ITフリーランス支援のサービスブランド「Scale」を発表したギークス─サービス誕生の裏側に迫る

フリーランスのWebエンジニアやデザイナーなどIT人材と企業をマッチングするIT人材事業を展開するギークスは、2017年11月15日に、「新しい働き方の当たり前を創る」をスローガンに掲げ、ITフリーランスの働き方の啓蒙を目指す新たなプロジェクトを開始した。
従来からある福利厚生プログラム「フリノベ」を含む4つの機能が柱。全体のサービスブランド名を「Scale」としている。

「自分の市場価値がわからない」というITフリーランスの不安と向き合う

ギークスが創業以来15年にわたって企業として追究してきたのは、専門性の高いIT人材の需要と供給のミスマッチを改善すること。

ITエンジニアの働き方の一つとして、ITフリーランスというワークスタイルに着目し、企業とフリーランスの間をつないでジョブマッチングさせることや、フリーランス人材の福利厚生プログラムなどに力を注いできた。

「私たちはサービス改善のために、当社の『geechs job(ギークスジョブ)』にご登録いただいているフリーランスのエンジニアの方に常にアンケートやグループインタビューをしています。

最近とみに聞くようになったのが、いつまで自分はフリーランスとして働けるのかとか、自分の市場価値がよくわからないという不安です。ITフリーランスの価値を可視化するために役立つ何らかのツールや、フリーランス・エンジニアのための新しいブランディングが必要だと、私たちも考えるようになりました」

と語るのは、日々エンジニアのキャリアカウンセリングを行っているIT人材事業本部の横山美月さんだ。

ギークス株式会社 IT人材事業本部 部長 横山美月さん

こうしたエンジニアからのニーズに応えて新たに始動したプロジェクトが「Scale(スケール)」だ。プロジェクトを推進するためにIT人材事業本部の各部署から8人のメンバーが集まった。

「Scale」はIT業界では馴染みの深い用語scalabilityのscale。一般には拡張性を意味するが、ここではフリーランスという働き方の認知を拡大すると共に、フリーランス一人ひとりの価値をスケールさせるという二つの意味を込めている。

すでに2017年1月から始まっているフリーランス向けの福利厚生プログラム「フリノベ」に加え、新たに3つのサービスを企画。併せて4つのサービス群をまとめて「Scale」という総合ブランドで訴求しようとしている。

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膨大な紹介実績を基にした報酬額テーブル

新サービスの一つ「Scale Table」はエンジニアの市場価値を把握できるツールだ。

自分の技術領域と実行できる作業内容レベルを掛け合わせ、それをチェックシートに記入することで、現在フリーランス市場でエンジニアが得ているおおよその報酬額を数字で示すことができる。

企業に雇用された技術職なら、雇用労働統計などからおよその年収額を推し量ることはできるし、リクルートなど人材紹介大手が持つデータでも転職時の年収提示額で概要はつかむことはできる。

しかし、こうしたデータの多くは正規社員がベースになっており、個々のスキルレベルを判断して報酬額が示されるフリーランス・エンジニアとなると、公的なデータは未整備というのが現状だ。

ギークスはフリーランスに関して過去15年の紹介実績がある。
成約件数だけでも約4万件。

この膨大なデータをもとに作成されたテーブルはフリーランスの報酬実態を示すきわめて貴重なもので、登録エンジニアは、フリーランスとして働く場合は自分の年収がいくらぐらいになるかを、より正確に把握することできる。

「チェック項目は50以上、個々の技術についても単に経験年数だけではなく、例えばそのプログラムをサーバーサイドからフロントエンドまでどの領域で書いたことがあるかまでチェックしてもらうようにしています」(横山さん)

これまでもキャリアカウンセラーが登録エンジニアと面談する場合、「あなたの実績なら大体これぐらいはもらえますよ」などと口頭で話をすることはよくあった。

「それをテーブルという形で見える化したことに大きな意義があります」と、プロジェクトメンバーの一人、IT人材事業本部の萩原愛梨さんが補足する。

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ケース・スタディで学ぶキャリアップの方法論

もう一つの目玉サービスがキャリアアップ事例集「Scale Case」だ。

ある人がフリーランスとして契約後、どのようなプロジェクトに配属され、どのようにスキルをアップさせ、どのように報酬を上げていったかを、個人名を伏せた状態でチャート化したもの。

左に年収、右に年次、グラフの随所には配属されたプロジェクトやその時点で習得したスキルなどが書き込まれている。

「Scale Tableで現時点での想定報酬額を示されたエンジニアが、例えば35歳までにもう200万円年収をアップしたいと考えているとしています。そこで面談の際に、Scale Case のいくつかをお見せします。

