「成功したら、捨てる。攻め続けるために、変化に応じて自分を壊す」LINE森川社長インタビュー

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スマートフォン用無料通話アプリケーション「LINE」、2013年現在、全世界に3億人のユーザーがいる。その立役者となったのが社長の森川氏だが、社会人1年目の挫折が、成功への布石となった。

■入社早々、挫折を経験したテレビ局時代

新卒で日本テレビに入社したのですが、早々に挫折を味わいました。配属がITの部署だったんです。1989年入社ですから、インターネットもない時代。そんなときにテレビ局でコンピュータの仕事をするのは、かなりしんどい。大学の専攻が情報工学だったので仕方ないともいえるのですが、みんなが華やかな仕事をしているなかでの地味な仕事。「何で自分だけ?」と、追い込まれた感じがしましたね。

本当は音楽番組の仕事がしたかったんです。子どものころから合唱団に入っていて、子どもタレントとしてテレビ出演したこともあったし、小学生ながらビートルズをコピーしたバンドも組んでいました。大学でもバンド活動にのめり込んで、卒業も危うかったくらいです(笑)。そんな僕がいきなりITの部署で、財務のシステムを担当するんですから。毎日が辛くて、入社早々辞めたくてしょうがなかった。

でも、しばらくして思い直したんです。「どうせやるなら、とことんやろう」と。そこからまじめに学校に通って、資格も取った。最終的にはオラクルのセミナーで講演するまでになりました。

受け身でいると嫌な仕事がまわってくるだけ。このあたりから、与えられた仕事だけじゃなくて、自分で仕事を作り出していくようになりました。選挙の出口調査もそのひとつ。それまで当確が出てから放送していたのですが、もっと早く当選予想をするため慶應義塾大学の先生と出口調査のシステムを開発したんです。

そうやって6年間、ITの部署で頑張っていたのですが、その時期、ちょうどインターネットが生まれたんです。これは面白いぞと、いろんな新規サービスを考えた。でも、成果を出せば出すほど上司が離してくれない。新しいことをやりたいのに、仕事は増える一方でなかなか異動できない。ついに辞表を出しました。退職の一週間前になって、やっと会社も納得してくれて、残ってやりたいことをやってもいいと。その後、新規事業部に異動になり、社内でインターネットのビジネスを始めました。そして大学にMBAを取りに行って勉強もしました。

BS事業の免許申請やCS事業でジョイントベンチャーの立ち上げなど、いろいろ携わらせてもらったのですが、ただ、どうしてもテレビ局は放送事業が本業。主導でネットビジネスを立ち上げていくことへのハードルが高かった。それで、攻めのビジネスをするために、ソニーに転職したんです。

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■「攻めのビジネス」を追い求めて、ソニーからハンゲームジャパンへ

ソニーでは、テレビやオーディオなどのハードウェアのカンパニーに入って、当時社長だった出井伸之さんの勢いで、テレビのネットワーク化の事業や新しいモバイルサービスの事業をしようと提案しました。しかし、なかなか立ち上がらず、電力会社の光網と全国のケーブルを束ねて、新しいブロードバンドのサービス会社を作ろうというジョイントベンチャーの立ち上げに関わり、3年間携わりました。

当初、ブロードバンドは日本に20万世帯しか普及していなかったのですが、その後普及し、いろんなビジネスを担当することになりました。そんななかで、当時ブロードバンドで一番進んでいた韓国のビジネスに興味を持ったんです。それで韓国資本のオンラインゲームを運営するハンゲームジャパン(注:現LINE株式会社)に入社しました。

ハンゲームジャパンは2000年に設立されて、僕が入社したのは3年目。当時は、社員が30人ほどしかいない赤字の会社。ゲームが好きだから入社を決めたわけではありません。「大企業だと新しいことへのハードルが高くて意思決定に時間がかかる。でも、この会社なら、新しいことが何でもできるかも」と、そんな意識でした。

今思えば、新卒で入社して早々に挫折を味わったことが、現在につながっていると思います。嫌な仕事でも自分から仕掛けていけば形になるし、楽しみも見い出せる。これを知ったことは大きかったですね。どんな仕事でも前のめりになって打ち込めば、後で大きな力となって返ってくるんです。

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ハンゲームジャパン入社4年目で代表取締役となった森川氏。2011年からはLINEのサービスを開始、日本、タイ、台湾など、世界中にサービスが広がりを見せている。大躍進の理由は何だったのか。

■ゲームも、スカートの丈も。次に流行るものは、「周期」から予測できる

ビジネスで成功するために一番大切なことは、当たり前ですが、いい商品をつくること。必要なのは、時代の流れを読むことです。みんなから求められているもの、つまりニーズを察知すること。でも、先に行き過ぎてはいけない。求められているけれど、ほかの人がやっていない「ちょっと先」を狙って商品を作っていくんです。

一見難しいように思えますが、ニーズは過去の事例から、ある程度、予測できます。物事には「周期」があるんです。例えばゲームでいうと、シンプルなものの次にはコアなものがくる。そしてまた、シンプルなゲームが流行ってコア化する。車のデザインなら、角ばった形の後には丸い形が流行る。スカートも短くなったり長くなったりしますが、変化する周期があるんです。さまざまなものの周期を見ながら、次に来るものを予測すればいい。

