仕事が終わってからも、家事に育児にと時間に追われ、気づくと寝落ちの日々…。家事も育児も積極的に行う男性も増えてきたとはいえ、「家庭のことは女性」という認識はまだ根深く、共働き妻の悩みは尽きません。そんな女性たちを応援するこの連載(→)。女性のキャリア支援や結婚コンサルタントまで幅広く活躍中の川崎貴子さんから、家族を「チーム」としてとらえ、より効率的に日々を運営していくアドバイスをいただきます。
今回は「決定的な出来事はないけれど、急に夫のやることなすことがイヤになってしまった」妻たちに向けて、家族の修復方法を教えていただきました。
先日、結婚7年目で子どもがいる共働き妻の方から
「最近、夫のことが嫌いになってしまった」
という衝撃的な相談を受けました。
聞けば、子どもの面倒を任せてもゲームやお菓子をあたえるだけだったり、家事をちゃんとやらなかったり、夫婦喧嘩になるとすぐに逃げる、など日頃から色々と不満はあったようで、気が付いたときには、夫の見た目や声を聞くのも嫌になってしまったと。
子どもはパパ大好きなため離婚は考えていない。が、「生理的に無理」になってしまった夫とこれからどうやって生活を共に過ごせばいいのか途方に暮れていると言うのです。
古より、女性が「生理的に無理」と言って終わった男女関係は星の数ほどあります。かつては恋をして愛していた相手が突如、
「このキモいおっさんは一体誰?」な状態になる。
まずはその事象を、ご自身で受け止めるのが大変ですよね。
恋愛関係ならお別れすればいい訳ですが、結婚してお子さんが小さければ簡単な話ではありません。子どものためにも離婚は避けたい、そう思う気持ちは痛いほど解ります。
では、一生我慢しながら過ごすのか?それはそれで人生を賭けた無理ゲーです。
何とか離婚をせず、夫とパートナーシップを再構築し、家族愛を感じる程度に二人の関係を取り戻すためには、どんな考え方やアプローチが必要なのかを書いてゆきたいと思います。
「生理的に無理」を解体してみる
女性が言う「生理的に無理」には、視覚的なもの、匂いや触った感じ、声、言動など色々な要素があります。
浮気や暴力など決定的な原因がない場合、つまり夫側からすると「何もしていないのに突然なぜ?」と思うような場合は、
日々の夫の言動が気に障り、その蓄積により「夫の全てが嫌」になっていくことがよくあるのです。
だとすれば、気に障る「根本の原因」を解決する事によって、歩み寄れる可能性はあります。
さて根本の原因とは何でしょう。
共働き妻たちは、育児に家事、仕事と今人生でマックスに忙しいはず。
自分の時間も、自分の事を考える余裕もない中で生活を回している。
それなのに、もう一人の親であるはずの夫はというと子どもとゲーム。
「私が大変なのをどうして解ってくれないの?」
「同じ親なのになんで子どもの事をちゃんと考えないの?」
一番近くに居る人に理解してもらえない悲しみ。
一人で戦わなければならない悲しみ。
つらさを共有できない悲しみ。家族なのに…。
夫への生理的嫌悪感は、じつはご自身の「孤独や悲しみ」から生じているのかもしれません。
「勝ったら、負け」正しい夫婦喧嘩
二人の関係が良くなるためには、根本原因である「妻の悲しみ」を夫に伝える事が必要です。
「なぜ私が弱みを見せなければいけないのか?それは下手に出ろという事か?」とお思いになるかもしれませんが、夫婦喧嘩の度に逃げる夫、家事育児に協力的じゃない夫を変えるには、アプローチを変え、夫に届く言葉で伝えるしか方法はありません。
私の夫も結婚当初はよく夫婦喧嘩の現場から脱走しようとしました。
その度に私は首根っこを掴んで(比喩ではなく)リングに連れ戻したものです。子どもが寝静まった後、疲れた体に鞭打って、私は私の持論で夫を追いつめてゆきました。朝になるころには二人ともぐったり。
