「おカネはあるが、明日はわからない」時代に何が売れる!?商品ジャーナリストが語る「2015年ヒット商品」の条件

「妖怪ウォッチ」「アナと雪の女王」「ジェルボール洗剤」「あべのハルカス」――さまざまなヒット商品が世を賑わせた2014年。続く2015年は、どんな商品やサービスがヒットするのだろうか?

ヒット商品は、世の中のトレンドを映し出している。ヒット商品から、ビジネスのトレンドを読んだり、アイディアを生み出す視点を学ぶこともできそうだ。元『日経トレンディ』編集長で、現在は商品ジャーナリストとして活躍する北村森さんに、今年の動きを予測してもらった。

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プロフィール

北村 森さん

1992年に日経ホーム出版社(現・日経BP)に入社し、『日経トレンディ』『日経おとなのOFF』などの編集に携わり、2005年に『日経トレンディ』編集長に就任。2008年に商品ジャーナリストとして独立し、製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を行うほか、地方自治体と連携し地域おこしのアドバイザー業務などに携わっている。著書に『ヒット商品航海記』(日本経済新聞出版社:共著)、自身の体験を元にしたノンフィクション『途中下車』(河出書房新社)は昨年末にNHKでドラマ化された。

消費に対して真剣な時代。高くても価値が感じられればヒットする

日本経済の先行きが見通しにくい状況が続いています。人々の消費マインドは、アベノミクスへの期待で上がったかと思えば、消費増税で下向きに…。「手元には消費のためのおカネがあるが、明日はわからない」という中で、人々は皆、おカネの使い道を真剣に考えている状況。今ほど消費にシビアな時代はないと思っています。

とはいえ、安いものが売れ、高いものが売れないわけではありません。昨年4月から消費税が8%となり、家計の負担は増えているのに、昨年プレミアムビールの出荷は1割増と大幅に増えていたり、吉野家では牛丼の倍近い価格の牛すき鍋膳がヒットした。「ムダになりそう、みじめな気持ちになりそうなものはいくら安くても買わないが、目新しく感じたり、驚きを覚えるなど、“価値を感じる”ものには、高くてもおカネを出す」のです。

そんな状況下で、2015年、「おカネを払ってもいい」と消費者が思える商品には、いくつかの条件が挙げられます。

第一のキーワードは、「人に語りたくなるモノ」。買っただけで満足するのではなく、思わず周りの人に自慢したくなるような商品には、高くてもお金を払う傾向にあります。2014年で言えば、「ヘルシオ お茶プレッソ」「ヌードルメーカー」などがヒットしましたが、今年もこの傾向は続くと見られます。

このキーワードで今年話題になりそうなのは、「ブルーボトルコーヒー」。米サンフランシスコ発のコーヒーチェーンで、今年2月に東京・清澄白河に日本第1号店がオープン予定。豆にとことんこだわり、「本当においしいコーヒーを1杯ずつ、丁寧に」を追求したスタイルは、「サードウェーブ(第3の波)コーヒー」と呼ばれ、早くも話題を集めています。1杯400円前後と決して安くはありませんが、味の面でもコンセプトの面でも、人に語り、広めたくなるコーヒーです。

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▲1杯ずつ、じっくり丁寧にドリップされる「ブルーボトルコーヒー」

価格帯はガラリと変わりますが、同じ理由で「アマン東京」も間違いなく話題を集めることでしょう。高級リゾートホテルチェーンのアマンリゾーツが、初めて手掛ける都市型ホテルで、昨年12月に部分オープン、今春にグランドオープン予定。東京・大手町にありながら、客室はすべて71平方メートル以上というぜいたくな空間が確保されています。1泊7万5000円~(5月31日までのオープニング価格)と高価ですが、「一度泊まって、最高級のサービスを体感したい。そして人に自慢したい」と思わせるホテルです。ここ数年注目されている「インバウンド消費」(外国人観光客による国内での消費活動)の受け皿にもなるでしょう。

