ビジネスチャットの導入で業務効率化を図った──ANAエアポートサービスに学ぶ現場力

iPadや専用アプリケーション、ビジネスチャットなどを駆使してFI(フライトインチャージ Flight Incharge)業務を改善してきたANAエアポートサービス。年間およそ8500万人が利用する羽田空港。その羽田空港の第2旅客ターミナルで、ANAの旅客サービス業務を一手に引き受けている。

前編に続き、ANAエアポートサービスが取り組んできたIT活用による業務効率化とメンバーのコミュニケーション強化、そして現場力の強化を実現した事例を紹介していこう。

「わかりやすさ」「馴染みやすさ」の重要性

ANAエアポートサービスの現場でFIのオペレーションを見ていて気づいたことがある。システムのインタフェースのシンプルさだ。ビジネスチャット「direct」のインタフェースも極めてシンプルだ。LINEさながらの見た目と操作性で、日常使い慣れたチャットツールと何ら違和感がない。

ビジネスアプリケーションに関して企画部門や情報システム部門は、その業界に特化し た特殊な機能や、特殊なインタフェースを「わざわざ」作りたがる傾向がある。しかし、それが時に仇となる。

「わざわざ」の行動は生産性を下げ、コミュニケーションを阻害する。新入メンバーの育成にも時間がかかる。なにより、誤解やオペレーションミスを生む温床になる。安全最優先の航空の現場だからこそ、「わかりやすさ」「馴染みやすさ」は重要だ。

ビジネスチャット「direct」でクルーがやり取り

一つ一つの工程の「完結感」「達成感」を醸成できるのも大きな効果だ。完了した工程は、写真のように、iPadの画面上で色と文字でクローズした旨が示される。視覚的に「完了した」「達成した」ことを認識できる。directの画面上でも、「クローズお願いします」「了解しました」などのテキストチャットがクルー間で飛び交う。

ふと現場のクルーを見ると、時折サムアップ(親指を上にあげる動作)のポーズで笑顔で挨拶を交わし合っている。どうやら工程の完了を示すサインらしい。見ていても心地よい。こうした物理的なコミュニケーションで各工程を締めくくるのも現場の「完結感」「達成感」 につながっているようだ。


飛行機を押し出す確認ツールとしても使用できる

わかりやすいITツールのメリットはそれだけではない。オペレーション担当者の視座を高め、仕事に対する主体性を自然と育む。「自分(FI)以外のクルーの仕事や前後の工程など、全体をより俯瞰できるようになりました」。入社11年目の前田匠賢氏(31歳)は言葉に力を込める。

ANAエアポートサービス ランプ・キャビンサービス部 業務課 前田匠賢氏

職種の異なるメンバー同士。だからこそ、同じツールで、同じアプリケーション上で、同じ景色を見られるメリットは大きい。自分の現在位置、協業する他のメンバーの現在位置、進捗状況が全体の業務プロセスの中で客観的に把握できるのだ。お互いが見ている景色がズレていると、メンバー同士、いまどの工程にいて、どのような進捗で、何が問題なのか現 在位置を説明するところから労力を費やす。勘違いも起こりやすい。

「自分の行動が後工程にどのような影響を及ぼすか、いまどんな行動をするべきか、どん な工夫をしたら他のクルーの作業が効率よく進められるか。主体的に考える習慣がつきました」(前田氏)。

どんな仕事でも、自分の目の前の工程しか見えていなかったら近視眼的になる。工夫や改善も生まれにくい。その状況は、やがて仕事に対する「やらされ感」につながり、働く人のモチベーションを左右する。だから仕事の全体像と現在位置を分かるようにする。それは共通プロセスと共通のコミュニケーション基盤があるからこそ成り立つ。

共通化でチーム力を高める

一連のFI業務の見学を終え、事務所に戻った。

そこには、FI、タグマン、PBB担当者ほかグランドハンドリングを担うクルーが集い賑やかだ。女性の姿も目立つ。緊張感の中にも、和気あいあいとした活気がある。年齢も性別も異なる、まさにダイバーシティ(多様性)に富んだ現場。そのようなダイバーシティある組織だからこそ、共通のプロセス、共通のツール、そして共通のコミュニケーション基盤が欠かせない。

ANAエアポートサービスの事務所の様子

筆者は数々のオペレーションの現場を見てきた。共通のプロセスや共通の仕事のやり方が確立しているチームは雰囲気も良く、いざというときの結束も強い。

奥野木氏に、FI業務の醍醐味を聞いてみた。

「オンタイムで出発させられた時の充実感で すね。出発する航空機をお見送りする時、自信を持って『いってらっしゃい!』と手を振っ ています。お客さんから手を振り返してもらえると、さらにモチベーションが上がります」

FI に限らず、いわゆるオペレーション業務はともすれば「完結感」「達成感」を得にくい。 しっかりと業務を設計し、最新のITツールとアナログコミュニケーションの良さを組み合わせて、一つ一つの工程や作業の「完結感」「達成感」を醸成する。それが仕事に対するやり甲斐や誇り、ひいては現場で汗を流すスタッフの成長意欲につながるのだと実感した。

絵を描くのが趣味である奥野木氏。これからも、羽田空港の現場でITとコミュニケーシ ョンを駆使し、日本の地上と空に素敵な絵を描き続けてくれることだろう。これから飛行機を利用するとき、裏方のクルーの努力と誇りに感謝し、飛び立つ客室の窓 辺からそっと手を振り返したい。

⇒前編「航空機の発着を支援する、フライトインチャージという仕事」を読む

あまねキャリア工房」沢渡 あまね(さわたり あまね)

IT運用エバンジェリスト。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。ITサービスマネジメント/プロジェクトマネジメントのノウハウを応用した、企業の働き方改革・業務プロセス改善・インターナルコミュニケーション改善の講演・コンサルティング・執筆活動を行っている。
主な著書:『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』『職場の問題かるた』『働き方の問題地図』『職場の問題地図』『仕事の問題地図』『マネージャーの問題地図』『ドラクエに学ぶチームマネジメント』『マンガでやさしくわかるチームの生産性

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