そんな風に予測していくと、ターゲットが絞られます。ターゲットが360度のまま投げていても的にはめったに当たりません。せめて90度くらいにまで絞ってから投げないと、失敗のリスクが高い。

「いい商品を作ること」の次に必要なのが、「チャンスに乗る準備ができていること」。実は、「運」は誰にでも平等にやってきます。ただ、企画が当たってチャンスが来た時に、その波に乗るための潤沢な資金と優秀な人材、環境がそろっているかが重要なファクターなんです。

例えば、エンジニア出身の社長で多いのが、あまりに早く参入し過ぎたために資金を使い果たしてしまい、ようやくチャンスが来た時に波に乗れず、資金力のある大企業に市場を持っていかれる例。こういうのを一般的に運が悪いと言いますが、それは運が悪いんじゃなくて、「チャンスが来た時に、波に乗る体制ができていなかった」ということ。

LINEの場合で言うと、サービスが当たった時、それまでハンゲームで培ってきたゲームのノウハウ、NAVER検索で培ってきたインフラの環境、ライブドアの人たちが社内にいたことで、事業が大きく成長してもうわつかない姿勢を保てたなど、さまざまな好条件があったんです。入社してすぐにLINEが当たっていたとしたら、ここまで来られなかったと思います。

特に、資金面で準備ができていた点は大きなポイントですね。よく、自分たちも同じサービスを考えていた、と言われますが、何でその人たちがやらなかったかというと、すぐには利益が出ない事業だからです。サーバーの設備投資や、プロモーションに費用がかかるため、潤沢なキャッシュがないとできないんです。

ITのイノベーションには、特許があって誰にも真似できない場合も多い。でも、LINEの場合は、誰でも真似できるサービスです。だからこそ、最初に圧倒的なシェアを取らないと、生き残れない。そのため、売り上げを気にせず、一気に拡大させたのです。

■成功したら、捨てる。常に攻め続けるために、変化に応じて自分を壊す

インターネットの世界は“お笑い”に近いと思っています。一発当てていなくなる人が多い。今、成功しているからといって、ずっと続くわけではない。だから、いつも危機感を持たなくちゃいけないんです。

企業も人も、「自分の価値を高め続けること」が非常に重要です。僕も「新しいビジネス」を求めて努力を繰り返してきたし、価値を高められると感じた時には転職もした。大手企業に残るよりも、変化し続ける道を選んだ。名誉とかお金だけにとらわれてしまうと、価値を高め続けるのは難しい。そのためには、成功を捨てて次にチャレンジしなくてはなりません。人って、ひとつ成功するとそれを守る傾向にありますよね。新しいことにチャレンジできなくなる。求められる「価値」は刻々と変わっていくのに、そのまま成功に甘んじてとどまってしまうと、どんどん自分の価値が下がってしまうんです。

エンジニアにしても、一つの言語を習得しても5年と続かない。ニーズがどんどん変わってしまうから。今のように変化の激しい時代では、同じことがいろんな職種で起きています。どう自分の価値を伸ばし続けるのか、一人ひとりが真剣に考えなくてはならない時代なんです。

企業でも同じです。最近の企業で起こった失敗事例は、社内に考えの古い人がいたり、派閥があるなど、過去のしがらみにとらわれてしまっている場合が多い。昔あったものを守ろうとする人がいればいるほど、変化ができなくなりますから。ただし、とにかく変わればいいわけではなくて、何を残してどこを壊していくか、見極めることが大切なんです。

そのために大事なのは、自分を客観視すること。自分にはどんな価値があるのか。それを冷静に見極めてどんどん磨いていく。自分の価値がわからない人は、自分のことを嫌いな人に聞いてみるのがいいと思います。嫌いまでじゃなくとも、せめて利害関係のない人。好きな人や利害関係のある人は厳しい意見をくれませんからね。そうやって自分の価値を常に把握して、時代の変化に合わせて自分を壊していく。その繰り返しが成長だし、生き残る秘策だと思います。

もりかわ・あきら●1967年、神奈川県生まれ。1989年に筑波大学第三学群情報学類卒業。日本テレビ放送網株式会社入社。ネット広告や映像配信、モバイル、国際放送など多数の新規事業立ち上げに携わる。1999年、青山学院大学大学院国際政治経済学科でMBAを取得。2000年にソニー株式会社に転職。ブロードバンド事業立ち上げなどに携わる。2003年にハンゲームジャパン株式会社(現:LINE株式会社)入社。2007年、同社の代表取締役社長就任。2007年にネイバージャパン株式会社を設立。「NAVER まとめ」など「NAVER」ブランドのサービスを展開。2010年5月に、総合ポータルサイトを展開する「livedoor」株式会社ライブドアを子会社化。2011年6月に「LINE」を開始。2013年4月、ゲーム事業を分離して、「LINE」をはじめとしたウェブサービス事業を展開するLINE株式会社に社名を変更。代表取締役社長に留任。

※リクナビNEXT 2013年12月18日「プロ論」記事より転載

EDIT&WRITING:高嶋ちほ子 PHOTO:栗原克己

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