リクルーティングサイト「外資就活ドットコム」で成長するハウテレビジョン。
2015年7月に伊藤直也氏を技術顧問に招き、サービス力の向上とエンジニアの開発環境の改善に取り組んでいる。
その一環として行われた開発合宿。2泊3日の温泉宿で何が生まれたのか。
酒も楽しみだが、何より開発に集中できるのが嬉しい
伊藤直也氏の技術顧問就任を受けてにわかに活気づいたハウテレビジョンのエンジニアの面々。彼らの姿は、2015年10月中旬のとある金曜日の昼過ぎ、湯河原の旅館街にあった。社員旅行ではない。これから2泊3日の開発合宿を始めようというのだ。
参加者は、CTOの大西貴之氏をはじめ同社のエンジニアやプロダクトマネージャーら総勢13人。IT企業の開発合宿では名を知られる名旅館「おんやど恵」に旅装を解くと、早速会議室に集合。合宿での開発テーマを各自が宣言する“開会儀式”に臨んだ。
前職の理化学研究所ではシロイヌナズナのゲノム研究をしていたという変わり種、秋山顕治氏は今年の「PHPカンファレンス」で講演したほどのエキスパートだが、PHPを始めたのは実は昨年12月、ハウテレビジョンに入社してから。
案外、前職でのバックグラウンドとは違うことをこの会社で始めるエンジニアが多いという。合宿での開発テーマを「SlackでbotにつぶやくとHubotと連携して自動でデプロイされるシステム」と宣言するが、本音では夕方以降のお酒も楽しみにしている。
▲株式会社ハウテレビジョン 秋山顕治氏
創業当初からのメンバーの一人、津田泰之氏はもともとはWebサイト構築や映像制作を得意とするフリーランスのクリエイター。ハウテレビジョン入社後は、常にオフィスに誰かが泊まり込んでいるというスタートアップの雰囲気を満喫してきた。
現在は人材系の新サービスの開発に取り組む。合宿では「SNS上でのサービスへの声や、サイトからの問い合わせ内容を拾い上げ、社内のSlackに自動で共有するシステム」のプロトタイプ開発が目標だ。
「昨年もそうだったけれど、開発がヒートアップするとたぶん徹夜になるんじゃないかと、今からワクワクしています」
▲株式会社ハウテレビジョン 津田泰之氏
2015年1月入社の西口真央氏は、大学院でデータマイニングのビジネス応用に関する研究、前職ではソーシャルゲームのユーザー行動解析などをしてきたデータアナリスト。
「実は知識マネジメント系の国際学会に予測モデルについての論文を提出したら、最優秀賞にノミネートされてしまって、時間があったら学会発表のための資料作りにあてたいところなんです。研究成果は当社のビジネスにも活かせるだろうと、CTOも許可してくれましたので、合宿ではそれをメインにやろうかと。ただ、そうとなったら必ず賞を獲らないといけないです」と張り切る。
▲株式会社ハウテレビジョン 西口真央氏
開発合宿を成功させる5つのポイント
そうそうたるメンバーの中には、もちろん同社技術顧問の伊藤直也氏も混じっている。伊藤氏といえば、前々職のはてな時代の合宿で、同社で今も人気のサービス「はてなブックマーク」を開発したというエピソードが知られる。
▲株式会社ハウテレビジョン 技術顧問 伊藤直也氏
「おそらく、Web系企業でエンジニアの開発合宿をやったのは、あれが最初だったんじゃないですかね。日常業務から離れることで、エンジニアは逆に集中力を増す。新サービスのプロトが合宿から生まれることは多いんです。僕自身、今は技術顧問や技術者マネジメントに関わる時間が多くて、あまりコーディングしていない。合宿ではみんなが驚くようなプログラムを書いてやるぞと、すごく楽しみです」
開発合宿の運営については経験豊富な伊藤氏。合宿はエンジニア同士のまたとない交流の機会。プロダクトを集中的に開発するだけでなく、会社の将来を議論する場になってもいいという。伊藤氏の経験からいくつか、合宿を成功させるポイントを挙げてもらった。
1)2泊以上が望ましい
「1泊2日では、開発も遊びも中途半端に終わってしまうことも多いですね。2泊あれば、2日目は一日中、朝から晩まで時間がたくさん確保できる。初日の晩に食事とお酒を楽しんでも2日目で集中できればいいっていうのもありますね。この工程なら飲み過ぎても大丈夫です(笑)。一方、お酒が好きじゃない人や飲まずに開発し続けたいという人、ゆっくり寝たいという人への配慮も忘れずに」
