天職とは具体的な職種名ではない。「どうすれば」見つけられるのか? | 辻貴之

「こんな仕事をするために入社したんじゃないのに……」、自分の希望する仕事をなかなかさせてもらえないとき、ついこんな風に考えてしまっていないだろうか。でも、この世に自分の力を発揮できる仕事があるか分からない。今の仕事とは直接関係なさそうだけど、自分の得意なことを仕事に活かす方法はないだろうか――。

辻貴之さんは民放キー局の経営企画局に所属しながら、趣味でも特技でもある「幹事」として、年平均100回以上、1000人以上が集う会を20年以上続けている。
今回は辻さんに、やりたい仕事ができないときの不満解消や、自分の行動を法則化し得意なことや強みを見つける方法、幹事力を仕事に活かした経験など、考え方のコツを伺った。

プロフィール

辻 貴之

1996年4月にメガバンクへ入行。2006年1月に民放キー局に転職。人事、経営企画、営業推進、財務など、「ヒト・モノ・カネ」に関する一通りの職務を担当。2015年から約2年強のロンドン駐在を経て、現在は持株会社で経営企画を担当。趣味と特技は「幹事」。幹事として、旗を掲げ、仲間を集い、事を成す、その先頭に立つのが好き。社会人生活は平均年100回以上、約1,000人以上との会を企画。

希望していない仕事でも腐らない

今でこそ民放キー局の経営企画局でバリバリ活躍している辻さんだが、新卒で入ったメガバンクでは希望していた仕事になかなか就けなかった経験がある。

学生時代から、より多くの人を幸せにしたいと考えていた辻さんは、プロジェクトファイナンスを手がけたいと思い入行した。しかし配属先の支店ではATMのエラー対応で、機械の裏からピンセットで硬貨を取り除く日々。
そんな中、金融不況によって証券会社や銀行などが潰れ、取引先も次々と潰れていった。

辻さん「会社が潰れていくのを目の当たりにしたことで、1つのところに依存・執着する人生を歩んでいると、いずれ自分の意思ではままならないことが起こるリスクがあること学びました。これは僕の仕事人生を左右するターニングポイントでした」

自分が当初やりたいと思っていた仕事ができないだけでなく、実績を上げても評価されないことがあり、不満を感じていた。

そんなとき、父親から「お前は何のために仕事しているんだ? 上司のためではなく、自分が正しいと思ったことをやり遂げるためだろう。お前はそれをやったんだから、いいじゃないか」と言われ、その通りだと感じた辻さん。それ以降、自分が正しいと思ったことで、より多くの人の幸せにつながる仕事をやろうと心に決めたのだという。

その後、念願叶ってプロジェクトファイナンス業務を経験できた辻さんだが、意外にも「ATMのエラー対応も、マニラで325億円のプロジェクトファイナンスをするのも、規模が違うだけで自分の中では一緒」と語る。

辻さん「僕がやりたいのは『より多くの人を幸せにする』こと。それはどんな仕事でも、自分の心の持ちよう次第でできるはず。やりたい仕事ができないと嘆く前に、本当に実現したいゴールは何か、改めて自分に問い直してみてほしいですね」

天職とは具体的な職種名ではなく、抽象度を上げて「実現したいゴール」を考えることで、今の仕事の中にも「やりたい仕事」の要素が見つかるかもしれない。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

天職は「具体と抽象の往復」で見つかる

では、どうやって抽象度の高い「天職」を見つければ良いのだろうか。辻さんによると「具体と抽象の往復」と「自分の特性の見極め」がポイントだという。

「具体と抽象の往復」は、例えば「幹事力」は抽象度の高い言葉だが、辻さんの定義によると、(1)旗を掲げる=構想力、(2)仲間を集う=共感力、(3)事を成す=実現力……という3つのパーツに分解できる。

辻さん「『この目標を達成したい』と思って動くのがトップダウン型、『目の前にきたものに楽しさを感じて』動くのがボトムアップ型のやり方です。自分がどちらのタイプか見極めるには、自分の心が動く瞬間に着目するといいでしょう」

自分の幼い頃から今までに楽しいと思ったことを、幼稚園・保育園時代、小学校時代など、期間別に挙げていく。もちろん、そのときだからこそ出来たことも多いかもしれないが、流れを見ることで共通項を抽出しやすくなる。

自分のタイプを見極めた上で、トップダウン型であれば現状と目標までのギャップを把握し、そのギャップをどういう方法・手順で埋めるかを考えれば良い。

ボトムアップ型は、自分がどんなときにワクワクするかをたくさん挙げた上で、ワクワクが続いたときはどんなプロセスを踏んでいたのかを振り返ってみる。そうすれば自分の行動を法則化できるはずだ。

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得意×好きが仕事につながり、本業にも還元できる

辻さんは今、本業の他に「NewsPicksアカデミア」のゼミ運営を幹事としてサポートしている。

当初辻さんは、いち参加者としてゼミに通っていた。自身の幹事経験から気づいた運営面の改善点を運営側に伝え続けていたところ、「受講生ではなく業務委託として幹事・運営をサポートしてほしい」と打診されたのだという。

辻さん「得意×好きなことを続けていたら、結果的にこのようになりました。NewsPicksのゼミで幹事をやることで、本業に活かせそうなことも出てきました。」

幹事力は銀行員時代にも活きた経験がある。支店勤務時代、定期的に実施される口座獲得とクレジットカードの販促キャンペーンで担当者になったときのことだ。

それまでは本部から与えられた目標を、支店の人数で頭割りにしてやっていたが、それではつまらないと思った辻さんは、チーム対抗戦を発案した。そもそも、窓口で顧客に接する人とバックオフィスにいる人では、目標達成の難易度に差があった。普段顧客と接することのないバックオフィスの行員は、いつも目標未達だったのだ。

チームで達成したら良しとするルールに変え、優勝チームは支店長から金一封をもらえるというゲーム性を持たせることで、キャンペーンは大成功だったという。
この経験も、幹事力の「旗を掲げ、仲間を集って事を成す」という思考の応用から生まれた。

幹事が必要とされるのは、複数の人がいて何か事を成すときだが、複数の人との関わりはそのときだけではない。会社やコミュニティ、家族など日々複数の人とか変わっている中で「辻に任せれば安心だ」と思ってもらうのは、日々の立ち振舞を通じてしか培えない。

1回のイベント成功は、1つの実績にはなるが、まぐれかもしれない。でも、その「1回」は実は毎日のようにあるのだ。
「だから『日々幹事』だと思うんです」――そう言って辻さんはとびきりの笑顔を見せてくれた。

仕事で実現したいゴールを明確にし、自分の特性を見極めた上で、どのように今の自分とゴールのギャップを埋めるかを考える。天職は特定の職種名が当てはまるとは限らない。本業ではない場でも、自分の得意×好きなことをGIVEし続けることで、それが仕事につながる――「天職」を見つけるヒントは、きっと日常の中にある。

文:筒井智子 撮影:壽福憲大 編集:鈴木健介
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