「嫌いな作業をやってはいけない」ルールで、なぜ生産効率と品質が“飛躍的に”向上したのか?──「小さなエビ工場」に大逆転をもたらした“会社のルール”とは(第2回)

「働きたい日に、働きたい時間だけ働く」「何時に出勤、退勤してもOK」「無断欠勤OK。事前連絡はしてはいけない」「嫌いな作業をやるのも禁止」

この自由すぎるルールを導入したパプアニューギニア海産の工場長・武藤北斗さんにインタビューする連載企画。前回ではフリースケジュールを導入する経緯についてうかがいました。第2回はフリースケジュール制を導入したことで起こった思いもよらない出来事や、「嫌いな作業はしてはいけない」という新たなルールについて語っていただきます。

プロフィール

武藤 北斗(むとう・ほくと)

1975年、福岡県北九州市生まれ。水産加工会社「パプアニューギニア海産」工場長。芝浦工業大学金属工学科を卒業後、築地市場の荷受け業務を経て、父親が経営するパプアニューギニア海産に就職。2011年の東日本大震災で石巻にあった会社が津波により流され、福島第一原発事故の影響もあり、1週間の自宅避難生活を経て大阪へ移住。現在は大阪府茨木市の中央卸売市場内で会社の再建中。好きな時に働ける「フリースケジュール制」や「嫌いな作業はやってはいけない」などの独自の社内ルールを導入。2016年、武藤さんが朝日新聞に投書した自社の働き方に関する記事が掲載されるとtwitterで大きな話題となり注目される。著書に『生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方』(イースト・プレス)がある。3児の父。
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フリースケジュール導入前、不安は一切なかった

──フリースケジュール制を導入する時、来てほしい時にパートさんが来なくて困るんじゃないかという恐れや不安はなかったのですか?

確かにフリースケジュール制にする恐れって「みんな来なかったらどうしよう」ということだと思うんですが、パートさんは時給なので、休んだら稼げない。稼ぐために仕事しているわけだから必ず来ると思っていました。それに、当日欠勤も子どもに関わることが理由であれば昔から許してたんですよ。当日の朝に「子供が急な病気になったので出社できません」と電話がかかってきたら、「わかりました」って答えていたので、どちらにしろ当日休むのならフリースケジュール制にしても一緒じゃんと(笑)。なので、フリースケジュール制は前例がないし、パートさんたちとの信頼関係も必要不可欠なので大丈夫かなとは思いましたが、正直、自分ではできる、うまくいくと思っていました。

──最初にフリースケジュール制を導入する時、パートさんたちにはどういうふうに話したのですか?

2013年6月末、前の工場長が辞めた翌日、パートさんたちに朝10時に会社に集まってもらって、1時間くらいかけて以下のような話をしました。「とにかく職場の人間関係がグチャグチャすぎて、僕にはみんなが憎しみ合っているように感じる。とにかくこの最悪な職場の雰囲気を変えたい。そのために、『従業員同士の悪口を言わない』『挨拶を大きな声でする』『時間を守る』この3つをみんなで徹底的に守りましょう。そのかわり、会社としてはパートさんたちが好きな日に出勤していいということにします。これをうまくやることで、お互いにとっていい職場になることを僕は目指したいんです」と。

「この会社、大丈夫かよ……」

──パートさんたちの反応は?

パートさんたちの反応は冷やかでした。本当にそんなことができるのかとか、何か裏があるんじゃないかとか、勘ぐっていたと思います。当時は僕とパートさんの間にまだ信頼関係ができていなかったから。状況的にも震災直後だし工場長は辞めちゃうし、この会社大丈夫かよ、みたいな感じで心配してたと思います。

でもとにかくやってみようと思い、最初は好きな日に出勤していいけど週に3、4日くらい出勤してくださいというルールにしていました。1ヵ月くらいやってみて問題なかったので、次は1ヵ月間で14日前後出勤というルールにしました。といっても実際にパートさんの出勤日を数えていたわけではないんですけどね。

これで十分やっていけるという手応えを得たので、その後は、出勤回数の制限を取り払って、いつ、何回出社してもいい、働くも休むも、何時に来て何時に帰っても、勤務時間も本人の自由、事前に連絡もしてはいけない、休憩、昼飯も自由というフリースケジュール制が確立したんです。

──フリースケジュール制はいくつかの段階を経て今の形になったんですね。フリースケジュール制導入後のパートさんたちの変化は?