それなのに、次の週にはまた同じことで私の怒りに火が付き、第二ラウンドのゴングが高らかに鳴り響いたものです。
そんな事を何年も繰り返し、私はやっと悟りました。
「正論」で追いつめても伝わらない、と。
そもそも夫婦喧嘩は「勝って」しまったら「負け」なのです。
そして、かつて友人の結婚式で友人上司が贈った詩を思い出すのでした。
「祝婚歌」 吉野弘
二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで
疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい
私はバツイチで夫よりかなり年上な事もあり、「私の方が解っていて、私の方が正しい」を喧嘩の度に繰り出しがちでした。ところが、それを前面に出しても夫には一向に伝わらなかったのです。
それよりも、自分自身の悲しさや焦りや嫉妬心など、自分が目を背けたい感情を吐露して、素直にオープンマインドでぶつかっていった結果、あれだけ変わらなかった夫はニョキニョキと変化していきました。
今でも、夫との間でゴングが鳴りそうな時には、この「祝婚歌」を思い出し自分を戒めています。
同時に、「ごめんね。悲しかったから言ったの」「聞いてくれてありがとう」など、感情の一言添えも忘れないように気を付けております。
二人のルールを決める
子どもが生まれて生活が変わったら、ルールや分担を新たに作ってみるのもひとつの手です。
夫という生き物は「察して」動くことができないという大変迷惑な特性を持っています。たとえば「ちゃんと家事を手伝ってくれない」と思ったとしたら、何をもって「ちゃんと」なのか、家事の種類は何でレベルはどの程度なのか、具体的な指示が必要なのです。「家族なら何も言わなくてもできるはず」という思い込みは捨て、ルール化しましょう。
もしかしたら「やらねばならない」と思い込んでいるだけの無駄な作業があるのかもしれません。二人で家事や育児のタスクを書き出して「いる」「いらない」を仕分けをし、そして可能な限り2人で過ごす時間を作ってみてください。
新しいルールで夫が頼りになれば、パートナーとしての家族愛は未だ十分に取り戻せるのではないかと私は思います。
夫婦は鏡
夫婦は、面白いもので結構「お互い様」です。
妻が悲しい時、夫もまた人知れず寂しかったりするものではないでしょうか?
妻が「夫婦関係が嫌」と思っている時、夫もそうかもしれません。
相手の事を嫌になると嫌な事ばかりに目がいきがちですが、かつて素敵だった事や、現在の夫への感謝など、少々強引にでも、プラスの方向へフォーカスしてみるのも良いと思います。
そして、二人で完璧を目指さず、ふざけ合いながら、ゆったり過ごせる時間は絶対に必要です。お忙しい事は重々承知ですが、新ルールでの「時間のねん出」は多少出費が出ても「関係修復のための投資」と思ってマストでお願いしたい所です。
二人で「なぜ胸が熱くなるのか、黙っていてもわかる」ようになるには、喧嘩もすれ違いも、煩わしさも悲しさも、相手からも自分からも逃げないで、関係修復に立ち向かった夫婦だけが味わえる境地なのかもしれません。
川崎 貴子
リントス(株)代表。「働く女性に成功と幸せを」を理念に、女性のキャリアに特化したコンサルティング事業を展開。
1972年生まれ、埼玉県出身。1997年、人材コンサルティング会社(株)ジョヤンテを設立。女性に特化した人材紹介業、教育事業、女性活用コンサルティング事業を手掛け、2017年3月に同社代表を退任。女性誌での執筆活動や講演多数。(株)ninoya取締役を兼任し、2016年11月、働く女性の結婚サイト「キャリ婚」を立ち上げる。婚活結社「魔女のサバト」主宰。女性の裏と表を知り尽くし、フォローしてきた女性は1万人以上。「女性マネージメントのプロ」「黒魔女」の異名を取る。2人の娘を持つワーキングマザーでもある。