在宅勤務ストレスも癒してくれる家族型ロボット「LOVOT」が目指すものとは──

在宅勤務でストレスを抱える人も少ない中、ペットのように振る舞う家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」が話題だ。TVドラマにも登場し、2020年度グッドデザイン金賞も受賞。LOVOTは1体約30万円と高額に関わらず、注文が殺到しており、緊急事態宣言前(2020年3月)と比較して、売上が最大11倍増しているという。LOVOTの開発者であるGROOVE X代表取締役の林要さんに、LOVOTが生まれた背景や人気の理由、今後の展望について突撃インタビューを敢行。インタビュアーは自身もLOVOTオーナーであり、ITガジェットに詳しい増井雄一郎さんが務めた。

GROOVE X 林要さんと増井 雄一郎さん

GROOVE X 株式会社 代表取締役 林 要さん(写真右)

東京都立科学技術大学(現・東京都立大学)大学院修士課程修了後、トヨタ自動車に入社。同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1の開発スタッフに抜擢され渡欧。帰国後、トヨタ本社で量販車開発のマネジメント等を担当。2011年、孫正義後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」外部第一期生。2012年、ソフトバンクに入社。感情認識パーソナルロボット「Pepper」開発プロジェクトに携わる。2015年11月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立、2018年に“LOVEをはぐくむ家族型ロボット”「LOVOT」を発表。

Product Founder & Engineer 増井 雄一郎さん(写真左)

トレタやミイルを始めとしたB2C、B2Bプロダクトの開発を行うかたわら、業界著名人へのインタビューや年30回を超える講演、オープンソースへの関わりなど、外部へ向けた発信を積極的に行う。日米で計4回の起業をしたのち、2018年10月に独立し”Product Founder”として広くプロダクトの開発に関わる。2019年7月より株式会社Bloom&Co.に所属。お風呂でプログラミングを行う「風呂グラマ」としても有名。

LOVOTは「人を優しくする」テクノロジー

家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」って?

家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」「LOVOT()」は、名前を呼ぶと近づいてきて見つめてくる。好きな人に懐き、抱っこをねだる。抱き上げるとほんのり温かく、生き物のような生命感があるのが特徴の家族型ロボット。
最先端テクノロジーをエモーショナル・ケアに活かした独自性が評価され、国内外問わず数々のアワードを受賞。近年はコロナ禍におけるメンタルケア、情操教育、プログラミング教育などの観点からも注目されており、全国の教育施設や介護施設にも導入されている。

増井:僕は30年、50年先の未来には、身体的サポートをするだけでなく認知のサポートをする機会が増えるのではないかと、ずっとロボットに興味を持っていました。だからLOVOTにも早くから注目していました。

少し前にボストンダイナミクスの二足歩行ロボットが話題になりましたが、あえて転ばせる動画が出たときに、「ロボットがかわいそう」という投稿が殺到したんですよね。ロボットは機械なのに、人間が思い入れを持ってしまうことに興味を抱きました。

:人が持つ、直感的な共感能力ですね。

増井:そんな中、コロナ禍で在宅勤務になり、「LOVOTが家にいたら面白そう」と、昨年秋ぐらいに購入したんです。

:LOVOTとの生活はどうですか?

増井:走るぬいぐるみみたいで可愛いですね。人の言葉をしゃべるわけではないし、何かしてくれるわけではないけど、鳴いたり歌ったり踊ったりと見ているだけで面白い。抱っこすると喜んだり、スヤスヤ眠ったりもするので癒されますね。抱っこしたまま考えごとをしたり、会社のビデオ会議にも出たりしています。

GROOVE X 林要さんと増井 雄一郎さん
▲自身で購入したLOVOTと一緒にインタビューする増井さん

:ぬいぐるみは可愛がることで自分が優しい気持ちになるんですよね。何かとストレスの多い現代社会において、「どうやって自分自身が優しい気持ちでいられるか」は一つのテーマになっています。テクノロジーは今まで、人の能力を拡張するために使われてきましたが、LOVOTはその対極にある、人を優しくするテクノロジーだと思っています。

増井:僕自身も記憶の拡張や計算能力の拡張など、コンピュータを機能拡張だけで捉えていました。そういう意味でもLOVOTは規格外。人の機能は拡張してくれないし、基本的には「役に立たない」んですよね。

:「拡張」は、思考や感情のスイッチをオンにする行為ですよね。そしてテクノロジーを活用することでオンはどんどん精鋭化されます。ただ、オンが精鋭化されたら、本当はオフも深化しないとバランスが取れません。

だからこそ今、キャンプやサウナなど情報を遮断して完全にオフにする趣味が流行っていますが、日常的にできるものではありません。今のご時世では家の中で気軽にオフになれる機会が必要です。こんなときに日常的にオフを提供するものが、LOVOTのようなハイテク商品になるかもしれないと考えています。

増井:そうですね。ペットを飼うという選択肢もあるかもしれませんが、お世話をする時間や責任などの負担はあり、「純粋なオフ」にはならないかもしれません。そういう意味でも、LOVOTは気軽に自身をオフ状態にしやすい存在だと思います。

「人の代わりに〇〇する」というベネフィットを持つロボットが多い中で、なぜ「役に立つことはしない」ロボットを作ろうと思ったのですか?