最初の導入から今でもパートさんと密に話すようにしていますが、人間、1対1で話をすると、相手に対して疑心暗鬼になるとか、悪いイメージをもつということがなくなってくるんですよね。本当に思っていること、考えていることを実際に聞くので、自然と信頼してもらえるようになったのかなと。それで険悪だった職場の雰囲気も徐々にではありますがいい感じに変わっていったんです。

辞めていったパートさんも

▲工場内の様子

──ではすべて武藤さんの狙い通りになったわけですね。

いえ、フリースケジュール導入後、何人か僕の考え方と合わなくて辞めていったんですよ。13人が9人まで減ったので痛かったですね。

──フリースケジュールって自分の好きなように働けるし、職場の雰囲気もよくなるし、いいこと尽くしなのに、なぜその人たちは辞めたのでしょうか。

以前の職場の状況は僕からするとグチャグチャなんですが、力の強い特定のパートさんにとっては自分の地位が確立されていて権力が行使できて、働きやすい、居心地のいい職場だったと思うんですよね。それが失われるパートさんにとっては、僕のやり方は受け入れがたいものだったんでしょうね。

ただ、今思うのは僕の言い方とか進め方にもうちょっと柔軟性があれば、彼女たちも辞めなかったんじゃないかと。結局彼女たちは自分の居場所がなくなるんじゃないかと恐がって、それを守るために威嚇していただけなんですよね。でも本当はそんな必要はなくて、追い求めているものは同じなはずなんですよ。威嚇して自分の居場所を確保するのか、会社がサポートすることで彼女たちの居場所を確保してあげるのかという違いなだけで。もしかしたら今までのやり方が悪いと彼女たちを責めているような感じになってたのかもしれないですね。そしたら彼女たちは悪者になっちゃうだろうし、だから辞めてしまった。だから彼女たちの居場所を作ってあげられるような、もうちょっと違うやり方があったかなという気はしますよね。

それと、辞めたのはそういった人たちだけというわけでもありませんでした。多分僕がまだ信用されていなかったし、ちょっと改革を急ぎすぎたところもあるのかもしれないですね。

でも残ってくれたパートさんと新しく採用したパートさんはフリースケジュール制を導入したことにより、自由に働けるようになり、モチベーションもアップしたみたいです。ここで働いている人にしか分からないことですが、工場に入った瞬間の雰囲気とか空気感ががらりと変わったんですよ。おかげで僕自身もすごく居心地がよくなりました。

一番大事なのは密なコミュケーション

──フリースケジュールを運用する上で気をつけていることは?

僕が唯一恐れていたのが、フリースケジュール制を導入することによってパートさん同士の間で争いが発生することだけ。いくら僕が事前の連絡なしで好きな日に来て好きな時間だけ働いてOKと言って、その通りにしたとしても、パートさんが、あるパートさんに対して「あの人自分勝手すぎるよね」と思ってしまったらダメだなと。そうなったらこれまでと変わらないですからね。

だからそこはすごく気をつけてきました。特に新人さんが入ってきた時は。新人さんの中には入ってすぐフリースケジュールを最大限活用する人もいます。例えば10時に来て12時に帰るとか。そういうルールだから何も問題はないのですが、古参のパートさんからすると、いくらなんでも自由すぎるだろうと反感を抱く可能性もあります。やっぱりパートさんの間でも温度差はかなりあるんです。

