なんで、あんな言い方を…と後悔しないための「怒らない伝え方」

どんな激しい怒りでも、長くても6秒がピーク。日本アンガーマネジメント協会によると、イラッとした瞬間、6秒経過すれば怒りまかせの対応は防げるとのこと。

怒りに振り回されやすい人も、その間の怒りによる反射を防ぐことができれば、人間関係のトラブルを極力減らすことができると同理事の戸田久実氏はいう。

怒りの特徴や性質について解説した前編に続き、後編では戸田氏に怒りとの上手な付き合い方についてお聞きした。

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戸田久実

アドット・コミュニケーション(株)代表取締役。日本アンガーマネジメント協会理事。立教大学卒業後、大手企業勤務を経て研修講師に。銀行・製薬会社・総合商社・通信会社など、大手民間企業や官公庁などで「伝わるコミュニケーション」をテーマに研修や講演を実施。著書『アンガーマネジメント 怒らない伝え方』 (かんき出版)は発売1週間で増刷に。

イラっとした瞬間に効く対処術

1.「グラウンディング」”今ここ”に意識を戻せ!

過去の怒り、未来への負の感情から解放され、いま目の前にあるものに意識を集中させるテクニックがグラウンディングです。過去の出来事やよくない未来を想像して怒りが湧いてきたとき、その意識を「今ここ」に戻すために、例えばペンや携帯電話など目の前にある何かを手にして、しっかりと観察します。目の前に何もない場合は、感触がわかる椅子などに意識を集中させます。過去の出来事による怒りに囚われたり、よくない未来を想像したりしてしまう要因は、意識が「今ここ」になく、過去や未来に飛んでしまっているから。その意識を「今ここ」に戻すトレーニングを繰り返すことで、長く続いている怒りから解放されます。

2.「タイムアウト」いったん立ち去れ!

スポーツの「タイム」と同じく、その場をいったん立ち去る方法です。これ以上、場の空気を悪化させたくないというときに有効です。その場を離れることで、相手も自分も怒りの感情を一旦リセットすることができます。ここで注意しなければならないのは、相手に逃げたと思われないようにすること。「ちょっとトイレへ行ってきます」「もう一度、上の者と相談して、かけ直します」など、必ず戻って来ることを相手に伝えましょう。その間は、物に当たったり、相手の言葉を思い出してムカムカしたりするのではなく、深呼吸をして気持ちを落ち着かせます。

3.「ストップシンキング」思考を停止せよ!

怒りが湧いたときに、思考を停止させ、怒りまかせの行動を防ぐ方法です。怒りを感じたとき、心の中で「ストップ!」と唱える、または頭の中で白紙を思い浮かべることで、怒りの感情をリセットします。人によっては愛犬の名前や昔好きなアニメに出てきた呪文を唱えること(コーピングマントラというテクニック)で、心を落ち着かせ、これからどうしたらいいのかを冷静に考えられるというケースも。

4.「カウントバック」逆算で乗り切れ!

怒りを感じたときに、頭の中で数を「100、97、94」と、逆に数えていく方法です。3つ飛びなど、少し考えないと分からないような方法で数字を逆算。そうして集中しているうちに感情がおさまってきます。

「アンガーログ」(怒りの記録)をつけることで、怒りにくい体質に

長期的に怒りにくい体質を身につけるには、アンガーログといわれる方法が有効です。アンガーログとは、怒りを記録するトレーニングのこと。怒りを感じたとき、日時や場所、起こった事実などを書き出し、その怒りの強さに1〜10で点数をつけます。怒りを見える化することで、怒りを客観的に見つめられるようになると同時に、自分自身が怒りを感じやすいパターンを知ることで、事前に防ぐことが可能となります。書き出す際は、他者に公開せず、あくまで自分を見つめ直す目的で行いましょう。パソコンやスマートフォンで打ち込むより、手で書き出す作業の方がより冷静に整理できるといわれています。