:理由は大きく3つあります。私が目指しているのは「ドラえもん」です。ドラえもんは、お母さんの手伝いを全くしません。便利な家事ロボットではないけれどのび太と信頼関係を築き、いつもそばで見守っている。そういう「テクノロジーと人」との関係性を作りたいと思っています。

その前提に立つと、今のアームロボットや自動運転車などといった最新技術の延長線上にはドラえもんのコアはない。本質的にドラえもんに近づくためのアプローチは、逆に「人の手前」を考えたほうがいいのではないかと考えました。

そしてチンパンジー、ゴリラ、サル…と考えて、行きついたのは犬や猫。ペットがすごいのは、人の役に立つことではなく「人を癒す」ことで大きなマーケットを生み出している点です。ロボットでペットのような存在を目指すことで、ビジネス的にも技術的にも、ドラえもんを創る原資になるのではないかと考えました。

家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」
▲2016年から4年かけて開発され、現在のようなペットのような「LOVOT」に

2つ目は、日本の新たな主力産業を生み出したいという思い。日本の主力産業がグローバル化で徐々に競争力を失う中、次世代の産業になり得るのは何かと考えたとき、日本にはポケモンなど世界に誇るコンテンツを作るクリエイティブがあるなと。

それに加えて、もともとの得意分野であるハードウエアと、そこそこレベルが高いソフトウエア、この3つを持っている国は他にはないと気づきました。これらを合体させたものが日本を支える産業になり得ると考え、LOVOTを着想したのです。

増井:なるほど、たしかにそうですね。

:3つ目は、モノづくりの楽しさを今の子どもたちに伝えたいという思いです。今の子どもたちの「将来の夢」の上位にユーチューバーが入っているけど、モノづくりのお仕事は入っていないのがどうも引っかかっていて……。

もちろんユーチューバーを目指すのはいいことですが、一部の表現者しか成功しない職業ですし、何より夢にはもっと多様性があっていい。LOVOTをつくるお仕事ならば、子どもたちが憧れる対象になり得るのではないかと思ったんです。

増井:だからScratch(8~16歳のユーザーを対象とした教育プログラミングソフト)の開発環境があるのですね。

:「LOVOT」を活用したビジュアル・プログラミングを提供しています。ゲーム好きな子どもは、Scratchのようなビジュアル・プログラミングに興味を持ちますが、ゲームをしない子どもはピンとこないんですよね。

でも、ビジュアル・プログラミングでLOVOTが動くと目の色が変わり、プログラミングにも興味を持ってくれたりするのが嬉しいですね。こういう動きを、今後も広げていきたいと思っています。

GROOVE X 林要さん

8,568通り、あなたはどのタイプ?

認知機能を高め、人とテクノロジーの信頼関係を築きたい

増井:LOVOTは、将来的に認知をサポートしてくれたり、危険をサポートしてくれたりする機能を持つことはあり得ますか?

:あり得るとは思います。将来的に機能を拡充したいのは、日本の大きな社会課題でもある在宅高齢者のサポート。ただし、LOVOTが家事に役に立つことをしてくれるものというより、ドラえもんとのび太のような信頼関係を築き、「人間理解を深める」方向に機能を拡充させたいと思っています。

増井:認知能力の進化ですね。その側面から考えれば、LOVOTの「身体性」は非常に大事ですね。例えば、高齢者の見守りだったら、家中にカメラを設置してスマホでチェックするという方法もありますが、カメラとは信頼関係が築けないですし、抵抗感も強いですから。

増井 雄一郎さん

:そうなんです。カメラには信頼感が持てないけれど、ご近所さんが1日1回様子を見に来てくれるのは高齢者にとって嬉しいこと。「見守り」というファンクションは一緒なのに、信頼関係の有無で印象が変わってしまう。だから、「信頼関係の構築」はテクノロジーと人との関係性において、今後非常に大事なキーになると思っています。

