は、それが赦(ゆる)される仕事だよね。

遠藤 そうなんでしょうね。

津田 いい結果を出せるなら、何していてもいいよっていう仕事だから。でも、これからの社会は、そうなっていくんじゃないかな。個人のやり方が尊重されて、いやいや仕事をやる時代が終わっていく気がします。

―今回の作品は、フランスのスタッフの方々が多い中、カンボジアでの撮影だったそうですね。

津田 全体として4ヶ月ぐらい撮っていて。日本だとなかなかそこまで時間を掛けないですから、ぜいたくでしたね。僕は1ヶ月いました。

遠藤 僕は2ヶ月でした。

津田 フランスのスタッフは皆、カンボジアまで家族を連れてきていて。週に1回、パーティーがあるんです。余裕をもって、いい作品を撮れる土壌みたいなものは、あったのかもしれないですね。ただ、日本で育った僕の感覚だと、仕事の場に家族が来ると気になって集中できなそうだけど(笑)。

遠藤 ほかの人はどう思うだろう……とか、つい気になってしまいそうです(笑)。でも、それも新しい風ですよね、家族が撮影現場に来るって。

津田 ね。あとは僕らも週休2日の撮影で。だから、1週間撮影した内容を整理する時間が持てたんです。

遠藤 それが、ちょうどよかったですね。異国のクリエイターたちと共通の意識を持って同じ時間をシェアしたというのは、発見が多かったなと。

津田 確かに。働き方もね、小道具さんでも、本当に我が道を行くという感じで、フランスのスタッフの人たちはあまり人の仕事を気にせず、自分の仕事をやりたいように楽しんでいる感じがしましたね。周りはどう思うだろうって気にしすぎていないというか。やりたいことをやるって大事だと思うんですよ。

遠藤 そうですね。それでいうとYouTubeがわかりやすい例というか。あれで食べていけている人たちって、頑張らなくても知識が溜まっていく、好きなことをしている人に、成功している人が多い気がして。

津田 そうだね。自分を犠牲にして会社に尽くすことが美しいという時代もあったけれど、これからは自分を差し置かない時代。自分が楽しんでいるから、人のことも考えられる。そういう働き方の時代になっていくんじゃないでしょうか。

遠藤雄弥さん_津田寛治さん_目線なし

インフォメーション

『ONODA 一万夜を越えて』

1974年、ある旅行者(仲野太賀)が、太平洋戦争中に戦地であるフィリピンのルバング島に行ったまま、終戦後も帰国することなく、ジャングルにいつづけた伝説の日本人・小野田寬郎(津田寛治)に会いに行く。時を遡ること、30年前――。そこにはジャングルの中、上官の谷口(イッセー尾形)から秘密裏のゲリラ戦の命令を受けた小野田(遠藤雄弥)とその部下たちがいた。終戦してなお、ジャングルで戦い続けた彼は、何を信じ、何と戦っていたのか――。

監督:アルチュール・アラリ
出演:遠藤雄弥、津田寛治、仲野太賀、イッセー尾形ほか
全国順次公開中

公式サイト:https://onoda-movie.com

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WRITING:多賀谷浩子 PHOTO:平山諭
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