音楽ファンドから、地場産業、震災復興ファンドまで――ミュージックセキュリティーズが目指すもの

起業家やクリエイターがインターネット上で小口の資金を集める「クラウドファンディング」の仕組みが注目を集めているが、そのパイオニア的存在なのが個人に出資を募るマイクロ(小口)ファンド運営会社のミュージックセキュリティーズだ。同社は2000年に、アーティストの活動支援を目的にした「音楽ファンド」の運営会社として設立されたが、後に地場産業や事業の支援・再生ファンドをスタート。そして2011年からは、東日本大震災を受けて「セキュリテ被災地応援ファンド」を多数手掛けている。どういう想いを持って、地場産業や被災地へとファンドの対象を広げてきたのか、代表取締役の小松真実さんに聞いた。

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ミュージックセキュリティーズ株式会社
代表取締役 小松真実さん
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。2000年ミュージックセキュリティーズを創業。インディペンデントなアーティストの活動を支援する仕組みとして音楽ファンド事業を開始する。2006年より音楽以外のファンドの組成を開始し、2015年2月9日現在、純米酒の酒蔵、スポーツチーム、地域再生、被災地支援等、348本のファンドを運営している。

■「アーティスト性」を持つ人は、あらゆる産業に存在する

音楽に対する志が高く、実力もあるのに、チャンスがつかめずにいるアーティストは数多い。そんな彼らの活動を音楽ファンドという形で支援するために、ミュージックセキュリティーズは設立された。
個人投資家が、1口1万円程度の投資でアーティストへの支援を行うと、CDの売り上げに応じた分配金を得られるという仕組み。同社のサイト上では、アーティストの音楽を視聴でき、音楽にかける想いも紹介される。音楽を聞き、想いに触れてファンになった人が、投資することで長く見守り応援するというスタイルが確立された。2000年から現在までに約70本の音楽ファンド、150タイトルのCDを世に送り出している。

そんな同社が、全く方向性が違うと思われる「地場産業」に注目したのは、2007年のこと。取り引き先である銀行から、埼玉にある神亀酒造を紹介されたのがきっかけだった。

「正直、初めはピンときませんでした。当時はあまり日本酒に詳しくありませんでしたし、当社が扱うジャンルではないという印象でした。しかし、専務である小川原さんにお会いし、話を伺って、心を動かされたんです。純米酒という“作品”に想いを込め、最高の品質を生み出そうとするものづくりの姿勢は、まさにアーティストそのもの。酒蔵はその地域の代表であるべきという志の高さ、地域の気候や郷土食に合う味や温度へのこだわりと探求心にも圧倒されましたね。純米酒にかける専務の想いを知れば、音楽ファンド同様、『応援したい』と思うファンが集まるはずだと確信しました」

そして同年9月、専務の想いを紹介文に込めて「純米酒ファンド」として募集を開始したところ、何と1050万円のファンドが数日で満額になるほどの反響を得た。
「神亀酒造はもともと有名な酒蔵ではありますが、何より小川原専務の想いに共感して下さった方が多かったのだと思います。こういうアーティスト性を持った方は、音楽分野に限らず、さまざまな産業、さまざまな地域にたくさんいらっしゃるのだということに気づかされ、一気に視野が広がりました。既存の金融の仕組みでは評価しづらく、融資ができない分野であっても、当社のファンドであれば支援できるケースがあります。純米酒ファンドの成功を機に、人脈もどんどん拡大し、農業や環境関連、郷土食、そして地域のプロスポーツファンドなど、あらゆる地域の地場産業へと広がっていきました」

もちろん、地場産業ファンドにおいても販売成果に応じてお金のリターンがあるうえ、商品やサービスでも還元される。しかし、通常の投資と同様、元本割れの可能性は常に存在する。投資目的だけではなく、「ファンドを通して応援したい」と納得して購入してもらえるよう、事業者の選定には時間をかけている。もちろん財務健全性や事業の実現可能性も時間をかけて確認するが、こだわりや事業の背景、設立からのストーリーをじっくりヒアリングし、想いに共感できると思ったものをファンド化している。
「地場産業ファンドの投資家は30~40代が中心。投資目的よりも『その事業・会社が好きだから』『想いを知って応援したいと思ったから』など、一緒に事業を大きくしたいという気概を持った方が多いですね。我々も、お金だけではない喜びを体感していただけるよう、現地見学ツアーなどを企画して、事業者と投資家が直に触れあえる機会を作っています」