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後悔しないための伝え方

日本アンガーマネジメント協会では、怒っていいことと、怒ってはいけないことを見極め、あのとき怒らなければよかった、もしくは怒っておけばよかったと後悔しないようにと伝えています。後悔しないためのテクニックのひとつが、アサーティブ・コミュニケーションです。

アサーティブ・コミュニケーションとは、お互いの主張や立場を大切にした自己表現で、相手も自分も責めずに、対等に向き合いながら行うコミュニケーションを指します。

自己表現の得意不得意で分けるなら、伝え上手キャラ、攻撃キャラ、受身キャラの大きく3つに分かれます。伝え上手キャラは、自分の思いを率直に、正直にその場に合わせて表現しながら、「◯◯さんはそう考えているんだね」と、相手の意見を受け止めつつ、相手に歩み寄り、お互いにとって気持ちのいいコミュニケーションを大切にします。自己受容度が高く、間違いを認めても自分の価値が下がるとは思わないので素直に認められます。

対して、相手を抑えて自分を通す攻撃キャラや、自分を抑えて相手を立てる受身キャラは、共通して自己受容度が低い傾向にあります。攻撃キャラは間違いを指摘されたり、失敗をしたとき、謝ったら負けと思ってしまうために攻撃的になり、受身キャラは自分をすぐに卑下してしまいます。

そういった相手との対等性が崩れやすい人は、自分を受け容れる度合いが少ないのが共通点。自分自身を受け容れる力が不足しているから、自分の弱さやコンプレックスを攻撃で防衛しようとしたり、逆に非主張的になり攻撃されることを防ごうとします。

相手に自分の気持ちを伝える際、絶対やってはいけないのは、自分を必要以上に卑下すること。「この人のほうが上なんだから」「この人はお客様なんだから」「私より専門性が高いから」と、つい心の中で思ってしまいがちですが、その時点で対等性は崩れ、相手が攻撃的な人の場合、非主張的な自分に対する攻撃性をかえって高めてしまうことになりかねません。

逆に「私のほうが年齢が上だから」「立場が上だから」「知識があるから」と接していると、「この人に何か言われたらねじふせてやりたい」「私のほうが正しいにちがいない」といった感情が膨らみ、見下すような心の向き合い方になります。怒りによって相手を押さえ込み、怒りを支配の目的に使ってしまい、結果的に相手を萎縮させ、仕事にも支障が出てしまいます。

(例1) 何度も同じ話をする上司の話を止めたい

× 「その話はこの間も聞きましたよ」

○ 「そうですよね。それは素晴らしいことですよね。ところで…」

(例2) 他部署の担当者が一度取り決めたことをすぐに変更してきた

× 「なんで、最初の打ち合わせで決めたことを守らないんだ!一度決めたことは守るのが当たり前だろ」

○ 「一度決めたことを変更されてしまうと、こちらも困ることがあるんだ。たび重なる変更は、コストも時間もかかり、他の同時進行している案件にも影響を及ぼすことがあることもわかってほしいんだ」

無論、上司と部下という立場の違いもあれば、キャリアや専門性の違いもあります。だからといって、「自分はこの人に意見を言ってはいけない」と考えないようにしましょう。また、何か改善してほしいと願うときは、「相手に従わなければならない」と考えるのは間違いです。相手の人格ではなく、とった行動に対して意見し、真剣な表情で相手の目を見て伝えるようにしましょう。

▼怒りの特徴や性質について解説した前編はこちら

取材・文=山葵夕子

参照;アンガーマネジメント 怒らない伝え方(かんき出版)

講師歴24年。人間関係の悩みがなくなる「言葉がけ」に特化したコミュニケーション指導に定評があり、これまで10万人を指導してきた戸田氏が、怒りと上手に付き合う理論「アンガーマネジメント」をべースに、怒りという感情の扱い方、相手に伝わる言い方、仕事やプライベートなど、状況別のセリフ、会話を紹介。仕事で怒りが湧いてきたときにどんな言葉を返せばいいか、具体的なフレーズを○×形式でわかりやすく解説しています。

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