航空機の発着を支援する、フライトインチャージという仕事──ANAエアポートサービスに学ぶ現場力

年間およそ8500万人が利用する羽田空港。その羽田空港の第2旅客ターミナルで、ANAの旅客サービス業務を一手に引き受けているのがANAエアポートサービスだ。2018年10月現在、約120名のFI(フライトインチャ ージ Flight Incharge)担当者が在籍。今日も私たちの空の旅を地上から支えている。

ANAグループでは、iPadを使用した「Opera」と呼ばれる専用の業務アプリケ ーションと、「direct」と呼ばれるビジネスチャットの導入により、グランドハンドリング業務の効率化を図った。 そこには、他業種の業務効率化と価値向上にもつながる大きなヒントがある。IT活用による業務効率化とメンバーのコミュニケーション強化、そしてチーム力の強化をANAエアポートサービスの事例に学ぼう。

グランドハンドリング業務の流れとFIの役割

グランドハンドリングという職種を知っているだろうか。

グランドハンドリングとは、航空機の誘導や到着/出発準備、受託手荷物や貨物の搭載などを担っている。羽田空港では、グランドハンドリングの責任者を FI(フライトインチャ ージ Flight Incharge)と呼び、担当者はオレンジ色のベストを着用している。空港のランプと呼ばれる駐機エリアで、読者も飛行機の離陸前/着陸後にその姿を目にしたことがあるのではないだろうか。航空機の安全な運航は、彼ら・彼女たちの活躍なしには成り立たない。

FIを含む、航空機の地上支援業務をグランドハンドリングと呼ぶ。FIの仕事は、FI担当者単独では完結しない。グランドハンドリング業務全体を俯瞰しつつ、乗員、搭乗口の旅客 係員、客室乗務員(CA)など職種も所属が異なるクルーたちと協力して任務を遂行する。 決められた時間内にいかに効率よく、かつコミュニケーションをうまくとりながら作業を進め、航空機を遅延なく送り出すことができるか。そこがFI担当者の腕の見せどころだ。

まずは、グランドハンドリング業務の概要を説明する。羽田空港に到着した後、他の空港に向けて出発する航空機のグランドハンドリング業務。FIが管理する工程は、大きく「到着時」と「出発時」に分かれる。

「到着時」

①スタンバイ:到着する航空機の便名、機番など基本情報を確認する。クルー同士、口頭で確認するとともにOpera上でも確認する。

②翼端監視:航空機を優先的に入れるため、他の車両が横断しないように監視する。

③地上誘導:定められた駐機位置へ、航空機を誘導する。

④電源供給:エンジン停止後に機内に電気を供給するための、外部電源を機体に接続する。夏季などには、写真のようなエアコンダクターも装着して送風。機内の温度上昇を防ぐ。

⑤コクピットコミュニケーション:併行して、機内の乗員とブレーキ状態や、コクピットの計器に異常を示すエラーメッセージ が出ていないかなどを専用のインターフォンを通じて確認する。乗組員と連絡を取りながら、計器類が異常を示していないかどうか確認する。搭乗橋の接続 PBB(=Passenger Boarding Bridge の略)と呼ばれる、旅客が乗り降りするボーディング ブリッジを機体に装着する。

⑥旅客手荷物・貨物降ろし作業:受託手荷物および貨物のコンテナを降ろし、ドーリーと呼ばれる運搬用の台車に載せる。

⑦機体外周点検:機体に異常や氷着物などがないかを確認する。

⑧旅客降機完了:⑥⑦と併行して、旅客の降機が開始される。FI担当者は手元の iPad上の、「Opera」を通じて機内のCA(客室乗務員)と降機確認をする。

⑨機内清掃:降機が完了すると、CAと清掃スタッフにより機内清掃が行われる。清掃完了の開始、終了時間も計画/実績ともにOperaで管理する。

「出発時」

⑩貨物コンテナ搭載:ドーリーで運搬されてきた貨物のコンテナを機体に搭載する。

⑪危険物搭載対応:搭載する旅客手荷物および貨物について、機長に「どのような危険物が」「どの位置に」「どれだけ積まれているか」を示す書類(NOTOC(=Notice to Captain の略)と呼ばれる)を記入して機長に通知し、FI担当者は旅客搭乗前にNOTOCへの機長のサインを得る。

