「2カ月で結果にコミット」RIZAP急成長の理由と、今後の戦略

パーソナルトレーニングジムの「RIZAP(ライザップ)」の快進撃が続いている。名前にピンと来なくても、体の変化をビフォー・アフターで表現した「暗い顔をした太り気味の人が、きれいに引き締まった姿にガラリと変わる」CMは知っているだろう。完全予約制で、トレーナーがマンツーマンで筋力トレーニングを指導し、毎回の食事についても指示をする。目標体重の達成のための徹底した指導により、多くの人が目標数値を達成しているという。

2カ月間の標準的なコースで29万8000円(税別、入会金別)と高価格だが、入会希望者は引きも切らず、現在全国46店舗で約2万5000人がトレーニングを行っており、入会待ちの人も多いという状況だ。

RIZAPは、健康食品や化粧品等を扱う健康コーポレーションが2012年2月に始めた事業(現在は子会社化)。スタートしてわずか3年で、ここまで事業を拡大できた秘密はどこにあるのだろうか?RIZAP事業の責任者であるRIZAP株式会社取締役の迎綱治さんに「RIZAPの戦略」を、元トレーナーの人事担当者、星野祐二さんに「結果にコミットするトレーニングの秘密」を聞いた。

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RIZAPグループ株式会社
取締役 迎 綱治さん(写真左)/人事チーム 星野祐二さん(写真右)

痩せることで人は前向きになれる。多くの人にそれを実感してもらいたくて事業化を決意

RIZAP事業を始めるに至った発端は、「瀬戸健社長がパーソナルトレーニングで10キロ以上痩せた」こと。瀬戸社長の右腕である迎さんは、社長の体がどんどん引き締まっていくさまを、間近で見続けていた。

「もともとパワフルな人なのですが、痩せるにつれてさらにパワフルになり、自信がみなぎるようになったのです。見た目が変わることで、人は自信がついてどんどん前向きになれるんだと改めて実感しました。当社はそもそも、ダイエット食品などを展開しており、ダイエットに関する知見はありました。より多くの方に『痩せて輝く』を実感してほしいと思い、社長と二人三脚で事業化の準備を進めました」(迎さん)

RIZAPの母体である健康コーポレーションは、健康食品や化粧品などを扱う販売会社。同社の「豆乳クッキーダイエット」の大ヒットは、記憶に新しい。

ただ、パーソナルトレーニングジムは「サービス業」にあたる。同社は店舗を構えた経験もなく、サービス業の知見はほぼゼロだった。

そこで迎さんは、世の中にあるいろいろなサービス業を体験して回った。例えば、痩身を謳っているエステサロンや、カウンセリングの参考になりそうな結婚相談所、フィットネスクラブも当然いくつも回った。高級ホテルに出向いておもてなしを体感しつつ、客室の稼働率を上げる方法を調べたりもした。そのうえで、実際に「痩せる」を体験した社長と意見交換を繰り返し、半年を掛けて「RIZAPならではのスタイル」を固めていったという。

「結果、『2カ月で完全に結果にコミットする』という基本方針とともに、人に喜んでもらえるサービスにしよう、そして我々は結果を出すためのサポーターであろう、という基本姿勢が固まりました。そうなると、大切なのはそれを支えるトレーナーです。コミュニケーション力が高く、一人ひとりと真摯に向き合える人材の採用と、結果にコミットできるようになるための人材教育プログラムの整備には、かなりの時間を割き、注力しましたね」(迎さん)

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RIZAPグループ株式会社 取締役  迎 綱治さん

トレーナーは入社後1カ月は研修期間。接客・接遇、栄養学や運動生理学も叩き込まれる

「サービス業リサーチ」をする中で迎さんが体験したフィットネスジムで、カウンセリング力とアドバイス力に感銘を受けたトレーナーがいた。腰の痛みを相談したところ、カウンセリングで原因を的確に判断し、トレーニングによって痛みを解消してくれたという。そのトレーナーをRIZAPの「統括トレーナー」としてスカウトし、2カ月で結果にコミットできるトレーニングメソッドを組んでもらったほか、1カ月でトレーナーを育てる研修プログラムも作り上げたという。