自分の目標のためには、どういうスキルをいつまでに身につければいいのか、どういうキャリアアップのルートがあるのかについて、すでにキャリアップを成し遂げたエンジニアの先例から示唆を受けることができます。

キャリアカウンセラーと一緒に、このチャートを見ながら、これからのキャリアアップ戦略を自発的に練ることができるはずです」(萩原さん)

ギークス株式会社 IT人材事業本部 萩原愛梨さん

サンプルとして見せてもらったチャートでは、フリーランスとして働き始めて数年後に年収がガクンと下がっているものがあった。

「これは、自分の技術領域を広げるために、あえて未知の新技術に取り組んだ方のケースですね。新技術を勉強している間は一時的に年収が減りました。

しかし、技術領域を広げることで、次の紹介案件ではより高い報酬額を得ることができ、再び収入がアップしています」と、横山さんが解説してくれた。

現時点では典型的なキャリアップケースをまとめたチャートは20件程度だが、今後さらに拡充させていく。「Scale Case」は「Scale Table」と共に、2018年春からギークスジョブの登録エンジニア向けにサービスが提供される予定だ。

ITエンジニアのセルフブランディングを発信力と信頼の両面で支援

11月15日の「Scale」ブランドの発表会では、招待参加したギークスジョブ登録エンジニア全員に、自分の名前や得意な技術のほか「Scale」のロゴが入った新しい名刺が無償で提供された。

会場ではエンジニアたちが、さっそくその名刺を使いながら情報交換しあうシーンが見られた。この名刺は「Scale」の4つめのファンクションである「Scale Brand」のサービスの一つだ。

「日々、エンジニアと接していると、本当はもっと実力があるのに、プレゼンがうまくなくて、自分の真の価値を企業に提示しきれていない人が多いことに気づきました。

つまりセルフブランディングが弱い。私たちのように、ずっとエンジニアとお付き合いしている者だからこそ、そのブランディング強化のお手伝いができるのではないかと思うようになったのです」と、横山さん。

Scale プロジェクトでは、「発信力」と「信頼」のある状態を「セルフブランディングができている」と定義。

まずは発信力の強化策として、「Scale」ロゴ入り共通デザインの名刺以外にも、Webマガジンでの執筆案件の紹介や勉強会など各種イベントの開催支援・共催、また各メディア媒体での露出などを通して、ITフリーランスの世の中における“個の力”を高めるための支援をする。

個人のアピール力を「Scale」というエンジニアの人材プラットフォームが組織として支援する仕組み、ということもできる。

ただいくら発信力が高くても、その裏付けとなる信頼がなければ、フリーランスは食べていくことができない。技術レベルを認定するものには、これまでもIT関連のさまざまな資格があった。しかし、それだけでは弱い。

そこで、「Scale」プロジェクトがこのたび新設したのが認定ITフリーランス制度「FEET(フィート)」だ。ギークス独自の認定制度で、ITフリーランスの成果を数値化し、総合的に判断した上で、推奨すべき技術力と実績をもつエンジニアを認定する。

「これまでのご紹介実績をベースに、この方ならギークスが自信をもって信頼できる方だと紹介できるという太鼓判を押すわけです」(萩原さん)。「FEET」は今後ギークスが信頼を付与したエンジニアの証明になる。

フリーランスという働き方に誇りを持てる世界へ

「Scale」プロジェクトの話を聞いていて、筆者が思い浮かべたのは、東京都が2002年から実施している「ヘブンアーティスト」制度。オーディションで合格した大道芸人に対してライセンスを発行し、指定場所での大道芸を許可するものだ。

これまで、発表の場を制限されていた大道芸のアーティストに演技の場を提供すると共に、その社会的評価を高め、都民に幅広い娯楽を提供することを目的としている。

実際、この制度が生まれて以降、街中で大道芸を見る機会が増えた。大道芸はいまや縁日でひっそり行われる興行ではなく、イベント会場で当たり前に見られる街頭パフォーマンスになり、そのクォリティも年々高くなっている。

企業と行政では発想は異なるものの、個人の個性豊かなパフォーマンスを組織がバックアップし、職業のブランド価値を広めるという枠組みは似ている。

「Scale」プロジェクトはフリーランスが働き方の新しい「当たり前」の選択肢になるような世界を目指している。

「これまで自分の働く環境を変えたいときは、会社を変える“転職”しかその方法がなかった。しかし、フリーランスというもう一つの選択肢を当たり前にすることで、働き方の多様性を生み出すことができればと考えています。

最終的に目指すのは、すべてのITフリーランスが自分の価値と生き方に誇りを持ち、充実したワークライフを過ごせるような世界。私たちも微力ながらその応援していきたい。このプロジェクトもまたエンジニアたちの声を聞きながら、これからどんどんスケールしていきます」と、横山さんは語っている。

取材・執筆:広重隆樹 撮影:刑部友康

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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