ホンダの新型軽自動車「S660」も、このキーワードに当てあまります。2013年の東京モーターショーで発表され、軽自動車ながらスポーツカー並みのスペックと2シーターオープン、スタイリッシュなデザインが注目を集めました。それ以来、発売が待たれていましたが、いよいよ今年4月に発売される見通し。価格は200万円程度と軽自動車としては高い設定になりそうですが、維持費を考えればお値打ち感は大。特に、子供が独立し夫婦で行動する機会が増えた、クルマにこだわりのあるシニア層から支持を集めそうです。

次のキーワードは「価値ある安さ」。前述したように、今の消費者は、単に安いだけでは購入しません。「安いから買ったのではなく、安いうえに“価値がある”と思ったから買った」と胸を張って言えるものでないと売れない時代なのです。
そんな中、間違いなくヒットすると思われるのが「セブンカフェ ドーナツ」。コンビニ業界は昨今、他業界の市場を取りに行くかのような形で売り上げを伸ばしており、「セブンカフェ」はその代表格として話題を集めましたが、いよいよファストフードの領域にも本格進出を果たしました。一部の店舗ですでに先行販売されており、今夏には全国展開予定。「コーヒーとドーナツ両方買っても200円~」という価格は、間違いなく支持を集めるでしょう。

もう一つは、「ライバルの増加」。ある一つのヒット商品が市場をけん引している状態よりも、ライバルとなり得る商品が出現することで市場はぐんと活性化し、さらに注目を集めるようになります。
その代表として、今年大きく市場をにぎわせそうなのが「掃除ロボット」。ご存じのように、この分野は長らく「ルンバ」の一人勝ちでしたが、昨秋に発売された東芝の「トルネオ ロボ」が評判を集めているうえ、3月にはいよいよダイソンが「ダイソン 360 Eye ロボット掃除機」で同市場に参入します。これにより「ルンバVS他社」の構図ができ上がり、市場は一気に盛り上がるでしょう。掃除ロボットが一家に一台あるのは当たり前、という時代ももうすぐやってくると予想されます。
なお、「セブンカフェ ドーナツ」も市場活性化という意味ではこのキーワードに当てはまります。セブンの攻勢により、ファストフード各社がさまざまな手を打ち、市場全体が盛り上がることも予想されます。

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▲「ダイソン 360 Eye ロボット掃除機」の登場で、掃除ロボット市場が一気に盛り上がりそう

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「無難」からヒットは生まれない。「無理をする」が必須条件に

ここ数年のヒット商品を見ていると、共通する一つの条件が見えてきます。それは「無理をしている」こと。ここでいう「無理」というのは、主に開発コストや開発期間、そして企画担当者個人の工夫・アイディアを指します。

この10年ほど、日本企業の多くが「無理」を避けてきたように、私には感じられます。コスト削減や、コンプライアンスの観点から、会社も社員も「無理せず適正な投資、労働時間を守る」「バクチは打たない」という守りの体制を続けてきました。しかし、そんな態勢の中から、人の心を動かす商品は生まれにくいものです。「この商品は、ここまででいいや。これで十分」と限界を決めてしまったら、それで終わり。「もう一つ上のクオリティを目指すために、もうちょっとだけ無理する」ことで、従来の枠を超えた、消費者をあっと驚かせ、ライバル社を驚愕させる商品が生まれるのです。ヒット商品の開発現場を見ると、企画担当者も常にさらに上を目指しているし、それを支える企業側も、「できる限り急かさず、見守る、支える」体制があると感じます。

このキーワードは、企画担当者に限らず、ビジネスパーソン全体に当てはまるものだと感じています。消費者のみならず企業も、おカネを払うことにシビアであり、真剣だからです。例えば営業担当者がクライアントに提案する場合も、「提案資料はこの程度でいいか」から、もう一段踏み込んで考えてみる。クリエイターならば、「この企画ならば採用されるだろう」ではなく、納得させるのは大変かもしれないけれど本当にやりたいと思える企画を出してみる。こういう「あと少しの“無理”」が、自身の経験や高い成果につながる時代ではないかと考えます。

EDIT&WRITING:伊藤理子

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