昨年末まで、大宮東口店でトレーナーを務めていた星野さんは、丸1カ月、150時間に渡る研修プログラムのハードさに驚かされたという。

大手アパレルチェーンの販売担当からの転身。以前は実業団のソフトボールチームに所属していたこともあるが、トレーナーとしての経験はゼロ。結果にコミットという、今までにないパーソナルジムを目指すRIZAPの方針に惹かれ、飛び込んだものの、「1カ月の研修は正直キツかった」と振り返る。

「トレーニングについてはもちろんですが、接客・接遇や、栄養学、解剖学、運動生理学など、非常に多岐にわたる内容。それを朝から晩までみっちり叩きこまれます。とにかく覚えることが多く、ついていくのに必死でしたね。そして1カ月後、トレーニングと食事アドバイスのロールプレーイングテストを受け、合格したらようやくトレーナーとしてようやく現場に出られます。…現場に出てわかったのですが、研修中、『こんなことまで覚える必要があるのだろうか?』と思ったことが、全て役に立っているんですね。もちろんそれだけはなく、現場に出ても知識を習得し続けないとゲスト(トレーニングを受ける顧客をRIZAPではこう呼ぶ)に最適なアドバイスができませんので、毎日が勉強であり、鍛錬なのですが、あの研修がトレーナーとしての重要な素地になっているのだと感じます」(星野さん)

研修内容は、現場の声をもとにブラッシュアップし続けている。現在でも3カ月に一度は内容を見直している。また、毎月1回は全店舗を閉め、全国のトレーナーを一堂に集めたスキルアップ研修を実施して、トレーナーのスキルや意識の向上に努めているという。

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RIZAPグループ株式会社 人事チーム 星野祐二さん

ゲストとトレーナーの信頼関係が、トレーニングの効果を左右する

トレーナー時代に星野さんが常に心がけていたのは、「ゲストとの信頼関係の構築」だった。

「まずは自分のパーソナルデータをできるだけ開示し、自分を知ってもらうことで、トレーニング初日から信頼を得られるように努力しました。ゲストの方には、目標とする体重やなりたい体をヒアリングしますが、中には恥ずかしがってあまりお話しいただけないケースも。その際は無理に聞き出すのではなく、雑談も交えながら質問を重ね、ゲストが求める姿を探るようにしています。このような方法で、ゲストと真摯に向き合い、早い段階で信頼関係を築ければ、それだけゲストのモチベーションも高まり、効果につながりますし、アドバイスに沿った食事も守っていただけるようになります。ゲストからは1日3食分の食事報告メールを送っていただいているのですが、食事を守っていただければそれに対する返信もスムーズになります。アルコールを摂取していたり、カロリー過多な食事メールに対しては、実践していただくことに意味があるので、返信内容を時間を取ってじっくり考え、結果を出すための食事の大切さからお伝えし、結果的に信頼関係を築いていきます」(星野さん)

信頼関係を築くためには、コミュニケーション力やトレーニングのスキル、的確な食事のアドバイスも重要だが、「引き出しの多さ」も重要だという。担当しているゲストの事例はすべて頭に叩き込んでいるほか、全トレーナーが自身のゲストの進捗状況を共有し合う週1回のカルテミーティングの情報もナレッジとして蓄積する。情報量が多ければ、それだけアドバイスの幅も広がるし、ゲストからの質問にもすぐ的確に答えられるので信頼につながるためだ。

「カルテミーティングでは、私が担当しているゲストに対して全トレーナーからアドバイスを得られるのもメリットですね。一人のゲストに対する最善の策を皆で考えている状態なので、『結果にコミット』が実現できるのだと思います」(星野さん)

その結果、目標が達成できたゲストの笑顔を見るのが、何よりの喜びだ。

「『星野さんがトレーナーだったから、最後まで頑張れた』と言われたときは、この仕事に就いてよかった!と心から思いました。目標達成後も健康維持のために継続利用して下さる方も多く、信頼をいただけているからこそだと嬉しく感じましたね」(星野さん)

