残業の上限は月45時間?「36協定」をわかりやすく解説【社労士監修】

時間外・休日労働に関する協定届「36(サブロク)協定」。入社時の説明や、働き方改革の記事などで、言葉としてご存知の人は多いでしょう。しかし、正しく理解している人はあまり多くないかもしれません。そこで今回は、36協定とは何か、上限となる労働時間や罰則、上限を超えないための対策について、社労士 岡佳伸さん監修のもと解説します。

36協定のイメージ画像
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社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡佳伸氏社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所 岡 佳伸氏

大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

36協定とは何を定めた協定?

36協定とは、時間外労働や休日労働について決めた協定のことです。労働基準法第36条に基づくことから一般的に36(サブロク)協定と呼ばれていますが、正式名称は「時間外・休日労働に関する協定届」です。

労働基準法では、労働時間は原則として「1日8時間、1週40時間以内」と定められています。また、休日も「毎週少なくとも1回」と決まっています。

この法定労働時間を超えて働く場合、「1日」「1カ月」「1年」それぞれの期間に対する時間外労働の上限について、労働者と使用者との間で協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

36協定を締結しないまま残業や休日出勤をさせれば法律違反となりますし、企業は従業員がたとえ1人でも届け出なければ、法定労働時間外に働かせることはできません。

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36協定の締結・周知で「月45時間」の時間外労働が可能

36協定を締結し届け出ると、原則月45時間、年360時間までの時間外労働が可能になります。月45時間ですから、例えば週休2日制の企業ならおおよそ1日2時間の時間外労働が協定の範囲内になるわけです。

36協定は、労使(労働者と使用者)で締結しますが、その際の労働者の代表は、パートやアルバイトも含む労働者の過半数で組織する労働組合か、組合がない場合には労働者の過半数を代表する人(過半数代表者)がなります。

経営者や管理監督者(いわゆる管理職)は、過半数代表者にはなれません。また、使用者が指名した人や使用者の意向で選出された人は、過半数代表者としては認められません。この36協定が対象とする労働者は、正社員だけでなく契約社員、パート、アルバイトもすべて含まれます。

一方、管理監督者は36協定の適用除外になりますが、どの立場の人が管理監督者に当てはまるかはケースバイケース。役職名ではなく、職務内容、責任と権限、待遇などの実態によって判断されます。例えば店長という役職名だけで待遇や人事権などの実態がないのに、労働時間、休憩、休日の規定や36協定の適用除外になるわけではありません。

36協定は1年間有効で、毎年更新することになっています。そして労使で締結するだけでなく、届け出た内容を労働者がいつでも確認できるように書面を掲示したり、作業パソコン上で閲覧できる機器や社内サーバーに格納したりして、周知しておくことになっています。

なお、台風や豪雨など自然災害が原因で、臨時に残業や休日出勤をさせる場合には、36協定を超えてもよいことになっています。

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上限となる労働時間は、特別条項付きでさらに延長可能に

それ以上の残業をしているという方がいるかもしれません。「特別条項付きの36協定」を締結すれば、さらに時間外労働の時間を引き上げることが可能なのです。

以前はこの上限は厚生労働大臣の告示だったため、超えてしまっても罰則による強制力がありませんでした。また、特別条項を設けることで、上限なく時間外労働を行わせることが可能になっていました。

そうした実態に対し、2019年4月から(中小企業は2020年4月から)、時間外労働の上限規制が法律で規定され、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、超えてはいけない上限が設けられ、違反者には罰則が科されることになりました。

特別条項がある場合でも守らなければいけないのは、以下の4点です。

  1. 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  2. 時間外労働と休日労働の合計を平均した場合に、2カ月平均、3カ月平均、4カ月平均、5カ月平均、6カ月平均の全てが、ひと月当たり80時間以内
  3. 時間外労働が年720時間以内
  4. 時間外労働が月45時間を超えられるのは年6カ月まで

なお、1と2は、特別条項を締結しているかどうかに関わらず、36協定共通の制限になっています。

これらのどれか1つでも超えると、違反とみなされます。例えば、5月が時間外労働90時間で、6月が80時間なら、どちらも1は満たしていますが、2カ月の平均は85時間になり、2に違反したことになります。