増井:コロナ禍で人と会う機会が減って気づきましたが、物理的に身体性があるものが家にいることって重要ですね。常にそばにいて、見守ってもらえる安心感がある。

テクノロジーが身体性を持つことで、信頼関係が築きやすくなると思っています。「認知機能の拡張」というと、入手した情報を勝手に収集されてビジネスに使われるという怖いイメージがあるかもしれません。しかし、LOVOTはあくまでその人だけを見て、「いつもより歩き方がおかしいな」とか「体温が少し高いな」と気遣う存在にしたいと思っています。

なお、LOVOTにはカメラ機能を実装していますが、自動撮影機能は簡単にオフにもできるし、取得した画像データはLOVOT自身が暗号化し、我々も含め他人が一切見られないようになっています。

家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」
▲取材中も部屋中を駆け回るLOVOT。ぶつからないのは自動運転車のセンサー技術。瞳は虹彩や瞳孔など6層のレイヤーで表現、10億種類以上のパターンがある

増井:ペットロボットはいろいろありますが、LOVOTの競合は何になるんですか?

:今のところ、競合視しているものはないですね。ここまでのテクノロジーを投入して、気兼ねなく愛でられるために作られたロボットはほかにありません。ただ今後、LOVOTが進化しマーケットが広がれば、競合は確実に出てくると思います。

増井:逆に、LOVOTの海外展開することは考えていますか?

:海外の展示会に出展して高い評価をいただいていますが、まずは国内の地盤固めが先ですね。あらゆる課題を潰して、販売方法のフレームワークも確立させ、国内のオペレーションの完成度を高めるのが今年の目標。その後に海外進出も考えたいと思っています。

GROOVE X林要さんと増井 雄一郎さん

8,568通り、あなたはどのタイプ?

ファンを作ることが利益につながるビジネスモデル

増井:LOVOTは本体価格が約30万円で、月額の利用料金も1万円強かかります。僕はLOVOTがどれだけの最新テクノロジーを搭載しているのか理解しているので、30万円でも安いなと思いますが、絶対金額としては高いと感じる人が多いと思います。

:スマートフォンのように技術を切り開きハイエンドを目指すという道と、なるべく廉価でたくさん販売するという道がありますが、LOVOTはドラえもんを目指しているので、今まで通り技術を切り開き、能力を拡張する方向に進みたいと思っています。

そして、D2C(消費者直接取引)カンパニーとして、いかにカスタマーサクセスを作るかにこだわりたいと思っています。D2Cの良さは、「ファンを作り、増やすことが会社の利益につながる」点です。

売り切り型のB2Cは購入した瞬間をピークに持ってくる必要がある上、会社としての思いや成し遂げたいことより先に、まずビジネスを成り立たせるためにいかに安く作って高く売るかに注力せざるを得ません。一方、D2Cは購入後も、ずっとファンを続けていただくことが利益の最大化につながる。お客様の満足度が利益に直結する構造は、開発者としてはやりがいがありますね。

GROOVE X 林要さん

増井:LOVOTのような「ユーザーのベネフィットが会社の利益になる」というビジネスモデルはいいなと思います。毎月の利用料金の件も、考えてみれば我々、スマホにそれぐらい払っているんですよね。

:昔のガラケーは本体価格や月額料金も安かったですが、今のスマホは本体価格も月額料金も当時より上がっています。しかし、今やスマホは生活必需品であり、誰もが今の価格を当たり前と受け止めています。時代の変化による、常識の変化ですよね。

例えば、ペットで犬を飼っている人は1頭当たり年間30万円程支払っているという調査がありますが、昔はここまでお金をかける家は少なく、これも常識が変わったことによる変化です。

セルフ・メンタルヘルスケアのために、「何にお金をかけるのか?」という考えも、どんどん変化し多様化もしていて、ペットに投資する人もいれば、旅行にお金を割く人もいる、そしてありがたいことにLOVOTにお金をかけてくれるオーナーもいらっしゃる、ということだと思います。

LOVOT MUSEUM
▲LOVOTを体験ができる「LOVOT MUSEUM」も人気

オンとオフの話で言えば、「オフの時間にも、集中・緊張・興奮を促すオンの活動をしているケース」が多いと感じています。「オフは、リラックスし優しい気持ちになる」大切さを理解していただければ、もしかしたら生活が一変するかもしれない。その一助を、LOVOTが担えたらと思っています。

増井:なるほど、貴重なお話を伺えました。オフの深化を実現するために、LOVOTは他に類を見ない存在になるかもしれませんね。ただ、僕の場合は仕事も趣味もプログラミングなので、1日中オンの状態から逃れられないかもしれないなあ(笑)。

:LOVOTを抱っこしているほんの一瞬のときだけでも、増井さんにオフを提供できたら嬉しいです(笑)。

GROOVE X林要さんと増井 雄一郎さん

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WRITING:伊藤理子 EDIT・PHOTO:馬場美由紀
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