2)最後に必ず成果を発表すること
「これがないと、グダグダで終わってしまうことを僕もよく経験しました。短いライトニングトークでもいいから、成果を発表すること。発表があると思うと、合宿中に何かしら形にしようという動機付けになりますし、何よりエンジニアのモチベーションも高まります」
3)“健全な悪巧み”に期待
「実は最初から、これを作りますと宣言しないほうが面白い。どんな成果物が出てくるか、最後までお楽しみにしておくのがいい。エンジニアには“健全な悪巧み”を仕掛けたいという願望がありますよね。おまえ、こんなの作ってたのかと、メンバーを驚かせるのも合宿の楽しみの一つです」
4)表彰はあってもなくてもいい
「成果発表はあるといいと思いますけど、表彰はあってもなくてもいいですね。合宿でみんなの評価が高かったアイデアがリリースしても泣かず飛ばすで、逆に、合宿の時にあまり注目されなかったものが、その後成功したというケースはよくあります。投票をするにしてもその辺りを考慮するとよいんじゃないでしょうか」
5)会社に残っている人にお土産
「開発合宿は、参加している本人たちは一生懸命に集中して作業に当たっているわけですけど、会社に残っている人にすれば、エンジニアだけ楽しそうに映るかもしれません。温泉やお酒なんかもありますしね。日常業務に当たってくれているメンバーには、きちんと合宿の目的や成果をフィードバックすることが欠かせない。お土産も忘れずに」
PMも一緒に開発。相互のスキルを知り合う機会
今回のハウテレビジョンの合宿は昨年に続き2度目。1泊2日から2泊3日へ、参加人数も倍増と規模が拡大した。エンジニアだけでなく、主にサービス企画を担当するプロダクトマネージャーや、インターンの学生が参加したのも今回の特徴だ。
「プロダクトマネージャーは、ただの進行管理役ではない。製品品質全般にトータルに責任を持つべき。そのためには、エンジニアリングの性能限界や費用対効果を知り、工数感覚をある程度持っている方がベター」という伊藤氏の日頃のアドバイスを受けての、PM参加だ。実際、SQLの習得を今回の合宿テーマに掲げるマネージャーもいた。
開発合宿全体のテーマは「自動化」。伊藤氏の顧問就任後に行われたエンジニア・ミーティングで洗い出し、整理された技術課題を元に、各エンジニアが自動化したい課題を選択した。
▲株式会社ハウテレビジョン CTO 大西貴之氏
「できれば自動化プログラムのいくつかを合宿の成果として持ち帰りたい。それ以外にも、いったん業務を離れたところで、互いが互いのスキルを感じ合う、よい機会になると思う。ふだん話すことの少ない同僚とも、一緒に酒を飲み、湯に浸かれば打ち解けますからね」と、以前から開発合宿に憧れていて、ハウテレビジョンではぜひやりたいと切望していたCTO大西貴之氏は語る。
開会宣言が終わると、みな一斉にノートPCに集中。会議室にはひたすらタイピングの音だけが響く。
2泊3日の全プロセスは、2日目の未明にまで及んだコーディング作業や宴会の様子を含めて、同社のエンジニアブログに詳しい。
ちなみに今回は全員の成果発表を受けて、優秀賞を2つ選出したという。Seleniumでフロントエンドのテスト自動化を導入したエンジニアには、大西CTOからロジクールのハイエンドマウス「MXMaster」が贈られた。
もう一つの伊藤直也賞は2本のアニメブルーレイディスク『STEINS;GATE』と『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』だ。こちらは、Zabbixとpagerdutyを連携させてインフラモニタリングを整備したエンジニアに贈られた。
無事に終わった開発合宿。ハウテレビジョンの技術基盤整備とサービス拡充に、この湯河原での3日間が活かされるのは、そう遠い日ではないような気がする。
※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。