ただ、1、2時間で帰る人にも、必ず理由があるんですよね。なので、古参のパートさんには「会社がOKしてるんだから、彼女を責めないであげてね。理由があってのことだからそれぞれが助け合いましょう。いつかは自分が助けてもらう日が来るから、ここであまりきつく言うと、いつか自分に返ってくるよ。あなたも将来親の介護などで同じような働き方をせざるを得なくなるかもしれないし。だけど、どうしてもモヤモヤするのなら対応するので僕に言ってください。パートさん同士で文句の言い合いはしないように気をつけてください」と伝えるようにしています。そうすると納得してくれるんです。

新人さんに対しても、「フリースケジュールをフルに活用するのは悪いことではないからどんどん活用してほしい。ただ、温度差があるのも事実です。先輩ともめてからじゃ遅いから、その前にどんな些細なことでもいいから何か気になることがあったら遠慮なく僕に言ってほしい。そうしないと多分辞めるのはあなたになる可能性が高いので」と伝えています。そのかわり僕に相談してくれたら、その人が言ったとわからないように対応して、解決するようにしています。

とはいえ、最終的には出勤する日も勤務時間も全部自分で選べるとなると、誰が何時に来て何時に帰ったとか何時間働いたかということが、ほとんど気にならなくなったと思うんですね。だから勤務時間が1時間、2時間という人が出てきても、実際に争いは起きていません。

2016年からは「嫌いな仕事はしてはいけない」という新しいルールを作ったのですが、これでさらに作業効率や商品の品質が向上しました。

「嫌いな作業はしてはいけない」はパートさんとの会話で生まれた

──「嫌いな仕事はしてはいけない」というのも一般的な会社では考えられない独特なルールですよね。作ったきっかけは?

僕は掃除がすごく嫌いなんですよ。仕事でも家でもとにかく掃除が苦痛でしかない。僕が嫌いってことは全員嫌いだろうと無意識に思っていたので、工場の掃除をパートさん全員にきれいに割り振っていたんです。でもあるパートさんが面談している時に、「ずっとエビの殻剥きをしているので、最後に掃除をするのは気分転換にもなるし好きです」と言ったんです。それを聞いた時、僕がこんなに嫌いな掃除を好きっていう人もいるんだなと驚きました。同時に、もしかしたら他の作業も好き嫌いがあるのかなと思ってパートさんたちに作業の好き嫌いを聞いてみたんですよ。工場での作業って、エビの解凍、エビの殻剥き、衣をつける、重さを量る、パックに詰めるなど意外と多いんですが、おもしろいくらいに好き嫌いがバラけたし、そんなに嫌いという作業も多くなかった。全員が嫌いという作業が一つもなかったんです。だったら、誰しも嫌いな作業はやりたくないだろうし、全員が嫌いな作業がないのなら好きを優先して働くことで嫌いな作業をすることを禁止にしても問題ないだろうと。

仮に、全員が嫌いな作業が出てきても別に僕らとしてはどうでもいいんですよ。もしそうなったら全員きれいに公平に割り振ればいいだけの話なので、○×の結果がどうなろうとどうでもいい、全く関心がない。そこじゃないんですよね。

▲パートさんが好きな作業と嫌いな作業を記入するシート(写真提供:パプアニューギニア海産)

真髄は「パートの自主性を重んじること」にある

──ではどういう点を重要視して嫌いな作業をやってはいけないというルールを導入したのですか?