■「セキュリテ被災地応援ファンド」は40本、調達金額は11億円にも

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地場産業へと対象を広げて、着実に実績を積んできた同社が一気に注目を浴びたのは、2011年から始めた「セキュリテ被災地応援ファンド」がきっかけだろう。震災後すぐに社員が被災地に入り被害の大きさを目の当たりにしたことで、全社一丸となってファンド実現のために動き、震災の1カ月後には第1号となるファンドを立ち上げた。
「マイクロ投資の形式は、復興支援に非常に合っていると思ったのです。一時的な支援ではなく、投資家が長期にわたって事業者の復興を応援し、再生を見届けることができるからです」

震災後間もなく、たまたまTwitterで知り合った宮城県庁の職員に6つの事業者を紹介してもらった。未曾有の被害を受けたにもかかわらず、皆さん地域代表として「地域復興の旗頭として頑張りたい」という強い想いを持っていたという。
「気仙沼のさんま加工会社の斉吉商店さんは工場を、アンカーコーヒーさんは焙煎工場と店舗が津波で流され、陸前高田の醤油醸造蔵・八木澤商店さんも壊滅的被害を受けました。それでも『負けるものか』と前を向いている。自社の事業に対する強いこだわりと自信、復興への強い想いを知り、全力で応援したいと思いました」

ファンド立ち上げのニュースは宮城県の地元紙・河北新報に一面で取り上げられ、まずは地元からの投資が増加。その後、全国に支援の動きが広がっていった。

「セキュリテ被災地応援ファンド」は、「半分寄付、半分投資」の形態。1口1万円のファンドならば、5000円は事業者に寄付され、残りの5000円は事業者に投資されることになる(1口あたり500円が同社手数料として加わる)。
「震災直後、多くの人が寄付をされましたが、『誰の手に渡るのか』『どのように使われるのか』がわからないという声をよく耳にしました。ファンドであれば、自分で支援したいと思える人を選び、確実にその方にお渡しすることができるうえ、商品による還元や工場見学などでご本人とつながることもできます」

現在、40本の「セキュリテ被災地応援ファンド」が立ち上がり、調達金額は約11億円に上る。この4年間を振り返り、小松さんは「思い出深いファンド」として、陸前高田の八木澤商店を挙げた。

「津波で醤油蔵すべてが潰れてしまいましたが、樽や研究所にわずかに残っていた麹を活かして一からの醤油造り再開を目指していました。その想いに共感した述べ4250人もの人が投資に参加し、1億5000万円もの資金が集まったのです。おかげで醤油蔵は無事に再建でき、このほどようやく醤油が完成、投資家全員に商品が贈呈されました。何もない、どん底の状態から奮起して着実にファンを増やし、数年に渡って皆で応援し続けた結果、ようやく完成した醤油を手にした時には、感慨深い想いでしたね」

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▲「セキュリテ被災地応援ファンド」の紹介画面。被災地の事業者の「想い」を乗せて、投資を募る

■応援したくなる「アーティスト」をあらゆる産業から発掘したい

着実にファンドの種類を増やし、個人投資家という「ファン」を増やし続けている同社。今後は何を目指しているのだろうか。

「地域活性化は、今の日本にとって大きなテーマ。地方から日本を元気にするために、これまで以上に地域活性につながるファンドを数多く手掛けていきたいですね。日本には、本気でこの事業を広めたいと思っている人がたくさんいて、高いスキルや技術も数多いのに、ファイナンスが届かないために埋もれているものが多いと感じています。そういう企業や人々のファイナンスのお手伝いができれば、事業が注目を浴び、地域が元気になって、雇用も生まれる。こういうサイクルを生み出すことが大事なのだと、改めて感じています」

同社では、「リターンが得られそうな、将来有望な投資先」は探していない。投資家目線ではなく、アーティストという目線で、「想いがあり、こだわりがある事業者」を探している。

「これからも、思わず皆が応援したくなる『かっこいいアーティスト』を、あらゆる地域、あらゆる産業から発掘したいですね」

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EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康

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