CMでゲストが着ている衣装はすべて、本人が「痩せたら着たい」と思っていたもの

RIZAPといえば、TVCMのイメージが強いが、RIZAP事業のスタート時はマス展開はせず、Web広告や折り込みチラシでの販促が中心だった。

「当初は自己管理の意欲が高く、そのための費用も惜しまないアッパー層をターゲットと考えていました。そのため、所得が高い人が住んでいそうなエリアにチラシを投函したり、購読していそうな媒体に広告を出稿したりしていたのですが、1年経ったころにゲスト分析をしてみたところ、アッパー層よりも一般のビジネスパーソンの方々が圧倒的に多かった。20代女性など想定していなかった層も多く、RIZAPのコンセプトが幅広い層に受け入れられていることがわかりました。そこから方針を切り替え、マス広告を積極的に展開するようになったのです」(迎さん)

かの「ビフォー・アフター」のTVCMは、2014年6月より展開。お茶の間にインパクトを与えた。

「ボディメイクを通じて、心も体も元気でイキイキさせ人生を輝かせよう!というメッセージを盛り込んでいます。出演いただいているゲストが、痩せた姿で着ている衣装は、すべて『目指す体形になれたら着たい服』として事前に挙げていただいたもの。だから、あれだけキラキラに輝く笑顔になれるんですね」(迎さん)

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RIZAPの基本戦略は「最悪に備えた、攻めの戦略」

このTVCMの印象が強いせいか、「派手な広告戦略で一気に店舗数を増やして成長して来た」という印象を持たれるが、決してそうではない。RIZAPの基本戦略は「最悪に備えた、攻めの戦略」。リスクやコストを常に考えながら、拡大を推し進めてきた。

地方など、新しいエリアに進出する際には、まずはマンションの1室などにトレーナー1~2人で回せる規模の「サテライト店舗」を出店する。そこでニーズがあると判断してから、大型店舗化するという方針を取っている。

「もちろん事前にマーケティング調査は行いますが、ゲストからの反響を見てみないと実際のところはわからない。サテライト店舗で知名度を上げ、手応えをつかめてから初めて大型店舗化を検討します。このように着実に店舗を増やして『受け皿』をしっかり確保してから、マス広告も展開しました」(迎さん)

そもそも、RIZAPのようなマンツーマンによる完全予約制のパーソナルジムは、一般のフィットネスジムのような「大きなハコとマシンを何台も用意し、利用者が来るのを待つ」というスタイルに比べ、利用者の数さえ確保できれば稼働のムラが少なく、投資効率も高い。

「痩せる」の次に目指すのは、「医療」「シニア」「海外」

この3年間で、「RIZAPは痩せる」との認知はある程度得られた、と考えている。次に目指すのは、「医療」「シニア」「海外」という3つの分野での事業展開と認知向上だ。

このほど、医療機関と提携して、クリニック内店舗を出店した。診察の結果、健康に問題が見つかった人に、トレーニングと食事管理の側面から健康数値の改善をサポートするためだ。

「RIZAPへの入会動機で多く聞かれるのが、『健康診断で悪い数値が出たから』というもの。RIZAPでトレーニングを頑張った結果、劇的に数値が改善した!という喜びの声をいただくことも多いんです。ただ、こういう『健康に不安を抱えた方』すべてにリーチできているとは言えません。こういう医療機関との提携を増やすことで、より多くの人に健康状態を改善してほしいと願っています」(迎さん)

「シニア」をターゲットに置いたのは、日本の超高齢化を考慮したものだ。

「歳を取るごとに筋量の低下は進みます。例えば、足の筋量が低下すると小さな段差でもつまずきやすくなり、その結果、骨折、寝たきり…となるケースは少なくありません。そうならないために、シニア向けの筋量増強のトレーニングを積極的に提案していきたい。シニアが生涯、健康でい続けるためのサポートを続けたいと考えています」(迎さん)

そして「海外」では、すでに上海、シンガポール、台北に店舗を構えているが、この3月にアメリカと香港に現地法人を設立し、海外展開を加速。今期中には海外10拠点での展開を計画している。

「生活水準が上がるにつれ、肥満問題に直面している国はたくさんあります、RIZAPのサービスは、日本以外でも効果を発揮できるし、必ずや受け入れていただけるもの。世界の人を健康にする、が新たな目標です」(迎さん)

この戦略が実行され、軌道に乗れば、「RIZAP」の認知は世代間ではもちろん、国境をもまたいで広がっていきそうだ。もしかしたら早晩、「あのCM」のシニアバージョンが流れたり、英語バージョンや中国語バージョンが作られたりする日が来るかもしれない。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康

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