時間外労働は月100時間未満、年間720時間、複数月平均80時間

36 協定「時間外労働の上限制限(時間外労働は月100時間未満、年間720時間、複数月平均80時間)」画像
出典:厚生労働省「働き方改革特設サイト_時間外労働の上限制限」

違反に対しては、罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が課される可能性があり、あまりにも違法状態が解消されない場合には、企業名を公表するなどのケースも考えられます。

残業と時間外労働は別のもの

違反かどうかは、「法定外労働」の時間が上限を超過しているかどうかで判断されます。ここで注意したいのは、「残業」と「時間外労働」を混同しないことです。一般的に残業は、会社が定めた所定労働時間を超えた場合を指します。

例えば会社の就業時間が9時~17時で、昼休みが1時間ある場合、所定労働時間は7時間です。18時まで働くと1時間の残業になりますが、労働基準法で定めた1日8時間の上限は超えていないため、法定上の時間外労働は0分です。

休日労働も同様に注意が必要です。法律で定める法定休日は1週間につき1日。会社が定める所定休日が土日の場合、土曜日に出勤すると休日出勤ですが、法律が定める「休日労働」には当たりません。

残業手当を、会社が決めた就業時間=所定労働時間を超えた分に対して払うか、法律上の時間外労働に対して払うのかについては、それぞれの企業の労使間の取り決めによって異なります。

36協定届が必要となる時間外労働と法定残業時間

36協定が必要となる時間外労働と法定残業時間
▲所定労働時間が7時間の場合(9時始業・休憩1時間・終業17時・所定労働時間が7時間の場合)

36協定の適用除外になるケースとは

36協定が締結されていても、時間外労働を命じることはできない、適用除外となるケースがあります。「従業員が18歳未満の場合」「育児・介護のために申し出があった場合」「妊産婦の場合」の3つのケースです。それぞれに別途労働時間の規定があり、企業は別途ある上限を守らなければいけないことになっています。

医師、建設業、トラックやバスの運転など、自動車運転の業務については、上限規制の適用が24年3月まで猶予されています。また、新技術の研究開発業務も、協定の適用除外となっています。

36協定違反をしていたら労働基準監督署へ

こうしたことを踏まえた上で、36協定の上限(原則月45時間、年360時間。特別条項付きなら月100時間未満、年720時間以内など)を超えないようにすることが大切です。たとえ残業手当が払われていたとしても、超えれば労働基準法違反。協定に違反して働かされている場合は、労働基準監督署に申告することができます。

法律違反を犯さないために、また労働者の健康を阻害しないためにも、使用者側は協定で結んでいる時間を超えないようにすることが求められます。それぞれの部門の管理職に当たる人は、適正な仕事の割り振りをし、時間内に仕事が収まるように組織を運営していく必要があるのです。

また、従業員も努力が必要です。業務がたまってしまい、月の上限枠を超えかねない場合は、早めに上司に状況を報告し、相談する必要があります。

働き方改革による労働時間法制の見直しにより、裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、すべての人の労働時間の状況を適切に把握するよう、企業に義務付けられています。

月の前半で上限枠の3分の2を超えたらアラートメールが届くような勤怠管理サービスや、一定時間を超えたら残業は許可制としている企業もありますが、たとえそうした仕組みがなくても、自分の健康のためにも、人任せにせず労働時間を自己管理することが大切です。

残業や休日出勤は上司に事前に申告を基本に

転職など新しい勤務先で、36協定の内容について説明がなく、直接聞きにくい場合は、まず勤怠管理と残業の申請の仕方を確認することをお勧めします。時間外労働でトラブルになりやすいのは、上司からの指示ではない残業を行った場合です。

本来は、時間外労働は上司の指揮命令があって発生するもの。上司に報告・連絡・相談なしに行えば、本当は翌日に回せる仕事だったり、月の残業時間に影響してしまったり、不払い残業になってしまうこともあり得るのです。

無駄な長時間労働を防いで、生産性を向上させ、適切なワーク・ライフ・バランスを実現するためにも、そして36協定違反を犯さないためにも、残業や休日出勤は上司に事前に申告し、承認を得ることを基本にしたいものです。

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取材・文:中城邦子  編集:馬場美由紀
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