⑫3者ブリーフィング:出発35~30分前を目安に、旅客係員/CA(客室乗務員)/FIの3者で短時間のミーテ ィングを行う。お客様情報、搭載ミール数、積荷の積載状況、その他特筆すべき事項を確認し、今後の各々の工程の段取りや所要時間を確認する。

⑬旅客手荷物搭載:貨物コンテナ搭載後、旅客用の手荷物を搭載する。

⑭搭降載作業終了 :機体の貨物用の扉がクローズされる。

⑮旅客用ゲートクローズ:旅客用の改札口(ゲート)がクローズされる。

⑯地上電源離脱:外部電源(およびエアコンダクター)を機体から取り外す。以降、エンジン始動時まで、 機内の電源は航空機の補助電源によって賄われる。

⑰PBB(L1)離脱:L1と呼ばれる、機体左側前方の扉がクローズされた後、L1のPBBを機体から外す。

⑱航空機プッシュバック:タグと呼ばれる、航空機を牽引/推進する車両により航空機を所定の位置まで押し出す 作業(タグの操作は、タグマンと呼ばれるクルーが実施)。機体を動かす方向は、管制官が乗員に無線で指示→乗員がFIへ無線交信し指示→FIが確認してタグマンに指示をする流れで伝達される。

無線をチャットへ、係員間のミスコミュニケーションを防ぐ

空港の駐機エリアで、航空機の到着から出発までを管理する Flight Incharge(FI)業務。 ANAエアポートサービスでは、ITを活用し業務改善を続けてきた。FI 業務を担当する奥野木氏と前田氏に、これまでの効果を聞いた。

「iPadを使うようになってから、ミスコミュニケーションが減り、クルー間の連携も良くなりました」。こう語るのは、ANAエアポートサービス ランプサービス課の奥野木純氏(32歳)。入社10年目のFI担当者だ。奥野木氏によると、iPadおよび、そこで動く専用アプリ 「Opera」、ビジネスチャットの「direct」を使うようになって感じたメリットは3つあるという。

ANAエアポートサービスランプ・キャビンサービス部 ランプサービス課 奥野木純氏

(1)情報が正確である
(2)記録に残る
(3)行動の振り返りができる

「以前は無線を使って、連絡を取り合っていました。しかし、『言った』『言わない』が多 くクルーの間での相違がありました」(奥野木氏)。

無線による音声通信は、情報共有の即時性には長けている一方、口頭による伝達ミスや勘違いが発生しやすい。空港のランプのような、雑音の多い環境では聞き漏らしのリスクも高い。このような環境下こそ、ITを使ったテキストベースの正確なコミュニケーションが威力を発揮する。

音声を使った通話は、いわば同期型のコミュニケーションである。相手が発信したその瞬間に、集中して聞き取らなければ誤解やトラブルを生む。早口でまくしたてられて、相手の発言を十分に理解できないリスクもつきまとう。

一方、チャットのようなテキストベースのコミュニケーションは非同期型である。自分の都合の良いタイミング、かつ自分にあったスピードで、相手のメッセージを確実に理解し、冷静に判断することができる。自分の作業に集中していて、即座に対応できない場合でも時間を置いて確実に応答できる。

iPad上で工程管理をする専用アプリ「Opera」

人は時間に追われていればいるほど、目の前の仕事をとにかく一生懸命に終わらせようとする。まして、わざわざ行動を記録しようとする心理は働きにくい。分刻みで行動しなければならないグランドハンドリングの現場であれば、なおのこと細かくメモを取る時間も惜しいことだろう。だからこそ、ITによる記録が価値をもたらす。

次回はチームメンバーのコミュニケーション強化を深め、業務効率化につながった現場でのITツールの活用がどのように行われたのか、詳しく紹介していく。

⇒「ビジネスチャットの導入で業務効率化を図った──ANAエアポートサービスに学ぶ現場力」を読む

あまねキャリア工房」沢渡 あまね(さわたり あまね)

IT運用エバンジェリスト。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。ITサービスマネジメント/プロジェクトマネジメントのノウハウを応用した、企業の働き方改革・業務プロセス改善・インターナルコミュニケーション改善の講演・コンサルティング・執筆活動を行っている。
主な著書:『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』『職場の問題かるた』『働き方の問題地図』『職場の問題地図』『仕事の問題地図』『マネージャーの問題地図』『ドラクエに学ぶチームマネジメント』『マンガでやさしくわかるチームの生産性

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