「嫌いな作業をやらない」ということ自体よりも、会社がパートさんたちみんなに好きか嫌いかを聞いて、自分で選んでいいよと言う、つまりパートさんたちの自主性を重んじることが重要なんです。これによって、少なくともものすごく嫌々やるという作業がなくなりますよね。そうなれば一つひとつの作業に対する考え方や取り組み方がだいぶ変わってきます。そもそも好きな作業の方がやる気も上がるし集中力も持続しますよね。その上、自分で選んだ作業だと思うとそれらはさらに向上します。

また、嫌いだと勝手に思い込んでいただけで、自分の意思で選んでいいと言われると、よく考えたら嫌いじゃないかも、みたいな作業もあるんですよ。×をつけた作業はやっていけないことになるので、やっていい作業が減っちゃうわけです。「この作業がひとつ減るとあの作業をやる時間が長くなるよな」と、考えると「そんなに嫌いじゃないかも」、という感じになるみたいなんですよね。

──好きな作業だけやってていいのか、時には嫌いな作業に立ち向うことも必要だ、みたいな論調もありますよね。それに対してはどう思いますか?

そういう考え方の人もいるでしょうし、それを否定するつもりはもちろんないんですが、もし苦手な作業に立ち向かいたい人がいたとしたら、×のところに○をつければいい。そうしたら自分から立ち向かっていけるんですよ。それも自分で選べる。何もかもが自分で選べるということが大事なんです。まあ、嫌いな作業に○をつけてる人はいないと思いますけどね(笑)。

──そのルールは1日の業務の中で具体的にどのように運用するのですか?

パートさんは1日中ずっと1つの作業、例えばエビの殻を剥いてるということはなくて、数種類の作業をローテーションしています。そのローテーションも基本的にパートさん自身が行うのですが、その流れがわかりにくい時は社員が指示を出します。

嫌いな作業をしないことが効率と品質アップに繋がる理由

 

──そのルールを導入したことによる効果は?

パートさんたちが嫌な気持ちを抱かずに気持ちよく仕事をできるようになったと思います。それはみんなの表情や声の張りとか動きが目に見えてよくなったことからもわかります。パートさんたち自身からも、マスコミの取材に対して「嫌いな作業をする不安がなくなり気持ちが楽になった」と答えている人もいるようです。それと、作業効率も商品の品質も上がったんです。

──嫌いな作業をしないことがなぜ作業効率や品質の向上に繋がるのでしょうか?

まず、誰しも好きな作業ならやる気が上がり、集中力も持続しますよね。また、元々人間というものは丁寧に作業をしてきれいなものを作ることに気持ちよさを感じる生き物だと思うんです。でも働き方や職場環境が乱れることによって心も乱れて、そういう気持ちがなくなって、汚いものを作っても平気になってしまうと思うんですよ。だから職場環境を整えることによって本来もっているきれいに丁寧に仕事をしようという気持ちがそのまま出てきたことで、作業効率と品質が向上したのだと思います。職場の雰囲気が最悪の時とよくなった後のエビフライは見た目が全然違います。その見た目の違いが味にも出てくるんです。それが結果的に業績アップに繋がったわけです。

体調を事前に周知する工夫も

──その他に独自のルールはありますか?

出勤した時に、退社する時間を申告するホワイトボードがあるのですが、そこにその日体調の良し悪しを告知できるようにしています。もし体調が悪い時は作業効率も悪くなり、それを知らない人が見たらサボっているように見えますよね。そうならないためにというのと、パートさんの体調の良し悪しを他のパートさんが見て気遣ってくれればいいなという期待を込めて、あらかじめみんなに知らせるようにしたんです。体調がよくても悪くてもどちらかに申告するというのが僕なりの一つのポイントなんです。悪い時だけ申告するとなると、それは結構申告しづらいと思うんですよね。こういった小さな積み重ねこそが働きやすい職場を作るために重要なことだと思っているんです。

 

パート従業員の話をよく聞き、「嫌いな作業はしてはいけない」という新たなルールの導入によって、さらに職場の雰囲気、効率、品質、そして業績の向上を実現した武藤さん。次回は経営者として最も重要視している哲学、自らに課しているルール、そして自社で運用している独特なルールは他社でも導入可能か、などについて語っていただきます。

文:山下久猛  撮影:山本仁志(フォトスタジオヒラオカ)

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